【完結】可愛い男の子に異世界転生したおじさん、領主のイケメンご子息に溺愛される

八神紫音

文字の大きさ
上 下
20 / 21

20話 償い

しおりを挟む
⸺⸺アルシェ孤児院⸺⸺

 カミユは5日に1度、公務でギルド活動をお休みする。だから俺はその時間を使ってある孤児院に来ていた。
 そこはもう古くなり、取り壊す寸前の孤児院。ここにいる子たちは王都に新たに建設される綺麗な孤児院へと移り住む事になる。
 大きくなってから王都で立派に暮らしていくためには魔物討伐が出来ることが望ましく、ここの子たちが王都へ引っ越すまでの間、俺が魔法を教えているのだ。

⸺⸺

「ディオン先生、ありがとうございました!」
「うん、みんな今日も良く頑張ったね。じゃぁ、また5日後」
「はーい、さようなら~!」

 今日の指導も終わり、さて帰ろうかという頃。アリスが向こうからこの孤児院へと走ってくるのを見かけた。
「本当にディオン様、この孤児院にいらしたのですね……」
 アリスははぁ、はぁ、と息を切らしている。
「ん、アリス。そんなに急いでどうしたの?」
「お兄様、今日、ご公務に行かれてるのではないみたいなのです」
「えっ、そうなの?」
「お父様もお兄様も教えて下さらないので、前回のご公務の時にお兄様を尾行したのです」
「出た……アリスの潜伏技術……」
「それで、その時見た光景をディオン様にも見て頂きたくて、王都までのお出かけのお誘いに来ました」

 カミユは公務だって嘘吐いて王都で何かをしてたって事か。でも、カミユが俺にもアリスにも黙っているのにはきっと何か理由がある。

 ……なんだけど、俺も正直何してるのか気になってしまって、アリスの誘いに乗る事にした。

⸺⸺⸺

⸺⸺



⸺⸺王都グラニール⸺⸺

「あちらです。あの建物の建築現場に、ほら」
 建物の陰からアリスと一緒にある家の建築現場を眺める。
 するとそこには、長い木の板を何枚も背負って汗水垂らして働くカミユの姿があった。その目はとても活き活きとしていて、決して無理矢理やらされている訳ではなさそうだった。

⸺⸺俺は、この時色んな事を悟った。

「アリス、帰ろう。馬車の中で、詳しく話してあげる」
「ディオン様、何かご存知なのですね。分かりました。ディオン様がそう言うなら」

 そして、乗ってきた馬車にまたすぐに乗り込むと、俺はアリスへ自分のしている事の説明をした。

「俺が孤児院で子どもたちに魔法を教えているのは、償いのためなんだ」
「償い……?」
 アリスはきょとんとする。
「君はあんまり気にしていないみたいだけど、俺はやっぱりあの時のこと、まだ罪悪感が残ってるんだ。ほら、君とカミユが婚約しているのに、俺はカミユと部屋で……」
「っ! そう、だったのですね……」
「だから、せっかくアリスが上手いこと誤魔化してくれたのに申し訳ないけど、後日アルシェ町長には本当の事を話したんだ。町長も、もう丸く収まったしお咎めなんて無しでいいよって言ってくれたけど、それでも俺の気が済まないなら1つボランティアを任されてくれないかって言われたんだ」

「それが、孤児院の子どもたちへ魔法を教える事なのですね」
 アリスは切ない表情でそう言った。きっと彼女は俺たちにはもうなんのわだかまりもないと思っていただろうから。そう思っていたからこそ、あの『友恋』はめちゃくちゃ純愛に仕上がっているのだと思う。

「うん。そういう事。それでね、きっとカミユも同じ気持ちなんじゃないかと思うんだ」
「お兄様も、償いをしていると言うことでしょうか」
「うん、俺はそうだと思う」
「そんな、私、そんな事全く知らずに呑気に……」
「アリスがそんな落ち込む事じゃないよ。それにね、償いのはずなのに、俺今嬉しくてたまらないんだ」
 そこまで話すと、自然と涙が溢れ出てきてしまった。
「ディオン様!? 嬉し泣き、ですか……なぜ……?」

「だって、カミユが建ててる建物、俺が教えてる子たちが引っ越す予定の新しい孤児院だから……住所は聞いていたから間違いないよ」
「なんと、そんな偶然が……!?」
「多分、町長がそういうふうに仕組んだんだと思う。お互いにどこかで気付けるようにって。一人で償ってるつもりだったけど、カミユと力を合わせて一緒に償ってたんだなって思うと、俺、嬉しくて……」
 服の袖で必死に涙を拭うが、次から次へと溢れてしまって止まらない。

「ディオン様……あぁ、なんと尊い涙でしょう……」
「ごめんね、こんな、泣いて……」
 俺がそう謝ると、アリスは馬車の中で勢い良く立ち上がる。
「いいえ、とんでもない! 過去に過ちを犯してしまった2人がお互いを想い合いながら償いをして、やがて許され結ばれる2人……! その設定も良い話が書けそうです! 帰ったら早速書き出します!」
 そのアリスのあくまでも真っ直ぐな瞳に、俺は泣きながら吹き出した。
「あはは……アリス、もうすっかりプロの小説家だなぁ……」

 結果的にまた俺はアリスに救われてしまった。だってアリスが王都に連れてきてくれなければこの事を知るのはもっと後になっていただろうから。彼女はやはり女神か何かなんだろうか。
 彼女に堂々とカミユの恋人であると名乗れるように、また、孤児院の子たちが立派にやっていけるように、あと少しの魔法の先生も全力で頑張ろうと思うのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました

無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。 前世持ちだが結局役に立たなかった。 そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。 そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。 目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。 …あれ? 僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

悪役のはずだった二人の十年間

海野璃音
BL
 第三王子の誕生会に呼ばれた主人公。そこで自分が悪役モブであることに気づく。そして、目の前に居る第三王子がラスボス系な悪役である事も。  破滅はいやだと謙虚に生きる主人公とそんな主人公に執着する第三王子の十年間。  ※ムーンライトノベルズにも投稿しています。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

恋人に捨てられた僕を拾ってくれたのは、憧れの騎士様でした

水瀬かずか
BL
仕事をクビになった。住んでいるところも追い出された。そしたら恋人に捨てられた。最後のお給料も全部奪われた。「役立たず」と蹴られて。 好きって言ってくれたのに。かわいいって言ってくれたのに。やっぱり、僕は駄目な子なんだ。 行き場をなくした僕を見つけてくれたのは、優しい騎士様だった。 強面騎士×不憫美青年

BLゲームのモブに転生したので壁になろうと思います

BL
前世の記憶を持ったまま異世界に転生! しかも転生先が前世で死ぬ直前に買ったBLゲームの世界で....!? モブだったので安心して壁になろうとしたのだが....? ゆっくり更新です。

【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」 知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど? お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。 ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

処理中です...