ケモとボクとの傭兵生活

Fantome

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第二章 彼の期待と僕の覚悟

思い出は切ない痛みと共に

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夢も見ないほど深い眠りから覚めた薫の目に入ったのは、最近になって当たり前の光景になった自室の暗い天井。起床時を含め、本日三度目の自室での覚醒であった。

「僕……いつの間に戻ってきたんだろう……」

気付けばすっかり日も落ちているらしく、窓からは柔らかな月明かりが射し込んでいる。薫が記憶を遡ると、覚えているのは鮮烈な光景であった。

薄暗い部屋で、極上の料理を前にしたかのように舌なめずりをしながら覆い被さってきたギラン。彼によって文字通り全身を余すところなく味わわれた挙げ句、貫かれながらあの巨体の下になったり上になったり。はたまた主戦場のベッドの上を飛び出して床や壁際で事に及ばれ、いつの間にか意識を失ってしまったようである。

記憶は脳の海馬だけでなく、気付けば身体にも鮮明に刻まれていた。喉は涸れ果て、腰の鈍痛に加え、お尻が切ない痛みを訴えている。しかし、散々な目に遭わされ、お腹が膨れるほど熱い滾りを注がれたはずだが、身体はさっぱりとしていて不快感は全く無い。気絶した後、ギランが後始末をしてくれたようだ。

「僕……本当にギランさんとヤっちゃったんだなぁ……」

お尻が疼く度に薫は強烈な現実を実感させられた。異性とろくに接点を持つこともなく十数年を生きてきた自分が、異世界で性交を経験することになろうとは。しかも相手は男性で、亜人で、さらに自分が挿れられる側で。なし崩しとはいえ、受け入れがたい現実ではあったが、かといって唾棄したいほど不快というわけではなかった。

「あ、は……はは……一気にオトナの階段登っちゃったなぁ。女の人と手だって繋いだことないのにぃ……っ」

ベッドの上で頭を抱えて苦悩しながらゴロゴロと転がる薫。その時、ノックもなく突然扉が開かれた。

「なんだ、起きてたのか。朝まで覚めねぇかと思ったが」

「ぎ、ギランさん……」

姿を見せたのは、今回の一件で薫の初めての相手となったギランであった。薫の顔を見るなり驚いた表情を浮かべ、手には酒と思われる琥珀色の瓶が握られている。

部屋に踏み込むなり、ギランは薫の横たわるベッドに腰掛けると困惑する薫を他所に酒を煽り、室内に芳醇なウイスキーの匂いが漂った。

「んっ、んっ……ふぅ。その様子じゃ怪我の具合は良さそうだな。あれから大変だったぞ。気ィ失ってるお前を連れて帰ったら鼻の良いアルトの奴にバレちまってどやされちまった。おかげで晩メシは抜きだとよ。まぁ、代わりにもっと良いモン喰わせてもらったわけだがな?がははははッ!」

「あ……はは、は……?」

下品な笑いと共にギランから背中をしばかれる薫。悩む薫とは裏腹に普段通りのギランに返す言葉も見つからず、薫は渇いた笑みを浮かべるばかりであった。

「しかし、まぁ何だ……多少ムリさせちまったかもしれねぇな?」

「おかげさまで。でも、今は全く痛みもありませんから、気にしないで下さい。薬を盛ったことは心から反省して頂きたいですけど」

「おう、してるしてる。だからどうよ?お目覚めついでの仲直りセックs……」

「やるわけないでしょッ!いいかげんにして下さいっ!」

「そりゃ残念だ。けど、最高だったぜ、お前。なんせ、この俺様がさっぱり搾られちまったからな。やっぱお前コッチの才能あるぜ。ちょっと弄くっただけで声上げやがるし、中なんざトロットロですぐに絡み付いてきやがって、健気にきゅっきゅと締め付けて……」

「そういうのもいいですからっ!」

絶対に微塵も反省していないギランの手を払う薫。今後は薬を盛られようとも絶対に身体を許すまい、というか運命の相手以外と身体を重ねてなるものかと心に決めた薫であった。

「勿体ねぇなぁ。顔に身体とそんな良いモン持っててガードが固いなんてよ。世の中に申し訳ねェと思わねぇのか?」

「全然思いませんよ。って言うか、あんまり意識していなかったんですが、僕ってそんなに言われるほどですか……?」

男らしくあろうと努めて幾星霜。そのための努力を欠かしたつもりはないのだが、それにしてはギランといい牛人といい同性から尻を狙われる事案が多すぎる。そんなことがあったせいか、自信無さげに薫は恐る恐るギランへと尋ねてみた。

「おいおい、自覚無しか。なんつーか、その辺の女よりちっこくて顔も良い上に虫も殺したことねぇ、ってな感じの清純派な雰囲気出てるからな。だから泣かせてやったらどんな顔すんだろうな~……みたいないじめっこの心理が働く感じだ」

「あ、あ~……」

一応容姿について褒められているのだろうが、素直に喜べないのは気のせいではない。つまり、今後も同じような事態に陥る可能性が十分に考えられるということだ。薫が思わず尻を押さえると、ギランは空になった酒瓶をテーブルに置いた。

「安心しな。お前は俺様の傭兵団の団員だ。そこらの奴にそんな真似はさせねェし、そうされねェように鍛えてやるからよ」

「それはとても嬉しく思うんですが……ちょ、ちょっとギランさん!?何で入って来るんですか!?」

頼もしいことを言いながら、ギランは薫のベッドに潜り込んできた。薫の必死の抵抗も虚しくベッドの隅に追い詰められ、抱き寄せるようにギランの腕が回された。

「いや、お前と話してたらなーんかそそられちまった。悪ィが今夜は付き合ってくれや。安心しな、別に何もしねェからよ、多分」

「何一つ安心出来る要素が無いんですけど!?」

「固いこと言うなって。もはやただならぬ仲になった俺様とお前の間柄じゃねぇか。まぁ、寝てる最中に別のところが固くなるかもしれねェが」

「だからそういうのもういいですって!」

やっぱりここでも断りきれず、結局寝床を共にすることとなった薫とギラン。今度は油断するまいと背中を向けた薫だったが、疲労もあって次第に静かな寝息を立て始める。そんな彼にピッタリと寄り添い、窮屈なベッドから足をはみ出させながら横たわるギランは背後から彼の耳元に顔を寄せた。

「…期待してるぜ、カオルぅ。お前が俺様に何を見せてくれるのか楽しみで仕方ねェよ」

「う、ん……むにゃ……」

ギランが髪を撫でると、擽ったそうにしながら薫は口元に笑みを見せた。その寝顔を見届けると、ギランもまた静かに瞳を閉じた。

なお、早朝になって薫の様子を見にきたアルトによって現場を押さえられたギランは朝食すら取り上げられることになったのは、また別のお話である。
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