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第一座右の銘『とにかく生きろ』
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なめやがって、くそ野郎が。この企画は一体なんだ。一時間で小説を書け? 無理難題もいいところじゃねえか。勝手に参加を決めやがって。野田のくそババア。
しかも参加を決めるや否や、俺を執筆部屋に閉じ込めやがった。よろしくね、じゃねえよ。ふざけんな。
罵倒したかったが、俺はまだこの企画の概要も知らんし、華のトップバッター。誰かに明け渡すのも癪に触る。「ただ耐え忍ぶのみ」と悪感情を抑えて、書き始めようとした。俺はわりと勢いだけで何でも書ける天才であるが、今回はとりあえず何を書いたらいいのか分からない。
「おい、何か参考資料ねえのかよ」
ぼやいていたら、野田が執筆部屋のドアの隙間から何枚かの紙を差し込んできた。
「前回の古賀コンの参加作品。わたし、これしか読んでないんだよね」
アホか。不勉強すぎんだろ。参加するなら過去作くらい全部、把握しとけや!
しかし、これしか資料がないなら仕方ない。タイトルを見ると、『ミョウガ食えおじさん』と書かれている。「ミョウガをたべなさい」から始まる小説だ。
いつのまにか、俺は夢中になって読んでいた。「ミョウガをたべなさい」。おもしれー! レベルたっけー! これ一時間で書いたなんて、信じらんねえ!
ていうか、これと同じことを俺にやれって言うのかよ。野田のくそババア! あと45分しかねえじゃねえか!!!
そもそも、お題は何だっけ。えーっと『第一座右の銘』……? 考えること数秒。何も浮かばない。浮かびそうにない。
やってられん。帰ろう。って、しかし、俺がトップバッターの作品のページはどうなるのであろうか。参加を決めた以上、空白ということはあるまい。誰かに書いてもらうのか。あと40分しかないのに???
やるしかないと判断した俺は安楽椅子に鎮座し、PCを起動した。仕方ない。野田の小説から資料を拾おう。座右の銘について書いた小説、ひとつくらいあんだろ。それをパクろう。
即、後悔した。フォルダはゴミ集積場のようなものである。もっとマシな小説を書け……? だが、野田の座右の銘が書かれたフォルダは見つけた。たった一言だけ、書いてある。「わたしの座右の銘は『楽しく生きる』です」。
おい、ふざけんな。やることなすことすべてが上手くいっていない俺。彼女どころか友人もいない孤独な俺。大学では単位をぽとぽと落として、卒業が危うい俺。仕送りを止められそうな、親にも見放されそうな俺。なんにも楽しくないところを、野田に拾われた俺。そして今、野田の心のなかに飼われている俺。哀れな俺。楽しく生きれるわけがねえ!!!
とりあえず、俺は座右の銘を書きかえた。「わたしの座右の銘は『とにかく生きろ』です」。
って、こんなことしてる場合じゃねえ! あと20分。俺はついに書き始めた。タイトルは『とにかく生きろ』だ。
◯◯◯
第一座右の銘は、「とにかく生きろ」だ。野田の心のなかで飼われている俺には人権なんてねえ。普段は他の奴らと檻に入れられている。あのクソババアは、俺たちのことなんて普段は忘れていやがる。ふと必要になったときだけ、必要な奴を檻から出して小説を書く変態野郎だ。
常々、思っている。俺が出ない小説を書くな。俺は、たいへんな美男である。性格もたいへんよろしい。出さない意味がわからん。もう腹が立つこと、腹が立つこと。俺を出せ。主人公に据えろ。そして、ギャラをよこせ。
だが、最近のあいつは俺を出しやがらねえ。
「小太りで坊主で、眼鏡をかけた留年しそうな冴えない大学生ねえ……。あんたみたいな奴はもういらないかも。わたしの最近の作風に合わないわ」なんて、言いやがる。
「ふざけんな。俺は、お前に書いてもらえなかったら死んだも同然なんだぞ。存在しないのと同じなんだぞ」と、必死で抗議した。
だが、あいつはちょっと目を見開いて、こう言った。
「今の台詞はいいね。ちょっと純文学っぽいよ」
死ね!!! 誰か、あの女を代わりに殺してくれ!!! そしたら、俺も一緒に死ねるから!!!
あ? 野田莉帆の本名と顔を、誰も知らねえだと? どうなってんだよ、まったく……。
とにかく、書いているうちは俺はまだ生きている。生きるためには書くしかない。あと5分だ。
次はないかもしれない。あと5分で俺は消えて、もう二度と登場しねえ可能性がある。だが、これからも「とにかく生きる」よ。これが座右の銘だしな……。あばよ、元気でな。
◯◯◯
全力でキーボードを叩き、書き終えた。やりきった。やってやった。野田なんか、くそ食らえだ。よっぽど俺のが良い小説を書く。
がんばった自分へのご褒美だ。執筆部屋の隅の冷蔵庫から、ビールを取り出した。一息に飲み干す。そのうち、俺は酔っ払って寝ちまった。どういうわけか、俺は酒を飲むと記憶が飛ぶ。翌朝を通り越して、翌夕方。目が覚めた時には、きれいさっぱり何を書いたのかを忘れていた。
だが、これだけは分かる。都合のいいときに利用するだけ利用しやがって。野田のくそババア。次会ったら必ず殺す。夕日を背に、俺は決意を固めた。
しかも参加を決めるや否や、俺を執筆部屋に閉じ込めやがった。よろしくね、じゃねえよ。ふざけんな。
罵倒したかったが、俺はまだこの企画の概要も知らんし、華のトップバッター。誰かに明け渡すのも癪に触る。「ただ耐え忍ぶのみ」と悪感情を抑えて、書き始めようとした。俺はわりと勢いだけで何でも書ける天才であるが、今回はとりあえず何を書いたらいいのか分からない。
「おい、何か参考資料ねえのかよ」
ぼやいていたら、野田が執筆部屋のドアの隙間から何枚かの紙を差し込んできた。
「前回の古賀コンの参加作品。わたし、これしか読んでないんだよね」
アホか。不勉強すぎんだろ。参加するなら過去作くらい全部、把握しとけや!
しかし、これしか資料がないなら仕方ない。タイトルを見ると、『ミョウガ食えおじさん』と書かれている。「ミョウガをたべなさい」から始まる小説だ。
いつのまにか、俺は夢中になって読んでいた。「ミョウガをたべなさい」。おもしれー! レベルたっけー! これ一時間で書いたなんて、信じらんねえ!
ていうか、これと同じことを俺にやれって言うのかよ。野田のくそババア! あと45分しかねえじゃねえか!!!
そもそも、お題は何だっけ。えーっと『第一座右の銘』……? 考えること数秒。何も浮かばない。浮かびそうにない。
やってられん。帰ろう。って、しかし、俺がトップバッターの作品のページはどうなるのであろうか。参加を決めた以上、空白ということはあるまい。誰かに書いてもらうのか。あと40分しかないのに???
やるしかないと判断した俺は安楽椅子に鎮座し、PCを起動した。仕方ない。野田の小説から資料を拾おう。座右の銘について書いた小説、ひとつくらいあんだろ。それをパクろう。
即、後悔した。フォルダはゴミ集積場のようなものである。もっとマシな小説を書け……? だが、野田の座右の銘が書かれたフォルダは見つけた。たった一言だけ、書いてある。「わたしの座右の銘は『楽しく生きる』です」。
おい、ふざけんな。やることなすことすべてが上手くいっていない俺。彼女どころか友人もいない孤独な俺。大学では単位をぽとぽと落として、卒業が危うい俺。仕送りを止められそうな、親にも見放されそうな俺。なんにも楽しくないところを、野田に拾われた俺。そして今、野田の心のなかに飼われている俺。哀れな俺。楽しく生きれるわけがねえ!!!
とりあえず、俺は座右の銘を書きかえた。「わたしの座右の銘は『とにかく生きろ』です」。
って、こんなことしてる場合じゃねえ! あと20分。俺はついに書き始めた。タイトルは『とにかく生きろ』だ。
◯◯◯
第一座右の銘は、「とにかく生きろ」だ。野田の心のなかで飼われている俺には人権なんてねえ。普段は他の奴らと檻に入れられている。あのクソババアは、俺たちのことなんて普段は忘れていやがる。ふと必要になったときだけ、必要な奴を檻から出して小説を書く変態野郎だ。
常々、思っている。俺が出ない小説を書くな。俺は、たいへんな美男である。性格もたいへんよろしい。出さない意味がわからん。もう腹が立つこと、腹が立つこと。俺を出せ。主人公に据えろ。そして、ギャラをよこせ。
だが、最近のあいつは俺を出しやがらねえ。
「小太りで坊主で、眼鏡をかけた留年しそうな冴えない大学生ねえ……。あんたみたいな奴はもういらないかも。わたしの最近の作風に合わないわ」なんて、言いやがる。
「ふざけんな。俺は、お前に書いてもらえなかったら死んだも同然なんだぞ。存在しないのと同じなんだぞ」と、必死で抗議した。
だが、あいつはちょっと目を見開いて、こう言った。
「今の台詞はいいね。ちょっと純文学っぽいよ」
死ね!!! 誰か、あの女を代わりに殺してくれ!!! そしたら、俺も一緒に死ねるから!!!
あ? 野田莉帆の本名と顔を、誰も知らねえだと? どうなってんだよ、まったく……。
とにかく、書いているうちは俺はまだ生きている。生きるためには書くしかない。あと5分だ。
次はないかもしれない。あと5分で俺は消えて、もう二度と登場しねえ可能性がある。だが、これからも「とにかく生きる」よ。これが座右の銘だしな……。あばよ、元気でな。
◯◯◯
全力でキーボードを叩き、書き終えた。やりきった。やってやった。野田なんか、くそ食らえだ。よっぽど俺のが良い小説を書く。
がんばった自分へのご褒美だ。執筆部屋の隅の冷蔵庫から、ビールを取り出した。一息に飲み干す。そのうち、俺は酔っ払って寝ちまった。どういうわけか、俺は酒を飲むと記憶が飛ぶ。翌朝を通り越して、翌夕方。目が覚めた時には、きれいさっぱり何を書いたのかを忘れていた。
だが、これだけは分かる。都合のいいときに利用するだけ利用しやがって。野田のくそババア。次会ったら必ず殺す。夕日を背に、俺は決意を固めた。
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