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4話 遭遇
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今日の魔物討伐はお休みだ。なぜなら、カミユの初めてのお見合いの日だからだ。今頃カミユは王都のお屋敷で「ご趣味は?」とかやってるに違いない。
俺は落ち着かない気持ちを鎮めようと、昼過ぎ、出かける準備をして町へと出かけた。
⸺⸺アルシェの町⸺⸺
賑やかな大通りを歩いてクレープ屋のワゴンの前で立ち止まる。すると、クレープ屋のおじさんがいつものように声をかけてくれた。
「お、ディオンじゃないか。今日は1人なのかい?」
「おじさんこんにちは。うん、今日はカミユは用事があるから」
「そうかい。1人でも食べにくるなんてさてはディオン、うちのクレープのファンだね?」
おじさんは嬉しそうにニヤッと笑う。
「あはは、今更だよ。こんなにしょっちゅう食べにくるのに、ファンじゃないほうがおかしいでしょ?」
俺がそう言うと、おじさんは更に機嫌良く笑い出す。
「はっはっは! 嬉しい事言ってくれるじゃないか。じゃぁ今日は特別、おじさんの奢りだ。ほら、出来上がり」
「え、いいの?」
そう言って差し出されたクレープを受け取る。おじさんは「今日だけだぞ」と言って温かく見送ってくれた。
おじさんへお礼を言ってタダでもらってしまったクレープにかぶりつきながら再び大通りを歩き出す。クレープにかぶりつく度に甘酸っぱいいちごが口中に広がる。おじさん、なんでよりによって"いちご"なの。今の俺の気持ちみたいじゃないか……なんつって。
そのまま当てもなくブラブラと歩いていると、目の前に2人のお兄さんが立ち塞がった。
「魔法使いのお嬢さん、お一人?」
「えっ……?」
俺は思わず顔を上げる。"お嬢さん"って、まさか俺の事!? キョロキョロと辺りを見回して、他に魔法杖を担いでいる女性がいないか探してみる。
「あれ、君だよ、君」
お兄さんの1人にそう言われて自分の顔を指差すと、お兄さんは揃ってコクコクと頷いた。
お兄さんは2人とも剣を装備していて、恐らくパーティのお誘いなんじゃないかと思う。でも、俺は……。
「あの、俺、男です……」
「え!?」
「マジ!?」
お兄さんは揃って目を真ん丸にして驚いていた。ディオン少年、可愛いからなぁ。ついに女性と間違われてしまった。
「マジです……」
「マジかぁ、失礼なこと言って申し訳ない!」
お兄さんAは本当に申し訳なさそうに頭を下げた。
「いえ、そんな、良いですよ」
女性に間違われたのはぶっちゃけ嬉しいし。
そしてお兄さんBが語り出す。
「俺ら、ちょっと前に魔道士のツレがギルドをやめちゃってさ。魔道士不足なんだよ」
「それはそれは……」
「だからさ、もし1人なら俺らとパーティ組まないか? 魔道士だって1人はキツイだろ?」
と、お兄さんA。
最初はただのナンパだと思ったけど、ちゃんと俺を誘う理由はあったみたいだ。男だって分かっても引かない。本当に困ってるんだ。
「あの、パーティ仲介所は……?」
「あぁ、今からそこに行く予定だったんだけど、可愛い魔道士見つけちゃったから思わず声かけたんだ」
……やっぱナンパか。
「あはは、それなら俺は男ですし、仲介所で女性の魔道士探した方が良くないですか?」
「そうなんだけどさ。仲介所で出会う魔道士の女性が可愛いとは限らないだろ?」
「そ、だから男でも可愛ければいっか、的な……」
なんかすごい失礼なこと言ってるこのお兄さんたち……。
「あの、すみませんけど俺は、もうパーティ組んでるので……」
「え、でも、今日は1人みたいじゃん? 俺らなら毎日一緒に狩りにいけるよ?」
「そうだよ。俺らに乗り換えちゃおうぜ」
「ええっ!?」
このお兄さんたち意外にしつこい。どうしようかと困っていると、俺とお兄さんたちの間に1人の青年が割って入ってきた。
「すみません。コイツ、俺のツレなので。魅力的なのは分かりますが引き抜こうとするのはやめてもらえませんか?」
「え、カミユ!?」
俺は目の前の青年を見てわっと声を上げた。なんでカミユがここにいるの!?
しかもいつもの防具と違って綺麗めな服を着てて、ギャップにキュンとする。
「カミユって、まさか町長の息子の……!?」
お兄さんAがそう血相を変えて問うと、カミユは平然と頷く。
「ここの町長って、周辺の領主も兼ねてたような……。領主様のご子息の大切なご友人を引き抜こうとしてしまって大変失礼いたしました……!」
「あ、いや、領主の息子の友人じゃなくても無理矢理連れて行こうとするのはやめた方がいいと思いますけど……」
と、カミユ。全くもっておっしゃる通りで。
「ですよね! 以後気を付けます! では、僕らはこれで!」
お兄さんたちはペコペコと頭を下げると、あっという間にいなくなってしまった。
俺は落ち着かない気持ちを鎮めようと、昼過ぎ、出かける準備をして町へと出かけた。
⸺⸺アルシェの町⸺⸺
賑やかな大通りを歩いてクレープ屋のワゴンの前で立ち止まる。すると、クレープ屋のおじさんがいつものように声をかけてくれた。
「お、ディオンじゃないか。今日は1人なのかい?」
「おじさんこんにちは。うん、今日はカミユは用事があるから」
「そうかい。1人でも食べにくるなんてさてはディオン、うちのクレープのファンだね?」
おじさんは嬉しそうにニヤッと笑う。
「あはは、今更だよ。こんなにしょっちゅう食べにくるのに、ファンじゃないほうがおかしいでしょ?」
俺がそう言うと、おじさんは更に機嫌良く笑い出す。
「はっはっは! 嬉しい事言ってくれるじゃないか。じゃぁ今日は特別、おじさんの奢りだ。ほら、出来上がり」
「え、いいの?」
そう言って差し出されたクレープを受け取る。おじさんは「今日だけだぞ」と言って温かく見送ってくれた。
おじさんへお礼を言ってタダでもらってしまったクレープにかぶりつきながら再び大通りを歩き出す。クレープにかぶりつく度に甘酸っぱいいちごが口中に広がる。おじさん、なんでよりによって"いちご"なの。今の俺の気持ちみたいじゃないか……なんつって。
そのまま当てもなくブラブラと歩いていると、目の前に2人のお兄さんが立ち塞がった。
「魔法使いのお嬢さん、お一人?」
「えっ……?」
俺は思わず顔を上げる。"お嬢さん"って、まさか俺の事!? キョロキョロと辺りを見回して、他に魔法杖を担いでいる女性がいないか探してみる。
「あれ、君だよ、君」
お兄さんの1人にそう言われて自分の顔を指差すと、お兄さんは揃ってコクコクと頷いた。
お兄さんは2人とも剣を装備していて、恐らくパーティのお誘いなんじゃないかと思う。でも、俺は……。
「あの、俺、男です……」
「え!?」
「マジ!?」
お兄さんは揃って目を真ん丸にして驚いていた。ディオン少年、可愛いからなぁ。ついに女性と間違われてしまった。
「マジです……」
「マジかぁ、失礼なこと言って申し訳ない!」
お兄さんAは本当に申し訳なさそうに頭を下げた。
「いえ、そんな、良いですよ」
女性に間違われたのはぶっちゃけ嬉しいし。
そしてお兄さんBが語り出す。
「俺ら、ちょっと前に魔道士のツレがギルドをやめちゃってさ。魔道士不足なんだよ」
「それはそれは……」
「だからさ、もし1人なら俺らとパーティ組まないか? 魔道士だって1人はキツイだろ?」
と、お兄さんA。
最初はただのナンパだと思ったけど、ちゃんと俺を誘う理由はあったみたいだ。男だって分かっても引かない。本当に困ってるんだ。
「あの、パーティ仲介所は……?」
「あぁ、今からそこに行く予定だったんだけど、可愛い魔道士見つけちゃったから思わず声かけたんだ」
……やっぱナンパか。
「あはは、それなら俺は男ですし、仲介所で女性の魔道士探した方が良くないですか?」
「そうなんだけどさ。仲介所で出会う魔道士の女性が可愛いとは限らないだろ?」
「そ、だから男でも可愛ければいっか、的な……」
なんかすごい失礼なこと言ってるこのお兄さんたち……。
「あの、すみませんけど俺は、もうパーティ組んでるので……」
「え、でも、今日は1人みたいじゃん? 俺らなら毎日一緒に狩りにいけるよ?」
「そうだよ。俺らに乗り換えちゃおうぜ」
「ええっ!?」
このお兄さんたち意外にしつこい。どうしようかと困っていると、俺とお兄さんたちの間に1人の青年が割って入ってきた。
「すみません。コイツ、俺のツレなので。魅力的なのは分かりますが引き抜こうとするのはやめてもらえませんか?」
「え、カミユ!?」
俺は目の前の青年を見てわっと声を上げた。なんでカミユがここにいるの!?
しかもいつもの防具と違って綺麗めな服を着てて、ギャップにキュンとする。
「カミユって、まさか町長の息子の……!?」
お兄さんAがそう血相を変えて問うと、カミユは平然と頷く。
「ここの町長って、周辺の領主も兼ねてたような……。領主様のご子息の大切なご友人を引き抜こうとしてしまって大変失礼いたしました……!」
「あ、いや、領主の息子の友人じゃなくても無理矢理連れて行こうとするのはやめた方がいいと思いますけど……」
と、カミユ。全くもっておっしゃる通りで。
「ですよね! 以後気を付けます! では、僕らはこれで!」
お兄さんたちはペコペコと頭を下げると、あっという間にいなくなってしまった。
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