【完結】魔法師は騎士と運命を共にする翼となる

鳴海カイリ

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信じられない【リオン】

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「リオン様、後は我らが」
「うん、頼んだよ」

 ゴブリンとオークを倒したボクらは、騒ぎを聞きつけた騎士たちに魔力切れを起こした者の保護を任せ、やれやれとため息をついた。
 モーガンが何かたくらんでいることは気づいていたが、まさか戦闘のどさくさに紛れて戦線離脱するとは。
 しかもセシルに気配を消す魔法を使わせて、騎士たちの追跡からも目をくらますという。

「最初から、この計画だったんだろうね」
「あいつらは上位騎士団に移籍しようと思っていないのか?」
「思っていないんじゃなーい。ただのエンジョイ勢ってヤツ」

 呆れた声のダニエルに、ボクはもう一度ため息をつく。
 地方の領主令息には騎士団で名を上げるより、適当な期間務めを果たして故郷に戻り、悠々自適に暮らそうと思っているのんきな奴らがいる。

 別に、世の中が平和な内はそれでもいいさ。
 けれど永遠に続く平穏なんかない。
 魔物の襲撃か隣国の侵攻か……。不作や災害が続いた時、正しく民を導かなければ反乱を食らうこともある。盗賊だってタチの悪いやつらは、下手な軍隊より大きな力を持つ。

 そういった時、王都で騎士団に所属した経験が生きるし、ここで培われた人間関係が助けとなるのに。

「とりあえず、離脱した者たちを探そう」
「そうだね。思ったり魔物が多く湧き出している。ヤバい奴と遭遇してなければいいけど……」

 そう言い合った矢先に、脇道の一つから一組の魔法師と騎士が飛び出してきた。
 モーガンと行方をくらましていた、第六騎士団のもう一組だ。
 真っ青な顔色に、何か良くない出来事があったのだと直感する。駆け寄るボクらより早く、エヴァン様が駆け付け騎士の腕を取った。

「何があった!?」
「ま、ま、まもの……」
「エヴァン、錯乱してる」

 まともに言葉も出せないでいる騎士に、ボクは気付け薬を取り出し嗅がせる。こんな程度の錯乱で回復魔法なんて魔力がもったいない。
 騎士は一度咳込んでから、大きく息を吸った。

「この奥の泉に……触手の、魔物が……」
「触手の魔物?」

 ボクは思わず、ダニエルやエヴァン様と顔を見合わせた。
 こんな迷宮の奥で、泉のある場所に出現する触手の魔物なんて一つしかない。もしそいつだったなら、モーガンとセシルの二人だけで倒すのは不可能だ。

「それって、ヤバいやつじゃね?」
「そんな魔物がこの迷宮に生息しているなんて、聞いてないよ」
「単に見落としていたか、新たに湧いたか。どちらにしろ急ぐぞ!」

 走り出すダニエルにボクや第四の騎士たちが続く。
 エヴァン様も逃げてきた騎士を投げ捨てるようにしてボクらに続いた。顔が……いや、もう、気配が怖い。こんなに怒っているエヴァン様は初めてだ。
 それはダニエルも気づいているようで、「……やべぇな」と呟く。

 エヴァン様は双子の弟のダニエルと違い、感情の幅振れが少なくて静かで穏やかな人だ。
 声を荒らげることなんか滅多にない。仲間内では怒りの感情なんかないんじゃないか、と噂されているぐらいだけれど違う。
 並外れて我慢強く寛容なだけで、一度怒らせたなら長男のクリフォード様ですら鎮めることはできないと聞いている。

 そんなエヴァン様を、本気で怒らせた。

「一発、退団もあり得るかも……」

 思わず呟いた言葉にダニエルも頷く。
 今回の出来事、おそらくセシルは命令され巻き込まれただけだ。だとしても、もし退団となればセシルも共に追われることになるだろう。
 そうなればエヴァン様はもちろん、ボクもダニエルもそのままにはしておかない。

 

 
 セシルの気配消しの魔法は完璧だったけど、泉から逃げてきた第六の者たちの気配や魔力の残滓が、マーキングのようになってあちこちに残っていた。それを逆に辿れば彼らがどこから来たのか簡単に探ることができる。
 
「あっちだ!」

 ボクとダニエル、エヴァン様の他に、セシルと仲良くしていた第四の魔法師たち、アリスターやベン、第五のバーナビーも片翼の騎士たちと共に続く。
 さすがに上位四組と第一騎士団の中でも最強をうたわれるエヴァン様がいれば、どんな魔物も討伐できるだろう。もちろん油断はしないが……。

 常に最悪の事態を想定して、ボクらは駆ける。
 モーガンの存在は憎たらしいが、ここで命を落とされては困る。奴にはきっちり、これまでの償いをしてもらわなければ……と。
 ……そう、思っていたのに……。

「どういうことだ……」

 駆け付けた泉のある空洞の奥、壁から天井付近に張り付いた触手の魔物は想定どおりだったが、絡め取られていたのはセシル一人だけ。
 片翼の騎士、モーガンの姿はどこだ?

 直ぐに魔物の討伐と救助の体制に入ろうとするアリスターたちの横で、ボクはモーガンが残した気配を確認していた。両翼の契約を交わした者が、あり得ないという思いで。
 ボクの表情を見て、ダニエルとエヴァン様がまさかという顔をする。

「リオン……」
「……信じられない」
「何を感知した?」

 嘘やごまかしはきかない。
 ボクは、探知の魔法で知りえた情報をそのまま、二人に伝えた。

「モーガンはセシルを置いて、逃げた」
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