劇場型殺人“アリス”

野田莉帆

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作者、『入り相に十字架』を振り返る。

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 投稿ボタンを押して、ふーっと一息つく。
 今回は苦労した。直すところが多かった。

 なぜか。元原稿が、『入り相に十字架』だけ神視点の3人称で書かれていたからだ。確かに、『入り相に十字架』は3人称で書く方が格好良い。それは、認める。

 あーあ、逃げられちゃった、なんて。歩が病室を出た後で、タバコをくゆらせる。シラフなリデルの描写は本当に捨てがたい。

 でも、章ごとに人称を変えるのは、私の中では完全にナシ。だから『入り相に十字架』の文章は、ほとんど書き直した。

 すると、文章ってやっぱり面白いな、と思う現象が起きた。

 3人称で少女と表記されていた箇所を、そのまま使用したところ、一般的な少女という意味ではなく、歩から見ての少女という意味に変わり、元原稿よりもリデルが少し幼くなっていた。

 本当に面白い、と思った私。リデルを少し幼いままにしてしまった。

 リデルのキャラを見直そう、と元原稿を見る。

 すぐに言葉が出なかった。元原稿のリデルのキャラは、問題だらけのように思えた。

 まず、最初に。リデルの登場シーンで、彼女はパンクファッションに身を包み、という表現があった。

 あ、パンクはダメだ、と私は思った。

 何の思想も示さずに、パンクなんて出した日には、「赤いボンテージパンツ履いてりゃ、パンクになるわけじゃねえんだよ」と、怖い人に突っ込まれそうだ。

 私が小説でパンクという言葉を出す日には、「小説を——、ブチ壊す」という思想で、書く。もちろん、そんな日は来ない。パンクはやめよう、パンクは。

 次に。リデルの武器について。

 元原稿では、リデルは十字架を持つというより、背負う勢いだった。どうもこの十字架とは、鈍器のような武器で、縦に振り上げて、縦に振り下ろして使うらしい。その証拠に、歩が攻撃をかわした後の描写では、十字架はベッドにぶっ刺さっていた。

 何て、汎用性の低い武器なんだ、と私は思った。

 少女が身の丈ほどの十字架を縦に振り上げてから振り下ろすまで、いったい何秒かかる。しかも、全体重をかけて振り下ろすような武器がベッドに刺さったら、絶対に抜けない。

 それなのに、元原稿では十字架で合計3回も攻撃される。私は少女の武器を、ささっと槍に作り変えた。それでも結局、壁に刺さって抜けなかった。本末転倒だ。

 なんとか攻撃シーンを終えて、歩が逃げるシーンを書いた私。またしても、壁にぶち当たった。

 歩がエントランスの自動ドアをこじ開ける、という。

 あれ、病院の自動ドアって、内鍵ついてないの?

 不思議に思った私、少し調べる。なるほど。ついていないものが多そうだった。スイッチは入り口付近にありそうだが、初見では見つけられそうにない。

 前に1度、知らない人が自動ドアを突き抜けていくのを、私はリアルタイムで見たことがあった。その自動ドアのガラスは人型に、くり抜かれていた。事実は小説より奇なり。

 だから、無理ではないな、と私は匙を投げた。だいぶ疲れていた。私は、独りでつぶやいた。

 ——大変そうだけど。歩、頑張れ。
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