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第三章 初仕事は蒼へと向かって
薫が求めたモノ
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「お前は何か勘違いをしているようだが、私に侮辱の意思は無い。ただ率直な感想を述べたまでだ。相手が見窄らしい傭兵であろうとも、私は仕事が出来る者は嫌いではない。無論、我が商会の人間が犯した愚行に対する賠償も惜しまん」
どうやら、思っていたよりもそれほど怒ってはいないようだ。テクトの立場が悪くならずに安堵する薫だったが、そこへブラマスが小さな革袋を差し出してきた。
「あ、あの……?」
「受け取れ。今回の報酬と、商会に所属する人間が掛けた迷惑料だ」
薫の掌に乗せられた革袋はズシリと重く、覗き込むと金貨に加えて大量の銀貨が詰められている。報酬は金貨と聞いていたが、銀貨は薫に対する迷惑料ということだろう。枚数はわからないが、相当な金額であることが伺える。
「う、受け取れませんよ、こんなに……!」
「ほう、少ないと言い出すかと思ったのだがな。金に貪欲な傭兵にしては珍しく慎ましい。それはお前の正当な取り分だ。お前が受け取らぬからといって取り上げるような真似は出来ん。不要ならばそこらに捨てろ」
「カオル、おとなしく貰っとけって。ブラマスさんもこう言ってるんだからさ」
「は、はぁ……」
捨てろと言われて捨てるわけにもいかず、硬貨の入った袋をおとなしく受け取る薫。ブラマスの口調はキツく、次から次へと敵を作りそうな性格だが、薫が思っているほど悪い人間ではないのかもしれない。
「ちょっと待って下さい。今回の依頼の件、護衛とは別の意図がありますよね?」
「別の意図だと?何を言っているのかわからんな。お前達への依頼は会長が行ったものだろう。私には預かり知らぬことだ」
「そうはいきませんよ。街道近くに出たロックゴーレムの件、商会では把握してたんですよね?わざわざ移動ルートを指定して、僕達に依頼したのは倒させるつもりだったんじゃないんですか?」
「チッ……また小癪な手を使ったか。その杜撰な行動のツケを誰が精算していると思っているのだ……!」
アルトの追求にブラマスは苛立ちを隠そうともせず舌打ちをして頭を掻く。その様子を見る限り、彼は今回の魂胆には加担していないように見えた。その言葉が事実であれば、今回の画策は全てアルドゴート商会会長のステッキンが行ったということになるだろう。
これはブラマスが全面的に非を認めることになるだろう。そう思った薫だったが、それはあまりにも甘い考えであった。
「こちらの依頼内容は護衛だろう?当然、護衛には進路を阻む魔物の討伐も含まれているはずだ。割に合わん魔物に遭遇したのかもしれんが、それらは全て結果論だろう」
「そ、それは……っ」
「仮に道中何者にも出くわさなかった場合、お前達は働きに見合わないほどの報酬を手にしたはずだ。契約に特約が無い以上、こちらがお前達の言う不足分を補填するつもりはない。恨むのならば契約内容の確認を怠ったお前達の頭目を恨むがいい」
「う、うう……」
もはや言い返す言葉も無いと力無く項垂れるアルト。ブラマスの言葉は至極真っ当なものだ。それに、商人というものはそれなりに弁が立つ。それも商会が持つ支部の責任者ともなれば相当だ。交渉という土俵においてアルトの勝ち目は万が一にも無かったことだろう。
「もういいじゃないですか、アルトさん。こうして皆さん無事にここまで来れたんですから。お金もほら、こんなに貰えましたよ」
「うう……カオルぅ、僕の力不足を許してぇ……」
「…………」
薫へとグリグリと頭を押し付けてくるアルト。ここまで落ち込む彼の姿も珍しい。ギランから交渉役として今回の仕事に同行した彼だったが、今回はあまりにも相手が悪すぎたと言わざるを得ない。すっかり気落ちしてしまったアルトを薫とヴァルツは慰めるように背中を撫でた。
「…しかし、だ」
「はい……?」
不意に口火を切ったブラマスへと薫達は顔を向けた。
「労働には相応の報酬を支払わねばなるまい。だが、商会の帳簿から新たに捻出することは出来ん。よって、私の一存で可能な範囲であれば追加で報酬を出してやる」
「ええっ!?い、良いんですか……?」
「二度も言わせるな。さて、何を差し出したものか……」
アルトの姿を哀れに思ったか、はたまた雀の涙ほどの良心の呵責があったのか、思い掛け無いブラマスの申し出に驚きの声を上げる薫。彼の完全勝利だったというのに、これでアルトの面目も立つというものだ。一体何を報酬にしたものかと、ブラマスは腕組みをしながら悩んでいる。
その時、薫はある一つの考えが頭に浮かんだ。
「あ、あの……アルトさん、ヴァルツさん、ちょっと……」
「えっ?どうしたの、カオル?」
「…………」
薫はアルトとヴァルツの耳元でボソボソと何かを囁く。すると、アルトは一瞬驚いた表情を見せるも、すぐに柔和な笑みを浮かべた。
「うん、いいんじゃないかな。ロックゴーレムを倒したのはカオルだし、好きにしちゃって。ヴァルツさんも良いですよね?」
「…………」
「お二人とも、ありがとうございますっ」
要求が通って、ホッと胸を撫で下ろす薫。相談するのはかなり不安だったが、そもそも優しいこの二人がダメだと言うはずもなかったかもしれないが。
「何だ?何か要求があるのか?言っておくが、あまり高額な報酬は用意できんぞ。こちらも宮仕えの立場なのでな」
「は、はい、理解してます。それで、もし出来るなら……テクトさんの事、もう許してあげてくれませんか?」
「お、おい!」
薫の言葉に、様子を見守っていたテクトが焦ったように声を上げる。薫の考えとは、ダリウスの呪縛からテクトを解放することであった。薫は今回の仕事で終わりだが、テクトはこれからも商会で働くことになる。このままずっとダリウスに弱味を握られたままテクトが好き勝手にされることは、薫にとって見過ごせるものではなかったのだ。
どうやら、思っていたよりもそれほど怒ってはいないようだ。テクトの立場が悪くならずに安堵する薫だったが、そこへブラマスが小さな革袋を差し出してきた。
「あ、あの……?」
「受け取れ。今回の報酬と、商会に所属する人間が掛けた迷惑料だ」
薫の掌に乗せられた革袋はズシリと重く、覗き込むと金貨に加えて大量の銀貨が詰められている。報酬は金貨と聞いていたが、銀貨は薫に対する迷惑料ということだろう。枚数はわからないが、相当な金額であることが伺える。
「う、受け取れませんよ、こんなに……!」
「ほう、少ないと言い出すかと思ったのだがな。金に貪欲な傭兵にしては珍しく慎ましい。それはお前の正当な取り分だ。お前が受け取らぬからといって取り上げるような真似は出来ん。不要ならばそこらに捨てろ」
「カオル、おとなしく貰っとけって。ブラマスさんもこう言ってるんだからさ」
「は、はぁ……」
捨てろと言われて捨てるわけにもいかず、硬貨の入った袋をおとなしく受け取る薫。ブラマスの口調はキツく、次から次へと敵を作りそうな性格だが、薫が思っているほど悪い人間ではないのかもしれない。
「ちょっと待って下さい。今回の依頼の件、護衛とは別の意図がありますよね?」
「別の意図だと?何を言っているのかわからんな。お前達への依頼は会長が行ったものだろう。私には預かり知らぬことだ」
「そうはいきませんよ。街道近くに出たロックゴーレムの件、商会では把握してたんですよね?わざわざ移動ルートを指定して、僕達に依頼したのは倒させるつもりだったんじゃないんですか?」
「チッ……また小癪な手を使ったか。その杜撰な行動のツケを誰が精算していると思っているのだ……!」
アルトの追求にブラマスは苛立ちを隠そうともせず舌打ちをして頭を掻く。その様子を見る限り、彼は今回の魂胆には加担していないように見えた。その言葉が事実であれば、今回の画策は全てアルドゴート商会会長のステッキンが行ったということになるだろう。
これはブラマスが全面的に非を認めることになるだろう。そう思った薫だったが、それはあまりにも甘い考えであった。
「こちらの依頼内容は護衛だろう?当然、護衛には進路を阻む魔物の討伐も含まれているはずだ。割に合わん魔物に遭遇したのかもしれんが、それらは全て結果論だろう」
「そ、それは……っ」
「仮に道中何者にも出くわさなかった場合、お前達は働きに見合わないほどの報酬を手にしたはずだ。契約に特約が無い以上、こちらがお前達の言う不足分を補填するつもりはない。恨むのならば契約内容の確認を怠ったお前達の頭目を恨むがいい」
「う、うう……」
もはや言い返す言葉も無いと力無く項垂れるアルト。ブラマスの言葉は至極真っ当なものだ。それに、商人というものはそれなりに弁が立つ。それも商会が持つ支部の責任者ともなれば相当だ。交渉という土俵においてアルトの勝ち目は万が一にも無かったことだろう。
「もういいじゃないですか、アルトさん。こうして皆さん無事にここまで来れたんですから。お金もほら、こんなに貰えましたよ」
「うう……カオルぅ、僕の力不足を許してぇ……」
「…………」
薫へとグリグリと頭を押し付けてくるアルト。ここまで落ち込む彼の姿も珍しい。ギランから交渉役として今回の仕事に同行した彼だったが、今回はあまりにも相手が悪すぎたと言わざるを得ない。すっかり気落ちしてしまったアルトを薫とヴァルツは慰めるように背中を撫でた。
「…しかし、だ」
「はい……?」
不意に口火を切ったブラマスへと薫達は顔を向けた。
「労働には相応の報酬を支払わねばなるまい。だが、商会の帳簿から新たに捻出することは出来ん。よって、私の一存で可能な範囲であれば追加で報酬を出してやる」
「ええっ!?い、良いんですか……?」
「二度も言わせるな。さて、何を差し出したものか……」
アルトの姿を哀れに思ったか、はたまた雀の涙ほどの良心の呵責があったのか、思い掛け無いブラマスの申し出に驚きの声を上げる薫。彼の完全勝利だったというのに、これでアルトの面目も立つというものだ。一体何を報酬にしたものかと、ブラマスは腕組みをしながら悩んでいる。
その時、薫はある一つの考えが頭に浮かんだ。
「あ、あの……アルトさん、ヴァルツさん、ちょっと……」
「えっ?どうしたの、カオル?」
「…………」
薫はアルトとヴァルツの耳元でボソボソと何かを囁く。すると、アルトは一瞬驚いた表情を見せるも、すぐに柔和な笑みを浮かべた。
「うん、いいんじゃないかな。ロックゴーレムを倒したのはカオルだし、好きにしちゃって。ヴァルツさんも良いですよね?」
「…………」
「お二人とも、ありがとうございますっ」
要求が通って、ホッと胸を撫で下ろす薫。相談するのはかなり不安だったが、そもそも優しいこの二人がダメだと言うはずもなかったかもしれないが。
「何だ?何か要求があるのか?言っておくが、あまり高額な報酬は用意できんぞ。こちらも宮仕えの立場なのでな」
「は、はい、理解してます。それで、もし出来るなら……テクトさんの事、もう許してあげてくれませんか?」
「お、おい!」
薫の言葉に、様子を見守っていたテクトが焦ったように声を上げる。薫の考えとは、ダリウスの呪縛からテクトを解放することであった。薫は今回の仕事で終わりだが、テクトはこれからも商会で働くことになる。このままずっとダリウスに弱味を握られたままテクトが好き勝手にされることは、薫にとって見過ごせるものではなかったのだ。
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