魔法師は騎士と運命を共にする翼となる

鳴海カイリ

文字の大きさ
上 下
19 / 29

奪われたかもしれない【エヴァン】

しおりを挟む
 シェリーが謎の生命体と呼んでいる者に初めて接触されたのは、15年前の3歳の誕生日のことだった。まだその頃は身の回りの世話をしてくれるばあやがおり、それほど不自由ではない生活をしていた。
 夢の中でシェリーは歩いていた。黒い髪を一つにまとめ、黒のパンツスーツに黒いパンプス。高くそびえ立つコンクリートの建物、その横を走る鉄の馬車。空は狭くその隙間に空を飛ぶ鉄の塊が見え、橋の下の川にはゴミが浮いている。すれ違う人々は時間に追われる様に黙々と歩いている。
 ふと、橋の上で立ち止まりいったい私は何に向かって歩いているのだろうと疑問に思った。

「やあ。こんにちは」

 突然声をかけられた。振り向くと、この情景には不釣り合いな白い人物が立っていた。
 はっきり言って気味が悪いぐらい白いしか印象に残らない風貌だ。

「僕は君をなんて呼べばいいかな?」

 いきなり何なんだと思いつつも答える。

「シェリー。」

「そうだね。今はそうかもしれないけどこの情景に合う名前があるんじゃないかな?」

「佐々木です。」

「ササーキね。うーん?他に名前はない?」

 この時点でこの夢はおかしいことに気づいた。よくある小説の中で真名を知られてはいけないという話があったことを思い出した。

「ササキです。」

「おや、警戒されてしまったかな?まあ、これでも十分だからいいよ。今まで失敗したけど今回は行けるはず。君には良いツガイをつけてあげたからね。詳しいことはまた今度にするね。誕生日おめでとう」

「なにそれ!」

 自分の声で目覚めてしまった。



 次に会ったのは6歳のとき、その頃にはばあやは息子夫婦のところへ行ってしまったので、1歳のルークの世話と研究三昧の同居人の世話でくたくたになって休んでいるシェリーの夢に侵入してきた。

 シェリーは海辺の砂浜で一心不乱になって砂城をつくっている。そこに足が降ってきて、城は無惨にも破壊されてしまった。

「さっきから声をかけているのに気づいてよ。」

 不貞腐れたいつかの白い人がいた。

「勝手に侵入してきて、完成寸前の私の城を壊して、そのいいぐさなに?」

「今日は君にやってもらいたい事を言いに来たんだ。」

 白い人はにこやかに言う。

「謝ってよ。」

「この世界には人々が吐き出した、悪意・憎悪・嫉妬などの悪い心が溜まり続けているんだ。それが凝縮し、意思を持って動いて破壊行動を繰り返すモノを魔王と呼ばれる存在になるんだけど、それは君の両親が倒したから問題ないよ。でも、それ以外にも各地では溜まり続けているんだ。」

 白い人は自分の言いたいことを話続ける。

「人の話を聞け。」

「それを聖女の君が浄化して欲しいんだよ。」

「嫌だけど。」

 シェリーはすぐさま拒否をする。

「それを放置すると魔物も増えて、魔王が発現しちゃうからさ。」

「私は子供だし、今はかわいい弟を育てるのに忙しい。」

 シェリーは拒否し続ける。しかし、白い人は変わらず話続ける。

「それを補助させるために番を5人用意したよ。各種族の強者ばかりだ。もう、これで完璧だね。」

「3歳の時に確認しました。ツガイが5人ってどこのビッチ属性のヒロインだ。嫌がらせじゃないか。」

「いやー。今までも聖女にいろんな番を宛がったんだけどね。番が弱ちいと聖女の力に目の眩んだヤツに殺されたし、強いと監禁してしまったし、教会の教皇でも同じ、王族でも同じ。もう、人の悪の心が溜まりに溜まっちゃって魔王が出来てしまったじゃん。それで、人族の強いヤツを三人、番につけてみたんだよ。そしたらさ、共通の敵の魔王を倒したら、番を巡って殺しあい。いや、参ったね。だから、今回は異種族で5人にしたよ。」

 失敗し続けた実験の愚痴を言っているかのような言い分だ。

「悪化している。ツガイが一人という常識を覆した上に別種族なんて、怪獣大戦並。」

「少し前に勇者が大暴れをしたおかげで、人々の心の闇が一気に増えてしまってね。魔王を倒して100年ぐらいかけて浄化してもらえればよかったんだけど、このままだと20年しない内に魔王が復活しそうなんだよね。大変。大変。」

 白い人は明日の天気を言うが如く、しれっと魔王復活を予言してきた。

「あのバカ勇者。今はルーちゃん育てるので忙しいし、まだ子供だから遠くとかは無理。力も体力もないので無理だから15年程は準備期間が欲しい。あと、思い通りの能力が欲しいから自由に創れる魔法かスキルが欲しい。」

 シェリーはこの話を聞いて益々、ツガイというものに会ってしまうことに危機感を抱いた。すべて自分自身で成し遂げるなら、何者にも負けない力が必要だと考えた。

「最初はシーラン王国がいいと思うよ。多種族がたくさんいるから、番の特性を知るには適しているよ。子育てするにも、体を鍛えるのも、スキルの構築をするのにもいいところだよ。」

 そう言って白い人は消えていった。
 夢の砂浜に残されたシェリーはスキルの創造の権利を得ることができたことがわかり、これからの事を計画立てるのであった。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。 ※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

冷徹勇猛な竜将アルファは純粋無垢な王子オメガに甘えたいのだ! ~だけど殿下は僕に、癒ししか求めてくれないのかな……~

大波小波
BL
 フェリックス・エディン・ラヴィゲールは、ネイトステフ王国の第三王子だ。  端正だが、どこか猛禽類の鋭さを思わせる面立ち。  鋭い長剣を振るう、引き締まった体。  第二性がアルファだからというだけではない、自らを鍛え抜いた武人だった。  彼は『竜将』と呼ばれる称号と共に、内戦に苦しむ隣国へと派遣されていた。  軍閥のクーデターにより内戦の起きた、テミスアーリン王国。  そこでは、国王の第二夫人が亡命の準備を急いでいた。  王は戦闘で命を落とし、彼の正妻である王妃は早々と我が子を連れて逃げている。  仮王として指揮をとる第二夫人の長男は、近隣諸国へ支援を求めて欲しいと、彼女に亡命を勧めた。  仮王の弟である、アルネ・エドゥアルド・クラルは、兄の力になれない歯がゆさを感じていた。  瑞々しい、均整の取れた体。  絹のような栗色の髪に、白い肌。  美しい面立ちだが、茶目っ気も覗くつぶらな瞳。  第二性はオメガだが、彼は利発で優しい少年だった。  そんなアルネは兄から聞いた、隣国の支援部隊を指揮する『竜将』の名を呟く。 「フェリックス・エディン・ラヴィゲール殿下……」  不思議と、勇気が湧いてくる。 「長い、お名前。まるで、呪文みたい」  その名が、恋の呪文となる日が近いことを、アルネはまだ知らなかった。

処理中です...