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第4章 たいせつな人を守りたい
122 ヴァンを想う人たち
しおりを挟むヴァンや騎士団長のナジームさん……そして魔法院のストルアンらが中心となって、明日からの詳細を詰めていく。俺は広い部屋の端にあるソファで、その様子を眺めていた。
そばにはヴァンの甥っ子のクリフォード。ソファの後ろに立つ位置で、護衛のザックとマークが控えている。そして……入れ代わり立ち代わりで部屋を行き来する、俺と同世代ぐらいの人たち。
俺は最初、ヴァンやナジームさんたちに仕える従者なのかと思ったけど、身なりから見て様子が違う。飲み物や軽食などを運ぶ召使い――使用人も確かにいるけれど、どちらかと言えばクリフォードみたいな貴族……という感じで。
「ここにいる人たちって、どんな関係なのだろう」
「んん?」
俺の呟きにクリフォードが首を傾げる。
「ほら……クリフォードもだけれど、騎士や魔法院の人たちとも違う、貴族の子息……みたいな人たちが結構いるだろ?」
それを考えると俺の立場も不思議に思う。
さっき魔法石の起動で多少の役に立てたけど……何か明確な役目――仕事があるのかと言えば、よくわからない。
「貴族の子息? ああ、そうだね。国のトップが一堂に会するこの場は、夜会とはまた違った社交場になっているからね」
「というと……?」
「自分の能力を売り込んで上位貴族の目に留めてもらうためのアピールの場、ということ。能力が認められれば婚姻や養子に、という話が舞い込んでくる。もしくは国の要職につけるかもしれない。さっきのリクみたいに王子殿下に認められれば将来は安泰だ。魔法や武術で名を上げるチャンスの場なんだよ」
え……っと、それは一種の就職活動やインターン……みたいなもの、なのかな。
「……確かにお披露目会では、挨拶ばっかりだった」
「リクのいた異世界では夜会など無かった?」
「パーティーはあったけど、俺には縁の無い世界だったから」
たぶん一生、そんなものに呼ばれたりはしない暮らしだったと思う。
「うん、そうか。この間、リクが能力の一端を見せたのは、かなり特別なことだからね。あちらは顔合わせだとか情報交換、収集ためのようなものだ。親交を深めたりと。……そして自分たちがどんな能力を持っているか知らしめるのは、この大結界再構築の場だ」
と、息をついてから続ける。
「昔は戦場がその役割を担っていた。今、我が国はとても平和だからね」
ヴァンたち先代が築き上げた平和だ。
鼻を鳴らすようにして言うクリフォードに、俺は貴族も大変だなぁ……と笑い返す。
「じゃあ、クリフォードも?」
「そうだね。僕はアーヴァイン叔父様に並ぶ術者として働けるように、現場で学んでいるところだ。まぁ……叔父様第一の補佐は、リクに取られてしまったけれどね」
ふふふん、と笑うクリフォードに俺は思わず声を漏らした。
そうだった。
二年前に初めてクリフォードと出会った時、「アーヴァイン叔父様の技能を継ぐ者として、お側にお仕えるのは僕が一番ふさわしい」と言っていた。
当時の俺はまだ自分の魅了にも気づいていなような状態だったから、クリフォードにしてみればヴァンの隣に立つなんて許せなかったのだろう。
「そんなわけで、僕は今、リクの補佐の状態だけれど、いずれアーヴァイン叔父様と肩を並べられるようになる目標は、忘れていないよ」
「うん」
頷く俺に、クリフォードは片眉を上げる。
「んん? リクは焼きもちを焼いたりはしないのかな?」
「それは嫉妬にはならないよ」
ならないと思う。
「だってクリフォードはヴァンの――この国の力になりたいんだろ? それは俺も同じで、手助けが多ければ多いほど、ヴァンは自由に魔法を使うことができるから。大切なものを守るためなら、協力しあった方がいい」
俺一人でヴァンの全てをカバーできるのら、独占したいという気持ちも湧いたかもしれない。
けれど俺が出来ることには限りがある。
魅了に関しては抜きん出た能力を持っていても、他の魔法や武力なんかは全然だ。ジャスパーのように治癒や魔力の調整だってできない。だったら俺のできないことで、ヴァンの手助けになる人物がそばに着くことに嫉妬するのはおかしい……と思う。
ヴァンはこのアールネスト王国の護りとして、重要な人物なのだから。
「意外に大人だね。リクは」
「意外にとは失礼だな」
「褒めているんだ怒るなよ」
そう言ってずい、と顔を近づけて来たから俺は思わず身体を引いた。
あぁぁ……あんまり他の人を近づけ過ぎると、ヴァンが……お、怒るかもしれない。不用意に触らせないように、って、またお仕置きされてしまう。
「どうしたの?」
「いや、そんなに顔を近づけなくても大丈夫だから」
「別に口にキスするわけじゃないんだから、いいじゃないか」
「こんな所でキスなんかされたら、困るんだけれど!」
「こんな所でなければいいんだ」
からかうクリフォードに護衛のザックが殺気を放つ。
と、その時、顔を押しのける俺のそばに、飲み物を持ってきた人が近づいてきた。見上げると召使いじゃない。服装から見て貴族の子息だ。
驚くように俺を見返すその顔には見覚えがあった。
ザックの隣で控えていたマークが「チャールズ・ディ・エイムズです」と耳打ちした。
「えっと……確か、お披露目会で会った」
「はい。あの時はすみませんでした」
パッ、と身を正して謝罪する。
会場で突然声をかけてきたエイムズ卿の横で、魅了の魔力にあてられて腰が砕けてしまった子息だ。
確か俺と同い年。
栗色の髪に黒目がちの瞳と柔らかな少年のような顔立ちは小鹿のようで、キツイ印象のクリフォードとは全く違う。
あの後、使用人たちが介抱していた様子が見えていたけれど、声をかけ直す機会もなく過ぎていた。
「俺の方こそ強い力を使ったわけじゃなかったのに……大丈夫だった?」
「はい……情けない話ですが、翌日にはどうにか。僕……人の魔力に敏感で、直ぐにあてられてしまうんです。ご心配おかけしました」
そう言って申し訳なさそうに微笑む。
父親は相手の様子も構わずぐいぐいくるタイプだけれど、その息子のチャールズはどちらかというと、ほわんとした感じの柔らかい印象の子だ。
優しく微笑みながら、改めてテーブルに置いた茶菓子を「どうぞ」とすすめる。
そしてもじもじしながら控えめに声をかけて来た。
「リク様の……先程のお姿拝見しました。魔法石の起動……素晴らしかったです。いつもあのようにアーヴァイン様にお力添えを?」
「いつも、というわけじゃないよ……」
「でも、ここぞという時にはお力になるのですよね。素敵です。やっぱり僕にはかなわないな……」
えへへへ、と頬を赤らめて笑う。
その笑顔が少し寂しそうなのが引っかかった。
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