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終わり、そして始まり5
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「ただいま…」
戻ると、案の定転移先の部屋には久志が待っていた。そして、私が現れるや否や久志は無言で強く抱き締めてきた。
「……お帰り。向こうにはグヴァイがいるから大丈夫だろうと思ってはいたけど、具合は大丈夫だったか?」
久志は抱き締めていた腕を緩め、両手で私の頬を挟み込むと優しく上に向かせて顔を覗きこんだ。
「うん…。あの、久志」
私は久志の背中に腕を回し、見つめた。
「ん?」
「凄く心配してくれていたのに、勝手に行っちゃってごめんなさい」
「うん、置き手紙には驚いた」
「う"」
久志はクスクスと笑い、ちゅっと唇にキスを落とした。
「サラって、たまに頑固で大胆だよな♪」
「…そう、かな?」
「うん。でも、そう言う所も俺は好きだよ」
甘く微笑みまた唇にキスを落とす久志に、私は照れて顔が赤くなってしまった。
「でも、帰りが1日遅かったのはどうして?」
「ルーの休暇が1日延びたの」
「そっか。楽しかった?」
「うん、久志にお土産買ってきたよ」
「それは嬉しいな♪」
久志と見つめ合い、お互いに微笑み合ったその時に背後から掛けられた声に私は慌てて振り向いた。
「………そろそろ、俺の存在を思い出して貰えるかな?」
「ごっ…ごめん!」
久志から絶対に怒られると思って怯えた私を心配して、一緒に付いて来てくれていたルーの事をすっかりほったらかしにしてしまった。
「サラが可愛いから夢中になってしまうのは解るけど…。ヒサシ、お前はちょっとわざと俺の存在を無視していただろう?」
ルーは私を抱き寄せ、優しく抱き締めてから頬に口付けると久志を軽く睨んだ。
「1日長く心配させられた分ですよ」
久志はにやりと笑った。
ルーは、悪びれない久志に苦笑しつつ肩をすくめた。
「まぁ、いいけど…。それで?何か話があるんだろう?」
ルーはリビングへ行かない久志に何かを感じ取った様だ。
「えぇ」
俺の部屋で話しましょう。とそう言いながら久志は廊下に出て自室へ向かった。部屋に入ると、そこには丸い茶色の座卓と3人分の小豆色の座布団が並べられていた。
「サラはここ♪」
久志に手を引かれて2人の真ん中に座った。一緒に左隣に座ったルーは、イルツヴェーグには床に座る習慣が無いので座卓や座布団を興味深げに触ったり眺めたりしていた。
「あのさ、グヴァイ」
久志は、座卓の隣に用意をしておいたピッチャーから冷たい麦茶をグラスに3人分注ぎ、配り終えると真面目な顔付きになった。そして両手を座卓の上に組み、ルーの顔を見た。
「おう」
ルーも真面目な顔付きの久志を見て姿勢を正した。
「秋口を目処に一緒に暮らし始めないか?」
「?」
「前にサラと一緒に暮らす為には婚約してからじゃないと立場上良くないって言ってたけど、結局今サラがグヴァイの休みの度に泊まりに来ているのだから、世間からしたらあまり変わらない気がするんだよね」
「…まあ、確かにな」
「それに、サラから聞いたけどグヴァイは酒場とかで吟われてしまう程有名人みたいだし…「あ…あれは!俺が知らない内に勝手に吟われていたんだぞ!?」……そうですけど、せっかくなのでそれを利用しようと思うんですよ」
久志の台詞に焦り、思わず言葉を被せたルーだったけど、久志はそんな事は気にせずかなり人が悪い笑顔を浮かべた。
従来ならば、未成年で婚約前の少女と同棲なんて非常識極まりない事だろうが、歌のおかげでルーには心から想う番がいる事は周知されている訳だし、そして漸く再会出来た番が最近になって時々イルツヴェーグに来ている事も知られている訳だ。それに恐らくその番のサラについても噂が広がり、既に酒場で吟われているのではなかろうか?今ではルーだけでなく、サラもイルツヴェーグではかなり有名な存在になってしまっていると推測出来る。だが、そのおかげである意味公認の番カップルなのだから同棲しても問題にはならないと考えられる。と久志は述べたのだった。
「……………………」
黙って聞いていたルーは、腕を組んで下を向いた。
「……サラには黙っていたが、久志の言う通り今酒場ではサラの歌が流行っている」
「!?」
ボソりと呟くルーに、私は驚き目を見開いた。
「ヤフクから言われて以来、俺は素性を隠して酒場に行く事にしたんだ」
日々の仕事と訓練に忙しく、今まで王宮と自宅の往復のみの生活をしていた。しかし仕事柄任務に直接関係なくても噂話等は巡回の際や情報屋等から耳に入れる様にはしてきたルーだった。だが、酒場等にはめったに行かなかったので流行りの歌までは把握していなかったのだ。その為に、王宮で自分自身の噂を聞かされ、尚且つ同僚達から質問責めにあってからは酒場へ足を運び状況把握に努める様になったのだそうだ。
「……一体どんな歌なの?」
ルーの歌が盛られた内容だっただけに、不安しかない。
私はどんな内容か知りたかっただけだっのだが、ルーは軽く首をひねりると、あー、んー、と声を出してなんと吟い出した…!
「イルツヴェーグの騎士に見初められし異世界の姫君の髪は琥珀の煌めき。瞳は希少種の宝石マーヤルを纏い、騎士の腕に抱かれしたおやかなるその身体は春の夜空に浮かぶ月よりも麗しい。透き通りしその声は天井の調べを思わせ聞く者全てを魅了する。微笑みを浮かべれば夜空の星も地上のラウーラも恥じらう美しさ。しかしその全ては騎士にのみ捧げられ、2人を何人たりとも引き裂けぬ」
「「…………………………」」
昔音楽の授業で聞いたトルコ民謡の様なメロディで、少し低くて優しい声音で歌うルーの声はとても耳心地が良くて聞き惚れた。………けど!!だけど!!!
「なんなの!?その内容~!!」
あまりの恥ずかしさに私は絶叫した。
「…多少盛られてるな」
麦茶を飲みながら苦笑する久志に私は首を思いっきり横に振りまくった。
「全ッ然!多少じゃないよ!盛られまくられてるけど!?もはや誰!?って内容じゃん!!」
両手で顔を覆い、床につっぷした。
「……俺的にはサラの事がとても正しく表現されているって思えたが?」
吟い終えて麦茶を飲んでいたルーは優しく私の頭を撫でた。
「2人共耳と目は確か!?……私は姫じゃないし琥珀の髪に宝石の瞳って表現される様な顔じゃないよ!?」
私はガバッと勢いよく起き上がり、2人を見た。
「まぁ、たしかに姫じゃないけど、姫と思わせる程サラは美しいよ?歌詞が忠実にサラを表現していて俺はかなり嬉しいけどな」
「あぁ、まさしくその通りだ」
久志の意見に、うんうん。と頷いてルーも同意していた。
「イヤイヤイヤ!騎士の腕に抱かれしたおやかなるその身体は春の夜空に浮かぶ月よりも麗しいって!…誇張も過ぎると苦痛でしかないよ!」
私は目に涙を浮かべてルー達を睨んだ。
「「…サラ」」
2人は私の頬を撫でて苦笑した。
「サラは自分がどれ程魅力的か解ってなさすぎる」
ルーが私の左頬に口付けた。
「グヴァイの言う通りだぞ。サラは自己評価が低過ぎる。本当にサラは美しいんだ。しかも、最近は色気が増して1人で外出はさせられないって姉貴達が言っていたぞ」
久志は私の右頬に口付け、親指の腹で優しく涙を拭った。
「番の俺達の言葉じゃ信じられないか?」
「……う~、信じられない訳じゃない。でも、鏡で自分の顔を見ても判らないんだもん」
自分が長く彰でいた所為だからか、それとも身近に母や貴美恵さん、そして蕾紗さん等美女が多いからか可愛い・美しいって言われてもお世辞としか思えなかった。
「ちなみに歌の内容を提供したのはヤフクだ。あいつはイタズラ好きな奴だが、嘘や誇張はしないしカルズヤームが付いているから盛ったりもしないと思うぞ」
サラの美しさに相当参ったらしく、後日会った時に俺が番な事を散々羨ましがられたんだ。とルーはニヤリと笑った。
「サラは誰もが振り向く美少女なんだけどな…」
気付いてなかったみたいだけど、親父の会社に行った日の時だってパーティー会場にいた時だってすれ違った人がみんな振り返ってサラに見惚れていたんだよ。と久志は嬉しそうににっこりと微笑んで言った。
…私はルーの台詞にも驚かされたけど、久志にまでそう言われて顔を赤らめた。
「サラは多少自惚れても問題にはなら無いぞ」
「納得してくれた?」
ルーと久志の両方から代わる代わる唇に口付けられ益々顔が熱くなってしまった私は、何だか観念した気分になった。
「………はい。納得しました」
「それは良かった♪……で、本題に戻るんだけど。グヴァイも知っての通り、来週から俺達は殆んど暇はなくなる。サラがそっちに行く事も難しくなるから今のままではグヴァイだけ会えなくなって不公平だろ?」
「…そうだな」
「だから、一緒に暮らし始めちゃおうよ。まぁ、いきなり今週中に引っ越すとかは無理だし、グヴァイに家を見つけて貰うまでに俺とサラが学校や部活が休みの日にそっちに渡って家事の分担とか具体的な事を話し合いたい。あと、俺も本当にイルツヴェーグで生活が出来るのか知らないといけない」
「成る程。……確かに俺もサラもヤフクの所為で有名になってしまったからな。3人で暮らす事はどうにかなるかもしれん。まぁ、障害があっても任せろ♪」
ルーはとても楽し気に笑ったけど、背後から黒いオーラが立ち上がって来るのが見えたのは気のせいだろうか…?
「家も探して目星は付けてあるんだ。…今度来る時に見に行くか?」
「そうですね♪……良い?サラ?」
「うん。…でも、引っ越すとかそう言った事は先ずは父さん達に話して許可をもらわないといけないよね」
「確かにそうだな。今一度サラのご両親には挨拶しておかないといけないな」
「そうだね~。俺も彰信さんにサラとの婚約が世間に流れる事は電話で事情を話しただけだから、挨拶しなきゃ不味いね」
「……え?なんか大事になってない?」
私の中では、今既に久志の家に暮らしているのでそれがルーの家に引っ越す事になるんだ。と伝えれば良いのでは?位にしか思っていなかったけど、2人は私の父へ「娘さんを下さい」って挨拶するつもりの感じでいる。
「大事って言うか、俺の家族と同居するのとは訳が違うからね。完全に同棲になるから」
「それに、サラもヒサシもまだ学生で未成年だからな」
「そっか…。ごめん。私の中ではルーの家に下宿する感じだった」
「……残念ながら俺はサラとは大家と店子みたいな清い関係にはなれないぞ?」
「清いって…」
苦笑いをして呟いたルーの台詞に久志は吹き出して笑った。
「ちなみに俺も無理。今は実家暮らしだから結構セーブしてるけど、サラとグヴァイと暮らし始められたら、俺毎晩サラを抱きたい」
「は……?」
「ヒサシの意見に俺も同感だ。今はサラが泊まりに来てくれた時にしか抱けないが、一緒に暮らし始めたら俺もサラを毎日味わいたい」
「え!?」
「じゃあ、寝室は3人一緒だね♪」
「そうだな♪」
「ちょっ…!ちょっと!勝手に話を進めないでっ!」
2人が気が合ってくれるのは嬉しいけど、こんな事で意気投合はしないで欲しい!
「サラは俺達と一緒に寝るのは嫌?」
「い、嫌とかそう言うのじゃなくて…っ。その…毎晩は困るって言うか、体力が保たないと思う」
「確かに翌日の学校や部活に支障が出たら不味いか…」
「……サラと一緒に寝て抱かずにいる自信はないが、学舎に通えないのはあってはならないか。…そこは考慮する」
2人の台詞に私はほんの少しだけホッとした。
「…また1週間後が俺の休みだけど、会えるか?」
ルーが立ち上がった。壁の時計を見ると、間もなく夕方の4時を指す所だった。
「うん。大丈夫」
「そうか。…じゃあ、そろそろ戻るな」
「もう戻るの?今日は一緒にご飯食べて行けないの?」
私達は話しながら久志の部屋を出て隣の部屋へ移動した。
「あぁ、すまない。戻って至急ヤフクに連絡を着けたいんだ」
「そっか。…あ、ねぇ。次も私から行っても良い?」
「魔力も安定しているし、もう大丈夫みたいだな♪サラの来たいタイミングでいつでも構わないぞ。…久志も来るんだろ?」
「えぇ。是非伺います」
「解った。じゃあ、次に会うまでに目星を付けた家を案内出来る様にしておくよ」
「有難うございます」
「ありがとう、ルー❤」
私はルーをギュッと抱き締め、唇に口付けをした。私からルーへ口付ける事が初めてだったからか、ルーは不意討ちに少し照れて顔が赤くなった。
そして、「……じゃあ、またな」と頬を赤らめたままのルーは軽く私達に手を振り、魔方陣を構築すると転移して行った。
戻ると、案の定転移先の部屋には久志が待っていた。そして、私が現れるや否や久志は無言で強く抱き締めてきた。
「……お帰り。向こうにはグヴァイがいるから大丈夫だろうと思ってはいたけど、具合は大丈夫だったか?」
久志は抱き締めていた腕を緩め、両手で私の頬を挟み込むと優しく上に向かせて顔を覗きこんだ。
「うん…。あの、久志」
私は久志の背中に腕を回し、見つめた。
「ん?」
「凄く心配してくれていたのに、勝手に行っちゃってごめんなさい」
「うん、置き手紙には驚いた」
「う"」
久志はクスクスと笑い、ちゅっと唇にキスを落とした。
「サラって、たまに頑固で大胆だよな♪」
「…そう、かな?」
「うん。でも、そう言う所も俺は好きだよ」
甘く微笑みまた唇にキスを落とす久志に、私は照れて顔が赤くなってしまった。
「でも、帰りが1日遅かったのはどうして?」
「ルーの休暇が1日延びたの」
「そっか。楽しかった?」
「うん、久志にお土産買ってきたよ」
「それは嬉しいな♪」
久志と見つめ合い、お互いに微笑み合ったその時に背後から掛けられた声に私は慌てて振り向いた。
「………そろそろ、俺の存在を思い出して貰えるかな?」
「ごっ…ごめん!」
久志から絶対に怒られると思って怯えた私を心配して、一緒に付いて来てくれていたルーの事をすっかりほったらかしにしてしまった。
「サラが可愛いから夢中になってしまうのは解るけど…。ヒサシ、お前はちょっとわざと俺の存在を無視していただろう?」
ルーは私を抱き寄せ、優しく抱き締めてから頬に口付けると久志を軽く睨んだ。
「1日長く心配させられた分ですよ」
久志はにやりと笑った。
ルーは、悪びれない久志に苦笑しつつ肩をすくめた。
「まぁ、いいけど…。それで?何か話があるんだろう?」
ルーはリビングへ行かない久志に何かを感じ取った様だ。
「えぇ」
俺の部屋で話しましょう。とそう言いながら久志は廊下に出て自室へ向かった。部屋に入ると、そこには丸い茶色の座卓と3人分の小豆色の座布団が並べられていた。
「サラはここ♪」
久志に手を引かれて2人の真ん中に座った。一緒に左隣に座ったルーは、イルツヴェーグには床に座る習慣が無いので座卓や座布団を興味深げに触ったり眺めたりしていた。
「あのさ、グヴァイ」
久志は、座卓の隣に用意をしておいたピッチャーから冷たい麦茶をグラスに3人分注ぎ、配り終えると真面目な顔付きになった。そして両手を座卓の上に組み、ルーの顔を見た。
「おう」
ルーも真面目な顔付きの久志を見て姿勢を正した。
「秋口を目処に一緒に暮らし始めないか?」
「?」
「前にサラと一緒に暮らす為には婚約してからじゃないと立場上良くないって言ってたけど、結局今サラがグヴァイの休みの度に泊まりに来ているのだから、世間からしたらあまり変わらない気がするんだよね」
「…まあ、確かにな」
「それに、サラから聞いたけどグヴァイは酒場とかで吟われてしまう程有名人みたいだし…「あ…あれは!俺が知らない内に勝手に吟われていたんだぞ!?」……そうですけど、せっかくなのでそれを利用しようと思うんですよ」
久志の台詞に焦り、思わず言葉を被せたルーだったけど、久志はそんな事は気にせずかなり人が悪い笑顔を浮かべた。
従来ならば、未成年で婚約前の少女と同棲なんて非常識極まりない事だろうが、歌のおかげでルーには心から想う番がいる事は周知されている訳だし、そして漸く再会出来た番が最近になって時々イルツヴェーグに来ている事も知られている訳だ。それに恐らくその番のサラについても噂が広がり、既に酒場で吟われているのではなかろうか?今ではルーだけでなく、サラもイルツヴェーグではかなり有名な存在になってしまっていると推測出来る。だが、そのおかげである意味公認の番カップルなのだから同棲しても問題にはならないと考えられる。と久志は述べたのだった。
「……………………」
黙って聞いていたルーは、腕を組んで下を向いた。
「……サラには黙っていたが、久志の言う通り今酒場ではサラの歌が流行っている」
「!?」
ボソりと呟くルーに、私は驚き目を見開いた。
「ヤフクから言われて以来、俺は素性を隠して酒場に行く事にしたんだ」
日々の仕事と訓練に忙しく、今まで王宮と自宅の往復のみの生活をしていた。しかし仕事柄任務に直接関係なくても噂話等は巡回の際や情報屋等から耳に入れる様にはしてきたルーだった。だが、酒場等にはめったに行かなかったので流行りの歌までは把握していなかったのだ。その為に、王宮で自分自身の噂を聞かされ、尚且つ同僚達から質問責めにあってからは酒場へ足を運び状況把握に努める様になったのだそうだ。
「……一体どんな歌なの?」
ルーの歌が盛られた内容だっただけに、不安しかない。
私はどんな内容か知りたかっただけだっのだが、ルーは軽く首をひねりると、あー、んー、と声を出してなんと吟い出した…!
「イルツヴェーグの騎士に見初められし異世界の姫君の髪は琥珀の煌めき。瞳は希少種の宝石マーヤルを纏い、騎士の腕に抱かれしたおやかなるその身体は春の夜空に浮かぶ月よりも麗しい。透き通りしその声は天井の調べを思わせ聞く者全てを魅了する。微笑みを浮かべれば夜空の星も地上のラウーラも恥じらう美しさ。しかしその全ては騎士にのみ捧げられ、2人を何人たりとも引き裂けぬ」
「「…………………………」」
昔音楽の授業で聞いたトルコ民謡の様なメロディで、少し低くて優しい声音で歌うルーの声はとても耳心地が良くて聞き惚れた。………けど!!だけど!!!
「なんなの!?その内容~!!」
あまりの恥ずかしさに私は絶叫した。
「…多少盛られてるな」
麦茶を飲みながら苦笑する久志に私は首を思いっきり横に振りまくった。
「全ッ然!多少じゃないよ!盛られまくられてるけど!?もはや誰!?って内容じゃん!!」
両手で顔を覆い、床につっぷした。
「……俺的にはサラの事がとても正しく表現されているって思えたが?」
吟い終えて麦茶を飲んでいたルーは優しく私の頭を撫でた。
「2人共耳と目は確か!?……私は姫じゃないし琥珀の髪に宝石の瞳って表現される様な顔じゃないよ!?」
私はガバッと勢いよく起き上がり、2人を見た。
「まぁ、たしかに姫じゃないけど、姫と思わせる程サラは美しいよ?歌詞が忠実にサラを表現していて俺はかなり嬉しいけどな」
「あぁ、まさしくその通りだ」
久志の意見に、うんうん。と頷いてルーも同意していた。
「イヤイヤイヤ!騎士の腕に抱かれしたおやかなるその身体は春の夜空に浮かぶ月よりも麗しいって!…誇張も過ぎると苦痛でしかないよ!」
私は目に涙を浮かべてルー達を睨んだ。
「「…サラ」」
2人は私の頬を撫でて苦笑した。
「サラは自分がどれ程魅力的か解ってなさすぎる」
ルーが私の左頬に口付けた。
「グヴァイの言う通りだぞ。サラは自己評価が低過ぎる。本当にサラは美しいんだ。しかも、最近は色気が増して1人で外出はさせられないって姉貴達が言っていたぞ」
久志は私の右頬に口付け、親指の腹で優しく涙を拭った。
「番の俺達の言葉じゃ信じられないか?」
「……う~、信じられない訳じゃない。でも、鏡で自分の顔を見ても判らないんだもん」
自分が長く彰でいた所為だからか、それとも身近に母や貴美恵さん、そして蕾紗さん等美女が多いからか可愛い・美しいって言われてもお世辞としか思えなかった。
「ちなみに歌の内容を提供したのはヤフクだ。あいつはイタズラ好きな奴だが、嘘や誇張はしないしカルズヤームが付いているから盛ったりもしないと思うぞ」
サラの美しさに相当参ったらしく、後日会った時に俺が番な事を散々羨ましがられたんだ。とルーはニヤリと笑った。
「サラは誰もが振り向く美少女なんだけどな…」
気付いてなかったみたいだけど、親父の会社に行った日の時だってパーティー会場にいた時だってすれ違った人がみんな振り返ってサラに見惚れていたんだよ。と久志は嬉しそうににっこりと微笑んで言った。
…私はルーの台詞にも驚かされたけど、久志にまでそう言われて顔を赤らめた。
「サラは多少自惚れても問題にはなら無いぞ」
「納得してくれた?」
ルーと久志の両方から代わる代わる唇に口付けられ益々顔が熱くなってしまった私は、何だか観念した気分になった。
「………はい。納得しました」
「それは良かった♪……で、本題に戻るんだけど。グヴァイも知っての通り、来週から俺達は殆んど暇はなくなる。サラがそっちに行く事も難しくなるから今のままではグヴァイだけ会えなくなって不公平だろ?」
「…そうだな」
「だから、一緒に暮らし始めちゃおうよ。まぁ、いきなり今週中に引っ越すとかは無理だし、グヴァイに家を見つけて貰うまでに俺とサラが学校や部活が休みの日にそっちに渡って家事の分担とか具体的な事を話し合いたい。あと、俺も本当にイルツヴェーグで生活が出来るのか知らないといけない」
「成る程。……確かに俺もサラもヤフクの所為で有名になってしまったからな。3人で暮らす事はどうにかなるかもしれん。まぁ、障害があっても任せろ♪」
ルーはとても楽し気に笑ったけど、背後から黒いオーラが立ち上がって来るのが見えたのは気のせいだろうか…?
「家も探して目星は付けてあるんだ。…今度来る時に見に行くか?」
「そうですね♪……良い?サラ?」
「うん。…でも、引っ越すとかそう言った事は先ずは父さん達に話して許可をもらわないといけないよね」
「確かにそうだな。今一度サラのご両親には挨拶しておかないといけないな」
「そうだね~。俺も彰信さんにサラとの婚約が世間に流れる事は電話で事情を話しただけだから、挨拶しなきゃ不味いね」
「……え?なんか大事になってない?」
私の中では、今既に久志の家に暮らしているのでそれがルーの家に引っ越す事になるんだ。と伝えれば良いのでは?位にしか思っていなかったけど、2人は私の父へ「娘さんを下さい」って挨拶するつもりの感じでいる。
「大事って言うか、俺の家族と同居するのとは訳が違うからね。完全に同棲になるから」
「それに、サラもヒサシもまだ学生で未成年だからな」
「そっか…。ごめん。私の中ではルーの家に下宿する感じだった」
「……残念ながら俺はサラとは大家と店子みたいな清い関係にはなれないぞ?」
「清いって…」
苦笑いをして呟いたルーの台詞に久志は吹き出して笑った。
「ちなみに俺も無理。今は実家暮らしだから結構セーブしてるけど、サラとグヴァイと暮らし始められたら、俺毎晩サラを抱きたい」
「は……?」
「ヒサシの意見に俺も同感だ。今はサラが泊まりに来てくれた時にしか抱けないが、一緒に暮らし始めたら俺もサラを毎日味わいたい」
「え!?」
「じゃあ、寝室は3人一緒だね♪」
「そうだな♪」
「ちょっ…!ちょっと!勝手に話を進めないでっ!」
2人が気が合ってくれるのは嬉しいけど、こんな事で意気投合はしないで欲しい!
「サラは俺達と一緒に寝るのは嫌?」
「い、嫌とかそう言うのじゃなくて…っ。その…毎晩は困るって言うか、体力が保たないと思う」
「確かに翌日の学校や部活に支障が出たら不味いか…」
「……サラと一緒に寝て抱かずにいる自信はないが、学舎に通えないのはあってはならないか。…そこは考慮する」
2人の台詞に私はほんの少しだけホッとした。
「…また1週間後が俺の休みだけど、会えるか?」
ルーが立ち上がった。壁の時計を見ると、間もなく夕方の4時を指す所だった。
「うん。大丈夫」
「そうか。…じゃあ、そろそろ戻るな」
「もう戻るの?今日は一緒にご飯食べて行けないの?」
私達は話しながら久志の部屋を出て隣の部屋へ移動した。
「あぁ、すまない。戻って至急ヤフクに連絡を着けたいんだ」
「そっか。…あ、ねぇ。次も私から行っても良い?」
「魔力も安定しているし、もう大丈夫みたいだな♪サラの来たいタイミングでいつでも構わないぞ。…久志も来るんだろ?」
「えぇ。是非伺います」
「解った。じゃあ、次に会うまでに目星を付けた家を案内出来る様にしておくよ」
「有難うございます」
「ありがとう、ルー❤」
私はルーをギュッと抱き締め、唇に口付けをした。私からルーへ口付ける事が初めてだったからか、ルーは不意討ちに少し照れて顔が赤くなった。
そして、「……じゃあ、またな」と頬を赤らめたままのルーは軽く私達に手を振り、魔方陣を構築すると転移して行った。
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