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「アリス様!もう間も無く到着です!!」
「うん。ありがとう、料理長」
「いえ。これも全てアリス様がいてこそのことですから」

そりゃそうだ。


今日の昼食のメイン材料を探していた料理長が、食材になりそうな鳥じゃなくて、王都を遠目に見つけたらしい。

…何で鳥かって?

『天気良すぎヨォ…。毛が焼けちゃうワ』
『あらあらリィーリィーさん、急に毛繕いはやめてくださいな。折角掴まっておりましたのにい!』

空を飛んでいるのに、鳥以外に調達出来る食べ物があるとでも?

『アリス様~ぁ』
「だから、ルシアはちゃんと室内にいろと言っておいただろう」
『アリス様が居ないのが寂しいのですもの』

わーい。我、めっちゃ好かれてるー。

リィから剥がれて風に流されてきたルシアの腕が我の首に回る。側から見れば抱き着いているように見えるだろうが、飛ばないように必死に我にくっ付いているのだ。同じだって?必死さが違うだろう。密着度とか。色々な埋まり具合とか。


我々は今、あの商人から一応借り受けた形の飛空艇モドキに乗っている。
何故モドキなのかと言えば、あの時我が見つけた飛空艇は、未完成であったからだ。それも、飛空艇というために必要な飛空機能が無い、ただの大きな船型の模型のようなものだった。

商人曰く、飛空艇として完成させるのにはまだ資金が足りない為、飛空艇の飛空能力以外…つまり、寛ぐための船内スペースやキッチン、その他諸々の等身大レプリカを作り、貴族達に中を見学させて、「こんな豪華で快適な船で空の旅がしたいなら、是非とも資金協力ヨロ!」という感じで、パトロンを募ろうとしていたらしい。

この程度であれば、我の魔法で飛ばす事程度造作もなかった為、貸してくれれば飛空データ、必要な魔力量等の情報を提供しようと持ちかけた。

「いやあ、しかし、いくらお得意様の特別な方の頼みでもこちらも商売……ですしと断る所ですが今回は特別で!アリス嬢には以前船を直していただいた御恩もあることですから!」

おや。応じる気がないか、恐らく金をせびろうとすると思ったのだが。……ちらり、と振り返って料理長を見るが、物凄く笑顔でどうかしましたかと聞かれるだけだった。見なかったことにした。

ヴァレインは、近々王都に向かう用事があるからその時に返してくれれば大丈夫!と言うので、そのまま借り受けた。というか、収納した。流石の我もここから急に飛んでく気はない。街を出てからな。

「あ、……は?…収納…?」

ヴァレインは周囲の建物一棟よりも大きな飛空艇が忽然と消えた空間を見つめて言葉を失っていた。


『アレは中々、愉快でしたわ』
「うむ。笑えたな」

引っ付いているルシアをそのままにあの時の商人の唖然とした顔を笑う。

ともあれそんな経緯で得た飛空艇モドキに我々は乗船し、空の旅をしていた。まあ、コレの動力が我の魔法と言う時点で当然と言えばそうなのだが、リィに乗って駆け抜けるよりも早く王都が見えてきた。

結局のところ、料理長の作った料理はおやつ、夕食、朝食しか食べられなかったものの、中々快適だった。強いて言うなら風呂が欲しい。バスタブ付きのやつ。シャワーはあったけど、折角なら湯船に浸かりながら景色を楽しみたい。

あと、足湯。

料理長は石窯欲しいって言ってた。……必要か?……必要か。ピザは出来立てが1番美味しい。

その他色々あの商人へ宛ててしたためて、我々は王都へ続く街道の脇に降り立ち、その日のうちに王都へと戻ってきた。



しかし、その後、戻んなきゃよかったと後悔する事になる。


【任務内容: 魔獣暴走の制圧
任務対象者: 戦闘力を有する中で参加希望者全員
報酬: 参加で1ジルド、討伐数・種によって追加報酬有り

既に複数の町で被害を確認。
睡眠薬を含む鎮静効果のある薬は効果なし。
北西部から西回りに進行中。総数は未だ不明なものの、時間と共に数も増加中。早急に対応が必要】

料理長が関所の衛兵から受け取った呼び出しにより、我らは冒険者ギルドに向かった。
我は目立つので、仕方がなく地味なコートとフードを目深に被って。

料理長は建物に入って早々に別の階へと案内された。我は見送り、改めてこの間我が不可抗力の末に穴だらけにした室内を見渡していた。うむ。とても冒険者達が刺さっていたようには見えん。流石は我。

そんな中で見つけた変な依頼書だった。
前回も見た。依頼書がベタベタ貼ってある掲示板があるのだが、それが何故か、その依頼書一枚だけを残して全て撤去されている。

『変ネェ』
『ですわねえ。人の気配も少ないですわ』

ルシアの言う通り、ギルド内の人はかなり疎らだ。いくら今がまだ暮れに入りかけた所とはいえ、昼食がてら情報集めの為に酒場も併設されているギルドへと足を運ぶ者もいるのだから、もう少し混んでいて然るべきなのだが…。

「皆、その依頼書を見て目の色変えて出てったよー」

答えをくれたのは先程から身じろぎもせずに我の動向を見ていた少女だ。にやにやと、幼いが悪く無い顔立ちに愉楽の感情を浮かべ、それを隠すこともなく我を観察していた。上の階から。

視線をやればバルコニーから身を乗り出して、そのまま落ちた。…というよりは、降りてきた。パンツスタイルなせいで中身は見えなかった。

身軽さがよく分かる。音もなく着地するそのしなやかさは、猫を思わせる優雅さがある。

「ハジメマシテ。きみ、アリスちゃんだよね?ボクはマリム。ボク、ずっとキミと話してみたかったんだぁ~」

突如現れた冒険者マリムは、加えていた棒付きキャンディーを音を立てて噛み砕き、いたずらっ子のように笑った。
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