【本編完結】逃げるが価値

maruko

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62 供述㈡ 罪の意識のない女

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side 侍女ユリの言い分

──────────────

奥様の新しい侍女見習いの教育係を仰せ使ったのは伯爵家に仕えて5年目の春でした。

セザン伯爵領内の学園で平民科に通っていた私はその上の高等科の侍女科で勉強しました。

もっと成績優秀であれば王都の貴族に雇用してもらえたのかもしれませんが、残念ながら中の下の私では王都まではいけませんでした。

それでも侍女として雇って頂けたのは運が良かったのかも。

たまたま高等科に見学に来ていた奥様が私が貴族の子女から虐めにあっていたのを目撃して採用してくださったのです。

虐めと言いましたが実際は喧嘩です。
まぁどちらでも私の中では問題ないです、虐めと言うと奥様はとても同情してくださってチョロかったので、そのまま虐めという事にしておきました。

商売をしていた両親から金持ちの変な爺の妾に金儲けのために嫁がされる心配もなくなりましたしね。

両親の企みは侍女なら邸の内部にも干渉する機会があるかもしれないから侍女になれ、なれないなら妾になれと言われていましたので、一安心です。

そんな私の事情など知らない奥様は一言で言うとチョロい女。
弱者(実際はわからない)に弱い女。
バカがつくお人好し。
騙すのが簡単な女。

よく貴族の奥方なんかできるものだと常々思ってました。

その奥様が新しく見習いとして雇ったのがシェル。

最初は断ったみたい、珍しいなと思ったので覚えています。

それでも何度も何度も日参したシェルを最後には雇いました。

彼女の境遇聞きましたけどおかしいと思った。
普通母親が奥様の元侍女なら、直ぐに雇ってもらえるはずなのに断られてるし。

なんかやっちゃってる訳あり侍女なのかとシェルを観察していたら、お茶の入れ替えを発見しました。

ずっと同じお茶を奥様は朝晩薬湯と言って飲んでいます。
でも3ヶ月ほど前にメイさん経由で良いお茶を手に入れてそちらに変更してました。
それを元に戻してる様子。

その日の夜、シェルを問い詰めるととんでもない事を言い出します。

シェルは自身の母親に言われて旦那様の愛人になり、子を孕んだ後は奥様を追い出すという計画を立ててこちらに来たそうです。

最初は言いましたよ 私だって一応はね。
止めときなって、旦那様夫婦は仲睦まじくて誰も入る隙間はないって。
ちゃーんと教えたんですよ。
そしたら、「そんなことない、母親は元々愛人だった」なんて言うもんですから。

でもおかしいでしょう。
愛人の娘を旦那様が働かせるはずないんですから、だからそう言ってやったら。
酷く落ち込んでましたけどね、何故かって、さぁ?

でも暫くしたら、今度は母親は失敗してたみたい。
自分だったら大丈夫とか言って張り切ってました。
で、私にも協力しろって言ってきたんです。

なぜ断らなかったか、ですか。

貴方に聞きたいんですけど⋯⋯なぜ断らないといけないんでしょうか?

だって、今の奥様だと私一生ここの侍女です。
まぁ婚姻のお世話はしてもらえるかもしれませんけど、そんなに旨味があるとは思えませんもの。

周りの侍女を見たら解るでしょう。

庭師と料理人ですよ。

そんな人紹介されてしまったら、両親から侍女を辞めさせられてすけべ爺に嫁がされます。

そんなこと奥様はちーっともわかってないんですよ。

シェルは王都の旦那様の妹の所に紹介してくれるって約束してくれました。

まさか旦那様の妹が王都の侯爵家に嫁いでいるなんて私知らなかったんです、知ってたらもっと早くに対策立ててましたけどね。

王都に行ったら侍女でも、自慢できますものね。

それだけのために、ですか?

それだからですよ。

だって協力って言っても私がするのは事だけですもの。

それ以上、要求したらもっと手伝わされるじゃないですか。

そんなのはゴメンです。

私は黙ってただけなんですから罪にはならないでしょう?

えっ?愛人の話しを広めたですか?

広めてなんかいませんよ、洗濯係のメイドに話しただけです。

一人しか話してないんだから広めてなどいないでしょう?

私は罪など犯してないですよ。

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