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6話 名前
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僕が美味しい紅茶とお菓子に夢中になっている間、ランス様は腕組をして何か考え事をしていた。邪魔してはいけないと思い、そっと見守っていると、やがて彼は口を開く。
「お前、名乗りたい名はあるか?」
「ええ? 名前、ですか……あまり考えた事もなかったです」
僕にはないのが当たり前だと思っていたから。
「まぁ、そうだろうな……。俺は子もおらず名付けの経験がない。それなのに会ったばかりのお前にそんな簡単に名付けていいものか、イマイチよく分からないのが事実だ」
さっきまでランス様が考えていたのは僕の名前の事だったんだ。
「僕なんかに、名前を下さるのですか……?」
「名付け親が初対面の俺では不服だろうが、このまま"お前"と呼び続けていては、セネト家の女と同じだからな……」
「ふ、不服なんてとんでもありません! 初対面でも、僕にとってランス様は"光"なんです。ランス様が付けてくださる名前なら、どんな名前でも嬉しいです!」
「っ!」
笑い方はよく分からなかったけど、今出来る満面の笑みを浮かべてみる。すると、ランス様は目を見開きその場に固まってしまった。心なしか頬が赤いような。
「あの、ランス様……?」
ランス様の顔の目の前で手をぶんぶんと振ると、彼はハッと我に返った。
「あぁ、すまん……。光、か。それならこれからもお前がその光の下を歩けるよう、古代語で"光"を意味する"ルミエル"と言う名を授けよう」
「光の、ルミエル……! はい、ありがとうございます!」
ルミエル、ランス様が授けてくれた僕の名前。なんて素敵な響きなのだろう。嬉しくて胸が一杯になり、大粒の涙が自然とボロボロと流れ出す。借りているタオルに顔を埋めて、今までの人生で溜め込んでいたものを全て吐き出すように大声で泣いた。
少し涙が落ち着いてくると、扉の向こうの廊下からもいくつものすすり泣きが聞こえてくる事に気が付いた。
「えっ……?」
「全くあいつらは……」
ランス様ははぁっと溜め息を吐き、扉の前まで行くと、それを勢い良く開いた。
すると、先程のリオナさんを含め、何人もの使用人の人たちが部屋へと雪崩込み、山積みになっていた。全員号泣している。
「えぇっ!? 皆さんまさかそこで聞いていたんですか!?」
驚いて涙も引っ込んでいく。
「すみません、どうしても女装が気になってしまって……」
リオナさんだ。あれ、やっぱり"女装"だってバレてたんだ。全然意味ないじゃん。
「ルミエル、なんて良い名前なのかしら。流石ランス様だわん」
ガタイのいい男性執事がウットリとした表情でそう言う。この人"オネエ様"だ……!
ランス様はそのオネエ様へ視線を向け、口を開いた。
「キャサリン、丁度良い。お前がこの屋敷の事を色々と教えてやれ。好みだろ。ルミエルみたいなやつ」
「やだぁ、大好物。かしこまりました。キャサリンにお任せくださいっ☆」
キャサリンさんがバチンとウインクすると、☆が一つ飛んでいったような気がした。
「ルミエル。早速で悪いが、俺は少しやらねばならぬ仕事ができた。俺が戻ってくるまでこのキャサリンに付いて回れ。少々インパクトのある"男"だが、直に慣れる」
急なお仕事、何だろう?
「はい。分かりました。キャサリンさん、よろしくお願いします」
「いやん、素直で可愛いわん。うん、よろしくねっ☆」
確かにインパクトはあるけど、僕の話を聞いて一番泣いてくれていた。悪い人なはずがない。
何はともあれ、僕のお見合いは無事終了し、ランス様はお仕事に出かけていった。
「お前、名乗りたい名はあるか?」
「ええ? 名前、ですか……あまり考えた事もなかったです」
僕にはないのが当たり前だと思っていたから。
「まぁ、そうだろうな……。俺は子もおらず名付けの経験がない。それなのに会ったばかりのお前にそんな簡単に名付けていいものか、イマイチよく分からないのが事実だ」
さっきまでランス様が考えていたのは僕の名前の事だったんだ。
「僕なんかに、名前を下さるのですか……?」
「名付け親が初対面の俺では不服だろうが、このまま"お前"と呼び続けていては、セネト家の女と同じだからな……」
「ふ、不服なんてとんでもありません! 初対面でも、僕にとってランス様は"光"なんです。ランス様が付けてくださる名前なら、どんな名前でも嬉しいです!」
「っ!」
笑い方はよく分からなかったけど、今出来る満面の笑みを浮かべてみる。すると、ランス様は目を見開きその場に固まってしまった。心なしか頬が赤いような。
「あの、ランス様……?」
ランス様の顔の目の前で手をぶんぶんと振ると、彼はハッと我に返った。
「あぁ、すまん……。光、か。それならこれからもお前がその光の下を歩けるよう、古代語で"光"を意味する"ルミエル"と言う名を授けよう」
「光の、ルミエル……! はい、ありがとうございます!」
ルミエル、ランス様が授けてくれた僕の名前。なんて素敵な響きなのだろう。嬉しくて胸が一杯になり、大粒の涙が自然とボロボロと流れ出す。借りているタオルに顔を埋めて、今までの人生で溜め込んでいたものを全て吐き出すように大声で泣いた。
少し涙が落ち着いてくると、扉の向こうの廊下からもいくつものすすり泣きが聞こえてくる事に気が付いた。
「えっ……?」
「全くあいつらは……」
ランス様ははぁっと溜め息を吐き、扉の前まで行くと、それを勢い良く開いた。
すると、先程のリオナさんを含め、何人もの使用人の人たちが部屋へと雪崩込み、山積みになっていた。全員号泣している。
「えぇっ!? 皆さんまさかそこで聞いていたんですか!?」
驚いて涙も引っ込んでいく。
「すみません、どうしても女装が気になってしまって……」
リオナさんだ。あれ、やっぱり"女装"だってバレてたんだ。全然意味ないじゃん。
「ルミエル、なんて良い名前なのかしら。流石ランス様だわん」
ガタイのいい男性執事がウットリとした表情でそう言う。この人"オネエ様"だ……!
ランス様はそのオネエ様へ視線を向け、口を開いた。
「キャサリン、丁度良い。お前がこの屋敷の事を色々と教えてやれ。好みだろ。ルミエルみたいなやつ」
「やだぁ、大好物。かしこまりました。キャサリンにお任せくださいっ☆」
キャサリンさんがバチンとウインクすると、☆が一つ飛んでいったような気がした。
「ルミエル。早速で悪いが、俺は少しやらねばならぬ仕事ができた。俺が戻ってくるまでこのキャサリンに付いて回れ。少々インパクトのある"男"だが、直に慣れる」
急なお仕事、何だろう?
「はい。分かりました。キャサリンさん、よろしくお願いします」
「いやん、素直で可愛いわん。うん、よろしくねっ☆」
確かにインパクトはあるけど、僕の話を聞いて一番泣いてくれていた。悪い人なはずがない。
何はともあれ、僕のお見合いは無事終了し、ランス様はお仕事に出かけていった。
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