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番外編 後悔〜メーキリー侯爵〜
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今日私の娘がこの国を出国する。
スルベージュから遠い遠い国ラシュトニアへ向かう
ラシュトニアの第二王子と婚約したからだ。
おそらくもう会うことは叶わない。
少しでも娘の姿を目に焼き付けようと馬車に近づく
昨日離婚が成立した妻も一緒に行くはずだが姿が見えないのは、もう馬車の中だろう。
結婚して20年、仲睦まじくしていたのに最後は呆気なく挨拶も交わせなかった。
今まさに馬車に乗ろうとしていた娘がピタッと止まる、
こちらを振り返り私の顔を認めるとゆっくりと近づいて来た。
最後に愛しい娘を抱きしめたくて涙を堪えながら両手を広げた。
しかし娘は私の目の前まで来ておきながら小さい頃のように胸に飛び込んでは来てくれなかった。
真っ直ぐに私を見つめおもむろに
「お父様、長らくお世話になりました。最後に一つよろしいでしょうか?」
「あぁ」
他人行儀な挨拶に傷つきながら返事を返すと、ニッコリと笑う娘
「お父様は私が嫌いですか?今までは怖くて聞けなかったの。最後なので教えて下さいませ」
「そ、そんな事あるわけないじゃないか。アリーなぜそんな事⋯⋯お前は私の大切な娘だ。可愛い娘だ。自慢の娘だ!嫌いだなんて思ったことはない!」
「自慢の娘なのに跡継ぎにはして頂けませんでした。お父様の子は私一人なのに、お父様の本音は私を認めては下さってない。嫌いだからなのだろうと思っておりましたが、そうですか、嫌いではなかったのですね。
承知いたしました。もう二度とお会いする事もないと思いますので、呉呉もお体をお厭い下さいませ。
さようなら、メーキリー侯爵様」
最愛の娘の言葉が私の心臓に楔を打ち込んだ。
呆然とその場から動けなかった私を再び見ることもなく
アリーは行った。
私はたった一人の娘に今⋯⋯捨てられた。
──────────────
その男女は道の端にゴザをひき、様々な布を並べていた。
平民にしては些か整いすぎる容姿に興味が湧く
よく見ると、とても似ているので父娘だろう。
この布の用途は何がお勧めかい?
私の問に父親の方が匠な話術で惹きこむ。
娘の方はそんな父親を見てニコニコしている。
その場で交渉して布を1反購入した。
それがアリーの母親、キャンデラとの出会いだ。
その後私達は愛を育んだ。
2ヶ月後父親は旅の疲れから流感に冒され亡くなってキャンデラは一人になった。
そんな彼女を私は捨てられなかった。
元より離れたくなかった。
だが結婚するには身分の問題がある。
当然親戚共は反対するであろうし、どうしたものかと思案していたら姉から提案された。
姉は公爵家に嫁いでいるのだがそこの寄子に頼んで養子縁組すれば身分は貴族になる。
その縁組については姉が責任を持って纏めてくれるという。
その代わり、婚姻後に出来た子は後継ぎと認められないがいいか?と言われた。
私は自分の子が跡継ぎになれないのは納得できないと言ったが平民と結婚するなら、半分は平民の血が流れている。そこを親戚たちに突かれたら侯爵家の存続が危ぶまれる。条件を呑めないのなら弟に侯爵位を譲れと言われてしまった。
確かにそれが一番良かったのかもしれない。
うちにはもう一つ伯爵の爵位もある。
だが私はずっと家を継ぐために努力していたから爵位に未練があった。
結局姉の提案にのりキャンデラと結婚した。
結婚して1年たった頃、姉が生まれたばかりの自分の子を私に預けに来た。
侯爵家の後継ぎだと。
いくら何でも早いというと少しでも育ててしまうと自分が手放せなくなるから早いほうがいいと言われて乳母ごと引き取った。
私は婚姻の時の姉との密約をキャンデラに話せてなかったので子供と乳母は別宅に連れていきそこで育てた。
育て始めると自分の子ではないがとても可愛かった。
悪劣な親戚共に付け入る隙を与えない後継者を私に託してくれた姉に感謝した。
その1年後にアリーが生まれた。
もう手放しで喜んだ。可愛いとても可愛い。
よく目の中に入れても痛くない程とか揶揄するが、初めて実感した。
この子は後継ぎにはできないけど最高の嫁ぎ先を決めてやらねば!と私は胸に誓った。
でも私はこの経路や思いをキャンデラにもアリーにも伝える事を怠った。
何も聞かされなかった2人は私に不信感を抱いていたのにそれすらも気付なかった。
話していたら結果はわからないがこんな捨てられ方はしなかったはずだ
キャンデラに離婚を突きつけられた時彼女に言われた。
「私は追放されたけど公爵家の人間だと貴方に言いました。今は許されていると親戚筋から伝言をもらったから調べてくださいと何度もお願いしたのに貴方は信じてくれてなかったのですね。その時、時間がかかっても調べてくれたらアリーは後継ぎになれたでしょう?跡継ぎの問題を私に相談せずに別宅に入れた時点で信頼関係はなくなったのです」
侯爵に拘らず伯爵位を継いでいれば
姉が子を連れてきたときキャンデラに直ぐ話していれば
キャンデラのいうとおり調べていれば
アリーにちゃんと事情を話して、娘の不安を取り除いてやってれば
後悔は湯水の如く湧いてくる
全て自業自得。
✎ ------------------------
お読み頂きありがとうございました
こちらのお話は番外編アリーのプロローグです。
明日からの番外編アリーもよろしくお願いします
スルベージュから遠い遠い国ラシュトニアへ向かう
ラシュトニアの第二王子と婚約したからだ。
おそらくもう会うことは叶わない。
少しでも娘の姿を目に焼き付けようと馬車に近づく
昨日離婚が成立した妻も一緒に行くはずだが姿が見えないのは、もう馬車の中だろう。
結婚して20年、仲睦まじくしていたのに最後は呆気なく挨拶も交わせなかった。
今まさに馬車に乗ろうとしていた娘がピタッと止まる、
こちらを振り返り私の顔を認めるとゆっくりと近づいて来た。
最後に愛しい娘を抱きしめたくて涙を堪えながら両手を広げた。
しかし娘は私の目の前まで来ておきながら小さい頃のように胸に飛び込んでは来てくれなかった。
真っ直ぐに私を見つめおもむろに
「お父様、長らくお世話になりました。最後に一つよろしいでしょうか?」
「あぁ」
他人行儀な挨拶に傷つきながら返事を返すと、ニッコリと笑う娘
「お父様は私が嫌いですか?今までは怖くて聞けなかったの。最後なので教えて下さいませ」
「そ、そんな事あるわけないじゃないか。アリーなぜそんな事⋯⋯お前は私の大切な娘だ。可愛い娘だ。自慢の娘だ!嫌いだなんて思ったことはない!」
「自慢の娘なのに跡継ぎにはして頂けませんでした。お父様の子は私一人なのに、お父様の本音は私を認めては下さってない。嫌いだからなのだろうと思っておりましたが、そうですか、嫌いではなかったのですね。
承知いたしました。もう二度とお会いする事もないと思いますので、呉呉もお体をお厭い下さいませ。
さようなら、メーキリー侯爵様」
最愛の娘の言葉が私の心臓に楔を打ち込んだ。
呆然とその場から動けなかった私を再び見ることもなく
アリーは行った。
私はたった一人の娘に今⋯⋯捨てられた。
──────────────
その男女は道の端にゴザをひき、様々な布を並べていた。
平民にしては些か整いすぎる容姿に興味が湧く
よく見ると、とても似ているので父娘だろう。
この布の用途は何がお勧めかい?
私の問に父親の方が匠な話術で惹きこむ。
娘の方はそんな父親を見てニコニコしている。
その場で交渉して布を1反購入した。
それがアリーの母親、キャンデラとの出会いだ。
その後私達は愛を育んだ。
2ヶ月後父親は旅の疲れから流感に冒され亡くなってキャンデラは一人になった。
そんな彼女を私は捨てられなかった。
元より離れたくなかった。
だが結婚するには身分の問題がある。
当然親戚共は反対するであろうし、どうしたものかと思案していたら姉から提案された。
姉は公爵家に嫁いでいるのだがそこの寄子に頼んで養子縁組すれば身分は貴族になる。
その縁組については姉が責任を持って纏めてくれるという。
その代わり、婚姻後に出来た子は後継ぎと認められないがいいか?と言われた。
私は自分の子が跡継ぎになれないのは納得できないと言ったが平民と結婚するなら、半分は平民の血が流れている。そこを親戚たちに突かれたら侯爵家の存続が危ぶまれる。条件を呑めないのなら弟に侯爵位を譲れと言われてしまった。
確かにそれが一番良かったのかもしれない。
うちにはもう一つ伯爵の爵位もある。
だが私はずっと家を継ぐために努力していたから爵位に未練があった。
結局姉の提案にのりキャンデラと結婚した。
結婚して1年たった頃、姉が生まれたばかりの自分の子を私に預けに来た。
侯爵家の後継ぎだと。
いくら何でも早いというと少しでも育ててしまうと自分が手放せなくなるから早いほうがいいと言われて乳母ごと引き取った。
私は婚姻の時の姉との密約をキャンデラに話せてなかったので子供と乳母は別宅に連れていきそこで育てた。
育て始めると自分の子ではないがとても可愛かった。
悪劣な親戚共に付け入る隙を与えない後継者を私に託してくれた姉に感謝した。
その1年後にアリーが生まれた。
もう手放しで喜んだ。可愛いとても可愛い。
よく目の中に入れても痛くない程とか揶揄するが、初めて実感した。
この子は後継ぎにはできないけど最高の嫁ぎ先を決めてやらねば!と私は胸に誓った。
でも私はこの経路や思いをキャンデラにもアリーにも伝える事を怠った。
何も聞かされなかった2人は私に不信感を抱いていたのにそれすらも気付なかった。
話していたら結果はわからないがこんな捨てられ方はしなかったはずだ
キャンデラに離婚を突きつけられた時彼女に言われた。
「私は追放されたけど公爵家の人間だと貴方に言いました。今は許されていると親戚筋から伝言をもらったから調べてくださいと何度もお願いしたのに貴方は信じてくれてなかったのですね。その時、時間がかかっても調べてくれたらアリーは後継ぎになれたでしょう?跡継ぎの問題を私に相談せずに別宅に入れた時点で信頼関係はなくなったのです」
侯爵に拘らず伯爵位を継いでいれば
姉が子を連れてきたときキャンデラに直ぐ話していれば
キャンデラのいうとおり調べていれば
アリーにちゃんと事情を話して、娘の不安を取り除いてやってれば
後悔は湯水の如く湧いてくる
全て自業自得。
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お読み頂きありがとうございました
こちらのお話は番外編アリーのプロローグです。
明日からの番外編アリーもよろしくお願いします
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