【完結】長い眠りのその後で

maruko

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第一章 公爵夫人になりました

魔術師団は大変だ side魔術師団長

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私は魔術師団長を長年勤めている。
主な仕事は魔力を持って生まれた者の保護だ。
まぁたまに目撃報告があった時に魔物を森に帰したり討伐したり、魔法の研究したりとか他にも仕事はあるが、一番は魔力持ちの捜索だ。

魔力持ちはこの国には殆どいない、が全く居ないわけでもない。
なにせ魔力持ちの条件がよくわかってないのだ。
血が関係する事は間違いないが、魔力を持ってるものから産まれても魔力持ちであることの方が少ない。
貴族だけが持ってるわけでもない。
何故なら平民でも何代か遡ると市井に下った貴族だったり、庶子だったりするからだ。
簡単に隔世遺伝が闊歩してるので希少な魔力持ちを探す事が最重要事項になる。
こちらが情報を掴まないと、変に隠れたり隠したりして悪事に利用されたりするからな。

魔力持ちの中には生涯魔法を発動しない者もいる、魔力持ちの魔法発動の原理に命の危機があるからだ。
だから本人が命の危機を感じなければ魔力を持っていても魔法を発動することはない。
そういった者は監視対象になる、監視しとかないといつ魔法を使うかわからないから監視も大変なんだ。
この役目は膨大な魔力を持ってる者が中る。
監視対象よりも強い魔力を持たないと対処が出来ないというのが理由でもあるし、膨大な魔力持ちは魔力感知も出来るので魔法を発動すれば直ぐにわかるからだ。

幾ら人手があっても足りないのに元々の素養がある者が少ない上、全員が魔術師団に入るわけでもない。
万年人手不足で私の悩みの種は尽きないのに、更に頭を抱える事が起きる。

何が王命だ、しかも夢見だと?
簡単に探れとか言うんじゃねぇよ!と怒鳴りたいのを我慢して私は先ずチェリーナに相談した。
彼女は侯爵家の生まれで今は伯爵夫人だ。
彼女が今いる伯爵家はとんでもなかった。
まだ独身だった頃のチェリーナから報告を受けた時も頭を抱えたし、彼女が結婚した後の報告も仰天するものばかりだ。

先ず彼女の夫アーチー・スパナートは無自覚の魔力持ちだ。
任務で彼を監視していたチェリーナは何時しか彼を愛した事を自覚して私に相談してきた。
監視対象と結婚は有りなのか?と相談を受けた私は暫く考えたが有りだと答えた。
恋慕は誰にも止められないからだ。
その代わり監視の役目も忘れない事を誓わせた。
魔力感知は相手を信頼していると曇ってしまう事もあるから難しいとは思うが、それが魔術師団の仕事なのだからしょうがない。
それでも側に居たいと願い、彼女は彼の前に姿を現した。
果たして彼は彼女と愛を育み二人は結婚した。
チェリーナは己の恋慕をコントロールしたのだろうか、実によくやってくれている。

彼女が結婚した後、また仰天する報告があった。
なんと、彼の夫の養女が魔力持ちだったのだ、養女がいる事も驚いたがその娘が魔力持ちだとは、これは偶然なのか?
チェリーナの報告では偶然も偶然、何故ならその娘はアーチー・スパナートの知らぬ間に戸籍に入っていたらしい。
あの伯爵家は何を考えてるのだ。

魔力持ちの魔力量を我々は細かく分けている。
上からSS  S  A  A'  B  B'  C  C' と8段階だがチェリーナは更に上を行くSSSだ。
彼女の魔法が悪事に染まらなかったのはこの国にとって僥倖だ。

養女は既に発動済みで幼い子どもが命の危機に晒されたことに胸を痛めた。
幸いにして魔力量はBだったので、大した魔法を発動することはないが、その娘も監視対象にするとチェリーナは報告してきた。
その娘は承認欲求がかなりの強めで、魔力量が少ないにも関わらず軽い精神魔法を使用しようとするらしいのでそれを阻止する為とその娘の矯正の為だ。

その後チェリーナは二人の子供を授かったのだが、両親が魔力持ちで有るので当然といえば当然だし奇跡といえば奇跡だ、二人とも魔力持ちだった。
しかも娘の方はチェリーナを凌ぐ、いやチェリーナよりも上の可能性が高い。
そんな魔力量は私の人生で見たこともなかった。
息子は私と同じSSだった。
二人とも驚いた事に産まれて3日目には無意識に魔法を発動していた。
産まれた赤子が命の危機にあったとはチェリーナ何をしていたとその時ばかりは彼女を叱責した。
が、彼女も出産直後で動けない所だったと思い出し謝罪したがある意味魔力持ちで良かった。
そうでなければ二人とも亡くなっていたのだから。
これもその養女の画策による物と知って益々監視を厳しくし、矯正も上手くいってなかったのだとチェリーナは臍を噛んでいた。
まぁ承認欲求の原因が愛情不足ならチェリーナには難しいだろう。
なんせ愛してないのだからな当然だ。
誰でも夫の戸籍に勝手に入っていた娘を愛せとは無理だ。
それでもチェリーナは頑張っていたのだが、ここで公爵家が余計なことをした。

私は王弟でもあるメイナード公爵に抗議したのだが、彼は私の抗議という名の説教を右から左に受け流し相手にもしない。
あの王にしてさもありなん兄弟は似るのだなと呆れた。
兄は夢見だと騒ぎ出し、弟は追い打ちをかけるように騒ぎを大きくする。
何が婚約打診だ。
これ以上チェリーナの負担を大きくするのは止めてほしい。

しかしメイナード公爵は妥協案を出して来た。
魔力の協力だ。
彼は魔力持ちではないが彼の息子のサンディルがSSSの魔力持ちだった。
息子が望んだ婚約だから息子の魔力を思う存分使ってくれと宣った。

魔術師団幹部で会議を行い、チェリーナとメイナード公爵の息子を夢見の担当。
養女の監視を一定の期間が来たら別の者に移行する事が決まった。
チェリーナの話ではおそらく魔力持ちでない方の養女が王族だろうと思うが確証がないので過去戻りはしないといけないだろうという事だ。
とりあえずメイナード公爵の息子を鍛えなければならない。
過去戻りは発動よりも維持することの方が難しいし、長い期間寝たきりになってしまうので、密かに彼の影武者も必要だ。
流石にチェリーナを過去に戻すのは駄目だ、彼女は2児の母なのだから。
その準備は私がする事にした。
メイナード公爵家の家系図と格闘しなければならないので私以外が担当すると、王家の隠し子発覚に繋がりかねない。
夢見の内容も充分王家の醜聞だがな。

王の夢見の内容は本人もわかってないかよく覚えてないかで凄く曖昧だった。
どうせ見るならしっかりと覚えておいて欲しいものだ。
王族を名乗る娘が王家と育てた伯爵家を恨み、他国と協力してこの国を滅ぼすというものだった。
実に曖昧だ!
その娘の名前も容姿もどの国だったのかも覚えてない。
しかも自分には隠し子はいないから関係ない、でも国が滅びるのは困るから調べよとは⋯⋯。
どんな命令だ!勝手すぎる。

一応メイナード公爵にも心当りを尋ねたが無茶苦茶憤慨された。我は妻一筋だと喚いていたが、まぁあんなに綺麗な奥様を袖にする事などないだろうから答えは予想通りだったが。
ということは王族なら他を当たらないといけないが膨大な数なので結局過去戻りで彼女達の出生から2年前を念の為それぞれ過去戻りすることになったのだ。

それからは公爵の息子を黙らせる(手懐ける)為にチェリーナの娘と密かに婚約させ(これにはチェリーナの疲弊も原因だ)養女の監視をチェリーナ以外にも各一人ずつ増やし(魔力持ちでない方は他国と交流しない為に)影武者探しに奔走したりと、考えられない位の忙しさだった。

なんとか影武者を見つけ彼の家の貴族籍と支援を条件にこの国に連れてきた所で過去戻りを実行する事にした。
今から7年前だ。
詳しく目に記録する為にメイナード公爵の息子サンディルは各2年を4年かけて調べる事になっている。
あと1年で調査も終わる頃になって問題発生。
チェリーナが妊娠して魔力供給が難しくなったのだ。
まさかの妊娠にチェリーナ自身もびっくりしていたが、やはり年齢の壁は越えられず体調が芳しくなかった。
代わりの供給者は一人しか考えられない。
だが彼女はまだ成人もしていないし、頻繁に公爵家に通わせる公の理由が見つからない。
いやあるにはあるのだが問題もある。
当の本人が過去戻りしているし、チェリーナの養女が更に問題だ。
またもや魔術師団幹部で会議を行い、影武者と仮の結婚式を挙げさせて公爵家に入ってもらい魔力供給をしてもらう事になった。
チェリーナは自分で娘に話すと言ったが止めた。
本人には伏せていたが、彼女の体調は本人が思っているよりも危険だったからだ。
幸いあの家には、大まかに誤魔化した内容を知る家令がいるので彼に頼む事にした。
チェリーナが王族かもと考えていた娘は勝手に婚姻させるわけにもいかず家に留めているが、この婚姻を知ったら嘸かし憤慨するだろう。
彼女はサンディルを好いてるということだからな、監視を5倍にした、王家の影を利用したのでこちらは魔術師団には痛くも痒くもない。
本来なら式を挙げなくても良かったが(あとでサンディルが怒り狂いそうなので)養女を騙すために式を挙げてもらった。
魔力持ちの養女はチェリーナが魔力供給を始めたので彼女の監視の負担を減らすために、魔術師団の幹部で魔力量Sのブライアン・バスティナ伯爵に監視を移行させる為に嫁がせた。

はてさて、無事にサンディルが帰還して夢見で出現した王族が、どちらか判明してくれるといいのだが。

王族候補の二人
魔力有りの、メリルか。
魔力無しの、キャンベラか。
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