ケモとボクとの傭兵生活

Fantome

文字の大きさ
上 下
57 / 73
第三章 初仕事は蒼へと向かって

薫が求めたモノ

しおりを挟む
「お前は何か勘違いをしているようだが、私に侮辱の意思は無い。ただ率直な感想を述べたまでだ。相手が見窄らしい傭兵であろうとも、私は仕事が出来る者は嫌いではない。無論、我が商会の人間が犯した愚行に対する賠償も惜しまん」

どうやら、思っていたよりもそれほど怒ってはいないようだ。テクトの立場が悪くならずに安堵する薫だったが、そこへブラマスが小さな革袋を差し出してきた。

「あ、あの……?」

「受け取れ。今回の報酬と、商会に所属する人間が掛けた迷惑料だ」

薫の掌に乗せられた革袋はズシリと重く、覗き込むと金貨に加えて大量の銀貨が詰められている。報酬は金貨と聞いていたが、銀貨は薫に対する迷惑料ということだろう。枚数はわからないが、相当な金額であることが伺える。

「う、受け取れませんよ、こんなに……!」

「ほう、少ないと言い出すかと思ったのだがな。金に貪欲な傭兵にしては珍しく慎ましい。それはお前の正当な取り分だ。お前が受け取らぬからといって取り上げるような真似は出来ん。不要ならばそこらに捨てろ」

「カオル、おとなしく貰っとけって。ブラマスさんもこう言ってるんだからさ」

「は、はぁ……」

捨てろと言われて捨てるわけにもいかず、硬貨の入った袋をおとなしく受け取る薫。ブラマスの口調はキツく、次から次へと敵を作りそうな性格だが、薫が思っているほど悪い人間ではないのかもしれない。

「ちょっと待って下さい。今回の依頼の件、護衛とは別の意図がありますよね?」

「別の意図だと?何を言っているのかわからんな。お前達への依頼は会長が行ったものだろう。私には預かり知らぬことだ」

「そうはいきませんよ。街道近くに出たロックゴーレムの件、商会では把握してたんですよね?わざわざ移動ルートを指定して、僕達に依頼したのは倒させるつもりだったんじゃないんですか?」

「チッ……また小癪な手を使ったか。その杜撰な行動のツケを誰が精算していると思っているのだ……!」

アルトの追求にブラマスは苛立ちを隠そうともせず舌打ちをして頭を掻く。その様子を見る限り、彼は今回の魂胆には加担していないように見えた。その言葉が事実であれば、今回の画策は全てアルドゴート商会会長のステッキンが行ったということになるだろう。

これはブラマスが全面的に非を認めることになるだろう。そう思った薫だったが、それはあまりにも甘い考えであった。

「こちらの依頼内容は護衛だろう?当然、護衛には進路を阻む魔物の討伐も含まれているはずだ。割に合わん魔物に遭遇したのかもしれんが、それらは全て結果論だろう」

「そ、それは……っ」

「仮に道中何者にも出くわさなかった場合、お前達は働きに見合わないほどの報酬を手にしたはずだ。契約に特約が無い以上、こちらがお前達の言う不足分を補填するつもりはない。恨むのならば契約内容の確認を怠ったお前達の頭目を恨むがいい」

「う、うう……」

もはや言い返す言葉も無いと力無く項垂れるアルト。ブラマスの言葉は至極真っ当なものだ。それに、商人というものはそれなりに弁が立つ。それも商会が持つ支部の責任者ともなれば相当だ。交渉という土俵においてアルトの勝ち目は万が一にも無かったことだろう。

「もういいじゃないですか、アルトさん。こうして皆さん無事にここまで来れたんですから。お金もほら、こんなに貰えましたよ」

「うう……カオルぅ、僕の力不足を許してぇ……」

「…………」

薫へとグリグリと頭を押し付けてくるアルト。ここまで落ち込む彼の姿も珍しい。ギランから交渉役として今回の仕事に同行した彼だったが、今回はあまりにも相手が悪すぎたと言わざるを得ない。すっかり気落ちしてしまったアルトを薫とヴァルツは慰めるように背中を撫でた。

「…しかし、だ」

「はい……?」

不意に口火を切ったブラマスへと薫達は顔を向けた。

「労働には相応の報酬を支払わねばなるまい。だが、商会の帳簿から新たに捻出することは出来ん。よって、私の一存で可能な範囲であれば追加で報酬を出してやる」

「ええっ!?い、良いんですか……?」

「二度も言わせるな。さて、何を差し出したものか……」

アルトの姿を哀れに思ったか、はたまた雀の涙ほどの良心の呵責があったのか、思い掛け無いブラマスの申し出に驚きの声を上げる薫。彼の完全勝利だったというのに、これでアルトの面目も立つというものだ。一体何を報酬にしたものかと、ブラマスは腕組みをしながら悩んでいる。

その時、薫はある一つの考えが頭に浮かんだ。

「あ、あの……アルトさん、ヴァルツさん、ちょっと……」

「えっ?どうしたの、カオル?」

「…………」

薫はアルトとヴァルツの耳元でボソボソと何かを囁く。すると、アルトは一瞬驚いた表情を見せるも、すぐに柔和な笑みを浮かべた。

「うん、いいんじゃないかな。ロックゴーレムを倒したのはカオルだし、好きにしちゃって。ヴァルツさんも良いですよね?」

「…………」

「お二人とも、ありがとうございますっ」

要求が通って、ホッと胸を撫で下ろす薫。相談するのはかなり不安だったが、そもそも優しいこの二人がダメだと言うはずもなかったかもしれないが。

「何だ?何か要求があるのか?言っておくが、あまり高額な報酬は用意できんぞ。こちらも宮仕えの立場なのでな」

「は、はい、理解してます。それで、もし出来るなら……テクトさんの事、もう許してあげてくれませんか?」

「お、おい!」

薫の言葉に、様子を見守っていたテクトが焦ったように声を上げる。薫の考えとは、ダリウスの呪縛からテクトを解放することであった。薫は今回の仕事で終わりだが、テクトはこれからも商会で働くことになる。このままずっとダリウスに弱味を握られたままテクトが好き勝手にされることは、薫にとって見過ごせるものではなかったのだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。

やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。 昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと? 前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。 *ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。 *フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。 *男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

名前のない脇役で異世界召喚~頼む、脇役の僕を巻き込まないでくれ~

沖田さくら
BL
仕事帰り、ラノベでよく見る異世界召喚に遭遇。 巻き込まれない様、召喚される予定?らしき青年とそんな青年の救出を試みる高校生を傍観していた八乙女昌斗だが。 予想だにしない事態が起きてしまう 巻き込まれ召喚に巻き込まれ、ラノベでも登場しないポジションで異世界転移。 ”召喚された美青年リーマン”  ”人助けをしようとして召喚に巻き込まれた高校生”  じゃあ、何もせず巻き込まれた僕は”なに”? 名前のない脇役にも居場所はあるのか。 捻くれ主人公が異世界転移をきっかけに様々な”経験”と”感情”を知っていく物語。 「頼むから脇役の僕を巻き込まないでくれ!」 ーーーーーー・ーーーーーー 小説家になろう!でも更新中! 早めにお話を読みたい方は、是非其方に見に来て下さい!

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

【完結済み】準ヒロインに転生したビッチだけど出番終わったから好きにします。

mamaマリナ
BL
【完結済み、番外編投稿予定】  別れ話の途中で転生したこと思い出した。でも、シナリオの最後のシーンだからこれから好きにしていいよね。ビッチの本領発揮します。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

子を成せ

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
ミーシェは兄から告げられた言葉に思わず耳を疑った。 「リストにある全員と子を成すか、二年以内にリーファスの子を産むか選べ」 リストに並ぶ番号は全部で十八もあり、その下には追加される可能性がある名前が続いている。これは孕み腹として生きろという命令を下されたに等しかった。もう一つの話だって、譲歩しているわけではない。

処理中です...