3 / 9
2
しおりを挟む
朝5時、夏の日差しもまだ本領を発揮していないといえど、太陽は、滑走路をジリジリと確実に焼き付けている。
飛行服姿の長官が、倉庫の方から颯爽とこちらに歩いてきた。
「貴様ら、これは遊びじゃない。今から私の指示に従え。まず、座席だ。ルイ・ラサートル、貴様は前方で操縦を、荒川古春、貴様は後方で銃を待ち、私が乗っている飛行機の左側の主翼に一発当てろ。それができれば、同行の権利を与えよう。では、サナデル湖で会おう。」
意外と簡単そうで2人はホッとした。古春は、気合いを入れるために、頬を両手のひらでパンパンと軽く叩いた。いよいよ、僕らの最初の戦いが始まる。長官と僕らが今回乗る機体は、練習機、モル・アイデル。炎のように赤い小型の複座機で、座席付近には、前方、後方共に銃が備え付けられており、今回は後方からしか撃たないが、本来ならば前後同時射撃が可能である。主翼に足をかけ、僕は前方、古春は後方に乗り込んだ。
「飛行準備完了。いくぞ、古春。」
最初にプロペラがぐるぐる回り始め、次第に飛行機は宙に浮き、風を切って進んだ。こんな平和な飛行は久しぶりだ。学生といえど今は戦争真っ只中。戦場に駆り出され最近は実戦続きだ。2人の緊張は完全に逸れていた。
ちょうど、サナデル湖に到着した、その時だった。バババババ、と上空から音がした。
「……銃撃だ!まさか、敵!?こんな所まで⁉︎」
弾丸は、モル・アイデルの右の主翼に、僅かだが掠っていた。
「……ルイ、違う、敵じゃない……長官よ!」
「長官め、話が違うぞ…!」
長官、クリスチアーヌ・アンゴの家庭は貧しかった。子供の頃、貴族のパレードでラリマール人を見た時、精一杯そのラリマール人を睨みつけた。それが、無力な子供にできる、精一杯の復讐だった。クリスチアーヌの父親は、生前、口癖のようにこう言っていた。「ラリマール人がなんの努力もせずに裕福な生活をしている間、俺達は土や汗で体を汚しながら、風呂にも入れず、重い農具を担いで労働している。全部、アイツらのせいだ。全部、ラリマール人のせいだ。」そして、寒い冬の日、クリスチアーヌの父親は、飢えて死んだ。その日の、冷たい空気が肌に刺さる感覚を、忘れた日はない。
「ええい!憎きラリマール人め!親の仇だ!この程度で屈するものに、皇妃の首など打ち取れるはずがない…ならばここでくたばれ‼︎」
ルイは大きな雲に機体を隠した。古春はルイらしからぬ行動に戸惑った。
「逃げるな、ルイ!当てなきゃダメなんだぞ⁉︎」
「逃げてなんかいないさ……古春、後は任せた……!」
雲を抜けたその瞬間、長官のモル・アイデルが、空に炎が現れたかの如く、古春の目の前に飛び出てきた。
古春は瞬時に銃を構え、引き金を引いた。それと同時に、長官も躊躇なく引き金を引く。運任せの銃撃が、今始まった。バババババババババ。物凄い銃声が群青の空に響き渡る。弾が切れ、立ち込めていた硝煙がだんだんと薄くなっていく。古春は目をかっぴらいて長官のモル・アイデルの左の主翼を見た。
「……やった!」
ギリギリ、コックピット付近の左側の主翼に、穴が空いていた。
「……やるな。」
長官は、悔しさと情けなさで、笑う事しかできなかったという。
「見事な操縦と射撃だった。この程度でうちの学校のエースが死ぬはずがないと、私は信じていたからね。」
「僕達を試したんですか⁉︎」
「ハハハ。それはそうと、合格おめでとう。荒川古春に、同行の権利を与えよう。作戦開始は1週間後だ。1週間後、またこの滑走路に来い。」
ルイと古春と長官は、互いに敬礼を交わした。
飛行服姿の長官が、倉庫の方から颯爽とこちらに歩いてきた。
「貴様ら、これは遊びじゃない。今から私の指示に従え。まず、座席だ。ルイ・ラサートル、貴様は前方で操縦を、荒川古春、貴様は後方で銃を待ち、私が乗っている飛行機の左側の主翼に一発当てろ。それができれば、同行の権利を与えよう。では、サナデル湖で会おう。」
意外と簡単そうで2人はホッとした。古春は、気合いを入れるために、頬を両手のひらでパンパンと軽く叩いた。いよいよ、僕らの最初の戦いが始まる。長官と僕らが今回乗る機体は、練習機、モル・アイデル。炎のように赤い小型の複座機で、座席付近には、前方、後方共に銃が備え付けられており、今回は後方からしか撃たないが、本来ならば前後同時射撃が可能である。主翼に足をかけ、僕は前方、古春は後方に乗り込んだ。
「飛行準備完了。いくぞ、古春。」
最初にプロペラがぐるぐる回り始め、次第に飛行機は宙に浮き、風を切って進んだ。こんな平和な飛行は久しぶりだ。学生といえど今は戦争真っ只中。戦場に駆り出され最近は実戦続きだ。2人の緊張は完全に逸れていた。
ちょうど、サナデル湖に到着した、その時だった。バババババ、と上空から音がした。
「……銃撃だ!まさか、敵!?こんな所まで⁉︎」
弾丸は、モル・アイデルの右の主翼に、僅かだが掠っていた。
「……ルイ、違う、敵じゃない……長官よ!」
「長官め、話が違うぞ…!」
長官、クリスチアーヌ・アンゴの家庭は貧しかった。子供の頃、貴族のパレードでラリマール人を見た時、精一杯そのラリマール人を睨みつけた。それが、無力な子供にできる、精一杯の復讐だった。クリスチアーヌの父親は、生前、口癖のようにこう言っていた。「ラリマール人がなんの努力もせずに裕福な生活をしている間、俺達は土や汗で体を汚しながら、風呂にも入れず、重い農具を担いで労働している。全部、アイツらのせいだ。全部、ラリマール人のせいだ。」そして、寒い冬の日、クリスチアーヌの父親は、飢えて死んだ。その日の、冷たい空気が肌に刺さる感覚を、忘れた日はない。
「ええい!憎きラリマール人め!親の仇だ!この程度で屈するものに、皇妃の首など打ち取れるはずがない…ならばここでくたばれ‼︎」
ルイは大きな雲に機体を隠した。古春はルイらしからぬ行動に戸惑った。
「逃げるな、ルイ!当てなきゃダメなんだぞ⁉︎」
「逃げてなんかいないさ……古春、後は任せた……!」
雲を抜けたその瞬間、長官のモル・アイデルが、空に炎が現れたかの如く、古春の目の前に飛び出てきた。
古春は瞬時に銃を構え、引き金を引いた。それと同時に、長官も躊躇なく引き金を引く。運任せの銃撃が、今始まった。バババババババババ。物凄い銃声が群青の空に響き渡る。弾が切れ、立ち込めていた硝煙がだんだんと薄くなっていく。古春は目をかっぴらいて長官のモル・アイデルの左の主翼を見た。
「……やった!」
ギリギリ、コックピット付近の左側の主翼に、穴が空いていた。
「……やるな。」
長官は、悔しさと情けなさで、笑う事しかできなかったという。
「見事な操縦と射撃だった。この程度でうちの学校のエースが死ぬはずがないと、私は信じていたからね。」
「僕達を試したんですか⁉︎」
「ハハハ。それはそうと、合格おめでとう。荒川古春に、同行の権利を与えよう。作戦開始は1週間後だ。1週間後、またこの滑走路に来い。」
ルイと古春と長官は、互いに敬礼を交わした。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
【完結】浄化の花嫁は、お留守番を強いられる~過保護すぎる旦那に家に置いていかれるので、浄化ができません。こっそり、ついていきますか~
うり北 うりこ
ライト文芸
突然、異世界転移した。国を守る花嫁として、神様から選ばれたのだと私の旦那になる白樹さんは言う。
異世界転移なんて中二病!?と思ったのだけど、なんともファンタジーな世界で、私は浄化の力を持っていた。
それなのに、白樹さんは私を家から出したがらない。凶暴化した獣の討伐にも、討伐隊の再編成をするから待つようにと連れていってくれない。 なんなら、浄化の仕事もしなくていいという。
おい!! 呼んだんだから、仕事をさせろ!! 何もせずに優雅な生活なんか、社会人の私には馴染まないのよ。
というか、あなたのことを守らせなさいよ!!!!
超絶美形な過保護旦那と、どこにでもいるOL(27歳)だった浄化の花嫁の、和風ラブファンタジー。
28歳、曲がり角
ふくまめ
ライト文芸
「30歳は曲がり角だから」「30過ぎたら違うよ」なんて、周りからよく聞かされてきた。
まぁそんなものなのかなと思っていたが、私の曲がり角少々早めに設定されていたらしい。
※医療的な場面が出てくることもありますが、作者は医療従事者ではありません。
正確な病名・症例ではない、描写がおかしいこともあるかもしれませんが、
ご了承いただければと思います。
また何よりも、このような症例、病状、症状に悩んでおられる方をはじめとする、
関係者の皆様を傷つける意図はありません。
作品の雰囲気としてあまり暗くならない予定ですし、あくまで作品として見ていただければ幸いですが、
気分を害した方がいた場合は何らかの形で連絡いただければと思います。
【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです
との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。
白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・
沈黙を続けていたルカが、
「新しく商会を作って、その先は?」
ーーーーーー
題名 少し改変しました
「不吉な子」と罵られたので娘を連れて家を出ましたが、どうやら「幸運を呼ぶ子」だったようです。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
マリッサの額にはうっすらと痣がある。
その痣のせいで姑に嫌われ、生まれた娘にも同じ痣があったことで「気味が悪い!不吉な子に違いない」と言われてしまう。
自分のことは我慢できるが娘を傷つけるのは許せない。そう思ったマリッサは離婚して家を出て、新たな出会いを得て幸せになるが……
野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
フェロモンの十戒
紫陽花
ライト文芸
高砂仄香(たかさごほのか)は、今は亡き調香師の祖母から受け継いだ調香工房で、隠されていた古い香水を見付けた。
幼馴染みの長谷川郁(はせがわいく)とともに香水の謎を調べていくうちに、この香水が人の心を操ることのできる不思議な力を持っていることに気付く。
だが、この香水にはさらに驚くべき秘密があった。
香りにまつわる謎。
『十戒』と呼ばれる香水を使った儀式。
妖しい香りに惹かれて現れるモノとは?
イラスト:藤 元太郎(Twitter ID:@fujimototarou)
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる