【本編完結】逃げるが価値

70 愛し君との再会

こちらに来て2度目の辺境伯邸は相も変わらず豪奢なお邸で、ここに住むのかと改めて気後れする自分に苦笑する。

私は王都の侯爵家の娘なのに、こんな事で気後れするなんて、前世を思い出した庶民感覚以外にも自分の境遇のせいなのだと思う。

「マイラ！」

えっ？と思った時にはその腕に抱き締められ胸に顔を埋める私がいる。
どうしてアルがここに？

ちょっと待って、今ここにはみんながいるんだけど羞恥でどうしていいかわからなくなった私は気絶してしまいたい衝動に駆られる。

固まった私と意気揚々としているアルを引っペがしたのは、お義父様でもおじ様達でもなく、ミナさんだった。

「アル様何してるんですか、挨拶もされずに。それではマイラ様を娶れませんよ。ちゃんと礼儀を守ってください」

ミナさんは侍女なんだけど執事っぽく思うのは私だけ？

アルはハッとして私の手を取りお義父様の横に立ち、お義父様の言葉を待つ。

そんなアルに苦笑し「愚息が⋯」とか言いながらお義父様はアルをおじ様達と伯母様、ついでに青年執事に紹介した。

「初めまして、バイカ伯爵、伯爵夫人、ジョルデ卿、そしてアレン殿。マイラの婚約者のアルフォンス・シルバーです」

何故かアルは青年執事の所で手に力を入れる。
痛いよアル。

「まだ婚約者じゃないだろう」

お義父様はアルに突っ込むが、アルはどこ吹く風で

「暫定がクソッタレなんで、実質は俺です」

未だエントランスでざわつかせてる私達を辺境伯の執事が声をかけて、執務室へ案内されます。

3日ぶりの辺境伯はニッコニコの胡散臭い笑顔で私達を迎える。

「やはりアルに迎えに行かせるのではなかったな、遅いぞ、待ちくたびれた」

伯父様とお義父様が遅くなった事を侘びて、挨拶をする。
既に愛称呼びの二人だけど、アルはいつここに来たのだろう。

執務室内の扉を開くと会議室があり、そこに促され皆で円卓を囲む。

ミナさんは執務室の方で待機だったのに青年執事はそのまま私達と一緒に案内される。

こいつは何者なのだろう？
普通に考えたら使用人だからミナさんと同じ立場のはず、強いて言うなら伯母様の甥。
あっ私と同じだ。

どうでもいいことを考えながら椅子に座ったけれど、未だに手を離してくれないアルをジッと見上げる。
視線に気づいてる癖に気づかないふりをしてるのが丸わかりなんだよアル。

「いい加減にしなさいアル、牽制する必要はないんだから」

お義父様に言われて渋々という感じてやっと手を離してくれたけど、牽制って何？
お義父様、久しぶりの説明プリーズ


「では当事者が集まったので今後の話しを進める」

辺境伯はそう言って今後の説明をしてくれた。
正確には隣に立っている彼の執事からだけど。

先ずたった3日で既に父には王家から話しをしてもらってるそうで(仕事が早いけど私、まだ諾の返事してなかったよね)ある意味王命を発動してるから安心して一緒に王都に向かう様に言われた。

トンボ帰りじゃん

その際に養父辺境伯が認めないという書類を用意してるからそのまま婚約破棄をするそうです。
私への今までの行いの裏取りは師匠様とミナさんのお兄様がフンバル公爵家の騎士さん達から得ているようで、これも問題ないそうです。

問題は父と母との離婚。

これをどの手順で行うのがベストかを話し合いたいので、集まってもらったそうです。

呆気に取られるくらい仕事が早すぎる。
ここへ来てまだ5日しか経ってないのに、どれだけの馬と鷹を酷使したのか「お馬さん、お鷹さんごめんよ」と心の中で謝罪する。

皆で母の事を考えている時に辺境伯が「手続きを先にしよう」と言って執事が書類を伯父様の前に置いた。

「跡取りを変更するんだろう」

辺境伯が伯父様に問うと伯父様が頷く。
そして1枚の書類に署名して叔父様へ、もう一枚にも署名してそちらは青年執事に渡した。

なんのやり取りなのかさっぱり解らなくて不思議そうにしている私にアルが教えてくれる。

「マイラの婚約者候補だったんだけど、婿養子じゃなくて養子になるみたいだね」

⋯⋯なんじゃそりゃ───────。

青年執事が私の婚約者候補なんて初耳ですけど？
びっくりしすぎて私は青年執事を凝視していたら彼と目が合う、途端に何故か顔が赤くなる。

私の赤くなった顔をアルは目敏く見つけて、いつものように覗き込む。
だからそれ止めてって。
赤い顔がさらに真っ赤になって、自分の顔色の制御が出来ない。

私が自分の顔色に悪戦苦闘していたら辺境伯が核心を突いてきた。

「アマンダの所業なんだけど元第二王子あにと侯爵も絡んでそうなんだよね。でも証拠がない、あるはずなんだけど隠し場所が解らない、妹御は知らないかな？知ってたらそれが突破口になって、彼らを断罪できる」

「侯爵を断罪できるなら離婚も簡単にできますね」

お義父様が立ち上がって応えてる。

アマンダがやってた爵位の乗っ取りに父が関係してるなんて、どういうこと？

私の疑問に辺境伯が、彼らの荒唐無稽な計略とそれに伴った過去を話してくれた。