【完結】長い眠りのその後で

maruko

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第一章 公爵夫人になりました

契約と婚姻は別物?

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私の旦那様、サンディル・メイナード様の代役をされているこのお方の名前はマーク・ポート・サンダー様と仰るそうです。
この国より2つ向こうの国よりお越し頂いたそうでございます。
あら、お名前どちらを呼べば宜しいのかしら?
まぁ旦那様ならどちらも呼ばずに済みますわね。

「今から少し不思議な話をするから、信じられなくても信じてもらわないといけない。これが前提で話すな」

仮?借り?の旦那様は急に砕けた物言いになられました。
どうしたのでしょうか?
先程までの慇懃無礼な態度は勿論嫌ですが、急に馴れ馴れしいのも正直困ります。

「あぁごめんね、普段はこの話し方なんだよ。
俺が彼に初めて会ったのは、彼がこの状態になる直前なんだ。
この状態になる事を想定して僕を密かに呼んだんだろう。
だから彼がどの様に話してどの様な仕草なのか、笑い方はどうなのかとかは、あとで彼の周りの人に学ばされたんだ。私の話し方、特に自分の呼び名など本来は僕なのだが、彼が俺なんだ、二人とも公では私だが⋯⋯。興奮したり咄嗟の時や気が抜けた時など、ごちゃ混ぜで話す事もあるかと思う特に家では。なので話し方が変になっても申し訳ないが家の中では指摘しないで欲しい」

「ハァ、左様ですか⋯⋯。
あの旦那様はご自分の今の状態が不本意であるということなのですね」

「そうだね、不本意というか、勝手に連れてこられて今日から俺になれって突然言われて、急に魔法の特訓始まって特別仲良くなってはいけない子と結婚させられたんだ。君ならどう思う?」

うわぁ、淡々と話されると気の毒すぎる。
ん?特別仲良くなってはいけないとはどういうことなのでしょうか?

「僕は本物じゃないからね。君の旦那はサンディルだから、マーク・ポート・サンダーと仲良くなっては駄目なんだよ。
とりあえずは契約の内容だけ話すね、ここに至った詳細はテモシーの方が詳しいから彼に話してもらう。
サンディルは今、過去に戻ってるんだ。
王命で確かめる事があってね、ただそれにはかなりの魔力量がかかる、少しでも温存する為に眠りに入ったんだけど、食事とかする訳じゃないから消費する魔力の回復ができない。
しかもその量はかなりの量なんだよ。
だから誰かが彼に魔力を送らなければならない、彼が目覚めるまでね。
今まではそれを君の母君チェリーナ様がやってたんだよ、彼女は王宮魔術師団の教師で彼の指南役だったからね」

母の片手間の仕事内容が判明致しまして、少し驚きました。
所属と仰ってたのに先生だったのですね。
それなら私にも教えて欲しかったですわ。
私は赤子の時から無意識に魔法を使えていたし、大概な魔力量で他を圧倒するほどでしたので誰かに教えを請うという事が無かったのですが、お母様なら話は別です。
母娘で楽しめたのに⋯⋯。
お互いの魔法でアッハウフフキャピキャピと戯れたかったですわ、あ~残念。

「それでは私は、妻とは名ばかりで彼に魔力を送るというのが契約なのですね。
お母様が物理的に送れなくなったからと言う事で合ってますか?」

母は少し前に3人目のお子を宿したのですが私と弟の時とは違い、体調が芳しくないのです。13年振りの妊娠ですので体力的にかなり無理をされているのでしょう。
それで父が評判の医師で治癒のスペシャリストでもあるシンディ医師の元に母を預ける事にしました。
それから母がこちらにいる間に私の婚姻をと言う事で16歳という若さでここに嫁いで来たのですが、裏事情があったのですね。なるほど、なるほど。

「そうなんだけど⋯⋯。
まぁ今回は急だったから契約婚なんだけどね。
どう話せばいいのかな、テモシーあとは頼むよ、俺が知らない事もあるんだろうから」

「畏まりました。僭越ですが私の方からお話をさせて頂きます」

スッとテモシーが前に出てきた。
さり気なく後ろに控えていたので少しの気配は合ったけれども魔力なしでここまで気配を消せるなんて彼は隠密でしょうか?
普通の家令ではない者と見受けます。

「テモシー長い話なのでしょう。
私、貴方を眺めるのに首が辛くなるわ、座って話して頂戴」

テモシーは少し驚いて、私の顔を見つめて軽く微笑み、私の右斜めのソファーに腰掛けたの、私の意図を解ってくれて嬉しいわと思っていたら、慌てた様子で仮旦那様が言い訳をされました。

「ごめん、馬車の中で下を向いてと言ったのは印象操作の魔法を一旦解除したかったんだ。
君なら俺の顔をじっくり見たら魔力の流れで気づくだろう?俺も顔を休ませたかったし、まだ君に話す前だったからね。でも肩を解していたから申し訳ない気持ちはあったんだけど、謝罪をしてなかったね。
申し訳なかった」

彼は本日、何回頭を下げるのでしょうか?
無理矢理の仮な訳ですし少し同情してしまいまして、彼の本日の無礼な態度は許す事に致しました。

「それでは経緯をお話致します。
まずはこの婚姻の件からですね。奥様、そもそも今回の契約と婚姻は別の物と考えて頂きたいです。
奥様は以前サンディル様とお会いしておりますが覚えておられますでしょうか?」

「いえ⋯⋯。全く」

「左様でございますか。
おいたわしいです、おぼっちゃま」

私って過去に旦那様とお会いしていたのですね。
全く記憶にないのですが、仮旦那様にそっくりなのでかなりの美形ですから多少なりとも面影があると思うのですが⋯⋯。

「お会いされたのは奥様が5歳のときになります。
申し訳ないのですが、旦那様が今お二人になってますのでお名で区別させていただきます事ご了承ください。
サンディル様は11歳でございました。
奥様、6歳違いという事で思い当たることはございませんか?」

「思い出しました、あの(クソガキ)人がサンディル様なのですね」

カッコ内は私の心の中で収めましたが、私の表情で気づいたようでテモシーは笑いを噛み殺しております。
ここで、あの日の出来事を私は回想致しました。

──────────────

私が5歳になって少したった頃に当時13歳になったメリルが初めて自分でお茶会を主催する事になりました。
まぁ招待状の主催者は祖母なのですが、貴族令嬢のお勉強の一つに社交があります。
それは貴族として生まれたものには生涯ついて回ります、我が家の父のように家のことなどし~らないっとばかりに勝手をしてるのは稀なのです。
それでも父は男の方なのである程度は周りも大目に見てくれますが、女として生まれたら逃れられません。
嫁ぎ先でも同じです。
で、あるので13歳になったメリルも祖母に習いながら招待客の厳選、招待状の作成、当日の会場の大まかな準備などを頑張っておられました。
私は招待状をしたためているメリルの手に治癒をかけてあげることしか出来ませんでしたが、今後の勉強になるからとメリルの大変さを彼女の隣で見ておりました。
その時ばかりは母もメリルに手を貸したりしておりました。
本当に大変だったのです。
あの時の大変さが思い出されます。

そんな中、私はメリルの苦労も知らず、やれ何処そこの次男坊を呼べだの、あの令嬢は嫌いだから招待を取り消せだの私利私欲でメリルに詰寄るキャンベラに大層怒っておりました。

このお茶会の計画前になりますが、メリルが13歳になった事もあり、物の分別なども理解出来ると判断した祖父母と両親は彼女等にそれぞれの出自を打ち明けました。
キャンベラに至っては引き取られたのは3歳頃なのですが自分の行動で養女に迎えられていたので僅かに記憶の片隅にあったようです。
ですが赤子の時から引取られているメリルの事を祖母を筆頭に大人達は皆気にかけていました。
流石にショックを受けたメリルでしたが、なんと翌日には祖母の元へ向い育ててくれてありがとうと感謝の言葉を述べたそうです⋯⋯赤い目をして。
その時祖母が抱きしめてくれて、それから両親、祖父も来てみんなでメリルを交互に抱きしめてくれたそうです。その時の様子を伺い、とても嬉しかったのとハニカム姉メリルは、私に後日教えてくれました。
メリルと対象的にキャンベラは出自はどうあれ自分は伯爵令嬢だから何も変わらない。
と、母に言ったそうです。
まぁその通りですけれども、母も思うところが大いに有りましたので、その考え方や態度を改ないと後で後悔するのは貴方なのだと、キャンベラに苦言を呈したそうです。
彼女には全く届きませんでしたが⋯⋯。


そしてメリルが手掛けた初めてのお茶会でキャンベラが盛大にやらかしました。
その時に私と大喧嘩をしたのが、長い眠りに入ってる旦那様サンディル様だという事です。


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