【完結】長い眠りのその後で

maruko

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第三章 長い眠りのその後で

私の出した答え

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side ラデイール (ミラー侯爵令嬢)

──────────────

私は子供の頃から母と父に大切に育てられた。
充分な教育も愛情も、時には怒られることもあったけれど私に世の中の理を教える為だったし、そして父は正義の人だった。

私の父は理不尽なことが我慢ならない人だった。
それはもう頑固なほど。

でもそんな父は私の誇りで私は父の背中を見て育ったのでしょう。
私もその点は父に似ていた。
周りが見て見ぬ振りをしている事を我慢できずに口を出してしまう。

だから他家の子息達からは怖がられていた。
私は口も立つのだ。
反対に令嬢達からは懐かれた、私としては当たり前の事をしてるつもりだったけれど、慕ってもらえるのはとても嬉しかった。

結婚してその頑固さ故なのか婚家ではとても疎まれた。
18歳で嫁いで来た私だったが、この婚姻は政略でもなくお相手の同じ家格の侯爵家の嫡男に見初められての婚姻だったのに、彼は母親に頭の上がらない人だった。
交際していた時は愛想の良かった義母は結婚して暫くしてから態度が豹変してしまった。

義母の八つ当たりを目の前で見てしまいメイドを庇ったのが原因だ。

私の正義感に満ち溢れた凛とした態度が好きだと言ってくれていた夫は義母の豹変から、こちらも態度が変わってしまった。

この理不尽な扱いに最初は我慢できなくて、何度もミラー侯爵家じっかに帰ろうかとか父に助けを求めようかと考えたけれど、長女の私が好きになった人と結婚したいが為に、本来継ぐはずのない侯爵家の後嗣になって後継者教育を頑張ってくれてる妹や優しい母の顔を思い浮かべて耐える事に決めた。

でもギクシャクした関係はやはり上手くはいかない。
夫は次第に家に帰ってこなくなり他所に女を作ったようだった。
これには我慢が出来なかった、この国は一夫一妻制の国だ、ただの浮気なら100歩譲ってまだ許せるが彼は帰ってこなくなって半年が経過している。
何故離縁してから行動を起こしてくれなかったのか、これでは泥沼だ。

私が離縁に応じないとでも思われたのか?
この私が?
やはり理不尽な行いは最初に正さないとこんな事になるのだと学んだ。

この事を父に相談する為にミラー侯爵家に帰ったのだが父も母も様子がおかしかった。
皆歓迎してくれて晩餐も美味しく頂いて食後の珈琲を飲んでいる時に二人の様子に気づいた。
何か言いたいけれど言えないような感じ。
まさか私の離縁に反対なのかしら?
まだ相談する前だったけれど他に理由の思いつかない私は相談するかどうかを決めあぐねていた。
そこへ妹が察してくれたのか話しかけてくれた。

「お姉様、突然の帰省ですけれど婚家で何かありましたの?」

私はやっぱり話す事に決める。

「えぇ実は旦那様が他所に女を作ってるようなの、ただの浮気では無い様で半年家には帰ってきてないのよ。私は第二夫人は認めたくないわ、だってこの国は一夫一妻制でしょう。だから離縁したくてお父様に相談させて貰おうと思って帰ってきたの」

私の話を聞いた途端、父と母が二人揃って帰ってこいと言ってくれた。
どちらも青スジが立っていて怖い。
そのまま離縁の話をするのかと思っていたのだけど、父が意を決した様に別の思いもかけない話を始めた。

私が生まれたばかりの頃に合った誘拐事件、子供の取り替え。
そして私の本当の出自。
父も母も泣きながら話してくれるのだけど「それでもお前は私達の娘だ」と言ってくれたけれど、私は、私は。

いつも理不尽な行いを正してきたつもりだけど、間違ったことは修正しないと気がすまないのだけれど⋯。

私はこの家の間違いだったの?

頭が妙に冷えた気分、水を被ったみたいな。
本当のミラー侯爵家の長女はスパナート伯爵家の養女だった。
彼女の事は一度お茶会で会って苦言を呈したことがある。
下位貴族の令嬢を虐めていたからだけど、後で聞いたら先にその令嬢が孤児院出の彼女をやんわりと馬鹿にした事が解って後日謝罪の手紙を送った。お詫びをしたかったけれど返事がなくて母から伝えてもらった事がある。

あの方は孤児院で育っていた、本当は私のはずだったのに、申し訳無さが腹の奥から湧き上がり胸に突き刺さる気分だ。

暗く下を向いていたら妹のクラリスが慰めてくれる。

「お姉様のせいではないです。赤子が理不尽に攫われて、私じゃなかったみたい申し訳ないと言って歩いて戻れますか?そんな事できるわけ無いでしょう。
この家で悪いのはその誘拐に加担した侍女だけです。しかも長年何食わぬ顔でここで働いていたなんて信じられないわ。だからお姉様はちっとも悪くないです。そしてお姉様はお姉様です。だって17年私のお姉様なのですよ。今更違うと言われても態度は変えられないですわ。王族なのに不敬に問わないで下さいましね」

クラリスの軽口が身にしみます。
そうよ、私は悪くない。
これからも胸を張ってミラー侯爵家の娘で居たいです。

「お父様、お母様、クラリス。
私はこのままで、ミラー侯爵の娘でいたいのですがよろしいでしょうか?
ここへ帰ってきても宜しいでしょうか?」

「ありがとう、ラデイール。今回の件ではお前の気持ちに委ねられたんだ。私の娘のままで居てくれるなんて、こんなに嬉しいことはない。遠慮せず帰ってこい。このまま家にいればいい。離縁の手続きは私に任せて家でのんびりするんだよ」

「ラデイール貴方は私の大事な娘よ。王家になんか渡すものですか、良かった、よく決心してくれて嬉しいわ」

「お姉様これからもよろしくお願いしますね」

みんなに歓迎されて嬉しさが胸にこみ上げてきました。
キャンベラ様の気持ち次第ですが、もし彼女がこちらに来たいと言うなら弟にも話さないといけないけれど、それは彼女の返事待ちと言う事になりました。

改めて考えさせられたのです。
正義とは?
もし正義を正すのであれば私は王家に行かなければならないのでしょう。
でも私達は正義を選びませんでした。

今回の件で正義にも色々あるんだと頭の固かった私が学んだ事でした。
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