【完結】長い眠りのその後で

maruko

文字の大きさ
上 下
7 / 50
第一章 公爵夫人になりました

後悔先に立たず

しおりを挟む
本物のサンディル様が眠りについているので実質私が公爵家でやる事は魔力供給のみ。
公爵家のお仕事はサンディル様が帰還なさってから覚えると私の母が前公爵様と約束したそうです。
万が一にも帰還できなかった場合や他の不測の事態に陥った場合の保険とテモシーは申しておりました。
よく解らないのですが、まぁ下手に公爵家の仕事を覚えて秘密でも知ってしまったら簡単に離縁など出来ませんものね。
母の意向であると言うならば納得もしました。
でも1日がとても暇なのです。

マーク様は昼間は魔術師団のお仕事にお出かけしてます。
サンディル様が眠りについてなんと7年!
そんなに長く過去に戻ったままで無事に帰ってこれるのでしょうか?
私が疑問を口にしたらマーク様がそんな怖い事言うな!それじゃあ僕は一生このままじゃないかと半泣きで私を睨み付けておりました。
えっ私のせいですか?。

マーク様は御年16歳でこちらに連れて来られたそうです。
その時サンディル様は15歳(一つ違いなのですね)
まさに王宮魔術師団に入るための試験に合格したばかりだったそうです。
マーク様はサンディル様に成り代わらなければならない為、そのまま魔術師団所属になったみたいです。
魔力はそこそこしかないのに大変だったと仰られましたが、私の見立てではそこそこでは無いと思います。
一応私も結構な魔力保持者なので他者の魔力は鑑定できます、と言ってもまだまだ未熟者ですが。

私も王宮魔術師団に入ろうかと思っていたのですが何故か両親に反対されました。
祖父母などは名誉な事と喜んでいたのですが、そこで働く母が娘に苦労させたくないと仰ったので、母の意見が通りましたの。
私も入りたいなとは思ってましたが両親の反対を押し切ってまでの情熱は持ってませんでしたので素直に従いました。
そもそも志望動機は暇だから魔術書を沢山読みたいという物でしたので、読まなきゃ読まないで別に生きてはいけますし、そんなに重要でもないですので。

そんな話を暇だったのでお茶をしながらテモシーに零したら、魔法書でしたら公爵家の図書室に大量にありますと教えてくれました。
偉いテモシー。


ゆっくりお茶を堪能した後テモシーの案内で図書室へ向かいました。
司書に魔術の本をと申しましたら、魔術の本は王宮にしかなく、魔法ならありますと言われたのですが、魔術と魔法の違いは何ぞや、から私は勉強しなければならないみたいです。
別にどっちでもよくないですか?
誰に向けた訳でもない文句は喉元で控えさせました。

司書が何冊か選んで来ると申しましたので、私は図書室の2階に上がりました。
1階は蔵書が光に当たらないように室内を工夫していて、割と薄暗いので慣れない者が見ても、何処に何があるやらと探すのに一苦労しそうでしたので助かりました。
2階は思ったよりも広めで壁際に小さめのまるテーブルと一人掛け用のソファが交互に置いてありました。
明り取り用でしょうか、丸い窓がインテリアの用に壁に交互に設置されていて、一つ一つが塞ぐことができるようになっておりました。
本に気を配った設計なのでしょう。
部屋の真ん中には何故か小さめのベッドが置いてありますがこれは一体なんの為?と疑問に思ってテモシーの方を向くと苦笑しながら

「そちらはサンディル様が幼少時にここでよく寝てしまっていたので前奥様がご用意した物です。
ある程度大きくなってからはここでお休みになる事はなくなりましたが、思い出だからとそのままにしております。家人以外ここに入る人はいないので今までは気に留めませんでしたが、奥様が気になるようでしたら撤去させますので」

「このままでいいわ、大切な思い出なのでしょう。
それに苦言を呈するほど狭量ではなくてよ」

「承知いたしました、奥様お飲み物はどうされますか?先程召し上がったばかりですので、頃合を見てご用意しようと思いますが、奥様の好みが御座いましたら教えて頂けますと直ぐに手配できます」

「お茶の好みはあまりないけど、紅茶は好きよ。ありがとうテモシー、あなたが居てくれて嬉しいわ。
昨日から信じられない事ばかり聞くから心の整理もあまり出来てないの。
でも嫁いだ先に有能な家令がいたからとても救われたわ、これからもよろしくね」

「奥様、精一杯務めさせて頂きます。
なんでもお申し付けくださいませ、ではこちらでゆっくりお過ごしください」

テモシーと入れ替わるように司書が本を手に入ってきた。
先程テモシーに紹介された時、彼女はスノーと名乗った、少し気になったので魔力を確認してみる。
やはり微量に魔力持ち、本人は自覚してないみたいね。
壁際のソファの一つに腰掛けるとスノーは1冊ずつ本の説明をしながらテーブルに置いていく。
初心者用の魔法書を持ってきたみたい。
そういえば私はちゃんと魔法を習ったことがないから、これは有り難いかも、お礼を言うと少しびっくりした顔をされたけど何故かしら?

先ず初歩の初歩だとスノーが言った本を手に取る。
魔術と魔法の違いが書いてあった。なるほどね、これを見せたかったのね。私を下に見たのか、それとも本当の親切心か⋯⋯。そのうちわかるでしょう。
それに知らないのも事実だしね。

魔術と魔法の違い⋯⋯。
色々書いてるけど一緒じゃない!
呼び方が違うだけ。
何なの?
これをみるにスノーは私を女主人と認めていないのね。
年なのか、家格なのか、両方か。
それとも他にも理由があるのか。侮られたものね。
「はっっっ!」乾いた声が自然と出る。
こういうのは早めに対処しないと凝りが残る。

本を手に取りそのまま図書室を出る。
退出する時にスノーに声をかけられたが無視した。
自室に戻りベルを鳴らす。
メイドが入ってきたのでテモシーを呼ぶよう言いつけた。

少ししてノックの音、テモシーがやって来た、私の早い戻りに何かを感じていたのだろう。

「奥様、お呼びと伺いました」

「テモシー。使用人の紹介は朝してもらったけれど何名か漏れていたかしら?」

「と、言いますと、何か不手際がありましたか?」

「えぇそうね、不手際といえば不手際。
先ず、先程のスノーは朝の挨拶の時には見かけなかったわ。
他の使用人を詳しく知らないからスノーだけなのか、他にもいるかわからないの。何名ほどいたのかしら?」

「私が見たところ本日休暇を取ってる者が3名と他にスノーを入れて6名です。
朝の奥様とのお目通りに来なかったのは9名になります。
そのうちの2名は既に解雇しました」

「仕事が早くて助かるけど、残した7名の中で遺恨のある者はいるのかしら」

「休暇を取っている者の中の2名は魔術師団の仕事を回されている者ですので、こちらは前日でしたが認めました。残りの1名は身内の不幸と聞いておりますが監視をつけております。
スノーとその他の3名は前旦那様の許可がないと解雇出来ない契約になっております」

ふ~んそうか。それ以外の2名を解雇してくれたのね、身内の不幸の使用人が嘘をついていたらそちらも調べるつもりで手配してる。
なんでこんなに有能なのテモシー最高だわ。

「テモシー完璧ね。でも王弟様のご命令でも私は納得できないのよね。
さてさて、手紙を書こうと思うの。準備してもらえるかしら?」

「畏まりました。奥様、専属侍女の選定が遅れてしまって申し訳ありません。
選んだ中に解雇者がいましたので少々時間がかかっております。それこそこちらの不手際で大変ご不便をおかけしております」

あぁそれで侍女の紹介がなかったのね。
テモシーにしてはおかしいと思っていたけど選んでいた中に不穏分子がいたなんて長く勤めていた子から選んだのかもしれないわね。

「スノーの経歴を教えてもらえるかしら?」

「スノーは前公爵様が7年前に連れてこられました。
生家は没落したアッパール伯爵家です」

「アッパール伯爵、確かご嫡男が亡くなってから急に財政悪化した家よね。瞬く間に没落したと聞いてたけれど詳細はわかる?
私が祖母から聞いたのが5年くらい前なのだけど、祖母も詳しい事は言わなかったのか、知らなかったのか」

「アッパール伯爵家のご当主のスダンは昔、前公爵様の側近だったのですが前公爵様がこちらに養子に入った時に、その関係は解消されました」

昔王弟の側近って事は、もし王位継承が王弟になった場合の為の仮の側近だったわけね。
まぁ侍従であったなら公爵家に連れて来ただろうけど、それ以外は実質解雇も一緒だわ。フムフム。

「関係が解消された後も、スダンから時折手紙は届いておりましたが、前公爵様は読んでもすぐ廃棄されておりました。私には中身は見る必要がないと仰ってました。
ただ、9年前にスダンの息子から手紙が来た時にはサンディル様を呼ばれましてお二人で王宮へ行かれました、その後は私には詳しい事は聞かされておりませんが、噂でよろしければお話できます。
信憑性の有無に関しましては私の知る範疇で無いため調べておりませんが⋯⋯」

「噂でいいわよ。祖母の話も噂でしょうから⋯⋯。
何も知らずにでは対処できないから教えて貰えるかしら」

「承知致しました。元々アッパール家は王家の影ではないかと噂がありました、しかし本物の影でしたら噂になる事自体おかしいので、その噂自体皆本気にしてませんでした。しかし実際に4代前のご当主は影だったようです」

「えっ?何故わかったのかは後で聞くけれども、王家の影はそれ自体が秘匿されなければならないから、一代のみっておかしいわよね。代々続くものではないのかしら?」

「奥様の仰るとおりです。これが解ったのは前陛下が教えて下さったのです。4代前までは影だったが3代前のアッパール家は不適格となりお役御免となったそうです。不適格の理由は明かされておりません」

代々の影の家系が不適格になり、それからは没落の一途だったのね。
そもそも没落しかけてたって事か。

「スダンの素行は昔から良いものではなかったので切ったと前公爵様が仰ってましたので、そもそも王族の側仕えが務まる者ではなかったのに、経緯は王妃様の口利きだったようです」

「前王妃様ではなく今の王妃様って事?
変な伝手なのね。推挙出来る程の力が今の王妃様にあるとは思えないのだけど」

現在の王妃様は、可もなく不可もなくという何とも失礼な理由で選ばれたと聞いたのだけど、本当は違ったのかしら?

「今の王妃様は表向きには大人しい方ですが、中身はとてつもなく激しい性格をしてらっしゃっいます。自分の思うとおりにいかないと癇癪を起こす、とんでもない女性です」

「テモシー言い過ぎでは?
どうして王妃様の性格まで貴方は把握しているの?」

「そういう女という演技をしています」

えっ?どういう事なの。
スノーの素性を調べるつもりが王家の裏の話になりそうで、訊ねてしまった自分の失敗を思い知ってしまった。
どうしましょうか、これ以上深入りしたくはないけど、それだと本末転倒だし⋯⋯。
悩む私にテモシーの合いの手のようなトドメが入る

「奥様、続きを聞かれますか?
これ以上は話せませんという範囲は越えてしまっておりますが」

テモシー、そういうのはもっと早く言って欲しかった。
後悔先に立たずって学んだわ。
長くなりそうな話を聞くためにしたくもない覚悟を決めました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

心を失った彼女は、もう婚約者を見ない

基本二度寝
恋愛
女癖の悪い王太子は呪われた。 寝台から起き上がれず、食事も身体が拒否し、原因不明な状態の心労もあり、やせ細っていった。 「こりゃあすごい」 解呪に呼ばれた魔女は、しゃがれ声で場違いにも感嘆した。 「王族に呪いなんて効かないはずなのにと思ったけれど、これほど大きい呪いは見たことがないよ。どれだけの女の恨みを買ったんだい」 王太子には思い当たる節はない。 相手が勝手に勘違いして想いを寄せられているだけなのに。 「こりゃあ対価は大きいよ?」 金ならいくらでも出すと豪語する国王と、「早く息子を助けて」と喚く王妃。 「なら、その娘の心を対価にどうだい」 魔女はぐるりと部屋を見渡し、壁際に使用人らと共に立たされている王太子の婚約者の令嬢を指差した。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した

基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。 その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。 王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。

処理中です...