97 / 136
97.
しおりを挟む「ふんふんふ~ん」
「ご機嫌ですね、アリスお嬢さん」
「ご機嫌と言えばご機嫌だな」
だって、我今ドレス着てるし。こんな可愛くて我にぴったりのドレス着て、何で不機嫌でいられるんだ。経緯的には腹立たしいが、この服を着ている以上ぶすくれた顔より笑ってた方が最高に可愛い。だって似合うもん。
これはな、今朝方出発前に届いたキエラ製のミニドレスなのだ!流石貴族御用達で普段令嬢のドレスを作っているだけあり細部の装飾までこだわり抜いている。しかし、それだけではない。冒険者である我、かつまだ幼いからこそ許されるミディ丈のスカートを提案し我に相応しい仕上がりを見せた。
うむ。流石だったぞ。……キエラ本人が届けにきたのだが、相変わらずの健脚だったし。
……それは兎も角。我は今、馬車で大人しく運ばれている。その気分はさながら荷馬車に揺られる子牛のよう。……誰が牛か!
「……何1人で楽しそうに百面相してるんすか…」
「同行者のノリが悪いから?」
「…急に矛先変えるの、ほんと、やめてもらっていいですか…お嬢さん…」
発言に気を付けてくれないと困るの俺なので…。と付け加えられたのだが、別に我悪いことしてないもん。
馬車に乗っているのは我と、従僕として同行しているアノクだ。行き先は無論、魔導国。他に同乗者は無し。強いて言うなら灼華が御者台に乗ってる。今回はきちんと馬を操縦してる。
本人は不本意そうだったが、魔導国の奴らは人力(?)車を絶対野蛮だのなんだのと言うに決まっているからな。
これから騒ぎを起こしには行くが、わざわざ起こさなくていい騒ぎを起こして楽しむ趣味は生憎とない。
「…あのー、本当に、俺を連れて行くんですか?」
「ああ。だが馬車から出たら一人称に気をつけろ」
リィや料理長達は今回は空島にて待機である。正確には、亜空間内の城な。そのため正直、はなれているという感覚ではない。だって今も我が戻ろうとすれば瞬く間に着くのだから。
「1番警戒されなそうなの、アノクくらいだったからな」
「……これでも元一流暗殺者なんですが」
「見る目がある者ならまあわかるかもしれんが、料理長は有名な上に従僕としてなとど我は扱えんし、ラギアは従僕として扱えるものの料理長同様で国上層部には知られすぎているからな」
「ラギア様を従僕扱い出来て将軍は無理ってどういう事ですか…」
更に1人1人の戦力有りすぎて、警戒されまくりなのだ。それに比べれば、暗殺者への警戒はかなり少なかろう。
「あとついでに、アノクはかなり常識的な人間だから大丈夫だとリィが太鼓判おしてたし」
「俺が常識的というよりは、お嬢さん達がおかしいだけですよ」
……本当は馬車だけを走らせて、魔導国に着いてから馬車の中に入ればいいかと思っていたのだが、それは却下された。アノクによって。
なるべく我が空間系の魔法で飛び回れることを悟られないようにすべきと言われてしまったからな。それを言われてしまえばそうだな、と皆で納得したのだが。
「…本当はラギア様も常識的な人だったんですけどね。魔法も適所で使う感じでしたし」
何?間違っても休憩所を作るためだけに魔法を酷使するような人間じゃなかった?
……我が魔王だった時は、我の世話を1人でせんがために魔法をかなり使っていたのだが。かつての奉仕意識そのままだから、仕方がないのだろう。
我がケタケタ笑ってたら諦めて、給料分の仕事はきちんとしますよとそれ以上は突っ込んでこなかった。良い心がけだな。
「…ところで、お嬢さん。何で伯爵家の馬車断ったんですか?」
「何が仕込んであるかわからないから」
ああ…そこ即答するんですね…。と引き気味だな。
「我はあの家の義母やら義姉やらに毛嫌いされていたからな。馬車を貸すなんて聞いたら怒り狂って何か仕込みそうだ」
「馬車に何仕込むって……あー、確かに。車輪に細工し放題、御者を買収して馬車の壁越しにトドメ刺したり、座席下に刺客を隠しておいて奇襲やら、遅効性の毒の香を焚いておくことも出来ますよね」
「……一瞬にしてそれだけ方法考えつくとは、流石暗殺者」
…こっわ。
「でもどれもお嬢さんには無効じゃないですか」
「うむ。その程度で我を殺せると思うことこそ最大の侮辱だとは思うが」
毒入りジュース効かない時点で諦めたはずなので今回は単純にあの家の馬車に乗るのが嫌だっただけだ。
そろそろ魔導国と我の生まれの国の間の森を抜ける頃かなと思ったところで馬車が急に止まった。急停止したせいでアノクが変な声をあげて座席から落ちた。体幹弱い…。
「お、…お嬢さんは、浮いてる、から…!」
「煩い。灼華が御者を務めているのにまともな運転な訳が無かろう」
自分で馬車を引いていようが、馬車を引かせている馬を操っていようが、結局荒れた運転になるのは目に見えておるだろうに。
「どうした灼華」
『主様、この先ずっと馬車が続いております」
なんと。魔導国の検問からここまで?……馬車が十数台はあるように見えるな。
「アノク、調べてこい」
「かしこまりました、お嬢様」
そして待つ事紅茶一杯分。
「全て同じ紋が馬車に付いてましたー。で、検問の所で防犯対策?で、令嬢だけ一時的に魔法を無効化するゲートを潜ってます。…というか、髪の色とか目の色を変化させる魔法を無効化されてるみたいですよ」
どうしてそんな事をしているのか、理由は単純明快。
「アリステラ・アトリシエ伯爵令嬢を騙る偽物が後をたたないそうです」
……伯爵の話を聞いた時はそんな馬鹿な事ありえんだろう馬鹿なのかと呆れでお腹いっぱいだったのだが、我が義姉のような令嬢は、どうやら割と普通なのかもしれない。
0
お気に入りに追加
291
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
異世界の叔父のところに就職します
まはぷる
ファンタジー
白木秋人は21歳。成績も運動もいたって平凡、就職浪人一歩手前の大学4年生だ。
実家の仕送りに釣られ、夏休暇を利用して、無人の祖父母宅の後片付けを請け負うことになった。
そんなとき、15年前に失踪したはずの叔父の征司が、押入れから鎧姿でいきなり帰ってきた!
異世界に行っていたという叔父に連れられ、秋人もまた異世界に行ってみることに。
ごく普通な主人公の、普通でない人たちとの異世界暮らしを綴っています。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
以前にアルファポリス様で投稿していた処女作です。
物語の大筋は変わっていませんが、文体を完全な一人称に、誤字脱字と文章修正を行なっています。
小説家になろう様とカクヨム様でも投稿している物の逆輸入版となります。
それなりに書き溜め量があるので、さくさく更新していきます。
断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。
みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。
主人公は断罪から逃れることは出来るのか?
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
辺境伯令嬢に転生しました。
織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。
アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。
書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。
目覚めたら7歳児でしたが、過酷な境遇なので改善したいと思います
瑞多美音
ファンタジー
ふと、目を覚ますと7歳児になっていた。しかも、奴隷に……
どうやら今世のわたしが死にかけたことで前世の記憶がよみがえったようだ……
熱病で生死をさまよい死にかけグループに移動させられたメリッサ。
死にかけグループとは病気や怪我などで役に立たないとされるひとが集められており、部屋は半壊、冷たい床に薄い布団、ご飯は他のグループと比べるとかなり少ないとか。ほかより待遇が悪くなるようだ……
「扱いが他よりちょっとひどいが、部屋でできる仕事がまわってくる。慣れればなんとかなるよ」
と言われたものの、さすが死にかけグループ。訳ありの人ばかり。
神様に見送られたわけでもチートをもらったわけでもない……世知辛い。
ここは自分の頭と行動で自分を助けるしかないな。前世では手助けしてくれた両親も今世は見当たらないのだから……でもなんだか、この部屋は心地よい。前の部屋は自分のことで精一杯という感じだったのにここでは正に一心同体。
みんなには死んでほしくないからすこしでも工夫しないと。
死にかけたことで前世を思い出した主人公が過酷な境遇を改善するため周囲のひとを巻き込みつつ知恵や工夫を凝らしてまずは衣食住の改善を目指し頑張るお話。
※この話には奴隷に関するもの、登場人物に火傷、隻腕、隻眼などが含まれます。あくまでもフィクションですが、苦手なかたや合わないと感じたかたは無理をなさらずそっ閉じでお願いいたします。
※この語は法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる