上 下
110 / 136

クリスマス番外編

しおりを挟む

こんにちは。昨日の真夜中に更新するはずがしっかり寝てしまい、ついでにサンタを待ち伏せするのを忘れました。ごめんなさい。

それでは皆さま!
メリークリスマス!!


(番外編はこちら)







『アリス様ー。前は人間嫌いでしたよねー?』

デカイモミの木にキラキラした飾りをかけている最中、飾り付けすらサボろうとしているルーが我に聞いた。
これ終わらないと、今日のディナー食えないのだが。

「うむ…まあ、どちらかと言えばそうだな」
『でもー、変な伝承が残っててー。ある国の港町にー、魔王が降臨して人間の命を救い、静かに消えて行ったっていう話があるんですよーお』
「港町?」
『あまりのことに聖夜の奇跡なんて呼ばれてるみたいですけどー』
「聖夜?…あ。くりすなんとかとかいう日のことか?」

手元の飾りを見て思い出した。(そもそも我が今飾り付けをさせられているのは、クリスマスの為に屋敷を飾るらしく、働かざるもの食うべからず、しかし1番楽だという理由で我に充てがわれた仕事である。)

勇者関連を探る最中に知ったのだ。

異世界の勇者が始めた催し物でな、神の誕生を祝い、なぜか美味いものを食べ、さらに何故か子供達にプレゼントを贈るという不思議な日なのだ。神の生誕祭なのに何故人間達がいい思いをしているのか、我ちょっと訳がわからない。

この世界の人間たちは、異世界からの文化を吸収しつつ発展しているので、恐らく途中から勇者召喚というより、技術目的で異世界から召喚名目に誘拐していた可能性があると思われる。…人間達、怖くない?そして来たからにはと張り切って情報流出していく勇者も怖くない?…あ、勇者は人間だったな。

…それはさておき。

「我が人間を助けた?それはどんな妄想だ」
『あれれ。でも、本当に魔王の側近クラスの配下が急に揃いも揃って出現して、壊滅し掛けたところに魔王が現れて、配下達を止めてくれたって話があるんですよー』

だから知らんて。丁度本日5度目の対決料理を完成させて持ってきたラギアに聞いてみるか。

「我がそんな事した覚えあるか?」
「アリス様はいつでも慈悲深いです」

うん。そう答えると思ってたからもういいや。

「いえ、本当にありましたよ。私も結果的には襲撃してアリス様に止められました」
「うそん」

我、そんなことした!?

「あれは確か、私が当時のアリス様にお仕えしてまだ千数百年と言った頃でした。勇者について調べるうちにクリスマスという催し物を知りました」

ラギア曰く、主人(つまり我な)にはいつでも貢ぎたいものの、我が頑なに受け取らないから、こじつけて主人にプレゼントを贈る日にしてしまえばいいのではないか、と配下の1人が言い出した。そこから誰からの贈り物が1番喜ばれるかという勝負に発展、我へのリサーチが始まった。
で、我が、

「ミスリル鉱山で実験したい」

という、その当時やりたかった事を述べた結果、何を思ったのか、皆揃ってミスリル鉱山を有する港町へと飛び立ったという。

「…あー、あれか」

流石に我も思い出した。ちょっと自動式の人形作ろうとして、頑丈な体にしたかったから、ミスリルを使いたくてそんな事を言ったんだった。

「その後ミスリルが秘密裏に我に献上されたのだったな」
『原因魔王様じゃないですかー』
「我のせい?」
『で?ミスリルで人形は作ったんですかー?』

うむ。確か、完成はした。思いのほか動きや作って馴染ませた魂も上手く定着し、我に忠実かつ世話も問題ない人形ができたので、メイド服着せて我の部屋に置くことにしたのだが、

「脆かったようでな…。細部に拘りすぎたせいかもしれん。壊れていたとラギアが持ってきてくれた」
『…へー(疑いの目)』
「仕方がないが元々は貴重な素材。リサイクルで調理道具一式に作り直して、…確か通りすがりの誰だかにあげた」
『貴重な素材をまさかの料理器具にするとか、常人の考えじゃないですねー。しかも通りすがりにあげるもんじゃないですよー』

褒めてる?ねえ、それ我のこと褒めてる?勿論褒め称えてますーとルーは適当に答えた。分かった。なんか腹立つから着せ替え人形の刑な。

「ミスリル鍛えるのにどうしても魔力を流す必要があって、散々我の魔力を練り込んだ結果、とんでもない性能になってしまってな。最早聖剣なんてものが紙切れ同然の価値に思えてしまうほどに。アレは恐らく数百年使っても錆もしなければ刃こぼれもしないだろうな」
『聖剣よりレアな調理器具って逆に残念なんじゃー…?』
「わかる奴には分かるからな、今誰が持っているのか分からんし、そもそもこの世界に存在しているのかも知らんが、まあよかろう。昔の話だ」

そう、そんな出来事は数千年も前の話。それよりも今は料理長が次に持ってくる料理の方が大事だ。ラギアは未だに料理長より我の口に合う料理を作る事を諦めておらんのだ。
料理長が快く受けて立っているから、我がどうこう言う問題では無いと思ってる。

「……ラギア、これはこれで美味いと思うのだが、多分香り付けの葉が少ないか古いと思う」
『りょーりちょーさんの進み具合見てきまーすー』

ラギアは負けを悟って項垂れた。




ルーが調理室に入ると、料理長が鬼気迫る勢いで仕上げをしているところだった。

『(こえー)』

不必要な物音1つでも立てたら、料理長の包丁が飛んでくる(経験済み)事を知っているルーは息を潜めて、終わるのを待つ。暇なので調理器具を眺めながら。そこで気がつくのは、鍋、ボウル、フライパンが全て同質かつ同年代に作られている事だ。精霊でなければ使われている鉱物の年代までは正確に特定できないので、使用者達には関係ないのだが。

気になるのは、その3つが間違いなく同じ鉱物で作られ、作られたのは軽く見積もっても数千年前であり、鉱物はミスリルであることだ。

『(…やめやめ。さっきの話に釣られすぎー)』
「……そんなにじっとしていても、アリス様より先に料理は食わせないぞ」
『知ってますけどー!?』

食べたかったわけじゃないやい。とルーは憤慨し、調理器具を見ていただけだと言った。

「……言っておくが、鍋とボウルとザル、フライパンは渡さないからな。アレは家宝なんだ」
『家宝?』
「うちの祖先は放浪癖のある料理人で、その料理人が人から貰った代物らしいが、焦げない・錆びない・薄くならない・経年劣化しないというとんでもない物だと気付き、以降料理人の家系として、俺に至るまで大事に継承されてきた」
『りょーりちょーさん、騎士の家の人じゃ無いんですね~』
「まあな。でなければ、俺はアリス様のお側にはいられなかっただろう。かつてはそれが嫌で足掻いて、アリス様の母君の大恩あって騎士団長にまでなれたが、それを経ていなければ私は今頃魔導国の廃れた料理人をしていた事だろうな」

考えただけでも恐ろしいが。と、料理長は何かを思い出していたが、ルーはそれどころではなかった。

『…ヤバいっすねー』

料理長の家宝が、かつての魔王製調理器具。

ルーが状況を呑み込むまで暫くかかることになるが、とりあえず、聖なる夜にアリス達は料理長が鍋で煮出したスープや、ザルで濾して、ボウルで混ぜて作ったサラダや、そのフライパンで焼き上げた肉料理を食べて満足したのは言うまでも無い事である。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔導書転生。 最強の魔導王は気がついたら古本屋で売られていた。

チョコレート
ファンタジー
最強の魔導王だったゾディアは気がついたら古本屋に売られている魔導書に転生していた。 名前以外のほとんどの記憶を失い、本なので自由に動く事も出来ず、なにもする事が無いままに本棚で数十年が経過していた。 そして念願の購入者が現れることにより運命は動き出す…… 元最強の魔導書と魔導が苦手な少女の話。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

7個のチート能力は貰いますが、6個は別に必要ありません

ひむよ
ファンタジー
「お詫びとしてどんな力でも与えてやろう」 目が覚めると目の前のおっさんにいきなりそんな言葉をかけられた藤城 皐月。 この言葉の意味を説明され、結果皐月は7個の能力を手に入れた。 だが、皐月にとってはこの内6個はおまけに過ぎない。皐月にとって最も必要なのは自分で考えたスキルだけだ。 だが、皐月は貰えるものはもらうという精神一応7個貰った。 そんな皐月が異世界を安全に楽しむ物語。 人気ランキング2位に載っていました。 hotランキング1位に載っていました。 ありがとうございます。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

エーリュシオンでお取りよせ?

ミスター愛妻
ファンタジー
 ある男が寿命を迎え死んだ。  と、輪廻のまえに信心していた聖天様に呼び出された。    話とは、解脱できないので六道輪廻に入ることになるが、『名をはばかる方』の御指図で、異世界に転移できるというのだ。    TSと引き換えに不老不死、絶対不可侵の加護の上に、『お取り寄せ能力』という変な能力までいただいた主人公。  納得して転移した異世界は……    のんびりと憧れの『心静かな日々』を送るはずが……    気が付けば異世界で通販生活、まんざらでもない日々だが……『心静かな日々』はどうなるのか……こんなことでは聖天様に怒られそう……  本作は作者が別の表題で公開していた物を、追加修正させていただいたものです。その為に作品名もそぐわなくなり、今回『エーリュシオンでお取りよせ?』といたしました。    作者の前作である『惑星エラムシリーズ』を踏まえておりますので、かなり似たようなところがあります。  前作はストーリーを重視しておりますが、これについては単なる異世界漫遊記、主人公はのほほんと日々を送る予定? です。    なにも考えず、筆に任せて書いております上に、作者は文章力も皆無です、句読点さえ定かではありません、作者、とてもメンタルが弱いのでそのあたりのご批判はご勘弁くださいね。    本作は随所に意味の無い蘊蓄や説明があります。かなりのヒンシュクを受けましたが、そのあたりの部分は読み飛ばしていただければ幸いです。  表紙はゲルダ・ヴィークナー 手で刺繍したフリル付のカーバディーンドレス   パブリックドメインの物です。   

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

処理中です...