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第一話 とりあえず、これをどうするのか

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 朝の空気は少し冷たくて、湿っている
 鳥は可愛らしく鳴いて、
 周囲に広がる作物たちは朝露に濡れて、向こうの山から登ってくる朝日を反射している
 爽やかな朝。
 そう形容するしかない、清々しい一日の始まり………ーーーーーー

「ーーー………さて。」

 取り敢えず、現実逃避はここで打ち切って、目の前を見つめよう

「どーしたもんかねー………。」


 そう言って見上げるリアの視界には、
 農民の一日の始まりを告げる朝日を思い切り遮る、悠に三メートルはあるであろうカボチャが鎮座していた。

「やっちまったー…………ハハハ」


 ○△□


 アルネリスの街 総合ギルド前広場

「…………で。」
 ルーシャはそれを見上げると、引き攣りそうになった頬をピシリと叩いて、いつもの営業スマイルで聞き返した
「この化け物カボチャを買い取ってくれ、とーーー仰ったんですよね?リアさん?」
 そう言って、荷台の隣で申し訳なさそうに笑うリアの顔を覗き込む
「あ、あははは………はい」
「うふふふ。率直に申し上げますねー。無理です♡」
 虫も殺さぬ笑顔で出した返事は、一刀両断の却下である
「あのぉ……………そこをなんとか出来ませんでしょうかルーシャさーーー」
「無・理です♥︎」
 にっこりと虫も(以下略)、今度は圧を乗せた笑顔で却下である
「あは、あははははははは!」
「うふ、うふふふふふふふ♡」
 それを見ていた通行人は
「(あ、始まる)」
「(始まるなコレ)」
「(みなさーん。始まりまーす)」
 そしてある剣士はちょっと離れて、ある魔術師は無言で録画用水晶を出して、またある商人は屋台の下で懐から酒を取り出した。
「うふふ♡リアさん。」
「はい、ルーシャさっーーーー」
 笑顔のまま、ルーシャはリアの襟元を両手で掴む
「…………テメェコラおいリア‼︎またか⁈なのか⁈!ええおい⁉︎」
「い、いや今度は前回みたいに大量にできた訳ではなくて、ただちょーっと通常サイズよりデカくなってしまっただけであって、けしてまたやりすぎた訳ではーーー」
「言い訳ゴチャゴチャうるせぇぞ。」
「ごめんなさい。張り切りすぎました。」
「素直になればいいってもんじゃねぇんだよっ‼︎」
「理不尽!」
 ぎゃあぎゃあとギルド前で騒ぐ二人を見ながら、またとある冒険者トリオは酒を呷る
「なにしてんスかあの二人」
「ああ、そういやお前見たことなかったっけ?」
「アルネリスの街・総合ギルド前広場、名物カップルの痴話喧嘩だよ」
「ええ……痴話喧嘩て……」
「ここらじゃ割と有名だぞー?方や総合ギルド冒険者受付の人気美少女受付嬢、ルーシャさんと」
「方やその幼馴染で、たまに品質上限を超えた作物を市場に出しては、荒らすだけ荒らして儲けを叩き出して帰って行く、市場荒らしのリア。」
「…………なんで先輩方はそんな知ってんスか?」
「「それがこの街の常識だから。」」
「グッじゃないんスよ!それが意味不明なんスわ!」
 頭を抱えた新人冒険者は、チラリとルーシャと、それにブンブン振り回されるリアを見る
「………あーあールーシャさん、ちょっと狙ってたんだけどなぁー」
「諦めろ。あの空気では入れん」
「あれで付き合ってないんだぜ」
「嘘でしょ」
 トリオはチラリとまた二人を見る
「とゆーかもうギルド通さないでそのまま市場に自分で持ってけや‼︎」
「やだよ!郊外から遠いし直接行こうものならスカウトされるわ厄病神呼ばわりされるわ散々なんだよ‼︎‼︎」
「あら良かったじゃない」
「良かないわ‼︎」
「「「………………」」」
 そうしてグイと酒を呷る
「………先輩達が酒を買った理由が解りましたわ」
「だろ?」
「うまいんだなあコレが。」


 ●△□


 ひとしきり痴話喧嘩を済ますと、ルーシャはまたカボチャを見上げて、困ったように頭を掻く
「しっかしどうすんのよコレ………市場出しを引き受けるのはいいとして、ギルドの入り口は入っても受付には入らないわよ?それに私の管轄は農作物じゃなくて冒険者の依頼捌きだし。」
「いつもすまないなぁ、ルーシャ」
「そう思ってんなら、持ち込んだ時毎回私呼び出すのやめてよね」
「いやぁ、知り合いでもない受付さん呼ぶの怖いんだよね………気まずいというか………」
「そんなんだから私が農業受付に異動希望だって言う噂が立ってんのよっ!」
 バシンと一発、リアの肩を思い切り叩く
「いったっ!剣振るのにも鍬下ろすのにも必要な肩になにすんだ!」
「何すんだ、じゃないわよこの農業バカ!アンタ剣なんて滅多に降らないでしょうが!」
「刺さることを言うなよ!これでも冒険者資格ライセンスは持ってんだよ⁈」
「農家の方が儲かるからって、殆ど依頼受けてない万年Fランク冒険者が何言ってんのよ」
「ぐふっ」
 万年Fランク冒険者が効いたらしい。
 リアの後頭部に一際大きい言葉の槍が刺さった
「そう言うのはみたいになってから言うもんなのよっ」
とどめを刺されたのか、リアはひざからし崩れ落ちる
それを見ていたギャラリーもとい野次馬達はそれぞれに呟く
「(お、今回も軍配はルーシャちゃんに上がったか)」
「(これでルーシャさんの五十七勝二敗五引き分けっと)」
「(はいルーシャさん勝ちに入れた方大当たり~!今分配するから待ちなぁ)」
はーやれやれと言わんばかりに銘々は散っていき、ギルドの前にはぽつねんと巨大カボチャを乗せた荷車と、未だ地に手を付くリアとそれを見下ろすルーシャが残る
「あのねぇ、アンタだってこういう事になるって予想出来ないほど馬鹿じゃないでしょ。なんだってそんな張り切ってるのよ?」
「ぅえっと………それは……」
真っ直ぐに照準を合わせようとするルーシャの瞳から、リアは波飛沫でも見えそうな程に横に目を泳がせる
「何よ」
「え~………っとー……………」
だらだらと汗を流すリアに、ルーシャによる尋問が始まろうとしていると、にわかに広場にどよめきが起こる
「まぁまぁ、それぐらいにしといてあげて下さいよ、ルーシャさん」
が誤魔化す事なんて、しょーもない事なんだし、問い詰めることないわよ、ルーシャちゃん」
「あら、」
険しい目をリアから外し、客に見せる表情で、ルーシャは声をかけた二人の名前を呼ぶ
S級冒険者さいこうらんくぼうけんしゃのアマリアさん、カルアさん、依頼お疲れ様でございます」






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