【本編完結】逃げるが価値

maruko

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1 記憶の蘇り

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前世の記憶が蘇ったのは私が16歳の誕生日1週間前。
頭を打った私はそのまま亡くなったんだろう。

「ふぅー」

深呼吸をして両手で顔を包む。
今から私は家出をする予定、いや絶対する。

何故なら今日は婚姻前の行儀見習いという名の奴隷になる日だから⋯。

私マイラ・アルシェは侯爵家の次女
婚約者のタンキ・フンバル様は公爵家の嫡男だ。

あちらからの申込みとはいえ本来なら姉のアイラに来たお話だった。
しかし両親は評判の良くないフンバル公爵家に溺愛している姉を嫁がせたくない。
だがお相手は腐っても公爵家、断る術が無かった両親は日頃から放置していた私を生贄に差し出した。

かくして齢10歳から5年間(もうすぐ6年目に突入するけど)週1で公爵家に通ってる。

両親からは決して公爵家に逆らうなと厳命されており、普段居ても居なくても如何でも良い扱いの私は、家でも公爵家でも大人しく言う事を聞いていた。

し・か・し
私は思い出したの前世を。

別に前世では、はっきり物を言う子でもなかったし勝ち気な性格でもなく普通の子だった。
家は母子家庭だったし貧乏だったけど母は一生懸命働いて私を大学まで行かせてくれた。
そのせいなのか病で蝕んでいた体に気づくことなく最後は呆気なく息を引き取った。

それからは一人で生きていた。

多少の苦労なら目も瞑る、慣れてるし⋯でも奴隷はいただけない。
いくら普通の私でも我慢の限界はある。

この案件は我慢の限界突破だ。

せめて婚約者のタンキ様が良い方なら良かったが、そもそも姉に惚れての婚約の申込みだったらしく、顔合わせで私の顔を見た瞬間から全身で拒否ってた。

公爵家の対面を考えてか、その場は大人しく引き下がったが、お開きになって速攻、婚約申込み取り下げの連絡が入った。

彼の様子を見た私は取り下げの連絡にホッとしてたのに。

ここで父がない知恵を振り絞り何を言ったのかは知らないが、何故か後日婚約が纏まってしまった。


絶望した5年前の事を思い出し涙がポロリ

どんなに酷い目にあっていても婚約の撤回はこちらからは難しい、両親が許すはずもないし。

ならばあちらからお断りしてもらおうと思っていたけどタダで、しかも誰からも文句を言われないサンドバックに価値を見出したフンバル公爵家の面々は、私が失敗しようが(態としてみたが)如何でも良くて、婚約を破棄してくれない。

私が嫁いで来ても白い結婚は必須で、公爵家の皆様は第二夫人探しに躍起になってる。
相手の方が私と同じか上の身分なら、きっと私が第二夫人になるだろう。

右を見ても左を見ても私には逃げ場がない。
逃げ場がないなら自分で作らないと。
でも今のままなら難しい。

だから私は家出をします。

除籍届けはしっかりと書いた。
本当は成人になる16歳を待って家出しようと思ってたけど、2、3日前に夜中にコソコソ両親が話しているのを聞いた。
16歳の誕生日を迎えたら公爵家に転居が決まっていたらしい。
聞いたときは為すすべも無いと絶望したが、このタイミングで前世を思い出したんだから【逃げ】の一択でしょう。
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