逃げるが価値

maruko

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32 夕日

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辺境地カザール領とセザン伯爵領の境界線に置かれてるのはマルクス領。

この地はカザール領内の治安維持のために日々粉骨砕身の騎士たちが集う場所。

代表はマルクス子爵が担っている。
マルクス子爵は主に騎士団の金庫番を努めている家で騎士の家ではない。

だからなのか、大きな砦の横にズラッとある騎士の居住区を少し歩くときれいに整備された商店街が並んでいる。

「へぇ~とてもきれいな街なのね。騎士の街とは思えないくらい。王都よりも歩道が整備されてとても歩きやすいし、お店は一軒一軒覗きたくなるわね」

驚いたことに異世界こちらでは珍しく店頭ディスプレイを施している。

やはりこの地には前世、地球に住んでいた人がいるんじゃないかしら?
日本人だといいなぁ話が合いそうだし。

すると一軒のお店に目が止まる
絶対日本人だと思う。
だってそのお店で、『たこせん』を店頭で売ってるんだもん。

「サーラさん、あれなんですか?すごく美味しそうな匂い。初めて見るんですけど」

ミナさんが『たこせん』に興味津々の模様。

「私は普段こちらにはいなくて、マルクスに来て3日目ですけど、あれは初日に食べました。非常に美味しいですよ。あまり知られてないんですけどスースーっていうドレッシングがついたターコっていうものをせんべいっていうので挟んであるんです」

スースーはソースで、ターコはたこ焼きね、う~~間違って伝承されてるー、正解を教えてあげたい、でも煎餅だけはしっかり合ってる何故だ!

前世、一時期近所のスーパーの店頭前で『たこせん』の屋台が立っていて、あれを私は主食にしていた。

「ミナさん食べてみようよ」

口の中で前世の味を思い出してしまったのかソースの夢想が広がっている。
サーラとミナさんを誘ってお店に向かう。


「いらっしゃいませー」

「それは何ていう食べ物なの?」

「ターコセンベイって言うんです!美味しいですよ。この地方の名物なんです」

(たこせんでいいじゃん)

「ではそちらを3個頂くわ」

「まーいどーりー」

「それは挨拶なの?」

「はいどうぞ!今のですか?私のお祖父さんがターコせんべいが売れたとき必ず言っていたんです。おまじないじゃないかなーって思ってますけど、これ言うと沢山売れるんです」

絶対“毎度あり”だ!

「お祖父様は、お店の中ですか?」

「えっ?あの貴族の方だったんですね。先程から失礼いたしました。えっとご令嬢はお祖父さんに興味があるのでしょうか?」

しまったわ、平民の物言いではお祖父様とは言わないのね。身バレしてしまった。

「いえそんなに畏まらないで、お祖父様に興味があるというか、会ってみたいなと思いまして」

「お祖父さん5年前に死んでしまったんです」

「⋯⋯そうだったんですね、申し訳ないわ、辛い話をさせてしまいましたね」

「いえ老衰の大往生でしたから、本人も周りも悔いはないです。ターコせんべい熱いうちに食べてください。お嬢様のお口に合うかわかりませんが、美味しかったらまたよろしくお願いします」

よく見るとお店番の娘は私と同じくらいの年で、少し赤みがかった髪を三つ編みにして三角巾を着けている。
そして彼女は割烹着を着ていた。

彼女のお祖父様とお話ししてみたかったなぁ

『たこせん』改め『ターコせんべい』を右手にこれまた途中で購入したどう見てもウーロン茶を左手に持って、サーラの案内で公園にやって来た。

公園には人口で作ったと思われる少し高めの丘があってそこに長めの丸太が椅子代わりに置いてありました。

私達はそこに座って三つ編みの彼女のアドバイスどおり熱いうちにターコせんべいを頬張る。


うわぁ前世とほぼ同じ味。
お祖父さんはどうやって再現したのだろう。
前世まさか“粉もの屋”だったのかな。
しかしタコは入ってなかった、代わりにコーンが少し入っていて絶妙に甘さがプラスされて私としてはこちらのほうが好みかも。
でも、タコもいつかは食べてみたい。

ミナさんも目が丸くなってる、そして口の端にも頬にもソースがついてる。

ハンカチで拭いてあげると「すみません」と言ってるそばからソースが垂れてる。

「美味しいけど食べにくいですね」

私はミナさんにたこせんの正しい食べ方を教えてあげました。

私のたこせん歴は10何年だったかな?
久しぶりに食べて日本が懐かしくなってきたなぁ

3人でたこせんパーティーを終わらせて少しお喋りをしていたら真正面に夕日が落ちてゆく様子が見えてきた。

少し小高い丘だったから周りに視界を遮るものがない。

ゆっくりゆっくりと落ちる。

陽の光が段々と白い雲を包むようにオレンジに染め上げて夕暮れになってくる。

一人で見たらきっと物悲しく寂しい気持ちだったかもしれない。

でも今私は一人じゃない。

どうでもいい存在でもない。

今ここで生きているんだと思えるの。

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