魔法師は騎士と運命を共にする翼となる

鳴海カイリ

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助け合う仲間たち

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 思いがけない人たちに捕まって、つい長居してしまった。
 モーガンは既に帰宅しているだろう。飲みに出たのだからすぐに食事の準備は要らないだろうけど、私までこれ以上のんびりしているわけにはいかない。

 そんなことを考えながら本を借りる手続きを終え、ダニエル様と魔法院を後にしようとして足を止めた。
 私に声をかけてくれた魔法師たちは、にこやかに見送ってくれている。いつもなら会釈をしただけで終わるのだけれど……失礼と思いつつ声をかけた。

「今更で……大変申し訳ないのですが……皆さまのお名前を、伺っていいでしょうか?」

 魔法師たちがきょとんとして顔を見合わせる。

 不慣れな王都の暮らしで余裕がなかったのは事実だ。
 騎士団の寮を出てからは毎夜のようにモーガンの相手をして、体力的にもいっぱいいっぱいだった。出身の辺境では一番の魔法師と言われていても、王都には才能も技術も素晴らしい魔法師たちがたくさんいる。更に彼らは現状に甘んじることなく、研鑽けんさんを続けている。

 正直、焦りもあって、声をかけてくださった人たちの顔や名前まで覚えようという心が無かった。
 今になってとても失礼なことをしていたと思う。

 顔を赤くして言った私に、一人が明るく笑い返した。

「こちらこそ、きちんと名乗ったことは無かったな。俺は第四騎士団所属、アリスター・フォレット」
「彼は侯爵家のご令息だ。祖先に多くの英雄を輩出している」
「祖に恥じない働きをしたいと、思っているよ」

 深い栗色の髪に緑の瞳の長身が答える。
 横から声を挟んだ、少しふくよかな顔つきの金髪に金の瞳の青年は、自身の胸に手を当てながら名乗る。

「僕はベン・オーダム。同じく第四騎士団所属。趣味はお菓子作りだよ。今度君の好きなお菓子を教えてよ」
「え、ええ……」
「セシル、下手に教えたらお菓子漬けになるから気をつけろよ。なにせベンの実家は老舗の菓子屋だ」

 忠告したのは小麦色の肌に黒髪の青年。異国の血が入っているのだろう。私よりわずかに背が低く、勝気な瞳がとても印象的だ。
 ベンが拗ねたように口を尖らせた。

「量はわきまえているよ」
「どうだか。俺はお前に会ってから目盛り2つ増えたぜ」

 黒髪の青年が笑った。

「と、俺は第五騎士団所属、バーナビー・ウェルビー。みんなにはビービーって呼ばれてる。祖父ちゃんの代でこの国に来た。民を守る立派な騎士、になりたかったんだけどこの身長たっぱだからさ。魔法を試してみたらこっちの方が性に合っていだ」
「ビービーは魔法も剣の腕もある、将来有望に人材だよ」

 アリスターが自分のことのように誇らしげに言う。
 彼らは、所属を越えて助け合う仲間たちなんだ。

 ……とても、羨ましいと感じる自分がいる。

 そんな私の心を知ってか知らずか、アリスターが微笑みながら言った。

「セシル、何か分からないことや心配事があったなら、いつでも相談してほしい」
「騎士には分からない愚痴でもいいぜ」
「その時は、美味しい茶菓子を用意するよ」

 アリスターに続いて、ビービーとベンが声をかける。
 まさか……そのような言葉をかけてもらえるとは思わず、思わず言葉を失った。

「え、ええ……」

 生まれ育った村で、このような言葉をかけられたことは無かった。
 皆生きるのに必死で、他人にかまっている余裕などない。それどころか足を引っ張るような真似をしたなら、どんなお仕置きがあるかわからなかった。
 粗末な小屋に住まわせてもらい、食べ物を分けてもらえるのなら、村人たちのために惜しみなく魔法を使わなければならなかった。誰にも頼ることなく……。

「ありがとうございます」

 ぺこり、と頭を下げて、「どうぞ、よろしくお願いいたします」と私は彼らに背を向ける。
 エヴァン様を前にした時とはまた違う感覚で、胸がどきどきする。魔法師たちとのやり取りを黙って眺めていたダニエル様は、私と並んで歩きながら「ふぅん」と一人で納得するような声を漏らした。

「魔法師たちの結束は固いと聞くが、正に、だな。君も故郷に親しくしていた人がいただろう」
「いえ……」

 言葉短く答える。

「人も何もかもが足りない、貧しい辺境でしたから」

 院を出ると、そのまま馬を止めている方に向かうダニエル様に続く。
 馬に乗って帰ろうというのだろうか。乗馬……できないことは無いけれど、得意ではないし自分の馬を持っていない。借りる……となると、それはそれで面倒で。

 戸惑う私の様子に気づいたのか、ダニエル様が明るい笑顔で私の方に手を伸ばした。

「兄上から聞いているよ。乗馬は得意ではないと。心配しなくてもいい同じ馬に騎乗しよう。君はとても軽いそうだから、馬も嫌がらないだろうし」

 そう言って、馬丁ばていからご自身の馬を受け取った。
 騎士の持つ立派な黒鹿毛くろかげの馬だ。その大きな体の背にひらりと乗り、ほら、と手を伸ばされては拒否のしようもない。

「この方がゆっくりと、秘密の話もできるだろう?」

 話がしたいとは言っていたが、それは他人に聞かれては困るような内容なのだろうか。
 この場でぐずぐずしていることもできず、私は「失礼いたします」とだけ答えて手を取り、今朝のエヴァン様と同じように背を守られる形で騎乗した。
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