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第三章 長い眠りのその後で
お粗末な国の企み
しおりを挟む高い買い物をしたことで、俺の高揚感がかなり高くなっていた。
ほら、誰でも高い買い物するとなんかハイテンションになるだろ?
俺65万の買い物なんて人生初めてだよ。車も免許しか持ってなかったしな。
時間を見ると16時。
ファースが腹が減ったと伝えて来たので、ダニアさん達誘って飯に行くことにした。お礼何もできてなかったからな。
「イーサさん、今日食事一緒にどうですか?」
「行きたいのはやまやまなんだが…さっきの子供がな」
「え?まだ終わってないんですか?」
あれから結構立つぞ。それでもまだ終わってないらしい。
ダニアさんが優しく宥めてもダメ。食べ物出してもダメ。怒ってもダメであぐねいてるらしい。
少しダニアさんに話したいこともあったけど、これは次の機会にするかと思った時に、ガチャっとタメ息を付きながらダニアさんが部屋から出て来た。
「お疲れ様です」
「あぁ、ケンか。本当に困ったもんだ。なんにも喋らないんじゃな…。連れてくしかないのか…はぁ」
「連れてくって犯罪を取り締まってる場所にですか?」
「あぁ。本当は連れて行きたくないんだがな。誰か迎えに来てくれればな」
ダニアさん曰く街には犯罪をしたものを取り扱う場所があるそうだ。
そこで罪ごとに処罰が決められ最悪は奴隷落ち。
軽い罪なら街の整備などの労働や罰金で終わることもあるらしい。しかし窃盗は重罪。1回であれば罰金で済むらしいが、それは引き取り手がいるなどの保証がしっかりしている者に限る。
身元保証人がいない子供は孤児院送りになり、そこで罰金を払えるまで内職のような労働させられるそうだ。それもあまり噂が良くない。
詳しいことはダニアさんもよく知らないらしいが、身元がいない子供が孤児院送りで悲惨な目に合ってるって話しは聞いたことがあるからな。
今回は、女店主が許してくれてるから罪には問われないが、あまりにも多くの人間に見られ過ぎた。誰が通報してもおかしくない。
それなら最初に行って自白して、誰が通報しても問題ないようにしておくのが得策らしい。店の者が許しても、窃盗は窃盗。後から罪を問われることもあるからなって。
すごい窃盗に厳しい世界だな。
「いかにも一般人のお前の方が話しやすいかもしれない。少し話してみてくれないか?悪いんだが…」
「え、えぇ。話すぐらいなら。日頃お世話になってますから」
「悪いな」
——ガチャッ——
小さな明り取りのための窓がある無機質な部屋のイスに、ポツンと座る女の子。小さな天井の明かり1つが女の子を照らす。
こりゃ話すに話せないだろ。こんな中で大人の男が話しかけたら委縮しそうだ。
「こんにちは。俺はケン。こっちがファース。スライムだけど強いんだよ」
しゃがみ込んで女の子よりも目線を低くしてみるが、無反応。
女の子は虚ろな目元。しかもずぶ濡れだったのを少しタオルで拭いた程度なんだろう。
髪は乾いているように見えるが、服はまだ湿っているように見えた。
「ファース、後でお前が好きなフルーツケーキ買ってやるから乾かしてあげてくれ」
本当だな?と俺を見てくるので、絶対買ってやるからと伝えると、ブワッと女の子を包み込んだ。
ビックリしてイスから立ち上がりそうになったところをファースに包まれて動けなくなる。ほどなくしてファースが離れると、俺を見てくる。
「服は乾いたかな?」
「えっ……乾いてる…」
「女の子は体冷やすのはダメだからね」
昔、従姉の姉ちゃんが女に寒さは大敵なのよー!と煩かったからな。女は冷やしちゃいけない生き物なんだとインプットされている。
「あと、これリンゴ食べる?スライムが好きだから今日買っておいたんだ。まだいっぱいあるからどうぞ」
「…スライムがリンゴ食べるの?」
「そうなんだよ。このスライム何でも食べるんだよ。ほらファース食べて見せてあげてよ」
リンゴを宙に投げると、ファースがスタッ飛び上がりリンゴを吸収消化していく。ほれもういっちょっとやってたら、ようやく女の子が笑ってくれた。
「おじさん、変なスライム連れてるのね」
「おじ…せめて、ケンさんと呼んで…」
この子から見たら、俺はおじさんだよ。でも、まだおじさんと呼ばれるには抵抗がある年齢だ。
もう少し年を重ねた時には、甘んじておじさんを受け入れるけど、今はまだ止めてくれ。
「ねぇ、どうしてリンゴ盗んだりしたの?」
「……………から」
「え?」
「お金が無いから」
そりゃごもっともな答えなんだけど、お金が無いから盗んでいいとはならない。
「ご両親は?」
「お母さんは私が小さい時に死んだって。お父さんは女の人と出て行って帰って来てない…」
「そっか…」
なんて酷い父親だ。
こんな幼い子を残して女連れて出て行っただと?この子一人でどうやって食べて生きて行かせるつもりだったんだ。それとも何か?女が出来れば子供は関係ないのか?
すごい腹に来る話しだな。
「今まで毎日盗んで暮らしてたの?」
「盗んだのは今日が初めてなの!本当よ!でも、お兄ちゃんが…お店クビになっちゃって、一生懸命探してくれてるんだけど、見つからなくて、自分の大切なモノ全部売ってご飯食べさせてくれてるから、私もお兄ちゃんにご飯食べさせてあげたかったの…」
泣きながら話してくれる女の子。なんて良い子なんだ。この子のお兄ちゃんもなんて妹思いの子なんだ。
それに話しを聞く限り、仕事ができる年齢の兄はいるってことだ。それなら、その兄が身元保証人になってくれるだろう。さっそくダニアさんに伝えに行こう。
「一緒にお兄ちゃんに謝ろう?これもなにかの縁だ。な?」
「お兄ちゃん…許してくれるかな…」
「許してくれるさ。こんなに心が優しい子なんだから」
その子の手を引き部屋の外へ出ると、ダニアさんが話しが聞けたのか?と聞いてきたため事情を伝える。
ダニアさんが、兄貴連れてくるから待ってろよと女の子から住所を聞き兄を呼びに外へと出かけた。
俺の手をギュッと握る温もりが、不安感を伝えてくるようで可哀そうに思えた。
ほら、誰でも高い買い物するとなんかハイテンションになるだろ?
俺65万の買い物なんて人生初めてだよ。車も免許しか持ってなかったしな。
時間を見ると16時。
ファースが腹が減ったと伝えて来たので、ダニアさん達誘って飯に行くことにした。お礼何もできてなかったからな。
「イーサさん、今日食事一緒にどうですか?」
「行きたいのはやまやまなんだが…さっきの子供がな」
「え?まだ終わってないんですか?」
あれから結構立つぞ。それでもまだ終わってないらしい。
ダニアさんが優しく宥めてもダメ。食べ物出してもダメ。怒ってもダメであぐねいてるらしい。
少しダニアさんに話したいこともあったけど、これは次の機会にするかと思った時に、ガチャっとタメ息を付きながらダニアさんが部屋から出て来た。
「お疲れ様です」
「あぁ、ケンか。本当に困ったもんだ。なんにも喋らないんじゃな…。連れてくしかないのか…はぁ」
「連れてくって犯罪を取り締まってる場所にですか?」
「あぁ。本当は連れて行きたくないんだがな。誰か迎えに来てくれればな」
ダニアさん曰く街には犯罪をしたものを取り扱う場所があるそうだ。
そこで罪ごとに処罰が決められ最悪は奴隷落ち。
軽い罪なら街の整備などの労働や罰金で終わることもあるらしい。しかし窃盗は重罪。1回であれば罰金で済むらしいが、それは引き取り手がいるなどの保証がしっかりしている者に限る。
身元保証人がいない子供は孤児院送りになり、そこで罰金を払えるまで内職のような労働させられるそうだ。それもあまり噂が良くない。
詳しいことはダニアさんもよく知らないらしいが、身元がいない子供が孤児院送りで悲惨な目に合ってるって話しは聞いたことがあるからな。
今回は、女店主が許してくれてるから罪には問われないが、あまりにも多くの人間に見られ過ぎた。誰が通報してもおかしくない。
それなら最初に行って自白して、誰が通報しても問題ないようにしておくのが得策らしい。店の者が許しても、窃盗は窃盗。後から罪を問われることもあるからなって。
すごい窃盗に厳しい世界だな。
「いかにも一般人のお前の方が話しやすいかもしれない。少し話してみてくれないか?悪いんだが…」
「え、えぇ。話すぐらいなら。日頃お世話になってますから」
「悪いな」
——ガチャッ——
小さな明り取りのための窓がある無機質な部屋のイスに、ポツンと座る女の子。小さな天井の明かり1つが女の子を照らす。
こりゃ話すに話せないだろ。こんな中で大人の男が話しかけたら委縮しそうだ。
「こんにちは。俺はケン。こっちがファース。スライムだけど強いんだよ」
しゃがみ込んで女の子よりも目線を低くしてみるが、無反応。
女の子は虚ろな目元。しかもずぶ濡れだったのを少しタオルで拭いた程度なんだろう。
髪は乾いているように見えるが、服はまだ湿っているように見えた。
「ファース、後でお前が好きなフルーツケーキ買ってやるから乾かしてあげてくれ」
本当だな?と俺を見てくるので、絶対買ってやるからと伝えると、ブワッと女の子を包み込んだ。
ビックリしてイスから立ち上がりそうになったところをファースに包まれて動けなくなる。ほどなくしてファースが離れると、俺を見てくる。
「服は乾いたかな?」
「えっ……乾いてる…」
「女の子は体冷やすのはダメだからね」
昔、従姉の姉ちゃんが女に寒さは大敵なのよー!と煩かったからな。女は冷やしちゃいけない生き物なんだとインプットされている。
「あと、これリンゴ食べる?スライムが好きだから今日買っておいたんだ。まだいっぱいあるからどうぞ」
「…スライムがリンゴ食べるの?」
「そうなんだよ。このスライム何でも食べるんだよ。ほらファース食べて見せてあげてよ」
リンゴを宙に投げると、ファースがスタッ飛び上がりリンゴを吸収消化していく。ほれもういっちょっとやってたら、ようやく女の子が笑ってくれた。
「おじさん、変なスライム連れてるのね」
「おじ…せめて、ケンさんと呼んで…」
この子から見たら、俺はおじさんだよ。でも、まだおじさんと呼ばれるには抵抗がある年齢だ。
もう少し年を重ねた時には、甘んじておじさんを受け入れるけど、今はまだ止めてくれ。
「ねぇ、どうしてリンゴ盗んだりしたの?」
「……………から」
「え?」
「お金が無いから」
そりゃごもっともな答えなんだけど、お金が無いから盗んでいいとはならない。
「ご両親は?」
「お母さんは私が小さい時に死んだって。お父さんは女の人と出て行って帰って来てない…」
「そっか…」
なんて酷い父親だ。
こんな幼い子を残して女連れて出て行っただと?この子一人でどうやって食べて生きて行かせるつもりだったんだ。それとも何か?女が出来れば子供は関係ないのか?
すごい腹に来る話しだな。
「今まで毎日盗んで暮らしてたの?」
「盗んだのは今日が初めてなの!本当よ!でも、お兄ちゃんが…お店クビになっちゃって、一生懸命探してくれてるんだけど、見つからなくて、自分の大切なモノ全部売ってご飯食べさせてくれてるから、私もお兄ちゃんにご飯食べさせてあげたかったの…」
泣きながら話してくれる女の子。なんて良い子なんだ。この子のお兄ちゃんもなんて妹思いの子なんだ。
それに話しを聞く限り、仕事ができる年齢の兄はいるってことだ。それなら、その兄が身元保証人になってくれるだろう。さっそくダニアさんに伝えに行こう。
「一緒にお兄ちゃんに謝ろう?これもなにかの縁だ。な?」
「お兄ちゃん…許してくれるかな…」
「許してくれるさ。こんなに心が優しい子なんだから」
その子の手を引き部屋の外へ出ると、ダニアさんが話しが聞けたのか?と聞いてきたため事情を伝える。
ダニアさんが、兄貴連れてくるから待ってろよと女の子から住所を聞き兄を呼びに外へと出かけた。
俺の手をギュッと握る温もりが、不安感を伝えてくるようで可哀そうに思えた。
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