布巾は友達

セリーネス

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布巾は友達

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とある休日、特に出掛ける用も無いので俺は母さんとリビングで寛いでいた。

「そう言えば母さん」

「なあに?」

「佳夜って結構簡単にファルリーアパファルとこっちを行き来してるけれど、母さんは渡れないの?」

母さんは、その名と存在をファルリーアパファル中に轟かせた魔術使いだった。

「私は出来ないわ。異世界を渡る能力は本当に特殊で、かなりの魔力が必要なだけでなく別の力も要るの。竜人族や魔人族ぐらいしか本当は扱えない魔術式なのよ…」

佳夜の魔力を借りても母さんにはこの魔術式を展開する事は出来ないのだそうだ。

「じゃあ、なんでグヴァイラヤーさんは可能なの?」

「そうねぇ、彼は全精霊から愛された事があるサーヴラー族だからだと思うわ」

精霊は生きる次元が異なる存在だからどんな世界も行き来が可能なのだそうだ。
「まあ、それだけではあの魔術式は展開出来ないから彼はまだ別の力を持っていると思うけど」と言いながら、母さんはレモンティーを飲んだ。

佳夜が隠し撮りをした写真を以前見せて貰った事があるけれど、確かにイルツヴェーグに住むサーヴラー族の人々とグヴァイラヤーさんは姿が少し異なる様に見えた。

「佳夜はアキュファーレ・サランだしグヴァイラヤーさんと交わってその力を身体に貰っているから簡単に行き来出来る訳か」

「えぇ、そうでしょうね」

「じゃあ、佳夜と交わった久志兄ちゃんは単独で渡る事は出来るの?あと、俺も一応全精霊の力を扱えるけどどうなんだろう?」

「そうね~、2人はそのままでは魔力が足りないのとやっぱり渡る為に必要な力が無いから難しいわね。グヴァイラヤーと深く交わって体内に彼の魔力を貰えたら可能になるんじゃない?」

「ブハッ!」

母さんからの思いがけない言葉から思わず想像をしてしまい、俺は飲みかけて口に含んでいた炭酸にむせて噴き出してしまった。

「あらあら、大丈夫?」

「ゲッホ、ゲッホ!……大丈夫じゃないよ!!」

俺はむせ過ぎて目から涙が溢れた。

「母さんには時々ビックリさせられるから本当に困るよ…」

俺は、止まらぬ咳をしながらコーヒーテーブルの上や床をウェットティッシュで拭いた。

「やぁね~。例えば、の話なんだから鵜呑みにしないでよ!」

ケラケラと笑いながらどこまでも呑気に言う母さんだが、多感で年頃な少年に言う言葉では無いと思う……。

一瞬でも想像をしてしまった己の記憶を即抹消したい。

「だけど、他のサーヴラーじゃなくてなんでグヴァイラヤーさん限定?」

「彼程の魔術使いはいないからよ」

彼自身は隠しているけれど、グヴァイラヤーはサーヴラーの中では間違いなく一番の魔術使いであろう。何故ならば、いくらサーヴラーが世界の理に一切関与しない力を持つ風の精霊に近い種族とは言え、異世界へ渡る魔方陣の構築は簡単には出来ない。もし渡れたとしても魔力が足りず狭間に落ちて死ぬかこちらの世界に渡った瞬間魔力が底を尽きて死ぬだろう。と母は言った。

「……そんなに危険なんだ」

「えぇ、だって本来なら互いの存在なんて知り得ないし交わる事なんて有り得ない世界同士を渡る訳だからね」

確かに、異世界と言われるだけあって地球上には存在しない世界なのだから当然か。

「母さんは佳夜に連れて行って貰いたいって思わないの?」

「ん~、思わない事も無いけれど、満月の力とあなたの魔力を借りてお師匠さんと連絡出来ているし、家族宛の手紙もお師匠さんから届けて貰っているから大丈夫かな。それに向こうへ渡っても今のお母さんじゃ間違って魔獣とかと遭遇しちゃったら簡単に殺されちゃうだろうしねぇ」

母さんはニコニコと笑いながら恐ろしい事を口走った!
魔力が無いと生きていけない世界の恐ろしさを身を持って知っているからこその台詞なんだが、それを笑顔で言うとか本気で怖いワッ!
俺は佳夜程の魔力は保有していないが、並の竜人族位はある。
自力で渡る事は出来そうも無いので(母さんの提案は絶対実現不可だろう!ってか俺が拒否るっ!)佳夜にお願いしよう。
いつか自分の力でファルリーアパファル中を旅してみたいと密かに思っている。その為にはまだまだ魔術の鍛練が必要だ。
あと、出来れば剣か弓でも扱える様になりたいからそっちを今度グヴァイラヤーさんに教わろう。

「母さん、午後鍛練に付き合ってくれる?」

「いいわよ♪」

俺がこの地球上で生きていく事には必要が無い魔力の鍛練と、攻撃系の魔方陣や魔術式を覚えてその力の精度を磨いていても母さんは特に反対等せずいつも快く付き合って教えてくれる。きっと、俺の考えを見抜いているのだろう。
高校へ行かないで冒険の旅に出たいって言ったら怒るかな?と思ってしまうが、母さんなら賛成してくれそうだ。けど、父さんはきっと激怒して反対するだろう。
時間はまだある。説得出来る様に今は勉強も鍛練も頑張るしかないのだろうと思った。
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