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1話 おじさん、転生する
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俺は昔からモテなかった。ルックスのせいなのかちょっと内気な性格のせいなのか……気付いたらもうアラフォーと呼ばれるゾーンにどっぷり使っていた。
「はぁ……」
今日も結構残業してしまった。もうくたくただ。早く家に帰ってゲームの続きしたい。
ボーッと赤信号を待って、青になったから横断歩道を渡り始めた。いつもの当たり前の光景。
⸺⸺だったはずなのに。
ボーッとしていたからか、赤信号を突っ切ってくる暴走車に気付かず、そのままひかれてしまった。
⸺⸺⸺
⸺⸺
⸺
「おい、ディオン! 大丈夫か、ディオン! しっかりしろ!」
意識がハッキリとしてくる。あれ、なんだこの都会っぽくない草の匂い。
「ディオン! ディオン!」
ん? ディオンって俺のこと……?
とりあえず目を開けて身体を起こす。すると、目の前の赤髪の青年はホッと脱力した。
「だぁーっ、良かった……。このまま起きなかったらどうしようかと思ったぜ……」
っていうか何だこの赤髪のイケメン。男でも惚れてしまうくらい男前な青年じゃないか。ガタイもいいし、背負ってる剣がまたカッコイイな。
ん? 剣?
「あれ? 暴走車は……?」
「は? ボウソウシャ……? なんじゃそりゃ、ディオン……まさかお前スライムに激突されただけで頭やられたか……?」
赤髪のイケメンは心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
スライムに激突?
⸺⸺その瞬間、俺の脳裏に18年間の記憶が蘇ってきた。
俺は剣と魔法の異世界に転生して、『ジルドア領』の町『アルシェ』の平凡な道具屋の家に生まれた。名はディオン・ラグエル。年は18になったばかりだ。
そしてこの赤髪の青年はカミユ・アルシェ。俺の3つ上の幼馴染。
カミユは領主の息子でありながらもこんな平凡な俺とずっと仲良くしてくれていて、一緒に冒険者ギルドに登録をしてモンスター討伐をしていたところだった。
「ご、ごめんごめん、俺なんか変な事言ってたよね。今のは忘れて……!」
「マジで大丈夫か……?」
カミユが俺の顔を覗き込んでくる。その瞬間、おじさんの心がキュンとときめく。
「う、うん、マジで大丈夫っ! ほらこの通り」
俺はなんとか平静を保ち、地面に転がっていた魔法杖を拾ってブンブンと振り回して元気アピールをした。
「本当かなぁ……。念の為今日はもうこれで切り上げるか。お前は家帰ってゆっくり休め」
「うん、そうだね……。ごめん、今日はそうさせてもらうわ」
⸺⸺アルシェの町、道具屋⸺⸺
「母さんただいま!」
「あらディオンおかえり。今日は早かったのねぇ」
「うん、今日は疲れたからもう終わり!」
1階の道具屋を通り過ぎ、奥の階段を駆け上がる。そして自分の部屋にたどり着くと、ベッドに思いっきりダイブした。
「はぁ~……」
枕を抱き締め顔を埋める。
正直まだ少し混乱している。カミユと一緒に魔物討伐をしていたらスライムの不意打ちを食らって、その衝撃で前世の記憶が蘇ったんだ。
この新しい18年間は確かに俺が刻んできたはずのものなのに、急に他人事のように思えてくる。おじさんの心に戻って振り返ってみると、このディオンの人生、めちゃくちゃ楽しいものだった。
前世と違って親友もいるし、まぁ、恋人とかはいないけど、めちゃくちゃ充実してる。
それに……。
ここで俺は枕に埋めていた顔を上げて、部屋の隅にある姿見を覗き込んだ。
栗色のサラサラなマッシュヘアーに深いエメラルド色のくりくりっとした瞳。白くツヤツヤの肌に肩幅の狭い華奢な身体。一見女の子に見間違えてしまいそうだし、なにより……
⸺⸺俺、可愛い……。
スッとお股に手を伸ばしてみる。うむ、可愛らしいふにっとしたのが確かに3つ、ついている。ちゃんと男だ。決して女の子に転生した訳じゃない。
何気なくもう一度姿見へ顔を向けると、うつ伏せになって頬を赤らめ股を弄っている美少年がそこにはいた。
「わっ……!?」
俺一体何してんだ!
慌てて股から手をどけるが、まだ心臓がドキドキと高鳴っている。っていうか確かに今俺……
⸺⸺自分に欲情した……。
「はぁ……」
今日も結構残業してしまった。もうくたくただ。早く家に帰ってゲームの続きしたい。
ボーッと赤信号を待って、青になったから横断歩道を渡り始めた。いつもの当たり前の光景。
⸺⸺だったはずなのに。
ボーッとしていたからか、赤信号を突っ切ってくる暴走車に気付かず、そのままひかれてしまった。
⸺⸺⸺
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「おい、ディオン! 大丈夫か、ディオン! しっかりしろ!」
意識がハッキリとしてくる。あれ、なんだこの都会っぽくない草の匂い。
「ディオン! ディオン!」
ん? ディオンって俺のこと……?
とりあえず目を開けて身体を起こす。すると、目の前の赤髪の青年はホッと脱力した。
「だぁーっ、良かった……。このまま起きなかったらどうしようかと思ったぜ……」
っていうか何だこの赤髪のイケメン。男でも惚れてしまうくらい男前な青年じゃないか。ガタイもいいし、背負ってる剣がまたカッコイイな。
ん? 剣?
「あれ? 暴走車は……?」
「は? ボウソウシャ……? なんじゃそりゃ、ディオン……まさかお前スライムに激突されただけで頭やられたか……?」
赤髪のイケメンは心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
スライムに激突?
⸺⸺その瞬間、俺の脳裏に18年間の記憶が蘇ってきた。
俺は剣と魔法の異世界に転生して、『ジルドア領』の町『アルシェ』の平凡な道具屋の家に生まれた。名はディオン・ラグエル。年は18になったばかりだ。
そしてこの赤髪の青年はカミユ・アルシェ。俺の3つ上の幼馴染。
カミユは領主の息子でありながらもこんな平凡な俺とずっと仲良くしてくれていて、一緒に冒険者ギルドに登録をしてモンスター討伐をしていたところだった。
「ご、ごめんごめん、俺なんか変な事言ってたよね。今のは忘れて……!」
「マジで大丈夫か……?」
カミユが俺の顔を覗き込んでくる。その瞬間、おじさんの心がキュンとときめく。
「う、うん、マジで大丈夫っ! ほらこの通り」
俺はなんとか平静を保ち、地面に転がっていた魔法杖を拾ってブンブンと振り回して元気アピールをした。
「本当かなぁ……。念の為今日はもうこれで切り上げるか。お前は家帰ってゆっくり休め」
「うん、そうだね……。ごめん、今日はそうさせてもらうわ」
⸺⸺アルシェの町、道具屋⸺⸺
「母さんただいま!」
「あらディオンおかえり。今日は早かったのねぇ」
「うん、今日は疲れたからもう終わり!」
1階の道具屋を通り過ぎ、奥の階段を駆け上がる。そして自分の部屋にたどり着くと、ベッドに思いっきりダイブした。
「はぁ~……」
枕を抱き締め顔を埋める。
正直まだ少し混乱している。カミユと一緒に魔物討伐をしていたらスライムの不意打ちを食らって、その衝撃で前世の記憶が蘇ったんだ。
この新しい18年間は確かに俺が刻んできたはずのものなのに、急に他人事のように思えてくる。おじさんの心に戻って振り返ってみると、このディオンの人生、めちゃくちゃ楽しいものだった。
前世と違って親友もいるし、まぁ、恋人とかはいないけど、めちゃくちゃ充実してる。
それに……。
ここで俺は枕に埋めていた顔を上げて、部屋の隅にある姿見を覗き込んだ。
栗色のサラサラなマッシュヘアーに深いエメラルド色のくりくりっとした瞳。白くツヤツヤの肌に肩幅の狭い華奢な身体。一見女の子に見間違えてしまいそうだし、なにより……
⸺⸺俺、可愛い……。
スッとお股に手を伸ばしてみる。うむ、可愛らしいふにっとしたのが確かに3つ、ついている。ちゃんと男だ。決して女の子に転生した訳じゃない。
何気なくもう一度姿見へ顔を向けると、うつ伏せになって頬を赤らめ股を弄っている美少年がそこにはいた。
「わっ……!?」
俺一体何してんだ!
慌てて股から手をどけるが、まだ心臓がドキドキと高鳴っている。っていうか確かに今俺……
⸺⸺自分に欲情した……。
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