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ファオフィス2

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内容に矛盾が生じている箇所を見つけたので、一部修正しました。

……ごめんなさい。


―――――――――――――――――





「え!?グヴァイ、家に帰んないの!?」

今夜のメイン料理、トゥーバラン牛肉の香草とシライールカチョカヴァッロ焼きを頬張りながらラウンは驚きの声をあげる。

「うん。お休み、20日間あるけれど今の季節じゃ野宿出来ないじゃん?」

普通盛りのサラダを食べながら、僕は頷く。

「「……野宿!?」」

ラウンとハーヴは声を揃えて呟き、互いに顔を見合せる。

「だって、僕が自由に使えるお金は無いもん」

僕はそう言い、根菜入りのカップスープの中身をぐいっと飲み干しながらふと視線を食堂の中央に置かれた大時計を見る。

『早くファルフィス5年生になりたいなぁ……』

ついそう思ってしまったのも、ソイルヴェイユの生徒は、ファルフィス以上に上がらないとお金を稼ぐ行為が出来ないからだ。
先日僕は寮内の職員室前に設置されたコルクボードに、生徒向けの求人情報が貼られている事に気が付いた。
貴族や豪商の子が多い学舎で、アルバイトの斡旋(と言ってもソイルヴェイユ内での仕事のみだが)が有る事に驚く。だけどその求人は良く見れば全部14才以上の生徒を募集している。
仕事内容は様々あるけれど、中には学舎内の図書館での雑用や同じく学舎内の食堂の手伝い等僕の年齢でも手伝えそうなものもある。
では何故年齢制限があるのだろう?と首を傾げていると、たまたま職員室に用があったハーヴが通り掛かり僕の疑問に答えてくれたのだった。
理由は簡単に言うと2つあり、1つはファルフィスに上がるまでに必要とされる主要教科の単位を得るのが大変な為、放課後に働く余裕等皆無に近い。2つ目は、授業の一環としてファルフィスが働くからである。
ここの生徒は、将来文官や武官または親の跡を継ぎ領主になる者大きな店を任される者が殆んど。
その為、王や国を支え民に寄り添って生きるサーヴラー人となれる様に1年間郊外学習としてイルツヴェーグ内で3ヶ月毎に職種を変えて働く。
給金を得る為の働きとは如何なるものかを実感して欲しいので、きちんと給金も貰える。
しかし、授業には変わらないので4回変わる仕事の中で1つでも給金に見合う働きが出来なければ単位は貰えず翌年再受講となる。
学舎内の授業の一つを単位が取れなくて再受講するのとは訳が違い、1年間のやり直しは事実上の留年になる。
ファルフィスに上がった生徒は、始めこそ単位の為に全員がそれこそ必死に従事する訳だが、1年が経ちリトゥフィス6年生に上がる頃にはソイルヴェイユ側の意図を理解し皆将来有望な人材として成長しているのであった。
またこの授業は先々代の学長から始まったものだが、生徒を受け入れる店や工房は事前に内密に査察が入り、生徒に危害が無いと判った上でランダムに選ばれる。勿論選ばれた雇用側には事前に説明があり、受け入れるか否かは雇用側が決められる。(事情により断られても大丈夫な様に候補の店・工房は多く用意している)
王宮が後ろ楯に付いている生徒を受け入れる事で雇用側も自身の店又は工房の良いアピールにもなるし、悪どい商売の仕方をしたり従業員へ悪辣な態度が出来ない抑制にもなる。
この取り組みが開始されてから就業者の王宮への陳情書が激減したのは言うまでもないし、悪徳業者への摘発や介入が減り王宮内の官吏達の時間外労働が減ると言う一石二鳥以上の良い結果が生み出されたのだった。
ハーヴが教えてくれた理由に、僕は納得する。
事実、宿題や予習復習に追われる毎日を送っているから。

……でも、1日も早く父さんが送ってくれるお金に頼らない生活がしたい。と思ってもしまう。

ソイルヴェイユに来て間もなく2ヶ月半が経つ。
外はすっかり雪景色。テルトー村もそこへ行く為の北の街道も全て白銀に覆われてしまっている。
そして今日、1週間続いた今学期の試験が終了し明後日から冬休みに入る。
イルツヴェーグに家がある者は勿論の事、殆んどの寮生が夏休み以来の長期休暇なので家に帰る。でも、テルトー村まで僕の飛行力では最低でも片道5日間はかかってしまうしその間の宿泊費も馬鹿にならないので僕は帰省を諦めた。

「ご家族はなんて?」

ナフィーバターロールを優雅な手つきで一口大にちぎり、口へ運びながらヤフクは僕を見る。
先々週帰れない旨を書き、お詫びも兼ねて薬草園で僕が育てた風邪に効く薬草茶とお風呂に浮かべたら良い香りを楽しめる香草の包みを送ったら、一昨日返事が来た。
1週間は掛かるのに、たった3日で返事が届いた(魔術師に依頼をして速達で送ってもらった様だ)事に驚いていたら兄さんと父さんが書いてきた内容に更に驚いてしまった。

「ん~、姉さんとチリュカが滅茶苦茶泣いて怒っているみたい……」

「みたいって……」

ラウンは苦笑いを浮かべつつも器用に食事を続ける。

「そりゃあ、僕だって帰れるなら帰りたいし新年をみんなと迎えたいけど、現実的に無理だもん」

僕は普通盛りのテッカンの香草焼きを食べ終わり、温かいテフ茶で口の中の脂を流し込む。

「まあ、確かに……。じゃあ、休み中はずっと寮にいるのか?」

ラウンはデザートの特盛りカニューサプリンを大切そうに一口一口味わいながら僕を見る。(大好物だから、あっという間に食べない様にする為なんだとか)

「うん。僕以外にも何人か先輩達が残るみたいだし、ミフサハラーナさんや職員で残る人もいるみたいだから完全に1人じゃないしね♪」

おかげで食堂はやっているし、寮内の施設も利用可能だから僕としては大変有難い。

「まあ、確かにサムフィス最上級生は特殊授業の関係で半数が寮に残るけど、たしか先輩達もミフサハラーナさん達職員も大晦日の夜から新年の夜まではみんな城に行って寮は無人になってしまったと思うよ?」

「へえ~、そうなんだ!」

「そうなんだ!って……。新年を1人で迎えるんだぞ?寂しくないのか!?」

僕の呑気な言葉にラウンは目を見開く。

「う~ん。たぶん寂しいかも知れないけど。……まあ、しょうがないしね」

もしかしなくても、きっと僕はみんなが帰省した後に泣いちゃうんだろうなぁ……。とこっそりと思う。だけれど、テルトー村は簡単には行き来出来ない程遠いし、ここに行くって決めた日からこんな日が来る可能性も覚悟はしていたから「しょうがない」と思うことにしていた。

「……うちに来れば良いじゃないか」

「へ?」

ヤフクが食後の紅茶を一口飲み、僕を見る。

「寮で1人こっそりと泣くより、俺と王宮で過ごせば楽しくて寂しいなんて思う暇もなくて良いだろう?……ヤーム、レンリス侍従長に伝えておいてくれ」

「畏まりました」

部屋も腐る程あるしな♪とニヤリと笑い、突然の提案に唖然としている僕を尻目にすかさずヤームさんに何か指示を出している。

「……僕、泣かないよっ!」

ハッとして慌てて言い返すも、確かにそう思ってしまっていたのは事実だし的外れな言い返しだった為に何とも説得力が無く、ラウンとハーヴから優しい眼差しを向けられてしまう。

「まあ、グヴァイが泣くかどうかは別にどうでも良いが、寮に残るとお前のご家族やその他が心配しまくるから俺が一緒に過ごしてやるよ♪」

「何その理由……」

ヤフクはまるで兄さん達からの手紙の内容を知っているみたいな顔で断言し笑う。
確かに僕はラウンやヤフクに僕の家族からの手紙の内容を話す事もあるけれど、一昨日着たのはまだ話していない。
ソイルヴェイユに上がったばかりの僕が初めての長期休暇の冬休みを寮で1人で過ごし、更に本来ならば家族と迎え祝い合う新年も親しい者がいない所で迎えるなんてっ!と姉さんと妹は泣き、母さんは僕をソイルヴェイユに行かせた事を少し悔やんでいるそうだ。
だけれど、今年は冬入りが早く既に村全体は雪が深すぎて迎えに行けないし僕が1人で帰って来るのも危ない。と父さんと兄さんで必死に3人をなだめていると書いてあった。

それにしても僕の家族以外も心配って、一体誰が???

「だいたい僕王宮での作法とか全く知らないし判らないから迷惑になっちゃうよ?」

上位貴族の同級生や先輩方、そしてそれこそやんごとなき血筋のヤフクが取る日常での自然な所作は本当に優雅で洗練されている。
「覚えていて損は無い」と言われて食事の作法をヤフクに教わっているけれど、習い出してまだ一月半だ。最近やっとカトラリーを間違えずに使える様になっただけで、優雅さなんて全く無い。
それに、正直知らない人達ばかりの所って息が詰まりそう。と思ってしまった。

「大丈夫だ。社交シーズンは終っているし、官僚も文官達もみんな冬休みで王宮内は近衛や侍従に侍女達ばかりだから、息が詰まる様な事は無いぞ♪」

「!?」

また僕の考えていた事を読むっ!

僕は普段から笑顔を絶やさない様にして心の内を読ませない様にみんなと接している。これは、ザイクやヤームさんからの助言で、ヤフクと一番親しい僕を利用しようと思う輩からの自衛の為である。
勿論、ラウン達の前では笑顔の仮面なんてやらないからナウンやザイクとかには読まれる事は多い。
でも、自然に出来る様に常に訓練をし続けているおかげで最近はクラスメイト達から僕が考えている事を読まれる事が無くなった。

なのに、ヤフクには読まれる……。

「物心が付いた頃から仮面着けている俺に勝とうなんぞ100年早い♪」

またもや完璧に僕の心の呟きを読んだヤフクからの一言に僕は項垂れた。


※※※※※※※※※※※※※※


「じゃあ、また来年な!」

「うん!気を付けて!」

終業式の後、半日で家路に着ける同級生達や先輩方は直ぐに出発して行った。
1~2日ぐらい掛かる寮生達は、明日の朝夜明けと共に出発して行くのだそうだ。
ヤフクも直ぐに帰るのかと思っていたら、目と鼻の先にある(王宮だもんね)ので急ぐ事も無い。と明日の朝食後にゆっくりと帰るらしい。

……勿論僕を連れて。

何度かやんわりとヤフクに断ったり、ヤームさんやミフサハラーナさんに「作法がなっていないから辞退したい」と相談をしたけれど、2人共僕を寮に残すのは良くない。と聞いてもらえず、むしろ今回王宮で過ごす事は良い経験になるから!と説得させられてしまった。

「着替えは、寝衣だけで良いかならな♪」

その他の衣類は母上や侍女達が嬉々として用意しているそうだぞ。とヤフクが笑って言う。

「!? 王妃様や侍女さん達が僕の服を!?……そんなっ!畏れ多いよ!着替えなら、クローゼットの服を持っていくから大丈夫だよっ」

王妃様は勿論だけど、王宮の侍女達だって下位及び中級位の貴族のご令嬢方だ。僕の様な平民の服を用意させて良い人々では無い。
僕は真っ青になって震える。

「……大丈夫ですよ。ヤフク様の生まれて初めてのご友人で、しかも冬休みに泊まりに来て新年まで一緒に迎えてくれるなんて!と、なんて優しい方なんでしょう!!と王宮中が喜んでいますから♪」

それに、グヴァイ様はヤフク様の弟君でいらっしゃるでしょう?と輝かんばかりの笑顔でヤームさんは言う。

「……ラウンが言っていた事をまだ持ち出すか」

途端にヤフクは苦虫を噛み潰したような表情になる。

「はい♪」

「……僕の方が生まれ月は先なんだけどなぁ」

「未だに図書室や裏庭の木陰に籠ってみんなから探されている奴なんて上だと思えないが?」

「うっ」

「ですが、その集中力のおかげで此度の期末試験は上位5人の内に入られたそうじゃないですか♪本当に素晴らしい事です」

「有難うございます。……でも、勉強を教えてくれたナウン達のおかげです♪」

「まあ、確かにグヴァイの勉強への情熱は凄いよなぁ……。体育が首席で、イルツヴェーグ語が3位、算術が4位他の教科も次席と5位だったか?それで総合で学年3位か。お前、卒業したら俺の補佐官にならないか?」

「え、ヤダよ。だって、僕はファルリーアパファル中を旅したいんだもん」

「何?お前、冒険者になりたいのか!?」

『あ、うっかり言っちゃった』

まだ誰にも言うつもりが無かったのに、ヤームさんとヤフクの掛け合いが面白くて油断して言ってしまった。

「……ん~、まあ、そうなれたら良いな。とは思っているよ」

「あぁ、そうでしたね。グヴァイ様の父君はあのSSランクのガファル様でしたもんね」

冒険者の道を考えるのも解ります♪とヤームさんは微笑む。

「やっぱり、父は有名なんですね」

ヤームさんの言葉に僕は嬉しくなる。

「えぇ。そうですね♪ガファル様に憧れて冒険者になられる方は今でもいらっしゃるそうですよ」

「そうなんですかぁ!」

「……まあ、グヴァイを俺の補佐官にするかは卒業までに落とせば良いか」

僕とヤームさんとの会話をまるっと無視をしてヤフクは独り言を呟く。

「……ヤームさん。僕、本当に王宮に行って大丈夫なのでしょうか?」

ヤフクの怖い独り言を僕も無視をして、ヤームさんを見上げる。

「えぇ、大丈夫ですよ。グヴァイ様の言葉使いも態度も全く問題ありません。それに王様も王妃様も側妃様方も大変心優しく気さくな方々ですし、本当にグヴァイ様がいらして下さるのを楽しみにしておいでです」

「なんで、お前は俺じゃなくヤームに聞くんだ?」

そう言いながらヤフク半目で僕を睨む。

「……第三者の目から見て僕が行っても良いのか判断してもらいたいと思ったんだ」

ヤームさんの他人を見る目は本当に厳しい。だから、彼から「大丈夫」と言っていたもらえたら安心出来る。

「言っとくが、ヤームのお前への評価はかなり甘々だぞ?」

「え?そうなの!?」

「それは、日頃のグヴァイ様の言動や生活態度が大変良いからですよ。……ヤフグリッド様こそ、少しはグヴァイ様を見習って頂きたいものですねぇ」

「俺は、公式の場では出来ているから良いんだよ!」

「えっと、……ちなみに2人はいつまで僕に付いてくるの?」

僕は困り顔で2人を見る。
寮の玄関で同級生達を見送り、図書室で借りていた本を返却し裏庭に出て軽く剣の鍛練をしようと廊下を歩いている所だが、何故か2人はずっと一緒にいる。まあ、ヤームさんはヤフクの従者だから一緒にいるのは当たり前か……。

「ん?……あぁ、お前の剣舞は素晴らしいからな♪ついでに見ていく」

「………ついでって。剣舞でも無いし」

「まあ、気にするな♪俺の用事も裏庭にあるしな」

「ふ~ん………?」

ヤフクの言葉に僕は首を傾げながらも彼の自由(過ぎるけど言ったら怒られるから言わないけど)な行動はいつもの事なので、この時の僕は深く気にしなかった。

……だけれど、きちんと気にしてヤフクの行動には裏が有る!とこの時に気が付いていれば良かった。と後になってから後悔をしまくり1人「うあ~~っ!」と叫んだ未来の僕であった。
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