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第一章
第二話「赭は、再会の色。」その肆
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「おばあちゃん、先生はもう帰った?」
「いいや。お爺さんと一緒に裏ん畑におるよ」
私は朝食の支度をするお祖母ちゃんを手伝おうか迷いながら、冷蔵庫から冷えた牛乳を取り出した。
「何で早坂先生を家に泊めたん?べつに泊めんでもよくない?」
「何言うん。貧血起こして倒れた悠希を家まで運んでくれて、てげ心配してくれたっちゃが。それに泊まる宿もまだ決めちょらんって言うちょったけぇ、お爺ちゃんが泊まっていくように勧めたんよ」
私は冷蔵庫から取り出した牛乳をボールに入れると、そこへフルーツグラノーラを振りかけた。
「もうすぐ朝御飯ができるのに、なんでそんげもんを食べとるん」
「お祖母ちゃんの料理は大好きだけど、朝はどうしてもこれがいいの」
「昔はそんげもん食べちょらんかったやろ」
確かに。私が朝食にフルーツグラノーラを食べるようになったのは史恵の部屋で一緒に暮らすようになってからだ。
私はスプーンを持つ自分の手をじっと見つめた。私の細くて真っ白な手首。しかし史恵の左手首には、いつも自傷の痕が幾重にも残っていた。
私が彼女から逃げ出したのではない。
彼女が私から逃げ出したのだ。
私が彼女を傷つけたのではい。
彼女が自分自身を傷つけたのだ。
私は彼女を救えなかったのだろうか。
いや、それは違う。
「お祖母ちゃん、武彦はまたお爺ちゃんと一緒?」
「武君は、お爺さんにてげ懐いとるちゃ。あん子は、ここで育つのが良かよ」
「べつに、お祖父ちゃんに父親代わりを求めとらんよ」
「そんげ事を言いなさんな。武君は、この宮崎の自然に育ててもらうんが一番やと思う」
お祖母ちゃんは、そう言いながら、大きな食卓に朝御飯を丁寧に並べていた。
「それに、悠希だって同じ事を思うてここに帰ってきたんやろ」
確かにお祖母ちゃんの言う通りだ。ここ宮崎は私の両親の故郷で、4歳で名古屋に引っ越した後も、私は夏休みや冬休みは必ずここへ戻って、長い休みをこの宮崎の自然と一緒に過ごしてきた。そして今は、それが恋しくて恋しくて、堪らなくて、名古屋からここへ逃げてきたのだ。
でも、それでも、私はお祖母ちゃんの言葉に素直になれなかった。
「けど、武彦は私の子供だよ。私は武彦の母親や。やから……」
「わかっとる。そりゃようわかっとる。やかぃ、もっと肩ん力を抜くといいちゃ」
その言葉に、私はまた一つ大粒の涙を流してしまった。
「さっ、畑に行ってお爺さんと先生を呼んできておくれ。皆で朝御飯を食べようね」
お祖母ちゃんのその笑顔に、私は結局、何も言い返すことができなかった。
私は諦めて、お祖父ちゃんと早坂先生を呼びに行こうと玄関で靴を履こうとした、その時に、玄関がガラガラと大きな音を立てて開いた。
そこには、背が高くて真っ黒に日焼けした、とても逞しい体格の青年が立っている。
「悠姉ちゃん、やっと顔がみれた。すっごい懐かしいなぁ」
それは従弟の和志だった。
「いいや。お爺さんと一緒に裏ん畑におるよ」
私は朝食の支度をするお祖母ちゃんを手伝おうか迷いながら、冷蔵庫から冷えた牛乳を取り出した。
「何で早坂先生を家に泊めたん?べつに泊めんでもよくない?」
「何言うん。貧血起こして倒れた悠希を家まで運んでくれて、てげ心配してくれたっちゃが。それに泊まる宿もまだ決めちょらんって言うちょったけぇ、お爺ちゃんが泊まっていくように勧めたんよ」
私は冷蔵庫から取り出した牛乳をボールに入れると、そこへフルーツグラノーラを振りかけた。
「もうすぐ朝御飯ができるのに、なんでそんげもんを食べとるん」
「お祖母ちゃんの料理は大好きだけど、朝はどうしてもこれがいいの」
「昔はそんげもん食べちょらんかったやろ」
確かに。私が朝食にフルーツグラノーラを食べるようになったのは史恵の部屋で一緒に暮らすようになってからだ。
私はスプーンを持つ自分の手をじっと見つめた。私の細くて真っ白な手首。しかし史恵の左手首には、いつも自傷の痕が幾重にも残っていた。
私が彼女から逃げ出したのではない。
彼女が私から逃げ出したのだ。
私が彼女を傷つけたのではい。
彼女が自分自身を傷つけたのだ。
私は彼女を救えなかったのだろうか。
いや、それは違う。
「お祖母ちゃん、武彦はまたお爺ちゃんと一緒?」
「武君は、お爺さんにてげ懐いとるちゃ。あん子は、ここで育つのが良かよ」
「べつに、お祖父ちゃんに父親代わりを求めとらんよ」
「そんげ事を言いなさんな。武君は、この宮崎の自然に育ててもらうんが一番やと思う」
お祖母ちゃんは、そう言いながら、大きな食卓に朝御飯を丁寧に並べていた。
「それに、悠希だって同じ事を思うてここに帰ってきたんやろ」
確かにお祖母ちゃんの言う通りだ。ここ宮崎は私の両親の故郷で、4歳で名古屋に引っ越した後も、私は夏休みや冬休みは必ずここへ戻って、長い休みをこの宮崎の自然と一緒に過ごしてきた。そして今は、それが恋しくて恋しくて、堪らなくて、名古屋からここへ逃げてきたのだ。
でも、それでも、私はお祖母ちゃんの言葉に素直になれなかった。
「けど、武彦は私の子供だよ。私は武彦の母親や。やから……」
「わかっとる。そりゃようわかっとる。やかぃ、もっと肩ん力を抜くといいちゃ」
その言葉に、私はまた一つ大粒の涙を流してしまった。
「さっ、畑に行ってお爺さんと先生を呼んできておくれ。皆で朝御飯を食べようね」
お祖母ちゃんのその笑顔に、私は結局、何も言い返すことができなかった。
私は諦めて、お祖父ちゃんと早坂先生を呼びに行こうと玄関で靴を履こうとした、その時に、玄関がガラガラと大きな音を立てて開いた。
そこには、背が高くて真っ黒に日焼けした、とても逞しい体格の青年が立っている。
「悠姉ちゃん、やっと顔がみれた。すっごい懐かしいなぁ」
それは従弟の和志だった。
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