Summer Vacation

セリーネス

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目覚め1

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昼食後、ダイニングテーブルの上をみんなで片付けて地上に戻る。
地下に行った理由は木根家の事を話す為でもあるが、何より俺の秘密を守る為であった。
地上の部屋ももちろん盗聴・盗撮から防ぐ手立てはしているそうだが、俺は異世界のファルリーアパファルでは成人しているかも知れないが日本ではまだまだ子供の年齢。しかも、俺を狙っているのはその異世界の住人。相手に地球上の常識が通らない可能性が高い。
また、怪盗・怜悧を狙う輩もあらゆる手段を講じて正体を掴み捕まえ様と日々虎視眈々と狙っている。一体何処からどの様な事が漏れるか判らないので、念には念を入れて完全に外界から遮断出来る地下を選んだのだそうだ。
ちなみに地下3階と4階は俺が想像していたフィクションの世界の様な秘密基地(美術品や宝物を保管している金庫室とか一気に乗り物が地上に飛び出す駐車場とか武器庫とか)ではなく、一族が今まで集めてきた古今東西の情報やそれ等を調べる為の書籍類を納めた書庫なのだそうだ。
かなり古い物ばかり(それこそ木簡や竹簡もあるって♪)なので、見える敵だけでなくカビ・湿気・シミ等々あらゆる見えない敵からも守る為に空調管理が整った地下が必要で作ったのだそうだ。

「現在その全ての情報をパソコンに移している途中でね、それが終われば調べる事がかなり楽になるわ」

時間がある時に地下に籠って作業を進めている貴美恵さんは、まだまだ先が見えない作業を思い出して苦笑する。
読書好きな俺としては、ある意味宝物庫な地下3・4階にいつか入ってみたいと思った。


※※※※※※※※※※※※※※※※※


地上に戻ると、雅鷹さんは調べ物があるとかで書斎へ貴美恵さんと蕾紗さんは夕食の準備の為キッチンへ、久志は俺と話したい事があるみたいな表情で俺を見ていたが、今の俺はまだ頭の中が混乱し平常心とは言い難い状態だった。
だから「悪い。少し一人になりたい」と言い、借りている自室へと入った。

カサッ

ベッドに横になり、もう一度親父達からの手紙を開く。

最愛の娘、佳夜へ

読み返しても、やはり俺は本当は女で母は元異世界の住人でもうすぐ本当の姿を取り戻すと書いてある。

「読み返しても同じなのは解っているけど……」

つい声に出ていた自分の言葉に思わず苦笑する。

『ドッキリとか引っかけとか夢落ちとかだったらホント笑えるのになぁ』

それでもまだ信じきれなくて、うつ伏せのまま手紙を何度も読み返してしまった。



※※※※※※※※※※※※※※※※



気が付いたら夕方だった。
いつの間に俺は寝てしまっていたのだろうか?

コンコン

「彰、入るぞ」

窓から見える茜色の空に少しだけ驚くも、まだはっきりと目が覚めない。
起き上がってベッドに座ったままぼんやりとしていると、ドアをノックした久志が入ってきた。

「あぁ、起きてたか」
 
「悪い、寝てしまったんだな。俺」

久志が俺に何か話したい事がある雰囲気だったのに、寝てしまうなんて……。
俺は申し訳無く思い小さく頭を下げた。

「疲れたんだろ。気にするな」

確かに、朝から色々有り過ぎた。
脳内疲労は著しく心の許容範囲も越えてしまった所為で脳と身体が強制的に思考停止睡眠を促したのだろう。
だけど、そのおかげで重く感じていた頭も身体もきちんと目が覚めた今は何だかすっきりと軽くなった感じがする。
ベッドから降りて伸びをしている俺の横で、久志は手に持っていた籠から衣類を出し、てきぱきとタンスにしまいだす。
下着トランクスまで丁寧に畳んで綺麗に仕分けていく手際の良さに、まるで世のお母さんみたいだとふと思ってしまった俺はおかしさが込み上げる。

「プッ……ククク」

「?」

突然笑いだした俺に、久志は左眉だけを器用に上げて不審げに見上げてくる。

「……悪ぃ、あんまり久志の手際が良いからみたいで面白くて………」

俺の言いたい事が解ったのか、久志もククッと小さく笑う。

「……沢山泣いて泣き疲れて寝ちゃったお子ちゃまを持つと、風邪を引かないか心配でお母さんは大変だわ」

「ぶはっ!」

妙に似合う女言葉を使って左手を頬に当てながら目を瞑る態度に更に俺の腹をよじらせる。

「あんまり静かだから様子を見に行ったらタオルケットも掛けずにお腹を出して寝ちゃっているんだもの。ダメでしょう、寝冷えしちゃうじゃない」

ホント、手のかかる困った子ねぇ。なんて言いながら「はぁ」とため息までつく始末。

俺を笑い殺す気だろうか?

「ちょっ、おまっ、マジハマり過ぎ!似合い過ぎて腹が痛い!!」

余りにも面白過ぎる久志に笑い過ぎて膝に力が入らなくなり、床に崩れる様に座ってベッドにうつ伏せて笑い悶えていると「やっとお前らしくなったな」と、久志は微笑みを浮かべた。

「!?」

なんだ、その笑顔は!?………鉄面皮が昨日から微笑みの大安売りだ。
滅多に笑顔を見せない奴の柔らかな笑顔は、破壊力抜群過ぎて本当に困る。
俺が異性だったら惚れてしまうだろうっ!

「どうした?」

空になった籠を持って立ち上がった久志は、未だに床に座り込み突然顔を赤らめた俺に首をかしげる。

「……いや。お前、昨日から随分表情が豊かだよな。笑顔の破壊力が半端ねぇ」

「そうか??」

自覚が無かったのか。

「で、その笑顔を見たお前は顔が赤い。と」

何かを読んだ久志は、ニヤニヤと嫌な笑い方をする。

「悪いかよ。……何でか顔が熱くなるんだよ」

「ふ~ん」

久志はなんか勝手に一人で納得した様で、うんうんと頷き俺には届かない小さな声で何か言いながら部屋を出ていってしまった。

『なんだあいつ?』

変な奴。と思うも、久志に変わっている所があるのは昔からなので俺はそれ以上深く気にするのは止め、夕食まで夏休みの宿題を進める。
そして、食後直ぐに部屋に戻らずリビングで蕾紗さんと一緒にバラエティー番組を観てのんびり過ごした。
みんな俺の事を良く解ってくれているので、昼間の事には敢えて触れないで俺が自分の中で折り合いが着くのを待ってくれている様子を感じる。
家族ぐるみで長く付き合いがあるおかげで、気を使わずにいられる事が今日程有難いと感じ本当に嬉しく思った俺だった。
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