逃げるが価値

maruko

文字の大きさ
上 下
17 / 42

16 変身

しおりを挟む
「そろそろ夕食になるから部屋に戻ろう」

そう言ってアルはお邸の方に引き返す。
ところで手はずっと握ったままで離してくれなくて、嬉しいんだけど恥ずかしい。
そして逃げてきたとはいえ、手続きしてないから私はまだタンキ様と婚約中なんですよぉ
これじゃあ不貞だ!
私が不貞?⋯⋯ふぎゃぁーーーありえない。

己の考えに驚愕しちゃった。

「アル、アル」

「何?」

「手⋯あの、離して」

「⋯⋯何で?嫌だった?」

「違うの!嫌じゃないの、でも私はまだ婚約者がいるのよ」

「逃げてきたからいいんじゃない?」

「そうなんだけど、手続きしてないからさ。まだ、ね」

「逃げて終わりじゃないの?」

「そういうわけにはいかないよ。ちゃんと手続きはしないと完全に逃げ切れないもん」

「⋯⋯でも手続きってする時に会うだろう、そしたら捕まるんじゃないか?」

「会わないよ、手続きは除籍届けを出そうと思ってるの、平民になったら必然的に婚約は解消されるのよ」

「あっ!そうか、そうだな。いや、でもそしたら⋯俺とも、あー、んー」

「何?」

アルは相槌の後何か言ってるんだけどゴニョゴニョしてるので聞こえない。
訝しんでたら私の用意してもらった部屋の前

「着いたな、じゃあ可愛くしてもらえよ!後で迎えに来るよ」

そう言って私を部屋まで送り届けたアルは足早に去っていった。
⋯⋯可愛くとは?

部屋に入って少し疲れた足をお行儀悪く伸ばしてたらミナさんがお風呂の用意ができましたって言ってきた。
なぜに?と思ったけど、そうだった貴族は夕食前に着替えるのだ。
侯爵家では私は自分で着替えてたからお風呂も寝る前に入ってただけだった。
ピンと来ない私を見てミナさんが

「お手伝いもさせて頂きますわよ」

ニコッと笑って言ってる、泊まってた宿でもサラお義母様の髪はミナさんが洗ってたけど私は遠慮してたのに~

ここでは逆らえないみたい⋯。
有無を言わさずバスルームに連れて行かれちゃった。

で・も・人に髪を洗ってもらうのってサイコー!
美容室を思い出しちゃう。

ミナさんが上手だからなのか、侍女職の人はみんなこんなに上手なのかは比べる人がいないからわからないけど気持ちいいーー。

『ちょ~気持ちいい』
懐かしい言葉を呟いたらミナさんが「何か言いましたぁ」って返されちゃったけど前世の某大賞なんて知らないだろうから聞こえないフリしました。

バスルームを出たら念入りに髪を乾かしてもらって、見た覚えのない服を着せられた。

サラお義母様のプレゼントなんだって!嬉しいよぉ

可愛いドレス、でもデコルテが少し開いてて大人っぽさもあるかな?

髪はミナさんが渾身の出来ですって言ってセットしてくれた。
いつもはおろしっぱなしの髪を可愛くサイドから編み込んでくれて後ろで束ねてくれてる。
こんな髪型前世でもしたことないよ
薄っすらとお化粧もしてくれた。

気づいたら基礎化粧のセットとメイクセットも置いてある。
これもサラお義母様が準備してくれてたみたい。
本当のお義母様だったら良かったのに⋯⋯。

ネックレスを着けてもらったらミナさんが立たせて鏡の前に連れて行ってくれた。

「どうですか?何処か気になる所はないですか?」

「ミナさん!私⋯私⋯こんな格好も、そして人にしてもらうのも初めてで⋯⋯足が震えます」

実際に震えてて、生まれたての子鹿のようにガクガクしてたら

「気合で立ってください!マイラ様はとても可愛らしいんですよ、もう少し大人になったらもっとキレイになります。フンバル公爵子息なんかには勿体無いです」

「あっあの、ありがとうございます」

思わず日本式のお辞儀をしてしまったところでアルがお迎えに来てくれました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

一年で死ぬなら

朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。 理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。 そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。 そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。 一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・

生まれたときから今日まで無かったことにしてください。

はゆりか
恋愛
産まれた時からこの国の王太子の婚約者でした。 物心がついた頃から毎日自宅での王妃教育。 週に一回王城にいき社交を学び人脈作り。 当たり前のように生活してしていき気づいた時には私は1人だった。 家族からも婚約者である王太子からも愛されていないわけではない。 でも、わたしがいなくてもなんら変わりのない。 家族の中心は姉だから。 決して虐げられているわけではないけどパーティーに着て行くドレスがなくても誰も気づかれないそんな境遇のわたしが本当の愛を知り溺愛されて行くストーリー。 ………… 処女作品の為、色々問題があるかとおもいますが、温かく見守っていただけたらとおもいます。 本編完結。 番外編数話続きます。 続編(2章) 『婚約破棄されましたが、婚約解消された隣国王太子に恋しました』連載スタートしました。 そちらもよろしくお願いします。

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。

夢草 蝶
恋愛
 侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。  そのため、当然婚約者もいない。  なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。  差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。  すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

処理中です...