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第4章 たいせつな人を守りたい
120 アールネストの大魔法使い
しおりを挟むまるでヘリの発着場のような、大きな城の一部に迫り出した場所で飛竜を下りた俺たちは、そのまま迎えの人たちに連れられ大きな城に入った。
ヴァンの実家のお披露目会でも多くの人を見たけれど、ここで行き交う人たちはその比じゃない。この国を護るための、年に一度の国家事業……という言葉通りに、様々な人たちが足早に行き交っている。
そしてヴァンは、それらの中心人物となる一人だ。
到着早々、休憩する間もなく、ヴァンは再構築の打ち合わせをすることになった。
「リクも同席してほしい」
「俺……も?」
「きっと力を借りることになると思うからね」
そう言うヴァンに頷いて、俺は付き従う。
通された、応接室というには大きな部屋には、すでに大勢の人たちが揃っていた。
俺たちの姿を見て声を上げたのは、今回の術を施す三大魔法使いの一人、ナジーム・アトキン・ミレンさんだ。お披露目会で一度顔を合わせている、ヴァンより一回り大柄な、王族を守護する近衛騎士団団長だ。
その隣に立つのは、第二王子ルーファス・ローランド・アールネスト。
「やっと来たね」
「ルーファス殿下もご同席でしたか」
「うん、今回は父上も来るよ」
「ローランド陛下が?」
ヴァンが少し驚いた顔をする。
「今年の再構築は、何か大きな出来事が起こりそうだと言ってね、父上はとても期待している。リク、君の話をしたことが、父上の興味をひいたみたいだ」
明るく笑う言葉に、俺は目をぱちくりさせた。
えぇっ……と、この国の一番偉い人が、俺に興味を持った……ということ?
驚いた顔で隣に立つヴァンを見上げると、ちょっと自慢げな笑みが見降ろしていた。もう「当然」って感じのドヤ顔。
うわぁ……ちょっ、何か、プレッシャーだな。
ドキドキしている俺の目の前で、騎士のナジームさんが「可愛いなぁ」なんて呟いている。和やかな雰囲気だ。年に一度の祭りに集った人たち、といった感じで。
そんな軽い言葉のやり取りをしている横で、従者が大きなテーブルに地図を広げた。
ナジーム騎士団長が声をかける。
「おい、ストルアンがまだだぞ。奴は何をしている」
「間もなくご到着いたします」
「ったく……いつもだな。あいつは……」
ストルアン――って、魔法院のストルアン・バリー・ダウセットだろうか。
呟いたタイミングを見計らったかのように、部屋のドアが開いた。
「やっとお揃いですね」
「お前が一番遅かったな」
「私は時間を無駄にしないのです」
数人のお付きの人たちに囲まれて来たのは、やっぱり、あの魔法院のストルアンだった。思わず俺の中に緊張が走る。
二年半前に誘拐された時、「異世界から来た貴重な標本を、自由にすることはできません」と言った。
そして先日のお披露目会で、軽い毒入りの飲み物を渡してきた。どんなに失礼なことをしても……誰も咎めることができない地位と権力をもった人。
青白い肌と、灰色に近いブラウンの髪。どこか濁った色に見える、昏い緑の瞳は最初に出会った時のままだ。
ヴァンと名を並べるこの国の三大魔法使いの一人でも、ナジーム騎士団長のような豪快さや明るさは無く、ヴァンとも全く違う。どこか底冷えするような気配がある。
警戒しない方が無理……。
「お元気そうですね」
ストルアンはちらりと俺を見て、唇の端を上げて笑った。
俺は腹の底に力を入れ、威圧を返すように「はい」とだけ短く返す。ヴァンの手が、そっと俺の背に添えられる。
大丈夫だよヴァン。俺は怖がったりしない。
ふん、と鼻息を荒くしたナジーム騎士団長が、パンパンと手を打ち声を上げた。
「さて、新顔を交え役者は揃ったんだ。始めようか」
毎年行っていることだから、細かい説明は無しにいきなり打ち合わせが始まった。
魔物や他国のちょっかいから結界が弱くなっている場所、更に強化が必要な個所、人の流動や地形の変化で対応していかなければならないそれら全部を、従者が読み上げていく。
そのひとつひとつを一発で頭に入れているヴァンたち。
周囲を見渡せば腕を組んで眺めているルーファス王子やクリフォードも、同じように頷きながら聞いていた。
当然、とてもじゃないが俺には理解が追いつかない。
けれど一年毎に再構築が必要な大結界――つまり、国を護り続けるためには大掛かりな修繕が必要なんだということはよく分かった。
決して狭くは無い国土だ。
たぶん総面積でいえば、俺が生まれ育った国とほぼ同等かそれより広いぐらいだと思う。
それを――補助の魔法使いはいるようだが、実質三人の大魔法使いだけで、七晩をかけて再構築を行う。体内の魔力を最大限活性化させ、魔法酔いなんて言葉じゃすまないほど肉体にも負荷をかけて行うこと。
俺を含めた周囲の人たちは、ただひたすらヴァンたちのフォローをするだけだ。
「了解した」
一通りの現状報告を終え、ヴァンが答えた。ナジーム騎士団長が口の端を上げて、獲物を前にした狩人のように瞳をギラギラさせている。
お仕事モードのヴァンはテーブルに手をつき、地図の覗き込み呟いた。
「この、マージナル王国の国境があやしいな」
「思う以上に、ノルダシア共和国に隣接する結界も綻んでいる」
ヴァンに続いてナジームが続く。
ふふ……と笑みを漏らしたのは、魔法院のストルアンだ。
「どちらも、我が国の宝に注目していますからね」
「ほう? ストルアン、何か心当たりが?」
ルーファス王子がたずねる。
ストルアンは鷹揚に頷いて見せた。
「ここ二年余り、我が国の魔法石産出量が増大しております。その話が諸国に行き渡ったのかと……原因にも、心当たりはございますから」
ちらり、とストルアンが俺を見た。
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