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1回目の人生2 愚かな婚約者
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執務室で両親に全てを話した。
二人とも最初のうちは俺に対して説教したかったらしく何度か口を挟もうとしてたが、驚愕しながらも最後まで聞いてくれた。
話し終わった俺を母が抱きしめてくれた。
エミリーを退学に追い込んでしまった浅慮で意気地なしの俺は、自分の事を許せずに悔しくて悔しくて話しながら涙が溢れていた。
「わかった。手を打とう」
俺の手に自分の手を重ねて力強く父が言ってくれた。
「信じてくれるの?」
「信じるさ!息子の言葉だからな。⋯⋯まぁお前が提案した文房具か?アレもその前世の記憶というやつなんだろ?その提案がなければ直ぐには信じられなかったかもしれないがな。⋯⋯ハハハ情けない親だな。文房具の話を聞いた後に母さんと話してたのさ。俺達の息子は何かあるんだろうってな。話してくれてありがとう。こちらもスッキリしたよ」
それから父は何人かの部下を呼んでいくつかの指示をだしてから俺に尋ねた。
「アリーはどうする?」
「婚約は解消したい。⋯⋯アリー以外の人と誤解させるような行動をした俺は責められてもしょうがない。でもそれを俺ではなく、相手に⋯しかも相手の家族を脅すような女を妻に迎える事はできない。もう無理だ」
「フム。わかった、そうだろうな。あの娘は侯爵夫人の器ではない。その母親もな。今のうちに手を切っておくか」
「父さん⋯⋯父上。申し訳ありませんでした」
頭を下げる俺の肩に優しく力強い手が置かれた。
「後は⋯任せろ。まだ成人前だからな。だが学園を卒業したら、どんな困難もお前が対処しなければならないんだ。今回の事は未熟なお前は大いに反省せねばならない。一人の人生を狂わせたんだからな。エミリー嬢の事はお前の責任だ。同じ過ちはするなよ」
「はい⋯⋯。肝に銘じます」
エミリー達の家族は結局隣国に移る事になった。商会はそのまま彼女の伯父夫婦が引き継いだ。隣国で支店という形で商会を立ち上げるらしい、俺の父やカイルのとこ、そしてメリーのとこまで後ろ盾になった。資金はアリーの親父が慰謝料を払った。
隣国に旅立つ日に俺達は最後に会うことができた。
「そんな顔しないでよー。折角会えた同胞だったけど、まぁ巡りあわせ?が少し悪かったんだよー。もっと沢山前世の話はしたかったけどしょうがない。いつか年をとって会うことがあったらその時に話そう!また会える日までお元気で!バイバイ」
明るいエミリーの言葉で少し救われた俺は彼女の乗る馬車が見えなくなるまで手を振り続けた。
「またなー。元気でー」
──────────────
婚約を解消したアリーは学園を休学したまま母親と領地に行くことになった。
彼女の父親の話では、アリーは10歳頃、母親と参加した他家のお茶会で俺やカイルと一緒にいる事を令嬢たちに揶揄われてから少しずつ変わっていったらしい。その変化に候爵は薄々気づいていたけれど、まさか自分の妻まで変わったとは思ってなくて、自分が家族に向き合ってなかったと甘やかしてるつもりもなかったが、こうなったのもやはり自分の落ち度だと頭を下げた。
いつかアリーとも昔の様に笑い合える日が来る事を心の中で願った。
──────────────
3年になった時メリーの妹のリリーベルが入学してきた。
年よりも幼く見えた可愛らしい小動物は5年の月日で見事な淑女になって俺達の前に現れた。
メリーは性格が表情筋を作ってるような勝ち気な顔の美人だが、リリーはどちらかというと清楚系。佇まいがもうホントに百合のような美人だ。
それなのに性格はどこか抜けてるというか、悪くいえば鈍くさいというか⋯⋯イヤ悪口なんか言いたくない!決してこれは悪口じゃない!
まぁ前世で云うところのギャップ萌?
そう萌え萌えだ!
そんな彼女にはまだ婚約者がいない。
カイルから聞いた話によるとメリーのお眼鏡に叶ったやつが現れないかららしい。
何でメリー主体なんだ!いいのかそれで伯爵家
だがこれは俺にとっては僥倖だ。
それに俺には彼女の将来の姉夫婦がバックについてる。
メリー様様ありがとう。心の中で手を合わせておく。
しかしライバルは多い。婚約者がいないやつは勿論だがいる奴まで有象無象の令息たちが彼女を狙ってる。
それをメリーが休み時間の度に1年のクラスまで赴きリリーの世話を焼いて妨害してくれる。
当事者なら憤慨だが、前回の婚約解消の件で卒業まで誰とも婚約してはならないという親の戒めによりアプローチをおおっぴらにできない俺にとってはビバ姉!
2年の終わりくらいからカイルのとこでは週3回放課後メリーに候爵夫人の教育がカイルの母親によって行われている。
その終わりに二人でお茶をするのがルーティンになってると聞いた俺はそのうちの月2・3回位でいいからリリーと俺を呼んでくれ!とカイルに頼み込んだ。
話を聞いたメリーから無茶苦茶渋られたが、毎日毎日拝み倒したところふたつきめでなんとか許された。
最初は戸惑っていたリリーだったが姉も一緒だという気安さからか段々と俺達は話せるようになって友人枠は確保することができた。
天にも登るような幸せな時間。
───────────────────────
恒例のお茶会を何回か過ごした頃、リリーから相談を受けた。
メリーと一緒に帰宅しない日になんとなくつけられてる様な気がすると。
リリーは学園に入ってから数多の令息たちから求婚されている。伯爵家には釣書が山と積まれているらしいし、チョット目があったからという理由でストーカーされたりということもあり、学園の送迎では侍女と騎士が常に付いている(メリーも同じく)
それにも関わらず不安になるということは具体的な何かがあったのか?と尋ねると
それはないのだという、何かあったわけではなくホントにただなんとなくだから、とりあえず姉に相談したら俺にも話してみろと言われたのだという。
俺は単純に歓喜した。メリーさんサンキュー。
その日はメリーの教育の日だったのでリリーは俺が家まで送った。
次の日教室でメリーに詳しく聞いてみて、そこで昨日歓喜した俺は頭をトンカチで殴られた気分になった。
メリー曰く今回のストーカーはアリーじゃないかという。なので俺にアリーがちゃんと領地にいるのかを確認したかった模様。
「何で⋯⋯アリーが⋯⋯」
「何でって!わからないの?あんなに貴方に執着してた子が婚約解消しただけで諦めるとは思えないからよ」
「まさか。そこまで馬鹿じゃないだろ、だって最近エミリーからも手紙が来たけど。隣国で平和に暮らしてるって⋯⋯書いてたし、エミリーには危害は加えてないよ」
「オーラン!根本的に彼女とは違うことがあるんだけど」
「何?」
「あなたはエミリーさんが好きだったの?」
「そんなわけあるか!彼女はただの同胞だし、話したのも見送りの日を入れても3回だ⋯⋯⋯あっ!」
「わかった?エミリーは好きな人ではなかった。じゃあリリーは?あのお茶会の日の事を覚えてるでしょ」
ぐうの音も出なかった。
まさかホントにアリーが⋯⋯こちらに来てるのか?そしてリリーをストーカーしてるのか?
考えても答えは出ないので俺は早退して調べる事にした。
自宅に帰り父と一緒にメーキリー侯爵家に向かった。
アリーのとこのタウンハウスは俺の家の2件隣だが、俺達は侯爵家。前世と違い近くても馬車で20分はかかる。
早る気持ちを落ち着かせる様に俺は祈った。
頼むアリーじゃありませんように⋯⋯幼い日のアリーを思い浮かべて。
侯爵家の門につけて馬車から降りた所で、慌てた様子の門番から止められた。
父は侯爵に取次ぎを頼んだが、門番の様子がおかしい。
家の中から顔見知りの執事が出てきて、立て込んでるので訪問は後日にしてほしいと言ってきたが、悪い予感しかしない俺達は先触れなしで訪問してくるほど緊急だと突っぱねた。
10分程、執事と押し問答してたが観念した侯爵に中へ通された。
アリーの父を問い詰めると案の定だ。妻と娘は黙って領地から居なくなっていた。
その報せが侯爵に届いたのが今朝で、それから探し回ってるらしいがまだ見つかったとの報告は受けてない、ただ王都へ向かったのではないかと領地の者から連絡が来たとの事。
先月まで二人とも領地で心穏やかに過ごしていたので安心していたのにとアリーの父は頭を抱えていた。
⋯⋯アリーどこに行ったんだ?⋯⋯
この時点で俺達はあまり深くは考えていなかった。あの女の異常性を。
俺の4度目の失敗。
──────────────
アリーの家にいてもどうにもならないので、大事になる前にこちらでも探すのを協力すると言ってメーキリー邸を辞した俺達はとりあえず帰宅した。
何人かの使用人にアリー母娘の捜索を依頼したあと。メリーの不安を母にも話した。
母はポツリと
「私も女だから⋯⋯アリーの気持ちもわからないじゃないけど、それにしても⋯そんなにオーランを想っているなら⋯あのお茶会の後、婚約させるのではなかった、あの時に諦めさせてたらアリーももっと早く前を向くことができたかもしれないのに、期待させてしまったばっかりに」
「まだアリーが何かしたわけじゃないよ。ただ父親に黙って領地を抜け出しただけだろう。今の時点で私達に何ができるというんだ。探すのを協力する以外にできる事はないよ」
父の希望的観測は無意味だ。間違いなくストーカーはアリーだ。俺は確信してた。
まだストーカーだけだが見つけたら白状させて領地に監禁してやる!あんな甘々の父親の監視なんか手ぬるい。リリーになにかあったらどうするんだ!
悶々とアリー発見の報告を待ってた俺に絶望の報せが入ったのは次の日だった。
──────────────
「⋯⋯リリー⋯⋯」
俺の心を表すかのようなどんよりした曇り空。大小ある木々が鬱蒼と茂る森の中をくり抜いて作ったような広大な墓地の一画にリリーが眠ってる。
今にも雨が降ってきそうだ。
リリーの好きだと言っていた白いアネモネを手向けて俺は跪き嗚咽。
俺には後悔しかない。数多の失敗の重なりがこんな事になるなんて、俺が好きになったばっかりに、
俺は⋯俺は⋯
リリーは⋯⋯ただ俺に惚れられただけだ。
彼女はただそこにいただけなのに⋯たったの16年しか生きられなかった。
俺のせいだ。そしてあの女のせいだ!
許さない。絶対に許さない。
二人とも最初のうちは俺に対して説教したかったらしく何度か口を挟もうとしてたが、驚愕しながらも最後まで聞いてくれた。
話し終わった俺を母が抱きしめてくれた。
エミリーを退学に追い込んでしまった浅慮で意気地なしの俺は、自分の事を許せずに悔しくて悔しくて話しながら涙が溢れていた。
「わかった。手を打とう」
俺の手に自分の手を重ねて力強く父が言ってくれた。
「信じてくれるの?」
「信じるさ!息子の言葉だからな。⋯⋯まぁお前が提案した文房具か?アレもその前世の記憶というやつなんだろ?その提案がなければ直ぐには信じられなかったかもしれないがな。⋯⋯ハハハ情けない親だな。文房具の話を聞いた後に母さんと話してたのさ。俺達の息子は何かあるんだろうってな。話してくれてありがとう。こちらもスッキリしたよ」
それから父は何人かの部下を呼んでいくつかの指示をだしてから俺に尋ねた。
「アリーはどうする?」
「婚約は解消したい。⋯⋯アリー以外の人と誤解させるような行動をした俺は責められてもしょうがない。でもそれを俺ではなく、相手に⋯しかも相手の家族を脅すような女を妻に迎える事はできない。もう無理だ」
「フム。わかった、そうだろうな。あの娘は侯爵夫人の器ではない。その母親もな。今のうちに手を切っておくか」
「父さん⋯⋯父上。申し訳ありませんでした」
頭を下げる俺の肩に優しく力強い手が置かれた。
「後は⋯任せろ。まだ成人前だからな。だが学園を卒業したら、どんな困難もお前が対処しなければならないんだ。今回の事は未熟なお前は大いに反省せねばならない。一人の人生を狂わせたんだからな。エミリー嬢の事はお前の責任だ。同じ過ちはするなよ」
「はい⋯⋯。肝に銘じます」
エミリー達の家族は結局隣国に移る事になった。商会はそのまま彼女の伯父夫婦が引き継いだ。隣国で支店という形で商会を立ち上げるらしい、俺の父やカイルのとこ、そしてメリーのとこまで後ろ盾になった。資金はアリーの親父が慰謝料を払った。
隣国に旅立つ日に俺達は最後に会うことができた。
「そんな顔しないでよー。折角会えた同胞だったけど、まぁ巡りあわせ?が少し悪かったんだよー。もっと沢山前世の話はしたかったけどしょうがない。いつか年をとって会うことがあったらその時に話そう!また会える日までお元気で!バイバイ」
明るいエミリーの言葉で少し救われた俺は彼女の乗る馬車が見えなくなるまで手を振り続けた。
「またなー。元気でー」
──────────────
婚約を解消したアリーは学園を休学したまま母親と領地に行くことになった。
彼女の父親の話では、アリーは10歳頃、母親と参加した他家のお茶会で俺やカイルと一緒にいる事を令嬢たちに揶揄われてから少しずつ変わっていったらしい。その変化に候爵は薄々気づいていたけれど、まさか自分の妻まで変わったとは思ってなくて、自分が家族に向き合ってなかったと甘やかしてるつもりもなかったが、こうなったのもやはり自分の落ち度だと頭を下げた。
いつかアリーとも昔の様に笑い合える日が来る事を心の中で願った。
──────────────
3年になった時メリーの妹のリリーベルが入学してきた。
年よりも幼く見えた可愛らしい小動物は5年の月日で見事な淑女になって俺達の前に現れた。
メリーは性格が表情筋を作ってるような勝ち気な顔の美人だが、リリーはどちらかというと清楚系。佇まいがもうホントに百合のような美人だ。
それなのに性格はどこか抜けてるというか、悪くいえば鈍くさいというか⋯⋯イヤ悪口なんか言いたくない!決してこれは悪口じゃない!
まぁ前世で云うところのギャップ萌?
そう萌え萌えだ!
そんな彼女にはまだ婚約者がいない。
カイルから聞いた話によるとメリーのお眼鏡に叶ったやつが現れないかららしい。
何でメリー主体なんだ!いいのかそれで伯爵家
だがこれは俺にとっては僥倖だ。
それに俺には彼女の将来の姉夫婦がバックについてる。
メリー様様ありがとう。心の中で手を合わせておく。
しかしライバルは多い。婚約者がいないやつは勿論だがいる奴まで有象無象の令息たちが彼女を狙ってる。
それをメリーが休み時間の度に1年のクラスまで赴きリリーの世話を焼いて妨害してくれる。
当事者なら憤慨だが、前回の婚約解消の件で卒業まで誰とも婚約してはならないという親の戒めによりアプローチをおおっぴらにできない俺にとってはビバ姉!
2年の終わりくらいからカイルのとこでは週3回放課後メリーに候爵夫人の教育がカイルの母親によって行われている。
その終わりに二人でお茶をするのがルーティンになってると聞いた俺はそのうちの月2・3回位でいいからリリーと俺を呼んでくれ!とカイルに頼み込んだ。
話を聞いたメリーから無茶苦茶渋られたが、毎日毎日拝み倒したところふたつきめでなんとか許された。
最初は戸惑っていたリリーだったが姉も一緒だという気安さからか段々と俺達は話せるようになって友人枠は確保することができた。
天にも登るような幸せな時間。
───────────────────────
恒例のお茶会を何回か過ごした頃、リリーから相談を受けた。
メリーと一緒に帰宅しない日になんとなくつけられてる様な気がすると。
リリーは学園に入ってから数多の令息たちから求婚されている。伯爵家には釣書が山と積まれているらしいし、チョット目があったからという理由でストーカーされたりということもあり、学園の送迎では侍女と騎士が常に付いている(メリーも同じく)
それにも関わらず不安になるということは具体的な何かがあったのか?と尋ねると
それはないのだという、何かあったわけではなくホントにただなんとなくだから、とりあえず姉に相談したら俺にも話してみろと言われたのだという。
俺は単純に歓喜した。メリーさんサンキュー。
その日はメリーの教育の日だったのでリリーは俺が家まで送った。
次の日教室でメリーに詳しく聞いてみて、そこで昨日歓喜した俺は頭をトンカチで殴られた気分になった。
メリー曰く今回のストーカーはアリーじゃないかという。なので俺にアリーがちゃんと領地にいるのかを確認したかった模様。
「何で⋯⋯アリーが⋯⋯」
「何でって!わからないの?あんなに貴方に執着してた子が婚約解消しただけで諦めるとは思えないからよ」
「まさか。そこまで馬鹿じゃないだろ、だって最近エミリーからも手紙が来たけど。隣国で平和に暮らしてるって⋯⋯書いてたし、エミリーには危害は加えてないよ」
「オーラン!根本的に彼女とは違うことがあるんだけど」
「何?」
「あなたはエミリーさんが好きだったの?」
「そんなわけあるか!彼女はただの同胞だし、話したのも見送りの日を入れても3回だ⋯⋯⋯あっ!」
「わかった?エミリーは好きな人ではなかった。じゃあリリーは?あのお茶会の日の事を覚えてるでしょ」
ぐうの音も出なかった。
まさかホントにアリーが⋯⋯こちらに来てるのか?そしてリリーをストーカーしてるのか?
考えても答えは出ないので俺は早退して調べる事にした。
自宅に帰り父と一緒にメーキリー侯爵家に向かった。
アリーのとこのタウンハウスは俺の家の2件隣だが、俺達は侯爵家。前世と違い近くても馬車で20分はかかる。
早る気持ちを落ち着かせる様に俺は祈った。
頼むアリーじゃありませんように⋯⋯幼い日のアリーを思い浮かべて。
侯爵家の門につけて馬車から降りた所で、慌てた様子の門番から止められた。
父は侯爵に取次ぎを頼んだが、門番の様子がおかしい。
家の中から顔見知りの執事が出てきて、立て込んでるので訪問は後日にしてほしいと言ってきたが、悪い予感しかしない俺達は先触れなしで訪問してくるほど緊急だと突っぱねた。
10分程、執事と押し問答してたが観念した侯爵に中へ通された。
アリーの父を問い詰めると案の定だ。妻と娘は黙って領地から居なくなっていた。
その報せが侯爵に届いたのが今朝で、それから探し回ってるらしいがまだ見つかったとの報告は受けてない、ただ王都へ向かったのではないかと領地の者から連絡が来たとの事。
先月まで二人とも領地で心穏やかに過ごしていたので安心していたのにとアリーの父は頭を抱えていた。
⋯⋯アリーどこに行ったんだ?⋯⋯
この時点で俺達はあまり深くは考えていなかった。あの女の異常性を。
俺の4度目の失敗。
──────────────
アリーの家にいてもどうにもならないので、大事になる前にこちらでも探すのを協力すると言ってメーキリー邸を辞した俺達はとりあえず帰宅した。
何人かの使用人にアリー母娘の捜索を依頼したあと。メリーの不安を母にも話した。
母はポツリと
「私も女だから⋯⋯アリーの気持ちもわからないじゃないけど、それにしても⋯そんなにオーランを想っているなら⋯あのお茶会の後、婚約させるのではなかった、あの時に諦めさせてたらアリーももっと早く前を向くことができたかもしれないのに、期待させてしまったばっかりに」
「まだアリーが何かしたわけじゃないよ。ただ父親に黙って領地を抜け出しただけだろう。今の時点で私達に何ができるというんだ。探すのを協力する以外にできる事はないよ」
父の希望的観測は無意味だ。間違いなくストーカーはアリーだ。俺は確信してた。
まだストーカーだけだが見つけたら白状させて領地に監禁してやる!あんな甘々の父親の監視なんか手ぬるい。リリーになにかあったらどうするんだ!
悶々とアリー発見の報告を待ってた俺に絶望の報せが入ったのは次の日だった。
──────────────
「⋯⋯リリー⋯⋯」
俺の心を表すかのようなどんよりした曇り空。大小ある木々が鬱蒼と茂る森の中をくり抜いて作ったような広大な墓地の一画にリリーが眠ってる。
今にも雨が降ってきそうだ。
リリーの好きだと言っていた白いアネモネを手向けて俺は跪き嗚咽。
俺には後悔しかない。数多の失敗の重なりがこんな事になるなんて、俺が好きになったばっかりに、
俺は⋯俺は⋯
リリーは⋯⋯ただ俺に惚れられただけだ。
彼女はただそこにいただけなのに⋯たったの16年しか生きられなかった。
俺のせいだ。そしてあの女のせいだ!
許さない。絶対に許さない。
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