19 / 21
19話 聖地
しおりを挟む
月日は流れ、1年後のある日。
自分の家で朝ご飯を食べていると、ふとリビングのテーブルの上にある本が目に入り、思わず咳き込んだ。
「おやディオン、どうしたの」
「ごほっ、ごほごほっ。『どうしたの』じゃないよ母さん……あの本って……」
俺がその本を指差すと、母さんは嬉しそうな顔をした。
「そうそう! あの本、あんたたちがモデルになってるそうじゃない!」
「えっ、何で知ってるの……!?」
「何でってアルシェ夫人に教えてもらったのさ。あの本だってアルシェ夫人から頂いたんだよ」
俺はだらんと脱力する。
「マジかぁ……まさか母さん、読んでないよね……?」
「何言ってんだい。もう何回も読んでるに決まってるじゃない」
母さんはうっとりとした表情を浮かべながらそう言った。
「う、嘘でしょ……。なんかごめんね、母さん……息子がこんなんで……」
「こんなんって?」
「ほら、同じ男の事、好きだから……」
俺が食べ終えた食器をキッチンの流しまで運ぶと、母さんは俺をギュッと抱き締めた。
「ちょ、何、母さん……!?」
「母さんも、あんたがそうやって一人で思い悩んでいるのに、気付いてあげられなくてごめんね」
「え、良いよそんな、俺も言ってなかったし……」
「"こんなん"なんて思わなくて良いんだよ。1人の人をこんなに一途に愛せるなんて、素敵な事じゃないか。自慢の息子だよ」
「か、母さん……」
思わず涙が流れてしまった。
「それにね、母さんすっかり『友恋』のファンになっちゃって」
「と、友恋?」
「『親友から恋人になった彼と僕』の事に決まってるじゃないのさ」
「あぁ、アリス本のタイトルの略称か……」
「あんたがモデルのリオン君がこれまた可愛くて可愛くて……」
「そ、そっか……」
もう恥ずかしいからやめてほしいのに、しゃべりだしたら止まらない母さん。まぁ、話を振ったのは俺だけどね。
「そういやディオン、あんた知ってるかい? この『友恋』すごい流行ってるらしくてね。何でもこのアルシェの町が舞台になってるってんで、この町を『聖地』と崇めてわざわざ他領から観光に来る人が増えてんのよ」
「聖地って……うん、でもアリスも『ベストセラーだー』って喜んでたから、売れてるんだなぁとは思ってたけど……」
そう言えば、最近観光目的の人が増えてるなとは思っていた。まさかアリスの小説の聖地巡礼のためだったとは……。
「そういやディオン、今日はギルド活動お休みだけど、また孤児院に行くのかい?」
「うん。みんな魔法使うのすごい上手になってきたんだ。あとちょっとって感じ」
「そうかい。みんな立派に卒業できるといいねぇ。気を付けて行ってくるんだよ」
「うん、ありがとう母さん。じゃぁ行ってきます」
俺は出掛ける支度をすると、アルシェの町の外れにある古い孤児院へと向かった。
自分の家で朝ご飯を食べていると、ふとリビングのテーブルの上にある本が目に入り、思わず咳き込んだ。
「おやディオン、どうしたの」
「ごほっ、ごほごほっ。『どうしたの』じゃないよ母さん……あの本って……」
俺がその本を指差すと、母さんは嬉しそうな顔をした。
「そうそう! あの本、あんたたちがモデルになってるそうじゃない!」
「えっ、何で知ってるの……!?」
「何でってアルシェ夫人に教えてもらったのさ。あの本だってアルシェ夫人から頂いたんだよ」
俺はだらんと脱力する。
「マジかぁ……まさか母さん、読んでないよね……?」
「何言ってんだい。もう何回も読んでるに決まってるじゃない」
母さんはうっとりとした表情を浮かべながらそう言った。
「う、嘘でしょ……。なんかごめんね、母さん……息子がこんなんで……」
「こんなんって?」
「ほら、同じ男の事、好きだから……」
俺が食べ終えた食器をキッチンの流しまで運ぶと、母さんは俺をギュッと抱き締めた。
「ちょ、何、母さん……!?」
「母さんも、あんたがそうやって一人で思い悩んでいるのに、気付いてあげられなくてごめんね」
「え、良いよそんな、俺も言ってなかったし……」
「"こんなん"なんて思わなくて良いんだよ。1人の人をこんなに一途に愛せるなんて、素敵な事じゃないか。自慢の息子だよ」
「か、母さん……」
思わず涙が流れてしまった。
「それにね、母さんすっかり『友恋』のファンになっちゃって」
「と、友恋?」
「『親友から恋人になった彼と僕』の事に決まってるじゃないのさ」
「あぁ、アリス本のタイトルの略称か……」
「あんたがモデルのリオン君がこれまた可愛くて可愛くて……」
「そ、そっか……」
もう恥ずかしいからやめてほしいのに、しゃべりだしたら止まらない母さん。まぁ、話を振ったのは俺だけどね。
「そういやディオン、あんた知ってるかい? この『友恋』すごい流行ってるらしくてね。何でもこのアルシェの町が舞台になってるってんで、この町を『聖地』と崇めてわざわざ他領から観光に来る人が増えてんのよ」
「聖地って……うん、でもアリスも『ベストセラーだー』って喜んでたから、売れてるんだなぁとは思ってたけど……」
そう言えば、最近観光目的の人が増えてるなとは思っていた。まさかアリスの小説の聖地巡礼のためだったとは……。
「そういやディオン、今日はギルド活動お休みだけど、また孤児院に行くのかい?」
「うん。みんな魔法使うのすごい上手になってきたんだ。あとちょっとって感じ」
「そうかい。みんな立派に卒業できるといいねぇ。気を付けて行ってくるんだよ」
「うん、ありがとう母さん。じゃぁ行ってきます」
俺は出掛ける支度をすると、アルシェの町の外れにある古い孤児院へと向かった。
263
お気に入りに追加
574
あなたにおすすめの小説
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました
無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。
前世持ちだが結局役に立たなかった。
そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。
そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。
目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。
…あれ?
僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
【BL】こんな恋、したくなかった
のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】
人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。
ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。
※ご都合主義、ハッピーエンド
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。
みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。
男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。
メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。
奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。
pixivでは既に最終回まで投稿しています。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる