【完結】長い眠りのその後で

maruko

文字の大きさ
上 下
12 / 50
第一章 公爵夫人になりました

私の過去 3ー➀

しおりを挟む
少し強めの金色が光に透けて眩しい。
精悍で美しい顔は時折目を細めて私を値踏みしている。
その横で幼き日に見惚れた清らかな淑女が私に微笑んでおられます。
対象的な二人の表情に少し戸惑いながら彼の方のお言葉をため息を噛み殺し待っていると、やっとお声がかかりました。

「貴方がアディルね、顔を上げて私はマリエンヌ。よろしくね」

真っ直ぐに下ろしている紫色の髪には一つも装飾品を付けておらず、町娘が着るようなワンピースをお召になった王妃陛下は私に優しい笑みを向けております。
何故此処に王妃様が⋯⋯?
聞きたいけれども聞けないこの状況。
考える事を放棄したいです。

「お目にかかれて光栄です、アディル・メイナードです。お会い出来た幸運に感謝申し上げます」

「エンヌがね。貴方に会いたいって言ってたから呼んじゃったの、突然でごめんなさいねアディル」

公爵家別邸についてエントランスに足を踏み入れた途端に抱きついてきた美しい義母は、私に可憐な笑顔で謝って来られましたが緊張しすぎて返事に窮します。
私の胸の内は先程から
来なければよかった⋯⋯。
来なければよかった⋯⋯。
掛け巡っております。

「アディルそんなに緊張しなくていいよ。
邪魔なお人は居るけど本題に入ろうか」

邪魔とは?不敬も甚だしいのですが。
お義父様、私はこんな場に慣れてないのですから少しは気を使ってくださいませ。

「テモシーやドーランが会わせてくれないんだよ。君を囲い込んでね。私達は君が嫁いで来るのを心待ちにしていたというのに」

「テモシー達は貴方に会わせたくないのよ、だから私は本邸に行くと言ってるのに貴方が駄目っていうから、私まで会えなかったわ」

「行かせるわけ無いだろう。あいつがいるじゃないか」

「子供みたいなヤキモチ焼いてる貴方が悪いのよ」

美貌の夫婦のイチャイチャ掛け合いとそれを見て爆笑している王妃様。
カオスだわ。
来なければよかった⋯⋯。
来なければよかった⋯⋯。
来なければ⋯来ちゃったのよね~。
確か昨日後悔先に立たずと学んだのではなかったかしら私。

「ねぇ誰が話すの~、私でもいいわよね!」

「私が話すよ、義姉上が話し始めたら止まらないし感情のまま話すだろう」

「エンヌそうしましょう、長くなるし私達はアディルのフォローに回りましょうよ」

「解ったわ、しょうがない。譲ってあげるわよ義弟」

「承知。アディル今からとても大事な事を話すよ。君の母上チェリーナは、まだ君が若いから駄目だと言ったけれどもう嫁いで来られたからね。
それにテモシーからの報告でかなりのしっかり物と聞いているし愚鈍でもない。本当に噂とは宛にならないな。聞く勇気はあるかな?」

聞く勇気とは?
色々とお義父様は仰いますが、ここまでの流れで聞きませんという勇気のほうを持ち合わせてないですわ。
お義父様の目をしっかり見て頷きました。

話を聞いたのですけど⋯⋯。
私が聞かされていた話と根本的に違っていて、ん?まぁ合ってるところもありますけど。
反応しかねます。

「では、陛下の夢見はただ王族を探してるだけではないと言うことですわね」

「そうだよ、他国がうちを制圧しようと考えてる。
それは何故か、魔法が蔓延ってないから簡単に制圧出来ると思われてるからなんだ。
昔からちょっかいは出されてたんだけど、うちの魔術師団は割と優秀なんだよ。数は少ないけれどね。
でも頭打ちで払っても払っても他国ハエが集ってくるからさ。
兄上も五月蝿くってしょうがなかった所に夢見だからね。最初は面倒くさいもん見てんなよ、とは思ったけどこれを機に一掃しようと思ってさ。
一回叩きのめしたら他国にも牽制になるかなってね」

国盗りの話をされるとは夢にも思いませんでしたわ。
テモシーやマリーまで使って、こんな回りくどく私を呼んだのは何故かしら?

「国の目星は付いてらっしゃるのですか?」

「あぁ、大陸の地図で見るならうちから2つ先この国だよ」

「えっ?この国は⋯⋯」

「そうあいつのいた国だ」

その国はマーク様の居られたお国でした。
マーク様は知ってらっしゃるのかしら?

「あいつは知らないんだよ、敢えて教えてない。
まだ国にあいつの親が残ってるからね。
あいつは家の役目も教えられてないし影武者の話しを断らせない為にも教えない事にしたんだ」

「家の役目ですか⋯。」

「まぁね。簡単にいうとあいつのとこは代々あの国に置いてるうちの間諜なんだ、もう何十年もね。メイナード家の歴史は学んだかな?」

「はい、嫁ぐ前に学ばせて頂きましたがそのような記述はありませんでした。でも書けないことですものね」

メイナード家は今から200年程前、当時の第三王子様が臣籍降下して誕生されましたお家柄です。
その後は王族とあまり遜色なく扱われていらっしゃいます。
ですが、代々のご当主様はあまり国の重鎮ではなく中枢には入っておられないとも聞いておりましたが、どうやら違うようですね。

メイナード公爵家うちは王家の保険なんだ。代々ね。王家の血を絶やさぬように存在している。
だから私のように養子に入って継ぐ事もある。
但し嫡男以外は他の国に行かなければならない決まりもあるんだ、そしてそこで一生を暮らす。勿論身分の保証などはない。だからかなりの厳しい生活を余儀なくされた者もいるよ。王族であっても王家ではないというのを刻まれた家なんだ」

また難しいことを⋯。そんな事をして反発する方はいらっしゃらないのかしら?

「私もそう思うよ」

「!!」

「びっくりしたかい?
私はね、魔力はないけど生まれた時から不思議な力を宿してる。
邪な考えを持っていない者の考えは読めるんだよ。便利なようで便利じゃない、中途半端な力だけどね」

え~怖いですわ。

「ごめんごめん。怖がらせちゃって」

思考停止するしかないかしら?無理ね。

「苦しいお力ですね」

「⋯⋯そんな表現をしたのは君が二人目だな。サンディルは見る目があったという事か」

「貴方良かったわね。でもさもありなん彼女はチェリーナの娘よ。当然だわ、悪い娘なわけないでしょう」

「そうだね。さて君は周りからの自分の噂は知ってるかい?」

そう訊ねられて私の気持ちは途端に暗くなりました。
過去の嫌な思い出が纏わり付くようで両手で自分を抱きしめます。
辛かった、悲しかった、けれども表面には一切出さないように努めていました。
それを流したのが誰なのかを知った時の絶望。
暫くは人を信じることが出来ませんでした。
彼女達に救われるまでは⋯⋯⋯。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

ゼラニウムの花束をあなたに

ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

王妃の鑑

ごろごろみかん。
恋愛
王妃ネアモネは婚姻した夜に夫からお前のことは愛していないと告げられ、失意のうちに命を失った。そして気づけば時間は巻きもどる。 これはネアモネが幸せをつかもうと必死に生きる話

人形となった王妃に、王の後悔と懺悔は届かない

望月 或
恋愛
「どちらかが“過ち”を犯した場合、相手の伴侶に“人”を損なう程の神の『呪い』が下されよう――」 ファローダ王国の国王と王妃が事故で急逝し、急遽王太子であるリオーシュが王に即位する事となった。 まだ齢二十三の王を支える存在として早急に王妃を決める事となり、リオーシュは同い年のシルヴィス侯爵家の長女、エウロペアを指名する。 彼女はそれを承諾し、二人は若き王と王妃として助け合って支え合い、少しずつ絆を育んでいった。 そんなある日、エウロペアの妹のカトレーダが頻繁にリオーシュに会いに来るようになった。 仲睦まじい二人を遠目に眺め、心を痛めるエウロペア。 そして彼女は、リオーシュがカトレーダの肩を抱いて自分の部屋に入る姿を目撃してしまう。 神の『呪い』が発動し、エウロペアの中から、五感が、感情が、思考が次々と失われていく。 そして彼女は、動かぬ、物言わぬ“人形”となった―― ※視点の切り替わりがあります。タイトルの後ろに◇は、??視点です。 ※Rシーンがあるお話はタイトルの後ろに*を付けています。

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

婚約者を親友に盗られた上、獣人の国へ嫁がされることになったが、私は大の動物好きなのでその結婚先はご褒美でしかなかった

雪葉
恋愛
婚約者である第三王子を、美しい外見の親友に盗られたエリン。まぁ王子のことは好きでも何でもなかったし、政略結婚でしかなかったのでそれは良いとして。なんと彼らはエリンに「新しい縁談」を持ってきたという。その嫁ぎ先は“獣人”の住まう国、ジュード帝国だった。 人間からは野蛮で恐ろしいと蔑まれる獣人の国であるため、王子と親友の二人はほくそ笑みながらこの縁談を彼女に持ってきたのだが────。 「憧れの国に行けることになったわ!! なんて素晴らしい縁談なのかしら……!!」 エリンは嫌がるどころか、大喜びしていた。 なぜなら、彼女は無類の動物好きだったからである。 そんなこんなで憧れの帝国へ意気揚々と嫁ぎに行き、そこで暮らす獣人たちと仲良くなろうと働きかけまくるエリン。 いつも明るく元気な彼女を見た周りの獣人達や、新しい婚約者である皇弟殿下は、次第に彼女に対し好意を持つようになっていく。 動物を心底愛するが故、獣人であろうが何だろうがこよなく愛の対象になるちょっとポンコツ入ってる令嬢と、そんな彼女を見て溺愛するようになる、狼の獣人な婚約者の皇弟殿下のお話です。 ※他サイト様にも投稿しております。

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

婚約破棄され家を出た傷心令嬢は辺境伯に拾われ溺愛されるそうです 〜今更謝っても、もう遅いですよ?〜

八代奏多
恋愛
「フィーナ、すまないが貴女との婚約を破棄させてもらう」  侯爵令嬢のフィーナ・アストリアがパーティー中に婚約者のクラウス王太子から告げられたのはそんな言葉だった。  その王太子は隣に寄り添う公爵令嬢に愛おしげな視線を向けていて、フィーナが捨てられたのは明らかだった。  フィーナは失意してパーティー会場から逃げるように抜け出す。  そして、婚約破棄されてしまった自分のせいで家族に迷惑がかからないように侯爵家当主の父に勘当するようにお願いした。  そうして身分を捨てたフィーナは生活費を稼ぐために魔法技術が発達していない隣国に渡ろうとするも、道中で魔物に襲われて意識を失ってしまう。  死にたくないと思いながら目を開けると、若い男に助け出されていて…… ※小説家になろう様・カクヨム様でも公開しております。

処理中です...