15 / 17
作者、『死刑よりも残酷な』を振り返る。
しおりを挟む
——また、1話分を書き終えてしまった。
達成感と共に抱くのは、一握りの恐怖心。
書き手の私vs.読み手の私。熾烈な戦いの火蓋が切られる。
5年のブランクを経た後は、読み手の私よりも書き手の私の方が劣勢だった。どうやら、批評力が衰えるスピードよりも、文章力が衰えるスピードの方が早いようだ。
今回も。読み手の私は、書き手の私を痛烈に批評した。
——お前、それでいいのか。
まず、読み手の私が問題にしたのは、リデルの「純潔の血」という表現について、だった。
——お前、処女の血より非処女の血の方が汚いとでも言うつもりなのか? 処女の身体を切り裂いて、純潔の血? 笑わせんじゃねぇよ。リデルの言う「純潔の血」は、どう考えても破瓜の血のことだろうが。
ズケズケとした物言い。思っても誰も口にしないことを言うのが、読み手の私。しかも、書き手の私より、横柄で口が悪い。書き手の私が、どんどん縮こまっていく。
——それに、メアとリアが切り取るのは、やっぱり耳じゃないだろ。乳房にしておくべきだったな。夜の、女への否定は重要なファクターだった。シーンが生きていない。
書き手の私の手がわなわなと震えていた。手の中にある、小さな筆は今にも折られてしまいそうだった。見かねた本体の私が止めに入る。
「もう、やめてあげて! 書き手の私のHPは限りなくゼロよ!」
すると。読み手の私は、なんと本体の私にまで口を出してきた。
——お前が甘ちゃんだから、汚ったねぇ言葉並んだ汚ったねぇ小説が書けねぇんだよ。綺麗な言葉だけ並べて綺麗なだけの小説書いてればいいってもんじゃねぇだろ。
たかだか、読み手の私のくせに。なんと、本体の私にまで口を出す! 沸々と怒りが込み上げてきた私は、読み手の私に言い放つ。
「正しさを振りかざすと、嫌われますよ。あなたは、批評することにかまけて、物語に寄り添うことを忘れてしまったのです」
読み手の私がやっと、黙った。本体の私は、すっかり小さくなった書き手の私に駆け寄る。
「あなたは、やればできる子! ほら、最後まで頑張って」
本体の私は書き手の私を励ましながら、なんだこの戦いは、と思っていた。
——これは、私にだけ起きる現象なの?
最近は読み手の私が調子に乗っていた。が、かつては書き手の私が調子に乗っていることもあった。俺の文章かっけえ! 状態の書き手の私はウザくて、読み手の私の痛烈な批評にスカッとした覚えがある。
何事もバランスが大事なのに。夜通し小説を書いて疲れた私は、休みの日の朝から贅沢にもゆっくり眠ることにした。
達成感と共に抱くのは、一握りの恐怖心。
書き手の私vs.読み手の私。熾烈な戦いの火蓋が切られる。
5年のブランクを経た後は、読み手の私よりも書き手の私の方が劣勢だった。どうやら、批評力が衰えるスピードよりも、文章力が衰えるスピードの方が早いようだ。
今回も。読み手の私は、書き手の私を痛烈に批評した。
——お前、それでいいのか。
まず、読み手の私が問題にしたのは、リデルの「純潔の血」という表現について、だった。
——お前、処女の血より非処女の血の方が汚いとでも言うつもりなのか? 処女の身体を切り裂いて、純潔の血? 笑わせんじゃねぇよ。リデルの言う「純潔の血」は、どう考えても破瓜の血のことだろうが。
ズケズケとした物言い。思っても誰も口にしないことを言うのが、読み手の私。しかも、書き手の私より、横柄で口が悪い。書き手の私が、どんどん縮こまっていく。
——それに、メアとリアが切り取るのは、やっぱり耳じゃないだろ。乳房にしておくべきだったな。夜の、女への否定は重要なファクターだった。シーンが生きていない。
書き手の私の手がわなわなと震えていた。手の中にある、小さな筆は今にも折られてしまいそうだった。見かねた本体の私が止めに入る。
「もう、やめてあげて! 書き手の私のHPは限りなくゼロよ!」
すると。読み手の私は、なんと本体の私にまで口を出してきた。
——お前が甘ちゃんだから、汚ったねぇ言葉並んだ汚ったねぇ小説が書けねぇんだよ。綺麗な言葉だけ並べて綺麗なだけの小説書いてればいいってもんじゃねぇだろ。
たかだか、読み手の私のくせに。なんと、本体の私にまで口を出す! 沸々と怒りが込み上げてきた私は、読み手の私に言い放つ。
「正しさを振りかざすと、嫌われますよ。あなたは、批評することにかまけて、物語に寄り添うことを忘れてしまったのです」
読み手の私がやっと、黙った。本体の私は、すっかり小さくなった書き手の私に駆け寄る。
「あなたは、やればできる子! ほら、最後まで頑張って」
本体の私は書き手の私を励ましながら、なんだこの戦いは、と思っていた。
——これは、私にだけ起きる現象なの?
最近は読み手の私が調子に乗っていた。が、かつては書き手の私が調子に乗っていることもあった。俺の文章かっけえ! 状態の書き手の私はウザくて、読み手の私の痛烈な批評にスカッとした覚えがある。
何事もバランスが大事なのに。夜通し小説を書いて疲れた私は、休みの日の朝から贅沢にもゆっくり眠ることにした。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/3/14:『かげぼうし』の章を追加。2025/3/21の朝4時頃より公開開始予定。
2025/3/13:『かゆみ』の章を追加。2025/3/20の朝4時頃より公開開始予定。
2025/3/12:『あくむをみるへや』の章を追加。2025/3/19の朝4時頃より公開開始予定。
2025/3/11:『まぐかっぷ』の章を追加。2025/3/18の朝4時頃より公開開始予定。
2025/3/10:『ころがるゆび』の章を追加。2025/3/17の朝4時頃より公開開始予定。
2025/3/9:『かおのなるき』の章を追加。2025/3/16の朝8時頃より公開開始予定。
2025/3/8:『いま』の章を追加。2025/3/15の朝8時頃より公開開始予定。
すべて実話
さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。
友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。
長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*
逢魔ヶ刻の迷い子3
naomikoryo
ホラー
——それは、閉ざされた異世界からのSOS。
夏休みのある夜、中学3年生になった陽介・隼人・大輝・美咲・紗奈・由香の6人は、受験勉強のために訪れた図書館で再び“恐怖”に巻き込まれる。
「図書館に大事な物を忘れたから取りに行ってくる。」
陽介の何気ないメッセージから始まった異変。
深夜の図書館に響く正体不明の足音、消えていくメッセージ、そして——
「ここから出られない」と助けを求める陽介の声。
彼は、次元の違う同じ場所にいる。
現実世界と並行して存在する“もう一つの図書館”。
六人は、陽介を救うためにその謎を解き明かしていくが、やがてこの場所が“異世界と繋がる境界”であることに気付く。
七不思議の夜を乗り越えた彼らが挑む、シリーズ第3作目。
恐怖と謎が交錯する、戦慄のホラー・ミステリー。
「境界が開かれた時、もう戻れない——。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる