冒険者に拾われ聖騎士に求められた僕が、本当の願いに気づくまで。

鳴海カイリ

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第一章 冒険者に拾われた僕

05 アラン・逃げて来た子供  

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 満天の星空の下、銀の髪の小さな子供が膝を抱えて眠っている。
 小さな焚火から顔を反らし背を向けて、それでも温もりは欲しいとでも言うように、俺の擦り切れた毛布を被って握りしめている。時々うなされているような声を漏らすから、嫌な夢でも見ているのだろう。

 少年の名前はサシャ。
 たぶん、偽名だろうがかまわない。
 本人がそう呼んでほしいのなら呼ぶだけだ。

 森の向こうから、きな臭い匂いがしたのは数日前のことだった。
 山火事の季節にしてはおかしい。おそらく山賊どもが何か悪さをしているのだろうぐらいに思っていたが、時間をおかず血と人の焼ける匂いがしてきた。

「村でも襲っているのか?」

 この森の向こうに人が住むような集落があるという話は、聞いたことが無かった。けれどそれは俺が聞いたことが無い、というだけで、実際にはあったのかもしれない。この世界の何もかもを知り尽くしているわけではないのだから。

 さて、どうしようかと、俺は考えていた。

 冒険者の主な仕事は依頼を受けて行うものだ。魔物や盗賊の討伐、もしくは希少な動植物の採取や遺跡調査。いわば何でも屋だ。
 今回俺は大きな依頼を終えて、久々にのんびりしようと辺境の地まで足を延ばしていた。あまり訪れたことの無い地を旅して、依頼があった時は迅速に対応できるよう下調べをしておく。
 そんな気楽な旅のはずだった。
 いや、違う。何か事件が起こりそうだという俺の直感が、自然とこの方向に足を向けさせていたのかもしれない。その予感は当たり、森の焼ける匂いを目の当たりにした。

 普通の人間族なら気づかない程度の匂いだ。
 だが俺は、祖先に獣人がいるらしく、その血と特性を継いでいる。見た目は人間族でも嗅覚と体力は並みはずれていた。

 山賊の仕業なら、討伐をしてもいいとも考えた。
 卑怯な手段で物や命を奪う奴らは、見ているだけで虫唾むしずが走る。もちろん、相手の人数次第ではあるが……。

 俺は並みの戦士より十分強いが、無敵なわけじゃない。
 勇猛と無謀は違う。
 それに今慌てて森の奥へと駆けこんでも、既に事は終わっているだろう。ならば俺が出来ることは、森から出て来た山賊を狙い撃つか、逃げて来た者が居たなら救助するかだ。そのどちらでも対応できるよう準備をしつつ、匂いと気配を頼りに様子を伺っていた。
 サシャを見つけ出したのは、そんな時だった。

 髪や手足、衣服にもべったりと乾いた血をこびりつかせ、死臭をまとった青白い顔の子供は、まるで幽鬼のようだった。
 いや、伝説に謳われた民のように、美しい姿をしていた。

 土と埃と血に汚れていてもなお、西日に煌めく銀の髪。
 淡い紫の交ざる、透き通った水色の大きな瞳。白く細い手足。
 一瞬、女か男か……その性別にも迷うほど、愛らしい顔立ちの子供だった。同時に、これはヤバイものを見つけてしまったと、俺の中で本能が危険を知らせる。
 この子は辺境の、森の奥に住むと噂される、失われた民ではないだろうか。

 まさかと思いつつも、恐怖に混乱する子供を掴まえ、抱えて野営地に戻り今に至る。

「俺はこのチビを、どうするつもりだ?」

 どうにか名前――それが偽名であっても、答えただけで少年は多くを語らない。
 俺を信用していないのだろう。
 こいつを襲った者の一味と思われているのか。
 まぁ……その程度の警戒心は持っていてもらわなければ、連れて歩くことなどできない。相手が誰だろうと構わず信じてついて行くヤツは、簡単に騙される。足手まといにしかならないからな。

 さすがに小川の水で身体と衣服を洗わせ、乾くまでの間毛布で身を包み、温かい茶と干し肉を少しかじったところで多少気を許したようだ。死に物狂いで逃げて来た疲れもあったのだろう、気を失うように眠ってしまった。
 時々、悪夢にうなされるような声を漏らしながら。

 そして俺は、もう一度自問する。
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