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第4章 たいせつな人を守りたい
131 一夜目が明ける
しおりを挟む――その後、俺たちは断続的に襲撃を受けながら、どれも難なく撃退していった。
俺を守ると同時に力を封じる効果もある、首の守りの魔法石を身につけている間は、フルの状態で魅了を使うことはできない。それでも襲って来る魔物を動きを鈍くさせたり、仲間の側になった魔物が応戦に加わっていった。
夜が明ける。
白々とし始めた空を見上げ、俺は一夜目を無事に乗り切ったのだと知った。
「リク様」
「うん……朝だ……」
ザックの声に俺は頷いた。
反撃の合間を縫うように、俺の魔力を狙って直前襲いかかる魔物は全て、ザックとマークが斬り倒した。二人に怪我は無かったが、乱れた呼吸から激しい戦いだったのだと今更ながらに気付く。
夢中だったんだ。
ヴァンを守りたくて夢中だった。
祭壇に顔を向けると、一夜目の仕上げというようにヴァンたちは詠唱を締めくくるところだった。
「無事、乗り切ったな」
「まったくリク様は無茶が過ぎます」
「自制してたよ、ちゃんと」
苦笑するマークに笑い返す。
「確かに飛竜に乗って突撃はしなかったので、自制はしてたでしょう」
「あ、その手があったか……」
「リク様」
はたと気づいた俺に、ザックが窘める声で言う。
マークは大げさにため息をついてから笑った。
「まぁ……アーヴァイン様のことになるとどこまでも一生懸命になるリク様の性格は、よぉーく分かっていますけれどね」
「うん。ごめんね」
否定しないし、できない。
ザックが「いいですよ。俺たちはどこまでも付き従います」と短く答えたところで、夜が明けた。
クリフォードやルーファス王子も、騎士や兵士たちと共に無事に乗り越えた最初の夜に安堵の声と労いをかけている。
「今年は魔物の数が異様に多かったな」
「やはり気になる力を持った者がいるせいで、呼び寄せられているのかもしれません」
王子の呟きに答えるクリフォード。
それって、俺の魅了が関係しているのだろうか。
「俺のせい?」
「リクの魅了のせいばかりじゃないが、まったくの無関係でもないだろう」
心配になって見ると、苦い笑いを浮かべながらクリフォードが答えた。
彼は相手を思って言葉を濁したり嘘をつくことはしない。時に厳しいぐらいに真実しか口にしない人だ。
「――だからと言ってリクを他の場所に置いたなら、そちらに魔物が呼ばれる。それはそれはで、リクも周囲の者たちも危険に晒すことになる。騎士も兵士も十分に配置しているこの場の方が、ちょうどいいんだよ」
「そうか……」
「本当に危険なら、アーヴァイン叔父様は絶対、この場にリクを連れてこない。今までがそうだっただろう?」
魅了の力を使いこなせていなかった昨年と一昨年は、連れて来てもらえなかった。
夜は、厳重な守りを施したあの家にいるように言われた。
俺はこの場にいたも大丈夫なんだ。
「……今回のリクの働きは、助かったぞ」
ルーファス王子が俺に労いの言葉を駆ける。
取り巻く騎士たちも「リク様の力に助けられた」と口々に言うのを見て、俺はやっと胸を撫で下ろした。
術を終えたヴァンが、祭壇から下り始める。
迎えに行けよと背中を押す人たちに頷いて、俺はヴァンのもとへと向かった。
「お疲れ様、ヴァン。大丈夫?」
「リク……」
治癒術師のジャスパーに支えられながらも、ヴァンは口元に笑みを浮かべていた。休みなしに詠唱を続けていたヴァンの疲労は濃いけれど、歩けないほどじゃないみたいだ。
「リクがずっと僕たちを守っていてくれたからね」
「俺、ヴァンの力になれた?」
「もちろんだ……さぁ、部屋に戻って休もうか」
そう言って俺の髪を梳き、額に口づけした。
嬉しい。
またひとつヴァンの力になれたことが、嬉しい。
この世界に迷い込んで今までの間、ヴァンには返しきれないほどの恩がある。その数百分の一……いや、数万分の一でもお返しできたのなら、すごく嬉しい。
「俺、まだ元気だよ。できることがあったら言って」
ジャスパーと反対側の腕を取って、俺はヴァンを見上げる。やっぱり熱をもっているようで身体は少し熱い。
ヴァンは笑顔を浮かべながら、「頼もしいな」と呟いた。
俺はただ守られるばかりじゃない。大好きな人たちを守ることもできるようになった。この調子でいけば、残り六夜も乗り越えられる。そして二人でベネルクの街に帰るんだ。
急に、ベネルクの馴染みのパン屋が恋しくなった。
美味しいふかふかのパンを食べながら、スープと卵とベーコンで朝食をとってのんびり過ごすんだ。本を読んだり、魔法石を磨いたりしながら。
「なんか、おなか空いてきちゃった」
「ホント元気だな。部屋に食事が用意されているよ」
ヴァンを挟んだ反対側でジャスパーが答える。
「湯あみをして、ヴァンの魔力の流れを調整したら二人でゆっくり食事するといい。後のヴァンの世話はリクに任せるよ。全部な?」
意味深に笑うジャスパーに、思わず俺の顔が熱くなった。
そうだ、ヴァンには「添い寝」の仕事を言いつけられている。夕べは緊張もあってベッドでは何もしなかったけれど……いや、ベッドに入る前にちょっといちゃついたからだけれど……。
ヴァンはすごく疲れているから、今日も何もしないとは思う。
少しでも多く休ませたいし。
けど、ヴァンが求めるなら俺は何でもする。何でもしたい。
「う……うん、ヴァンの世話は、任せて……」
緊張した声で返すと、ヴァンの肩が笑うように揺れた。
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