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第4章 たいせつな人を守りたい
119 聖地ヘイストン
しおりを挟む俺たちの住んでいるベネルクは迷宮の上に発展した街で、コンパクトな外周と地下道を利用した上下に発展した造りになっていた。だから大きな馬車が入れる道は、ジャスパーの屋敷があるような街のメイン通りで、たいていは一頭立ての小さな馬車かひたすら徒歩。
本当にヨーロッパの古い坂の街み、という雰囲気があったりする。
そんなこともあって、ベネルクに大きい動物は入りずらい。
とヴァンが言った意味を、俺は最初、よく分からなかった。
俺の知る大きい動物とえば動物園にいるゾウやキリンぐらいで、次いで大きいと言えばクマぐらい? けれどそれなら、いくら道が狭く上下に発展した街だといっても、「入りずらい」にはならない。
魔物がいるこの異世界では、俺が知るよりもっと大きい生き物がいる……ということを、頭では分かっていた。分かっていても実際に目で見るのとは違って、俺は初めてその――飛竜を見た瞬間、言葉がでなかった。
だって本当に、空飛ぶ恐竜……というか、ファンタジーな生き物だったから!
「すごい! すごいね!」
「リクが怖がらなくて良かった」
「怖くなんかないよ!」
ヴァンがそばにいるんだから、怖いなんてことない。
しかもカッコよくて人懐っこくて――これは、俺の魅了の影響もあったようだけれど、すごいいい子たちだったんだ。聖地から迎えに来た護衛騎士たちに、「やっぱり男の子ですねぇ」なんて言われて少し恥ずかしかったけど。
そんなわけで俺たちは、飛竜に乗り、広い平原のある隣町から飛び立った。
例年は馬車で四、五日かけて、ヴァンは大結界再構築の聖地――ヘイストンに向かっているという。だけど今年はお披露目会だとか……その、二人だけで過ごす時間が欲しくて……ぎりぎりまで自宅にいた。
飛竜に乗れば数日の距離も、半日で行き来できてしまう。
正に、この世界の飛行機、だよね。
「すごーい」
空を舞い上がり、手綱を握るヴァンと一緒に、どこまでも続く緑の世界を見下ろす。点々と見える街が本当に小さくて、細い道が糸のように街や村を繋いでいた。その向こうに地平線の彼方まで続く山々。
還りの地を訪れた時にも感じた、切なさと愛しさが溢れる。
これが……ヴァンの守っている世界だ。
「リク、怖くない?」
「平気! 面白い。すごい眺め。綺麗!」
高所恐怖症だったら大変なところだけれど、俺は平気みたいだ。
むしろ面白くて仕方がない。これから遊びに行くわけじゃないと分かっていても、わくわくしてしまう。
「今回はゆっくり堪能はさせてあげられないが、いつかまた空を飛ぼう」
「飛竜に乗って?」
「それでもいいし、飛行魔法でもいい」
「ヴァン、飛べるの?」
「魔力の消費量が大きいし使える魔法石も少ないから、そうしょっちゅうはしないけれどね。できるかどうかと聞かれれば、できるよ」
「すごぉーい」
さすが大魔法使いだ。本当に何でもできてしまう。
そんな俺たちの会話は周囲を飛んでいた護衛騎士たちにも届いたみたいで、また軽く笑われてしまった。
さっきから「すごい」を連発しているよね。
恥ずかしい。もう少し落ち着こう……俺。
あっという間の飛行を終え、到着した聖地ヘイストンは、とても大きな城塞都市だった。
出迎えたのはヴァンの甥っ子クリフォードと、ヴァンの二番目の兄ハロルドさん。それからもうたくさんの騎士とか、魔法師とか、大きなイベント会場に来たように人が多い。
もちろん俺の護衛として、ザックとマークも既に入城していた。
「リク様、お変わりはありませんか?」
「ザック……うん、大丈夫。お披露目会では色々ありがとうね。ここでも頼むよ。マークも」
「もちろんです。護衛以外にも必要があれば、何でもご命令下さい」
「うん、頼りにしてる」
軽く言葉を交わす、その後ろからクリフォードが大きな声で名前を呼んだ。
「アーヴァイン叔父様、リク!」
「クリフォード」
「今年はずいぶんゆっくりしたご到着だね。空の旅は楽しかったかい?」
「うん」
俺と離れがたいと甘える飛竜をなだめて、俺はクリフォードの挨拶を受ける。ヴァンはヴァンで、既に多くの関係者やハロルドお兄さんと、お仕事モードの会話が交わされていた。
俺はその邪魔をしないように付き従う。
「今回、僕がリクの補佐に着くことになったよ。ハロルド叔父様と父上は二人の橋渡しと補助にね。父上は領地での仕事が片付き次第、こちらに向かうことになっている」
「そうか、クリフォードが一緒なら心強いな」
「ふふふん、大いに感謝してくれよ。大結界再構築の場には十五の頃から参加している。分からないことは何でも聞くといい」
クリフォードがウィンクをしながら返した。
この尊大な感じ、変わらないな。
今回、ザックやマークが俺に着いてくれることは知っていたけれど、彼らもここには初めて来ることになる。知らない場所で右往左往しては迷惑をかけるかもしれない、と思ったのも杞憂だったみたいだ。
その辺りもヴァンが事前に根回し、していたんだろうな。
「空からこの街の様子を見て、何か気づいたかい?」
クリフォードが俺を試すようにきいてくる。
俺は、不思議な形をした街の外観を思い出した。
「街全体が、何か大きな機能をもっているみたい……な、不思議な形だよね」
「そう。この国全体に結界を施すため、聖地ヘイストン全体が一つの魔法円――もしくは魔法具のような機能を持っている。一種の迷宮みたいなものだ。だから下手にあちこち歩き回ると、帰って来れなくなるからね」
さらりと言うクリフォードの言葉に、俺は顔をひきつらせた。
「わかった、一人では歩き回らないようにするよ」
「そうしてくれ」
こんな場所で迷子になって帰って来れなくなった……なんてことには絶対ならないように、気を付けないと。
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