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第三章 長い眠りのその後で
帰国のはずが⋯⋯。sideマーク
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その国はマッケナン王国。
この大陸には大小合わせて13もの国が連なってお互いが牽制しながらもいい関係を築き、何とか戦争という最悪にならないように友好を繋いでいる。
その数多の国の中でもマッケナン王国は下から数えた方が早い小国で特産物もなく、ここ数年は近隣諸国の慈悲で保っているような国だ。
私はその国で生まれ育った。
家はポート子爵家。だが、かろうじて貴族という感じで領地もなく両親と私を含めた4人兄妹で細々と暮らしていた。
私の家は代々長男が後継という訳ではない。
当主が各々の適性を見極め騎士、文官、そして後継を決める。
私マーク・ポートは12歳になった時に後継に選ばれた。
因みに兄は文官、弟は騎士だ。妹は何故か子供の頃から上位貴族の教育を受けている。
私が後継に選ばれた時、兄から何か言われるのでは、と危惧したが兄は全く動じず粛粛と文官になるべく勉学に励んでいた。
そんなある日マッケナン王国よりも遥かに大きなソルジャー王国から我が家に使者が来た。
王宮魔術師団長ロバット・ヘンデル様だ。
父は上にも下にも置かない歓待ぶりで私達兄妹は驚いた。
ロバット様は兄、私、弟を3人並べて品定めを始める。
そして横や後ろを向かされたりローブを羽織らされたり、何をやらされているのかさっぱり解らない状況で結果私が選ばれた。
遠いソルジャー王国のメイナード公爵家、嫡男サンディル様の影武者を最短で8年担う様にと言われる。
父は2つ返事で恭しく了承しているが私は驚きのあまり声も出なかった。
そんな私の様子を見た兄がフォローに入ってくれる。
「父上、ソルジャー王国は大国ではありますが我が家とはどのような関係なのですか?縁もゆかりもない国へ我が家の継嗣を軽々しく影武者などと納得がいきません」
「今は詳しい事は言えない、が我が家はメイナード家の分家だという事は言ってもよかろう。云えに本家の意向は絶対だ」
「「「!!!」」」
4人兄妹全員唖然とした。母は驚いていないので知っていたのだと思う。
何故大国の分家なのにこんな弱小国に我が家は住んでいるのだろう?⋯⋯なんの為に?
疑問はあったがロバット様がとにかく急ぎなのだと言って簡単な旅支度をさせられ次の日には出発した。
そういえば夕食の時にロバット様が手紙を父に渡していてその手紙を読んだ父はがっくり肩を落としていた。
妹の婚姻先がソルジャー王国では無くなったと母に言っていた。
妹はまさかの大国に嫁ぐ予定だったのか!
旅の始まりに本来であれば転移でソルジャー王国に行きたいが、帰りはおそらく私だけになるので、いくつかの国を経て目指す事にするとロバット様から言われた。
国を出た事が無かった私は影武者という任務の事は忘れて大いに旅を楽しんだのだが、旅の途中で不思議に思う事もあった。それは立ち寄る国に必ずと言っていいほどロバット様は歓迎されており宿などには止まらず、その国の伯爵家やはたまた男爵家、平民の所もあった。
何故そんなに知り合いがいるのか不思議でしょうがなかった私がその理由を知ったのは、サンディル様の影武者を勤め上げ、マッケナンに帰る直前に聞かされる。
「マーク長い間本当にありがとう。君のおかげで王命を滞りなく遂行する事が出来た。
約束通りこの国では君の生家はサンダー伯爵家となる。父上や母上が希望するならば帰国も叶えるゆえその旨伝えてほしい」
ウィルハイム様が私を労って下さるなんて!
それだけでもこの国に来たかいがあったのかもしれない。我が家の任務を聞いた後だったので、殊の外嬉しかった。
まさか我が家がこの国の間諜などとは思いもしなかった。
ロバット様が立ち寄った国でもてなしてくれた家も全てがメイナード家の分家で間諜だった。
しかもどの家もかなり古くから担っているとは各国も気づかないだろう。
それほど根付いていた、勿論我が家も。
今後は私がその役目を任命されたので心してかからねば。
幸いにして影武者をする為に魔力解放から指南までロバット様が請負って下さったので、マッケナン王国にいるであろう魔力持ちには負けないと思う。
帰ったら父が見張ってる元アッパールの夫人と娘を捕らえてソルジャー王国へ送るという新しい勅命も受けた。
今は急いで帰国の途につく。
──────────────
約9年ぶりの我が家に着いたのだが、長い間公爵邸で過ごした為とてつもなく小さい邸に見えてしまう。
慣れとは恐ろしい、早くこの小ささに慣れるというより戻さなければ。小さな子爵家故門番なども居らず真っ直ぐに目指すポート家の執務室へ。
執務室では父と兄が居た。忙しなく書類を見ていた顔を上げ私の顔を見た瞬間、父が涙を流した。
「マーク!帰るなら連絡してくれれば良かったのに突然帰るから出迎えもできなかったよ」
兄が帰国を労うように抱き締めてくれる。
その兄に笑顔を振りまき先ずは父の前へ
「父上ただいま戻りました。無事に任務完了です。
新たな任務についてはまた後ほどお話させて頂きます」
「お、お帰り。無事に戻ってきてくれて⋯ありがとう、ありがとうマーク我が家の為にありがとう」
父は余程嬉しかったのか、この国にいる時には一度も無かったのに、椅子から立ち上がり私を労うために抱き締めて下さった。
その後、母や弟妹も集まりみんなで涙で抱き合う。
兄が旅の穢れを払って落ち着いて食事にしようと提案してくれたので、自室に戻り湯浴みをしてさっぱりすると帰国したという実感が湧いてきた。
ウィルハイム様からの手紙を自室に戻る前に父に渡していたのだが、夕食後に皆で応接間に集まるように言われ、手紙の事で全員に話があると父が言う。
皆で応接間に集まり茶を飲んでいると徐に父が話し出す。
「先ずはマークの帰国が大変喜ばしいのは勿論だが、セイラにも縁談を頂いたんだ。
その話をする前に皆に我が家の事を話す」
父は我が家がソルジャー王国の間諜を担った家である事を話した、私も知らなかったが、なんと我が家がこの国に根付いたのは凡そ130年前らしい。間諜の歴史が凄い。
そしてメイナードの本家の嫡男の嫁候補も今回は合ったのだという。
サンディル様が誰も見初めなければ我が家の妹の他にも5人程がソルジャー王国へ行儀見習いとして行きお見合いの予定だったそう。
9年前に嫁ぎ先が無くなったと言っていたのは、アディル様がいるのでそれが無しになったという事だったのだな。
そして今回の妹の嫁ぎ先はダルトン様の兄らしく、父はサンディル様の乳兄弟の方に繋げて頂いたと喜んでいる。
それから今後は、このマッケナン王国は潰すつもりなので家族全員でソルジャーへ帰国する様にとの命令だそうだ。
私は帰ったばっかりなのだが⋯⋯⋯。
相変わらずの無茶振り。
流石ウィルハイム様だ、もう諦めた。
次の日には元アッパール夫人と娘を捕らえ、王家に爵位返上をして、なんと4日後にはマッケナン王国を旅立った。
逆に間者を作らないように使用人全員に暇を出し、何件かあるうちの分家も含めての大移動。
最短で2つの国を跨げば辿れるので、転移を使ったがソルジャーに着く頃には疲弊していた。
結局私は約1ケ月を往復しただけで、ソルジャー王国の方々からは少し留守をしていたマーク扱いだった。
極めつけはアディル様
「あらマーク様、暫くお顔を見てなかったけれどお元気でした?団長様に無理な仕事でも頼まれたのかしら?
私、先程お義母様に習ってクッキーを作りましたの、良かったら召し上がってくださいませ」
と言って黒い塊の乗った籠を渡された。
これは、何の拷問だろうか?
この大陸には大小合わせて13もの国が連なってお互いが牽制しながらもいい関係を築き、何とか戦争という最悪にならないように友好を繋いでいる。
その数多の国の中でもマッケナン王国は下から数えた方が早い小国で特産物もなく、ここ数年は近隣諸国の慈悲で保っているような国だ。
私はその国で生まれ育った。
家はポート子爵家。だが、かろうじて貴族という感じで領地もなく両親と私を含めた4人兄妹で細々と暮らしていた。
私の家は代々長男が後継という訳ではない。
当主が各々の適性を見極め騎士、文官、そして後継を決める。
私マーク・ポートは12歳になった時に後継に選ばれた。
因みに兄は文官、弟は騎士だ。妹は何故か子供の頃から上位貴族の教育を受けている。
私が後継に選ばれた時、兄から何か言われるのでは、と危惧したが兄は全く動じず粛粛と文官になるべく勉学に励んでいた。
そんなある日マッケナン王国よりも遥かに大きなソルジャー王国から我が家に使者が来た。
王宮魔術師団長ロバット・ヘンデル様だ。
父は上にも下にも置かない歓待ぶりで私達兄妹は驚いた。
ロバット様は兄、私、弟を3人並べて品定めを始める。
そして横や後ろを向かされたりローブを羽織らされたり、何をやらされているのかさっぱり解らない状況で結果私が選ばれた。
遠いソルジャー王国のメイナード公爵家、嫡男サンディル様の影武者を最短で8年担う様にと言われる。
父は2つ返事で恭しく了承しているが私は驚きのあまり声も出なかった。
そんな私の様子を見た兄がフォローに入ってくれる。
「父上、ソルジャー王国は大国ではありますが我が家とはどのような関係なのですか?縁もゆかりもない国へ我が家の継嗣を軽々しく影武者などと納得がいきません」
「今は詳しい事は言えない、が我が家はメイナード家の分家だという事は言ってもよかろう。云えに本家の意向は絶対だ」
「「「!!!」」」
4人兄妹全員唖然とした。母は驚いていないので知っていたのだと思う。
何故大国の分家なのにこんな弱小国に我が家は住んでいるのだろう?⋯⋯なんの為に?
疑問はあったがロバット様がとにかく急ぎなのだと言って簡単な旅支度をさせられ次の日には出発した。
そういえば夕食の時にロバット様が手紙を父に渡していてその手紙を読んだ父はがっくり肩を落としていた。
妹の婚姻先がソルジャー王国では無くなったと母に言っていた。
妹はまさかの大国に嫁ぐ予定だったのか!
旅の始まりに本来であれば転移でソルジャー王国に行きたいが、帰りはおそらく私だけになるので、いくつかの国を経て目指す事にするとロバット様から言われた。
国を出た事が無かった私は影武者という任務の事は忘れて大いに旅を楽しんだのだが、旅の途中で不思議に思う事もあった。それは立ち寄る国に必ずと言っていいほどロバット様は歓迎されており宿などには止まらず、その国の伯爵家やはたまた男爵家、平民の所もあった。
何故そんなに知り合いがいるのか不思議でしょうがなかった私がその理由を知ったのは、サンディル様の影武者を勤め上げ、マッケナンに帰る直前に聞かされる。
「マーク長い間本当にありがとう。君のおかげで王命を滞りなく遂行する事が出来た。
約束通りこの国では君の生家はサンダー伯爵家となる。父上や母上が希望するならば帰国も叶えるゆえその旨伝えてほしい」
ウィルハイム様が私を労って下さるなんて!
それだけでもこの国に来たかいがあったのかもしれない。我が家の任務を聞いた後だったので、殊の外嬉しかった。
まさか我が家がこの国の間諜などとは思いもしなかった。
ロバット様が立ち寄った国でもてなしてくれた家も全てがメイナード家の分家で間諜だった。
しかもどの家もかなり古くから担っているとは各国も気づかないだろう。
それほど根付いていた、勿論我が家も。
今後は私がその役目を任命されたので心してかからねば。
幸いにして影武者をする為に魔力解放から指南までロバット様が請負って下さったので、マッケナン王国にいるであろう魔力持ちには負けないと思う。
帰ったら父が見張ってる元アッパールの夫人と娘を捕らえてソルジャー王国へ送るという新しい勅命も受けた。
今は急いで帰国の途につく。
──────────────
約9年ぶりの我が家に着いたのだが、長い間公爵邸で過ごした為とてつもなく小さい邸に見えてしまう。
慣れとは恐ろしい、早くこの小ささに慣れるというより戻さなければ。小さな子爵家故門番なども居らず真っ直ぐに目指すポート家の執務室へ。
執務室では父と兄が居た。忙しなく書類を見ていた顔を上げ私の顔を見た瞬間、父が涙を流した。
「マーク!帰るなら連絡してくれれば良かったのに突然帰るから出迎えもできなかったよ」
兄が帰国を労うように抱き締めてくれる。
その兄に笑顔を振りまき先ずは父の前へ
「父上ただいま戻りました。無事に任務完了です。
新たな任務についてはまた後ほどお話させて頂きます」
「お、お帰り。無事に戻ってきてくれて⋯ありがとう、ありがとうマーク我が家の為にありがとう」
父は余程嬉しかったのか、この国にいる時には一度も無かったのに、椅子から立ち上がり私を労うために抱き締めて下さった。
その後、母や弟妹も集まりみんなで涙で抱き合う。
兄が旅の穢れを払って落ち着いて食事にしようと提案してくれたので、自室に戻り湯浴みをしてさっぱりすると帰国したという実感が湧いてきた。
ウィルハイム様からの手紙を自室に戻る前に父に渡していたのだが、夕食後に皆で応接間に集まるように言われ、手紙の事で全員に話があると父が言う。
皆で応接間に集まり茶を飲んでいると徐に父が話し出す。
「先ずはマークの帰国が大変喜ばしいのは勿論だが、セイラにも縁談を頂いたんだ。
その話をする前に皆に我が家の事を話す」
父は我が家がソルジャー王国の間諜を担った家である事を話した、私も知らなかったが、なんと我が家がこの国に根付いたのは凡そ130年前らしい。間諜の歴史が凄い。
そしてメイナードの本家の嫡男の嫁候補も今回は合ったのだという。
サンディル様が誰も見初めなければ我が家の妹の他にも5人程がソルジャー王国へ行儀見習いとして行きお見合いの予定だったそう。
9年前に嫁ぎ先が無くなったと言っていたのは、アディル様がいるのでそれが無しになったという事だったのだな。
そして今回の妹の嫁ぎ先はダルトン様の兄らしく、父はサンディル様の乳兄弟の方に繋げて頂いたと喜んでいる。
それから今後は、このマッケナン王国は潰すつもりなので家族全員でソルジャーへ帰国する様にとの命令だそうだ。
私は帰ったばっかりなのだが⋯⋯⋯。
相変わらずの無茶振り。
流石ウィルハイム様だ、もう諦めた。
次の日には元アッパール夫人と娘を捕らえ、王家に爵位返上をして、なんと4日後にはマッケナン王国を旅立った。
逆に間者を作らないように使用人全員に暇を出し、何件かあるうちの分家も含めての大移動。
最短で2つの国を跨げば辿れるので、転移を使ったがソルジャーに着く頃には疲弊していた。
結局私は約1ケ月を往復しただけで、ソルジャー王国の方々からは少し留守をしていたマーク扱いだった。
極めつけはアディル様
「あらマーク様、暫くお顔を見てなかったけれどお元気でした?団長様に無理な仕事でも頼まれたのかしら?
私、先程お義母様に習ってクッキーを作りましたの、良かったら召し上がってくださいませ」
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