【完結】長い眠りのその後で

maruko

文字の大きさ
上 下
1 / 50
第一章 公爵夫人になりました

結婚しました

しおりを挟む
鐘がなってます。
”リ~ンゴ~ンリ~ンゴ~ン”
私の心とは裏腹に本日は晴天なり、麗らかな春の河音が聞こえる中、私と本日旦那様になったサンディル・メイナード様は馬車に乗り新居へ向かっています。

馬車に乗った途端顔を上げるなと仰られたので、私は今も下を向いております。
いい加減クビが疲れましたので、首の付け根あたりを水魔法で作った水球で解しながら旦那様の組んだ膝を眺めております。
旦那様は、私の顔をご存知なのでしょうか?
婚約が決まってから一度もお会いせず、本日の誓の口づけすら拒否されて、私とは面と向かって顔を合わせておりません。
かくいう私も神父様の前に並んだ時チラッと見上げた程度にしか拝見しておりませんが⋯⋯⋯。

馬車の中でもずっ~と窓の外を見ておられるご様子ですので、そもそも私の顔になど興味がないのでしょう。
この結婚は旦那様の方からの申込みではありましたが、それにはきっと理由があったのでしょう。
私には聞かされておりませんが⋯⋯。

私が婚約者に選ばれた時6つ上の姉キャンベラは苦々しい顔で私を睨みつけ、手当り次第にその辺の物を投げつけて来ましたが、そのような事は日常茶飯事ですのでいつも通りに風魔法でサラッとお返し致しました。
キャンベラは当たった珈琲カップで額から血を流しておりましたが自業自得ですので、そのまま部屋をあとに致しました。
いつもブーメランされるのだからいい加減学べばよろしいのに⋯⋯。

まだまだ新居までは時間が掛かりそうなので、ここで私のお話をさせて頂きます。

私はスパナード伯爵家の三女として生まれました。
ただ、スパナード家は家族の在り方に少々特殊な家でありまして、上二人の姉は私とは血の繋がりは全くありません。
私の父、スパナード伯爵は商才に長けており、かなりの資産家ではありますが、若い時から結婚という物に興味を抱く事はなかったのです。
その事に祖父母は胸を痛め、また一人息子であるが故に婚約の強制を致しました。
これが最悪の結果を招きます。
婚約者の方はかなりの自由恋愛ドンと来いの方だったらしく、婚姻直後に妊娠が発覚しました。
勿論、父の子ではありません。
初夜のベッドに入る寸前で悪阻で吐きまくりまして父を呆然とさせたそうです。
そのまま離縁する事は決まりましたが、この国の法律で半年は手続きが出来ませんでした。
ご実家からは、そのせいで除籍されたのですが、妊婦を放逐するのに罪悪感を覚えた祖母が産まれるまで面倒を見ることにしたそうです。
祖母は、かなりのお人好しなのです。
私なら修道院にそのまま放り込みますが⋯⋯。
皆様お察の通りかもしれませんね、彼女はその後女の子を産み3日後に居なくなりました。
かくして何の血の繋がりもない女児が我が伯爵家に捨てられたのです。
彼女の生家には引き取る様に打診しましたが、知らぬ存ぜぬを貫きました。
かなりの強者でございます。
ここでお人好しの祖母が、どうせ結婚に興味がないのなら、この娘を引き取り親戚から婿を貰い跡継ぎにしたらどうかと、とんでもない提案をしたのですが「それはいい考えだ」と父は納得したそうです。
ホントに伯爵家の事とか何も考えておられない父らしい考えでしょう。
祖母にベタぼれの祖父は二人の言いなりなので、この時にスパナード家の跡取りは縁もゆかりもない長女メリルに決まりました。

自然な流れでメリルの教育全般は祖母主導の元に行われましたので、もう一人お人好しがスパナード家に出来上がりました。
お人好し二人はよく孤児院に慰問に出かけていたそうです。
その中の一人がのちに次女として我が家に引き取られるキャンベラです。
キャンベラは、かなりメリルに付き纏いメリルの同情を買い、また庇護翼をそそる様なあざとい仕草であった為、お人好しのメリルはキャンベラに陥落され、祖母にお強請りしたそうです。
子供が子供をお強請りって⋯⋯私なら張り倒しますが、そこはお人好しの祖母なので、メリルの意思を尊重しました。
結果、父の知らない間に父の戸籍に二人の娘が記載される事になったそうです。
父はてっきり祖父母が引き取ったので祖父母の戸籍に入ると思い、自分の妹が出来たと勘違いしたみたいです。
商才はあっても間抜けな父です。

最悪な婚姻のあと父は益々結婚から遠ざかっていたのですが、5年後に運命の出会いがありました。
のちに妻になる私の母です。
母は王宮魔術師団の所属でした。
師団が休みの時に、父と出会い二人は恋に落ち結婚の約束をしたそうです。
母の実家は名ばかりの候爵家だったので、家格は下ではありましたが資産家の父との婚姻は諸手を上げての大歓迎だったそうです。
しかし、いざ結婚して王家に届けを出したら身に覚えのない子供が二人(いや、一人は身に覚えが微かにあると思われます)記載されており、仰天した父が祖父母に事情を聴きにいき、自分の娘として引き取った事を知ったそうです。
ホントに商才はあっても間抜けな⋯⋯(2度目)。

普通の令嬢なら結婚した相手に隠し子発覚で怒り狂う所ですが、私の母は祖母から事情を聞きまして寛容にも祖父母を許したそうです。
但し、メリルが婿を取り伯爵家を継ぐというのは取り消してほしい、伯爵家は自分の子供に継がせますと宣言されました。
当然と言えば当然ですので、それでその件は丸くおさまりました。
母は結婚してからも仕事を、片手間でしたが続けておりましたので私が生まれたのは父母が結婚してから3年後でした。
生まれた瞬間から伯爵家の跡継ぎとなった私に待ち受けていたのは、キャンベラのイジメでした。
彼女とメリルは父母が結婚した時に祖父母と一緒に別宅で暮らしておりましたが、祖母が病気になってしまい子育てが出来なくなったので本邸にいたそうです。
まぁ事情が事情ですので母は気にかけるつもりはなかったのですが、大人しいメリルはともかくキャンベラは身重の母にかなり付き纏っていたそうです。
赤の他人の、愛情の欠片もない子供ではありますが邪険にする訳にもいかず普通に接していたのですが、私が産まれてキャンベラはヤキモチを妬いたのでしょう、鼻つまみ攻撃が始まりました。
私は母の影響で生まれた時から魔術の素養があったのでしょう、己が命の危機には勝手に魔法が発動して、毎回返り討ちにしていたみたいです。
(この辺は少し成長した頃に乳母に聞きました)
その後も数々のイジメをされましたが魔法という便利な物のおかげで生き長らえております。
魔法がなければ6歳も違えば体の大きさも違うので今頃は冗談なしに生きてなかったかもしれませんね。

ここで皆様にお分かり頂きたいのは、決してメリルとキャンベラを我が家は邪険にはしておりません。
引き取ったからにはしっかりとした教育、一般家庭と同じく食事なども一緒に取っておりましたし、毎年のお誕生日もちゃんとお祝いしておりました。
その辺は私と私の3つ下の弟のアンディとは区別しておりませんでした。
但し、彼女達のお茶会などの付添を母はする事はありませんでした。
祖母の体調がいい時は祖母が、それ以外の時はメリルの乳母がしておりました。
因みにメリルの乳母は同じ家格の伯爵家の出で祖母の親友のご令嬢でしたので、カヴァネスも兼ねて頂きました。

私はメリルとは8歳、キャンベラとは6歳離れておりますので常々一緒に遊ぶという事はなかったのですが、メリルは上手に子守をしてくれたそうです。
メリルの母やその家はとんでもなく恥知らずな家ですが、お人好しの祖母に育てられたからなのでしょうか、メリルには少しもそのような所はなく私と弟とも仲良くしてくれました。
なので私が10歳の時に彼女がバスティナ伯爵家に嫁いだ時には、離れがたく泣いてしまいました。
そんな私達を彼女は優しく抱きしめてくれたのです。
本当の姉妹のように⋯⋯。

あぁそろそろ新居に着くそうです。
2度目の会話?ですね。
私は1度目も今回もハイとしか言っておりませんので、これは果たして会話でしょうか?

この結婚は父母が纏めた物ですので、貴族令嬢の私には家長が決めた事には従う義務があります。
弟が生まれたので後継ぎからは解放されましたが、婚姻は親に従うべきと学んで来ました。
それでも幸せな結婚をしたいなと子供の頃から願うのはどの貴族令嬢でも同じではないでしょうか?
多分に漏れず私もそう思っておりました。

ただ、本日ここまでの流れで私には不安しかありません。
そしてまた思いました。
商才はあるけれど間抜けな⋯⋯(3度目)
あぁ彼は自分が結婚に興味がなかったから娘も同じと思ってるのでしょうか?
でも父は私の幸せを願ってると言ってましたが⋯⋯。

ハァため息と共に今は間抜けな父を思い歯噛みしております。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

人形となった王妃に、王の後悔と懺悔は届かない

望月 或
恋愛
「どちらかが“過ち”を犯した場合、相手の伴侶に“人”を損なう程の神の『呪い』が下されよう――」 ファローダ王国の国王と王妃が事故で急逝し、急遽王太子であるリオーシュが王に即位する事となった。 まだ齢二十三の王を支える存在として早急に王妃を決める事となり、リオーシュは同い年のシルヴィス侯爵家の長女、エウロペアを指名する。 彼女はそれを承諾し、二人は若き王と王妃として助け合って支え合い、少しずつ絆を育んでいった。 そんなある日、エウロペアの妹のカトレーダが頻繁にリオーシュに会いに来るようになった。 仲睦まじい二人を遠目に眺め、心を痛めるエウロペア。 そして彼女は、リオーシュがカトレーダの肩を抱いて自分の部屋に入る姿を目撃してしまう。 神の『呪い』が発動し、エウロペアの中から、五感が、感情が、思考が次々と失われていく。 そして彼女は、動かぬ、物言わぬ“人形”となった―― ※視点の切り替わりがあります。タイトルの後ろに◇は、??視点です。 ※Rシーンがあるお話はタイトルの後ろに*を付けています。

王妃の鑑

ごろごろみかん。
恋愛
王妃ネアモネは婚姻した夜に夫からお前のことは愛していないと告げられ、失意のうちに命を失った。そして気づけば時間は巻きもどる。 これはネアモネが幸せをつかもうと必死に生きる話

ゼラニウムの花束をあなたに

ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。 ※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31

悪名高い私ですので、今さらどう呼ばれようと構いません。

ごろごろみかん。
恋愛
旦那様は、私の言葉を全て【女の嫉妬】と片付けてしまう。 正当な指摘も、注意も、全て無視されてしまうのだ。 忍耐の限界を試されていた伯爵夫人ルナマリアは、夫であるジェラルドに提案する。 ──悪名高い私ですので、今さらどう呼ばれようと構いません。

処理中です...