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第二章 サンディル過去戻り編
第二章 ④
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とうとうメリルが誕生した。
生まれた時、側にはスパナート伯爵家の主治医と看護師、アディルの祖母、祖母が世話係に付けていたメイドの4人が見守っていた。
ティーナは疲れきって眠っている。
産まれた日の夜、ジョイがスパナート伯爵家の離れに忍んでやって来た。
二人で話しをしているのだが、ティーナがずっと泣き続けていて話しにならない。
ジョイはダンテ商会の会長の紹介で王都を離れるからティーナも子供も一緒に行こうと言っている。
ティーナは子供を見たくない、連れて行きたくないと言ってるが、ジョイが説得してる。
けれど、ジョイも連れて行きたくなさそうだ。
二人にとっては、イヤな事を思い出してしまう子だもんな。
子供に罪はないけれど、本当にないんだけれど⋯⋯。
二人に同情もしてしまう。
明後日迎えに来るって言ってるな。
次の日アディルの祖母と祖父が来て修道院の話をティーナにしていた。
ティーナは二人に頭を下げまくっている。
世話をしてくれたお礼だろう、泣きながら頭を下げるティーナに祖母が優しく声をかけて「子供の名前は?」と聞いてるが、まだ決めてないと言ってるな。
昨日から見ているがティーナは一度も子供を抱いていない。
その時メイドが赤ん坊にお乳をと言って連れてきた。
ティーナに渡そうとしてるが、ティーナが受け取らない。
でも赤ん坊は泣き続けている。
無理に赤ん坊をティーナに抱かせようとメイドが渡した拍子に赤ん坊が床に落ちた瞬間、魔法が発動した。
初めに使った魔法は治癒だったんだな。
落とされたのに泣かない赤ん坊を、直ぐに祖母が抱き上げて「大丈夫、怪我もしてないわ。強い子ね」言いながら祖母が優しくティーナの背中を擦って諭して、やっと抱き上げてお乳をやった。
お乳をやってる顔が凄いな。
本当に嫌々やっている、「そんな顔しないで」と祖母が言ってるけど祖母には笑顔で返すが赤ん坊には鬼の形相だ。
全身で嫌いと表現している母親とその乳を必死に飲んでいる赤ん坊。俺は背筋が寒くなった。
約束通りジョイが迎えに来たが結局ティーナは赤ん坊を置いていった。
俺はジョイ達に付いて行った。
馬車にジョイの母親も乗っていた。
3人で出発するようだ。
ジョイも母親もティーナが赤ん坊を抱いていない事に何も言わない。
3人の暗黙の了解なのだろうな。
それから馬車はミラー地方に着いた。
ミラー侯爵の領地だ。
あそこの長女が俺と同い年だったな。
一軒の家に着いたがそこそこ大きめな家だ。
ダンテ商会の支店にするつもりなのか、隣に店舗のような建物が建っている。
ここで新生活だな。
赤ん坊の事は俺があれこれ言うものでもない。
まぁ3人で頑張ってくれ。
──────────────
ティーナがいなくなった後メイドに言われてアディルの祖母と祖父が離れに来ている。
二人で途方にくれていたが
「こんな事になる気がしたわ。
こんなにお金を置いていって、何処から持ってきたのかしら?」
「子供の父親じゃないか?」
「誰か解ってたって事ですか?でもそれなら何故アーチーと結婚したのかしら?
最初から子供の父親と結婚すれば問題はなかったじゃない。こんなにお金を置いて行けるならサイフェル侯爵家に渡せるし」
俺は悶々としている二人を眺めていた。
あのお金は赤ん坊を連れてこなかったティーナを見て一旦ジョイが引き返し置いて来たものだ。
手紙を置こうとして、それを懐にしまっていた。
手紙を添えるのは止めたのだろう。
赤ん坊のベッドの側に来て彼女を眺めて頭を撫でていた⋯泣きながら「すまない」と言っていて俺は胸が詰まった。
部屋を出る時、頭を深々と下げていた。
そして馬車に乗るときはスパナート伯爵邸に向けて二人で頭を下げていた。
──────────────
「だからお人好しと言ってるんですよ、母上。
あの女はいらない娘を押し付けたかっただけでしょう」
スパナート伯爵邸のいつもの応接室。
「でも養育費を置いて行ったからサイフェル侯爵家もこの娘を引き取ってくれるわ」
「母上はあの家にこの娘を渡すのですか?
あの家の事だ、金だけ受け取って子供は放置か虐げて育てるに決まってるじゃないですか。それなら孤児院の方が100倍もこの娘にとってマシですよ」
「それは、そうね。でも孤児院に預けてもこのお金をこの娘の為に使うかはわからないでしょう。
⋯⋯ねぇアーチー私がこの娘を育てるわ。
どうせ貴方はこの家の跡取りを分家から養子に取るんでしょう。
それならその養子と結婚させてここを継がせましょう。
もしこの娘が養子を嫌がって他に結婚したい人が出来たらこのお金を持参金にして嫁がせましょう」
「母上の好きにしてください。
ではこれで私の結婚の話はもうしないでくださいね」
「わかったわ。ねぇ貴方いいでしょう?」
「お前の好きにすればいいよ。私はお前に協力するだけだ。一緒に育てよう、そうだこのまま離れで3人で住もうか」
「いい考えね」
二人を残してスパナート伯爵は部屋を出てため息を付いていた。
本当にあの祖母殿は凄いな。
そして祖父は言いなりだな。
部屋の中では二人が名前はどうしましょうか?とか
私達の籍に入れたら流石に直ぐに養女だとバレて傷つくわ、アーチーの戸籍に入れましょうとか
乳母は誰にする?とか
祖母が若返ってるみたいだ。
赤ん坊は幸せを運ぶって本当なんだな。
こんなにしてもらったのに何故あの女はあんなにアディルを虐めたんだ?
これをあの女に見せたい。
自分がいかに恵まれていたんだって事を。
生まれた時、側にはスパナート伯爵家の主治医と看護師、アディルの祖母、祖母が世話係に付けていたメイドの4人が見守っていた。
ティーナは疲れきって眠っている。
産まれた日の夜、ジョイがスパナート伯爵家の離れに忍んでやって来た。
二人で話しをしているのだが、ティーナがずっと泣き続けていて話しにならない。
ジョイはダンテ商会の会長の紹介で王都を離れるからティーナも子供も一緒に行こうと言っている。
ティーナは子供を見たくない、連れて行きたくないと言ってるが、ジョイが説得してる。
けれど、ジョイも連れて行きたくなさそうだ。
二人にとっては、イヤな事を思い出してしまう子だもんな。
子供に罪はないけれど、本当にないんだけれど⋯⋯。
二人に同情もしてしまう。
明後日迎えに来るって言ってるな。
次の日アディルの祖母と祖父が来て修道院の話をティーナにしていた。
ティーナは二人に頭を下げまくっている。
世話をしてくれたお礼だろう、泣きながら頭を下げるティーナに祖母が優しく声をかけて「子供の名前は?」と聞いてるが、まだ決めてないと言ってるな。
昨日から見ているがティーナは一度も子供を抱いていない。
その時メイドが赤ん坊にお乳をと言って連れてきた。
ティーナに渡そうとしてるが、ティーナが受け取らない。
でも赤ん坊は泣き続けている。
無理に赤ん坊をティーナに抱かせようとメイドが渡した拍子に赤ん坊が床に落ちた瞬間、魔法が発動した。
初めに使った魔法は治癒だったんだな。
落とされたのに泣かない赤ん坊を、直ぐに祖母が抱き上げて「大丈夫、怪我もしてないわ。強い子ね」言いながら祖母が優しくティーナの背中を擦って諭して、やっと抱き上げてお乳をやった。
お乳をやってる顔が凄いな。
本当に嫌々やっている、「そんな顔しないで」と祖母が言ってるけど祖母には笑顔で返すが赤ん坊には鬼の形相だ。
全身で嫌いと表現している母親とその乳を必死に飲んでいる赤ん坊。俺は背筋が寒くなった。
約束通りジョイが迎えに来たが結局ティーナは赤ん坊を置いていった。
俺はジョイ達に付いて行った。
馬車にジョイの母親も乗っていた。
3人で出発するようだ。
ジョイも母親もティーナが赤ん坊を抱いていない事に何も言わない。
3人の暗黙の了解なのだろうな。
それから馬車はミラー地方に着いた。
ミラー侯爵の領地だ。
あそこの長女が俺と同い年だったな。
一軒の家に着いたがそこそこ大きめな家だ。
ダンテ商会の支店にするつもりなのか、隣に店舗のような建物が建っている。
ここで新生活だな。
赤ん坊の事は俺があれこれ言うものでもない。
まぁ3人で頑張ってくれ。
──────────────
ティーナがいなくなった後メイドに言われてアディルの祖母と祖父が離れに来ている。
二人で途方にくれていたが
「こんな事になる気がしたわ。
こんなにお金を置いていって、何処から持ってきたのかしら?」
「子供の父親じゃないか?」
「誰か解ってたって事ですか?でもそれなら何故アーチーと結婚したのかしら?
最初から子供の父親と結婚すれば問題はなかったじゃない。こんなにお金を置いて行けるならサイフェル侯爵家に渡せるし」
俺は悶々としている二人を眺めていた。
あのお金は赤ん坊を連れてこなかったティーナを見て一旦ジョイが引き返し置いて来たものだ。
手紙を置こうとして、それを懐にしまっていた。
手紙を添えるのは止めたのだろう。
赤ん坊のベッドの側に来て彼女を眺めて頭を撫でていた⋯泣きながら「すまない」と言っていて俺は胸が詰まった。
部屋を出る時、頭を深々と下げていた。
そして馬車に乗るときはスパナート伯爵邸に向けて二人で頭を下げていた。
──────────────
「だからお人好しと言ってるんですよ、母上。
あの女はいらない娘を押し付けたかっただけでしょう」
スパナート伯爵邸のいつもの応接室。
「でも養育費を置いて行ったからサイフェル侯爵家もこの娘を引き取ってくれるわ」
「母上はあの家にこの娘を渡すのですか?
あの家の事だ、金だけ受け取って子供は放置か虐げて育てるに決まってるじゃないですか。それなら孤児院の方が100倍もこの娘にとってマシですよ」
「それは、そうね。でも孤児院に預けてもこのお金をこの娘の為に使うかはわからないでしょう。
⋯⋯ねぇアーチー私がこの娘を育てるわ。
どうせ貴方はこの家の跡取りを分家から養子に取るんでしょう。
それならその養子と結婚させてここを継がせましょう。
もしこの娘が養子を嫌がって他に結婚したい人が出来たらこのお金を持参金にして嫁がせましょう」
「母上の好きにしてください。
ではこれで私の結婚の話はもうしないでくださいね」
「わかったわ。ねぇ貴方いいでしょう?」
「お前の好きにすればいいよ。私はお前に協力するだけだ。一緒に育てよう、そうだこのまま離れで3人で住もうか」
「いい考えね」
二人を残してスパナート伯爵は部屋を出てため息を付いていた。
本当にあの祖母殿は凄いな。
そして祖父は言いなりだな。
部屋の中では二人が名前はどうしましょうか?とか
私達の籍に入れたら流石に直ぐに養女だとバレて傷つくわ、アーチーの戸籍に入れましょうとか
乳母は誰にする?とか
祖母が若返ってるみたいだ。
赤ん坊は幸せを運ぶって本当なんだな。
こんなにしてもらったのに何故あの女はあんなにアディルを虐めたんだ?
これをあの女に見せたい。
自分がいかに恵まれていたんだって事を。
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