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44話 思い出の荷台と、私の全部。
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12月1日の日曜日。
引っ越し当日の朝は、昨日よりも少し暖かくて晴れやかな天気だった。
カーテンを外した窓辺には、雲ひとつない青空が広がっている。
冬の陽光が差し込むワンルームは、いつになく眩しい。
白っぽい壁紙の模様部分が反射して、キラキラと光っていた。
邪魔にならない部屋の一角で、ぼんやりと立ち尽くす。
家具や家電が順々に運び出されていくのを、ただただ私は見つめている。
何もかもが、綺麗さっぱり消えていく。
それなりに愛着があるものばかりだから、泣きたいような気持ちになった。
壁の余白が増えていくたびに、唇を強く引き結ぶ。
仕方がない。
無理矢理、自分を納得させる。
手元に残ったのは、衣装ケースとスーツケース。
いくつかの鞄と、何も入っていない白色のローチェストだけ。
私の持ち物の全部。
「もう、いいですかね?」
作業員のお兄さんが歯を見せて笑う。
絵に描いたような営業用スマイルだけど、すごく爽やかな雰囲気があった。
ぐるり、と辺りを見回してから私は頷く。
「ありがとうございました」
「毎度、ありがとうございます」
笑顔を崩すことなく、お兄さんは言った。
大学生活の思い出が詰まったトラックの荷台は、発車音と共に私から遠ざかっていく。
もう戻ってくることはない。
かつての純粋無垢な1年生の私が、想像もしていなかったような今がここにある。
平常心を保つために、私は深く息を吐いた。
家具や家電が置いてあった場所の、壁と床の埃をハンディモップで取る。
もうすぐ、レンタカーでお迎えが来ることになっている。
下を向いている時間はない。
程なくして、インターホンが鳴った。
モニターを覗くと、玉森くんが立っている。
きめ細やかな透明感のある肌。
形の良い唇。
ぱっちり二重で、目力の強い瞳。
ふと、考えてみれば。
視線や表情を気にすることなく、まじまじと彼の顔を見られるのは画面越しくらいのものだ。
改めて。
この顔が嫌いな人なんていないだろうな。
人生で苦労したことなさそう、という僻んだ感想を持ってしまう。
「超絶なイケメンはいいですね」
半ば無意識のうちに。
口に出した私の言葉は、聞こえてしまったようで。
「……ありがとう。超絶、は、なんか照れる」
画面の向こうで、彼に照れられてしまった。
引っ越し当日の朝は、昨日よりも少し暖かくて晴れやかな天気だった。
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冬の陽光が差し込むワンルームは、いつになく眩しい。
白っぽい壁紙の模様部分が反射して、キラキラと光っていた。
邪魔にならない部屋の一角で、ぼんやりと立ち尽くす。
家具や家電が順々に運び出されていくのを、ただただ私は見つめている。
何もかもが、綺麗さっぱり消えていく。
それなりに愛着があるものばかりだから、泣きたいような気持ちになった。
壁の余白が増えていくたびに、唇を強く引き結ぶ。
仕方がない。
無理矢理、自分を納得させる。
手元に残ったのは、衣装ケースとスーツケース。
いくつかの鞄と、何も入っていない白色のローチェストだけ。
私の持ち物の全部。
「もう、いいですかね?」
作業員のお兄さんが歯を見せて笑う。
絵に描いたような営業用スマイルだけど、すごく爽やかな雰囲気があった。
ぐるり、と辺りを見回してから私は頷く。
「ありがとうございました」
「毎度、ありがとうございます」
笑顔を崩すことなく、お兄さんは言った。
大学生活の思い出が詰まったトラックの荷台は、発車音と共に私から遠ざかっていく。
もう戻ってくることはない。
かつての純粋無垢な1年生の私が、想像もしていなかったような今がここにある。
平常心を保つために、私は深く息を吐いた。
家具や家電が置いてあった場所の、壁と床の埃をハンディモップで取る。
もうすぐ、レンタカーでお迎えが来ることになっている。
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程なくして、インターホンが鳴った。
モニターを覗くと、玉森くんが立っている。
きめ細やかな透明感のある肌。
形の良い唇。
ぱっちり二重で、目力の強い瞳。
ふと、考えてみれば。
視線や表情を気にすることなく、まじまじと彼の顔を見られるのは画面越しくらいのものだ。
改めて。
この顔が嫌いな人なんていないだろうな。
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「超絶なイケメンはいいですね」
半ば無意識のうちに。
口に出した私の言葉は、聞こえてしまったようで。
「……ありがとう。超絶、は、なんか照れる」
画面の向こうで、彼に照れられてしまった。
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