【完結】長い眠りのその後で

maruko

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第三章 長い眠りのその後で

先に進めない side魔術師団長2ー➀

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今私はチェリーナに頭を下げている。
チェリーナは産まれて半年の赤子を胸に抱きシンディ医師はチェリーナの脈を取っている。

「団長、私にどうしろと?」

やっと口を開いてくれたチェリーナは困った様な顔をして私を見ている。

10日前に過去戻りをしたサンディルが無事に戻った。
それは大変喜ばしく知らせを聞いた私は直ぐ様メイナード公爵邸に向かった。
だが公爵邸は騒然としており出迎えてくれたテモシーは半泣きだ。

私とテモシーは幼馴染で、何十年も彼を見ていた私は、半泣きの彼など見た事もない。
「何があったんだ?」疑問を口にしたがここでは話せないらしい。

ちっサンディル絡みか、つい舌打ちをしてしまう。
彼の過去戻りは一部の者しか知らないので、こんな廊下などでは話せないのだろう。
サンディルの部屋には、ウィルハイム様、ティアラ様、ドーラン、(仮)もといマークが床にへたり込んでいるサンディルを囲んでいた。

ティアラ様がそのサンディルを揺さぶりながら詰ってる。
これはどういう状況だ?
私達が入った後、誰も入れないように結界をと思ったらウィルハイム様に止められた。

「まだ、呼んでる者がいるんだ」

なんと!あのいつも余裕シャクシャクで人を食ったようなウィルハイム様まで意気消沈している。
ここで、いるべき人物がいないのに気づき、空気も読まず聞いてしまった?

「あれアディルがまだだな、あぁアディルが来てないから止めたんですね。アディルなら勝手に開けるでしょう」

言った途端テモシーに背中を叩かれた。
更に空気が重くなる。
テモシーに背中を押されマークの部屋に連れて行かれようとした時、その人物が入ってきた。

「申し訳ありません。もう追いかけられません。どうも魔法を使ったらしく既にアディル様は到着されてます。うちの馬車も御者毎、魔法で送り返されておりました」

何だそれは⋯⋯私の背中を押しながらマークの部屋へ誘導していたテモシーを振り返ると、それを聞いたテモシーが⋯⋯⋯泣いているんだが。

そのままマークの部屋に入り事情を聞くことに。

サンディルとマークの話しか聞いてないので詳細がよく解らないらしいが、昨夜目を覚ましたサンディルは思いもかけずアディルが目の前に居て、驚きすぎて前後不覚になりアディルが挨拶するのも無視して、顔も見ることも拒否してしまい、怒ったアディルが実家に帰ったと⋯。

あいつは何をやってるんだ、思春期の少年じゃあるまいし好きな子に恥ずかしがって顔も見れないなんて⋯⋯ここまで考えてハタと気づく。

そうだよサンディルは過去戻り前は15歳、思春期真っ只中ではないか。
そのまま過去に8年居たとしても意識だけだ。
心が成長してるわけないじゃないか。

これは思ったよりも事態は深刻では?

サンディルの部屋に戻ったら、まだティアラ様がサンディルを責めている。

「ティアラ様、責めないでやってください」

「ロバット⋯でも、この子は⋯⋯情けない」

「皆さんお忘れですか?サンディルは15歳で過去に戻ったのです。世間的な年齢は23歳でも、大人の都合で振り回した彼はまだ15歳なんですよ」

全員がシンと黙った。
静寂を破ったのは先程あとから入ってきた男だ。
この男は以前サンディルの侍従じゃなかったか?何度か見かけたことがある。
彼はサンディルの側に行くと跪き

「サンディル様お久しぶりです。無事にお戻りになり大変喜ばしく思います」

「ダルトン、何故お前がここに?」

「今私はアディル様の秘書をさせて頂いてます。
ですがサンディル様がお許しになられましたら暫くサンディル様の侍従に戻りたいのですが、お許しいただけますか?」

「⋯⋯⋯許す」

「ありがとうございます。ではお召し物を着替えましょう。お疲れでしょうから風呂にも入り頭をスッキリさせましょう」

サンディルが彼の手を取り立ち上がる。
その光景は周りから見ると少し異様に映る。
大の男が大の男に手を引かれてるのだから、だがこれを強いたのは我々だ。

私達はとりあえずサンディルをダルトンに任せて部屋を移り話し合いをする事にした。


──────────────


応接室に全員で入り結界を張る。

「サンディルがあの調子なら過去を見るのは暫く無理だな」

「母親なのにあの子の状態に気づけなくて⋯⋯ロバットありがとう」

メイナード前公爵夫妻は意気消沈している。

「アディルは迎えに行かなくてもいいのかい?」

テモシーに聞くとドーランと共に首を振っている。

「暫く放っておいてくれと伝言が⋯⋯」

「そうか⋯⋯私も手紙を送って見るよ。アディルが何に怒ってるのかちゃんと聞かないとだめだろう?」

「そうだな、ロバットその手紙は私が書こう。奥様が何に怒ってるのかちゃんと聞くなら私の手紙の方がいい」

「なんでだよ」

「団長、テモシーの方がいいと私も思います。彼の事は奥様は大変信頼されてるので」

ドーランとテモシーに言われて渋々手紙の権利は譲った。

それなのに結局この日から1週間たって二人は私に泣きついてきたんだ。
だから最初から私に任せろって言ってるんだ。

テモシーの手紙にはやはり信頼の証かもしれないが返信がアディルから来たらしいのだが、そこには離縁も視野に入れていると書いてあったそうで、それを見たサンディルは益々落ち込んで勝手に結婚させたからだと邸でマークとウィルハイム様に当たり散らしてるらしい。

とりあえずサンディルは精神を成長させて欲しいのだが。

私もそれからスパナート伯爵邸に来たのだがアディルの弟が邸に入れてくれずアディルに会う事も出来ない。
魔法で入ろうとしたのだが弟は魔力量は私と同等で返り討ちに合う。
アディルと話も出来ないので、先に進まない。
途方に暮れた私はチェリーナに頼もうと馬車を飛ばし捲って⋯⋯冒頭に戻るだ。

困った時のチェリーナなんとかしてくれ
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