【完結】可愛い男の子に異世界転生したおじさん、領主のイケメンご子息に溺愛される

八神紫音

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19話 聖地

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 月日は流れ、1年後のある日。

 自分の家で朝ご飯を食べていると、ふとリビングのテーブルの上にある本が目に入り、思わず咳き込んだ。
「おやディオン、どうしたの」
「ごほっ、ごほごほっ。『どうしたの』じゃないよ母さん……あの本って……」
 俺がその本を指差すと、母さんは嬉しそうな顔をした。
「そうそう! あの本、あんたたちがモデルになってるそうじゃない!」
「えっ、何で知ってるの……!?」
「何でってアルシェ夫人に教えてもらったのさ。あの本だってアルシェ夫人から頂いたんだよ」
 俺はだらんと脱力する。
「マジかぁ……まさか母さん、読んでないよね……?」
「何言ってんだい。もう何回も読んでるに決まってるじゃない」
 母さんはうっとりとした表情を浮かべながらそう言った。
「う、嘘でしょ……。なんかごめんね、母さん……息子がこんなんで……」
「こんなんって?」
「ほら、同じ男の事、好きだから……」
 俺が食べ終えた食器をキッチンの流しまで運ぶと、母さんは俺をギュッと抱き締めた。

「ちょ、何、母さん……!?」
「母さんも、あんたがそうやって一人で思い悩んでいるのに、気付いてあげられなくてごめんね」
「え、良いよそんな、俺も言ってなかったし……」
「"こんなん"なんて思わなくて良いんだよ。1人の人をこんなに一途に愛せるなんて、素敵な事じゃないか。自慢の息子だよ」
「か、母さん……」
 思わず涙が流れてしまった。
「それにね、母さんすっかり『友恋ともこい』のファンになっちゃって」
「と、友恋?」
「『親友から恋人になった彼と僕』の事に決まってるじゃないのさ」
「あぁ、アリス本のタイトルの略称か……」
「あんたがモデルのリオン君がこれまた可愛くて可愛くて……」
「そ、そっか……」

 もう恥ずかしいからやめてほしいのに、しゃべりだしたら止まらない母さん。まぁ、話を振ったのは俺だけどね。
「そういやディオン、あんた知ってるかい? この『友恋』すごい流行ってるらしくてね。何でもこのアルシェの町が舞台になってるってんで、この町を『聖地』と崇めてわざわざ他領から観光に来る人が増えてんのよ」
「聖地って……うん、でもアリスも『ベストセラーだー』って喜んでたから、売れてるんだなぁとは思ってたけど……」

 そう言えば、最近観光目的の人が増えてるなとは思っていた。まさかアリスの小説の聖地巡礼のためだったとは……。

「そういやディオン、今日はギルド活動お休みだけど、また孤児院に行くのかい?」
「うん。みんな魔法使うのすごい上手になってきたんだ。あとちょっとって感じ」
「そうかい。みんな立派に卒業できるといいねぇ。気を付けて行ってくるんだよ」
「うん、ありがとう母さん。じゃぁ行ってきます」

 俺は出掛ける支度をすると、アルシェの町の外れにある古い孤児院へと向かった。
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