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三角関係
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いつもの部屋から庭へ向かう王宮の廊下を出会う侍女たちがアルシェリーナを見かけると立ち止まり頭を下げたまま、彼女が通り過ぎるのを恭しく待っている。
相手に敬意を払うその行為はある宮へ一歩を踏み出すと途端に一変する。
側妃マリアの宮、ルーカス命名の“魔窟”である。
彼女達はアルシェリーナを見かけても立ち止まったりなぞしない、お喋りをしながら此方を見ようともしない、いやチラッと見て婚約者に相手にされない彼女をニヤつきながら目で嘲笑している。
ルーカスと対面してからも捨て置かれる婚約者を演じるため待ちぼうけのお茶会も継続されていた。
最近はその待ちぼうけ前提の茶会に現れる御仁がいる、少々厄介な彼を防御する術をアルシェリーナは持っていない。
だから毎回知恵を絞って早々に切り上げようと頑張るのだ。
どうやら今日は“その日”であるらしい。
「はぁ」
大きな溜息は誰を憚ることなくアルシェリーナの口内から吐き出される。
厄介なかの方の背を見かけてしまったからだ。
「やぁ来たね」
アルシェリーナはその声の主にラガン夫人より矯正されたカーテシーではなく、以前の無様(ラガン夫人評価)なカーテシーを態と披露しながら挨拶をした、アルシェリーナのせめてもの抵抗であった。
「本日もご機嫌麗しゅう、王国の若き太陽にドュバン侯爵家が娘アルシェリーナがご挨拶申し上げます」
「そんなに堅苦しい挨拶はやめてくれと言っただろう、面を上げてくれ」
人当たりの良さそうな笑顔を振りまく第一王子はアルシェリーナにいつものように声をかけた。
この様子を傍から見たら、高貴な王子が弟の婚約者を気遣う優しい言葉であるかと思われる、が、そのパフォーマンスこそがこの第一王子が傲慢で此方を侮っている事の証明だとアルシェリーナはラガン夫人より学んだ。
まぁ王子なので侮られるのは別に大したことではないかもしれないが⋯身分的に。
以前のアルシェリーナなら喩え王子妃教育を施されてルーカスを侮る第一王子を見ても、憤慨することは無かったであろうと思う。
だがアルシェリーナはルーカスを知ってしまった、出会ってしまった。
ガチ嵌りしてしまったのだからもうそれは本能だ。
本能でこの第一王子が嫌いになっている。
優しそうな笑みはアルシェリーナに取っては胡散臭い笑みにしか最早見えない。
アルシェリーナの脳内ではさっさと第一王子を躱して侯爵家で待っているであろうルーカスに会いたくて堪らないのだ。
エスカリーナの日記にアルシェリーナが飛び上がるほど喜んだ事が記載されていた。
それは離宮とドュバン侯爵家を結ぶ隠し通路の存在だった。
昔、マイケルが愛子に選ばれた時に離宮を建てた際、姿を極力見せずに移動するためにドルチェ家へ通じる道を作ったのだと書いてあった。
それのおかげでマイケルの秘密が保たれているのだとサイラスへの感謝の言葉が記してあった。
よく考えたらドュバン家の邸の位置は王国にあって不自然な位置ではある。
侯爵に叙爵したのもその辺が要因であったのかもしれない。
一般的に王国の作りは大陸に於いてあまり変わらないだろうとアルシェリーナは思う。
王城を拠点として先ずその周りを国の重鎮が住まう。
順に公爵、侯爵、一部の伯爵そしてその後に市が設けられ色々な商店が立ち並ぶ、その隙を縫って伯爵、子爵の邸が点在してそしてまた少しの商店が並び男爵家が邸を構えていく。
市の付近には貴族だけではなく裕福な商家の屋敷もあったりする。
それが王都と呼ばれるのだ。
その位置関係にあって当時伯爵であったドュバン家の邸は公爵家と公爵家の間に位置していた。
異例中の異例の場所だ。
後年叙爵されて侯爵になってもそれは変わらない。
どう考えても当時王太子であったサイラスの差配(ゴリ押し)でその位置にドュバン家は置かれたのだった。
この話をアルシェリーナから聞かされたルーカスはいつもの毒舌で一言呟いた。
「爺はいい仕事をしたのだな」
前国王を爺呼ばわりする不敬にも関わらず、その様を見たアルシェリーナは思わず「はうっ!」と漏れ出てしまいそのままルーカスをギュッと抱きしめていつものスリスリを始めていた。
ラガン親子が控えていたのもお構いなしだった。
ルーカスはいつものように始めだけ嫌がりあとはアルシェリーナの思うがままにさせていた。
もうルーカスは諦めていたのだ、いくら言ってもアルシェリーナはその行いを改める事をしないから。
アルシェリーナは実は今日は少し焦っていた。
ルーカスが侯爵家で待っている、それを前提であるが。
早く帰らねば母であるミナリーゼにルーカスを取られてしまう!のだ。
何故なら脳内も尻も軽いマリアはルーカスにとって母では無かった。
何時までも幼い彼女は何時までも少女のようで母にはなってはくれなかったからだ。
アルシェリーナはルーカスに嵌っているがルーカスはミナリーゼに母への恋慕を拗らせている。
奇妙な三角関係に今日は第一王子のせいで一歩も二歩も出遅れているアルシェリーナは早く家路に着くために、知恵を絞りまくってこのくだらないお茶会を切り上げることに全力を注ぐのであった。
相手に敬意を払うその行為はある宮へ一歩を踏み出すと途端に一変する。
側妃マリアの宮、ルーカス命名の“魔窟”である。
彼女達はアルシェリーナを見かけても立ち止まったりなぞしない、お喋りをしながら此方を見ようともしない、いやチラッと見て婚約者に相手にされない彼女をニヤつきながら目で嘲笑している。
ルーカスと対面してからも捨て置かれる婚約者を演じるため待ちぼうけのお茶会も継続されていた。
最近はその待ちぼうけ前提の茶会に現れる御仁がいる、少々厄介な彼を防御する術をアルシェリーナは持っていない。
だから毎回知恵を絞って早々に切り上げようと頑張るのだ。
どうやら今日は“その日”であるらしい。
「はぁ」
大きな溜息は誰を憚ることなくアルシェリーナの口内から吐き出される。
厄介なかの方の背を見かけてしまったからだ。
「やぁ来たね」
アルシェリーナはその声の主にラガン夫人より矯正されたカーテシーではなく、以前の無様(ラガン夫人評価)なカーテシーを態と披露しながら挨拶をした、アルシェリーナのせめてもの抵抗であった。
「本日もご機嫌麗しゅう、王国の若き太陽にドュバン侯爵家が娘アルシェリーナがご挨拶申し上げます」
「そんなに堅苦しい挨拶はやめてくれと言っただろう、面を上げてくれ」
人当たりの良さそうな笑顔を振りまく第一王子はアルシェリーナにいつものように声をかけた。
この様子を傍から見たら、高貴な王子が弟の婚約者を気遣う優しい言葉であるかと思われる、が、そのパフォーマンスこそがこの第一王子が傲慢で此方を侮っている事の証明だとアルシェリーナはラガン夫人より学んだ。
まぁ王子なので侮られるのは別に大したことではないかもしれないが⋯身分的に。
以前のアルシェリーナなら喩え王子妃教育を施されてルーカスを侮る第一王子を見ても、憤慨することは無かったであろうと思う。
だがアルシェリーナはルーカスを知ってしまった、出会ってしまった。
ガチ嵌りしてしまったのだからもうそれは本能だ。
本能でこの第一王子が嫌いになっている。
優しそうな笑みはアルシェリーナに取っては胡散臭い笑みにしか最早見えない。
アルシェリーナの脳内ではさっさと第一王子を躱して侯爵家で待っているであろうルーカスに会いたくて堪らないのだ。
エスカリーナの日記にアルシェリーナが飛び上がるほど喜んだ事が記載されていた。
それは離宮とドュバン侯爵家を結ぶ隠し通路の存在だった。
昔、マイケルが愛子に選ばれた時に離宮を建てた際、姿を極力見せずに移動するためにドルチェ家へ通じる道を作ったのだと書いてあった。
それのおかげでマイケルの秘密が保たれているのだとサイラスへの感謝の言葉が記してあった。
よく考えたらドュバン家の邸の位置は王国にあって不自然な位置ではある。
侯爵に叙爵したのもその辺が要因であったのかもしれない。
一般的に王国の作りは大陸に於いてあまり変わらないだろうとアルシェリーナは思う。
王城を拠点として先ずその周りを国の重鎮が住まう。
順に公爵、侯爵、一部の伯爵そしてその後に市が設けられ色々な商店が立ち並ぶ、その隙を縫って伯爵、子爵の邸が点在してそしてまた少しの商店が並び男爵家が邸を構えていく。
市の付近には貴族だけではなく裕福な商家の屋敷もあったりする。
それが王都と呼ばれるのだ。
その位置関係にあって当時伯爵であったドュバン家の邸は公爵家と公爵家の間に位置していた。
異例中の異例の場所だ。
後年叙爵されて侯爵になってもそれは変わらない。
どう考えても当時王太子であったサイラスの差配(ゴリ押し)でその位置にドュバン家は置かれたのだった。
この話をアルシェリーナから聞かされたルーカスはいつもの毒舌で一言呟いた。
「爺はいい仕事をしたのだな」
前国王を爺呼ばわりする不敬にも関わらず、その様を見たアルシェリーナは思わず「はうっ!」と漏れ出てしまいそのままルーカスをギュッと抱きしめていつものスリスリを始めていた。
ラガン親子が控えていたのもお構いなしだった。
ルーカスはいつものように始めだけ嫌がりあとはアルシェリーナの思うがままにさせていた。
もうルーカスは諦めていたのだ、いくら言ってもアルシェリーナはその行いを改める事をしないから。
アルシェリーナは実は今日は少し焦っていた。
ルーカスが侯爵家で待っている、それを前提であるが。
早く帰らねば母であるミナリーゼにルーカスを取られてしまう!のだ。
何故なら脳内も尻も軽いマリアはルーカスにとって母では無かった。
何時までも幼い彼女は何時までも少女のようで母にはなってはくれなかったからだ。
アルシェリーナはルーカスに嵌っているがルーカスはミナリーゼに母への恋慕を拗らせている。
奇妙な三角関係に今日は第一王子のせいで一歩も二歩も出遅れているアルシェリーナは早く家路に着くために、知恵を絞りまくってこのくだらないお茶会を切り上げることに全力を注ぐのであった。
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