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第一章 冒険者に拾われた僕
02 森の外
しおりを挟む僕は静かにオークの洞から出て、父さまと母さまの後を追った。森を出ろと言われていたけれど、父さまと母さまを置いていくなんて絶対に出来ない。
二人がどこに行ったのか、燃えてやがて枯れてしまうだろう森の樹々にに問えば、小さな声で応えてくれた。……そして、僕は見つけたんだ。
母さまを守るように、うつ伏せになって倒れる父さまには、新しく斬られた傷が背中にあった。そして母さまの胸も真っ赤になっている。しっかりとレオを抱いていた手には、服の切れ端が握られていた。
レオの姿は無い。
盗賊に持ち去られてしまったのだろうか。
「父さま……母さま……」
肩を揺らす。
身体は冷たくて何も返事をしてくれない。
「父さま……母さま……」
ばたばたと涙が溢れて、嗄れた声で何度も呼ぶけれど返事はない。
森の樹々が、もう息を引き取っているよ、土になっていくんだよ、と教えてくれていたけれど、そんな言葉を信じたくない。
僕は父さまと母さまにしがみ付いて、一晩中泣き続けた。
このまま一緒に僕も土になってしまいたい。
そう願ったけれど、僕の中には母さまの言葉が深く刻まれていた。
――生き延びて、そして心から愛する人を見つけるのですよ。
「母さま……」
夜が明けて、燻った煙と朝靄が流れる森の中で、僕はゆっくり立ち上がった。
母さまは僕を強いと言った。精霊の加護もあると言った。ここで負けてしまったら、僕は母さまの言葉を嘘にしてしまう。
「この森のことは誰にも言わない。けど、忘れるなんてできない……」
一歩、側を離れると、樹々が木葉を落として二人の上にかけていった。
亡くなった人にする別れの儀式は知っていても、今の僕には何もできない。その代わりに樹々が、亡くなった村の人たちを土に戻してあげると囁いてくれた。
更に一歩、一歩と後ろに下がって、もう一度ぐるりと森を眺める。
すっかり様変わりしてしまった森は、秋の実りを失ったまま冬を迎えることになるんだ。きっと多くの獣たちも飢えるだろう。
もっと僕が大きかったなら、何もかもを壊して奪っていった奴らと魔法や弓で戦えたのに。僕は父さまに抱きかかえられて逃げるしかなかった。何も出来なかった。
……そんな自分の不甲斐なさもも胸に刻んで、森を後にする。
僕は生まれて一度も森から出たことが無い。
母さまは森の外で生まれた人で、僕が小さな頃、一度だけ母さまの父さま――僕のお祖父さまが訪れて来たと言っていた。でも僕はどんな人なのか全然覚えていない。
それに母さまは……お祖父さまに会いに行けとは言わなかった。
それどころか誰にも言わないように……と言った。
きっとお祖父さまに頼ってはダメだ、ということなのだと思う。顔も名前も知らないから、探しようもないのだけれど……。
一日中森を歩いて、樹の洞で眠り、また夜明けとともに歩く。
ずっと何も食べていなかったけれど、全然お腹が空いた感じは無かった。むしろ亡くなっていった村の人たちのことを思い出すと、吐き気がしてその度に地面の上でうずくまった。
このままでは僕も死んでしまうかもしれない。
生きなきゃ。
でも……これからどうすればいいのか、分からない。
ただひたすら、森の外を目指して歩き続けた。
盗賊の放った火が届かなかった――燃えることに無かった樹々や草花が、時々こちらに、あちらに、と道を示してくれる。
その通りにただ足だけを動かし続けた。
既に何日歩き続けたか分からなくなった頃、森の木がまばらになって、どこまでも続く草原に出た。森の外に出たんだ。
「広、い……」
ずっと遠くまで、なだらかな丘が続いている。風に、秋の草花が揺れる。
太陽の角度からだいたいの方角はわかっても、どこまでも続く草原の向こうに何があってどこに行けるのかは、全く分からなかった。
このまま……真っ直ぐ歩き続けていいのだろうか。
そう思って立ちつくしていた時、足元の草花が囁いた。
人がくるよ……と。
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