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16話 ライザー領主
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僕たちがカルムの町に戻ると、町は騒然としていた。
【カルムの町】
「あぁ、ノア、ジークちゃん! どこまで行ってたんだい、探したんだよ?」
母さんが僕たちを見つけるなり血相を変えて飛んでくる。
「母さん、町、何かあったの?」
「それが……ライザー領の領主様が町に来てね……」
母さんは申し訳なさそうに言う。
「親父が!? クソ……長居しすぎたか……」
ジークは苦い顔をした。
「ジークのこと、探してるの?」
「そうなんだけどね……この町の領主様……アドルフ様が追い返しているところでね……」
「え、カルムの領主様が……!?」
僕たちは驚きを顕にする。
「……この町には本当にお世話になって……これ以上迷惑をかける訳にはいきません。俺、行きます」
「嫌だよ! ジーク、そんなお父さんのところになんか行っちゃダメだ……!」
僕はジークの腕にぎゅっとしがみつく。
「ノア……でも、これ以上この町にいたら……お前やご両親だって、匿ってたとかなんとか言って、何をされるか……」
「でも……でも……!」
ここで母さんが口を挟む。
「待っておくれジークちゃん。あんたを探していたのはね、アドルフ様が、あんたのお父さんの前で、あんたと養子縁組をするためなんだよ」
「えっ!?」
「一体何でそんなことに……!?」
「何かあったら、あたしが守ってあげるから、一緒にアドルフ様の所へ行こう」
「……分かりました」
「僕も行くよ!」
「ん……」
そして騒ぎの中心へ向かうと、なんとライザー領主であるジークの父親が、2人の兵士に取り押さえられているところだった。
「親父……? 何やってんだ?」
「ありゃ、あたしがジークちゃんを探している間にまた状況が変わってるねぇ……」
と、母さん。
「ジークハルト! やっと来たのかこのバカ息子が! さっさとこの兵士共をどけんか!」
ライザー領主がそう怒鳴ると、彼らを取り囲んでいる町の人たちはやれやれとため息をついた。
「ジークハルト君、すまないね、君がいない間に少々話が進んでしまって……」
アドルフ様はそう言って僕たちの前へと歩いてきた。
「アドルフ様、あの、俺を養子にするとか何とかって……」
「あぁ、それはもちろん最終的には君の意志を尊重する。だが、私は君の父親が君を虐待していた事実がある以上、できれば君を故郷へ返したくはないのだよ」
「え……なんでそのことを……?」
ジークは目をぱちくりとさせる。
「そんなものはデタラメだ! 嘘だと言え! ジークハルト! お前が否定すれば全て解決だ!」
ライザー領主がそう言うが、アドルフ様は気にすることなく話を続ける。
「実は、君がこの町に滞在するようになって、ライザー家の家出をしたご子息だという情報が入った。私はなんとなく気になってね、君の実家を訪ねたのだよ」
「えっ、わざわざライザー領まで!?」
「あぁ、そこで、門番であった彼から話を聞いたんだ」
アドルフ様はライザー領主を押さえている兵士の一人を指し示した。
「……あっ! まさか、ラナンか!?」
ジークがそう声を上げると、その兵士は兜を外して素顔を見せた。
「はい、ラナンです。ジークおぼっちゃま、立派になられましたね……」
ラナンと呼ばれた兵士はそう言って優しく微笑んだ。
「そうか、ラナンが話してくれたのか……。彼、ラナンは俺の槍の師匠なんです。実は、俺が脱走するときも、いつも協力してくれていました」
「彼からもそう聞いているよ。そして私は彼と協力をして、君の父親が虐待をしている証拠を掴み、王国議会へ提出をした。そしてその審議を待つ間、こうして我が町へ戻ってきたのだが……君の父親がその事実を知って怒ってこの町まで押しかけてきてね、まだ懲りていないようだったので、私が君を養子にすると宣言したのだよ」
「そうだったのですか……では、なぜこのように自分の家来に捕まっているのでしょう……?」
「追い込まれた彼は、あろうことか腰に隠し持っていたナイフで私や町の人を傷付けようとしてきた。すると、なんと彼ら2人が自らの主を取り押さえてこの町を守ってくれたのだよ」
「堕ちるところまで堕ちたな……クソ親父……」
それからロープでぐるぐる巻にされたライザー領主は、カルム領主の屋敷で監禁された。
そしてジークのその後の話は王国議会の審議を待つことにし、僕たちは数日のんびりと僕の家で過ごした。
【カルムの町】
「あぁ、ノア、ジークちゃん! どこまで行ってたんだい、探したんだよ?」
母さんが僕たちを見つけるなり血相を変えて飛んでくる。
「母さん、町、何かあったの?」
「それが……ライザー領の領主様が町に来てね……」
母さんは申し訳なさそうに言う。
「親父が!? クソ……長居しすぎたか……」
ジークは苦い顔をした。
「ジークのこと、探してるの?」
「そうなんだけどね……この町の領主様……アドルフ様が追い返しているところでね……」
「え、カルムの領主様が……!?」
僕たちは驚きを顕にする。
「……この町には本当にお世話になって……これ以上迷惑をかける訳にはいきません。俺、行きます」
「嫌だよ! ジーク、そんなお父さんのところになんか行っちゃダメだ……!」
僕はジークの腕にぎゅっとしがみつく。
「ノア……でも、これ以上この町にいたら……お前やご両親だって、匿ってたとかなんとか言って、何をされるか……」
「でも……でも……!」
ここで母さんが口を挟む。
「待っておくれジークちゃん。あんたを探していたのはね、アドルフ様が、あんたのお父さんの前で、あんたと養子縁組をするためなんだよ」
「えっ!?」
「一体何でそんなことに……!?」
「何かあったら、あたしが守ってあげるから、一緒にアドルフ様の所へ行こう」
「……分かりました」
「僕も行くよ!」
「ん……」
そして騒ぎの中心へ向かうと、なんとライザー領主であるジークの父親が、2人の兵士に取り押さえられているところだった。
「親父……? 何やってんだ?」
「ありゃ、あたしがジークちゃんを探している間にまた状況が変わってるねぇ……」
と、母さん。
「ジークハルト! やっと来たのかこのバカ息子が! さっさとこの兵士共をどけんか!」
ライザー領主がそう怒鳴ると、彼らを取り囲んでいる町の人たちはやれやれとため息をついた。
「ジークハルト君、すまないね、君がいない間に少々話が進んでしまって……」
アドルフ様はそう言って僕たちの前へと歩いてきた。
「アドルフ様、あの、俺を養子にするとか何とかって……」
「あぁ、それはもちろん最終的には君の意志を尊重する。だが、私は君の父親が君を虐待していた事実がある以上、できれば君を故郷へ返したくはないのだよ」
「え……なんでそのことを……?」
ジークは目をぱちくりとさせる。
「そんなものはデタラメだ! 嘘だと言え! ジークハルト! お前が否定すれば全て解決だ!」
ライザー領主がそう言うが、アドルフ様は気にすることなく話を続ける。
「実は、君がこの町に滞在するようになって、ライザー家の家出をしたご子息だという情報が入った。私はなんとなく気になってね、君の実家を訪ねたのだよ」
「えっ、わざわざライザー領まで!?」
「あぁ、そこで、門番であった彼から話を聞いたんだ」
アドルフ様はライザー領主を押さえている兵士の一人を指し示した。
「……あっ! まさか、ラナンか!?」
ジークがそう声を上げると、その兵士は兜を外して素顔を見せた。
「はい、ラナンです。ジークおぼっちゃま、立派になられましたね……」
ラナンと呼ばれた兵士はそう言って優しく微笑んだ。
「そうか、ラナンが話してくれたのか……。彼、ラナンは俺の槍の師匠なんです。実は、俺が脱走するときも、いつも協力してくれていました」
「彼からもそう聞いているよ。そして私は彼と協力をして、君の父親が虐待をしている証拠を掴み、王国議会へ提出をした。そしてその審議を待つ間、こうして我が町へ戻ってきたのだが……君の父親がその事実を知って怒ってこの町まで押しかけてきてね、まだ懲りていないようだったので、私が君を養子にすると宣言したのだよ」
「そうだったのですか……では、なぜこのように自分の家来に捕まっているのでしょう……?」
「追い込まれた彼は、あろうことか腰に隠し持っていたナイフで私や町の人を傷付けようとしてきた。すると、なんと彼ら2人が自らの主を取り押さえてこの町を守ってくれたのだよ」
「堕ちるところまで堕ちたな……クソ親父……」
それからロープでぐるぐる巻にされたライザー領主は、カルム領主の屋敷で監禁された。
そしてジークのその後の話は王国議会の審議を待つことにし、僕たちは数日のんびりと僕の家で過ごした。
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