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新生活9

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コンコン

「は~い」

ドアを軽く叩く音が聞こえ、僕は今やっていた事を中断して席を立つ。

「お、今夜はちゃんとノックにも気付いたし部屋にもいたか。偉い偉い♪」

開けたドアの前にはニヤリと笑うヤフクが立っていた。

「……ちゃんとって」

しかも偉い偉い♪って……。同じ年だし僕の方が誕生月が先だけど、ヤフクは僕のお兄ちゃん役になると決めた様だ。
まあ、前科3~4犯(もっとだったかな?)だから仕方がないか。

「しかし、話は聞いていなかったみたいだな」

「……え?」

半分呆れた様な声のヤフクに、僕は首を傾げる。

は、着けていかなくて良いんだぞ。……後で先輩が着けてくれるって昨日制服を手渡された時に言っていただろう?」

お前、早く教科書が読みたくて絶対上の空だったな?と僕を睨みながらヤフクは首のネクタイを外していく。

「あっ!」

そう言えば、そんな事を言っていた……気がする!
歓迎会で先輩にネクタイを結んで貰い、ソイルヴェイユの生徒となった証の魔石(入学年度毎に色が違うそうだ)のタイピンを着けて貰う事が入寮・入学を祝う儀式の様な事なので、ネクタイとタイピンは渡された箱に入れたまま持って来る様に。と説明を受けた事を今更ながら思い出した僕だった。

「全く……。グヴァイは本当に世話が焼ける」

ハッとした僕の表情に、ヤフクは苦笑する。

「……ごめんなさい」

危うく失礼をしてしまう所だった。
外して貰ったネクタイを慌てて箱に戻し、タイピンが入った箱(こっちはまだ箱から出していない)と合わせて手に持つ。

「さて、じゃあ行くか」

「うん!」

部屋に鍵を掛け、僕達は談話室を抜けながら食堂へと向かうと、間もなく始まる時刻だからか寮生全員が入れる広さがあるはずの食堂が、今夜は凄く狭く感じる状態となっていた。

「うわぁ……。多い~!」

「そうか?」

「たしか、寮って1学年あたり15名前後が生活しているんだよね?15名って少数な気もするけど、全学年で考えると総勢150人って事だもんね。そう考えると、かなりいるんだねぇ……」

「まあ、家の事情だったり進級の単位不足(2回留年で退学)で学舎を去る者もいるから、実際にはそんなには居ないそうだぞ。……それでも140人以上はいるとザイクが言っていたな」

「そんなに……」

「あと、リトゥフィス6年生以上の生徒達は専門学(武官、文官、魔術、生産)の関係で、食事時間はてんでバラバラ。寮生全員が揃う事は行事がある時以外は殆んど無いらしいぞ」

「じゃあ、ナウンとザイクとも毎日顔を会わせられなくなるんだね」

「そうかも知れないな……ってか、なんでそんなに目を見開いているんだ?」

今にも吹き出し笑い出しそうな顔でヤフクが僕を見る。……普通に喋っているつもりだったけど、かなり驚いてしまっているのがバレバレだった。

「……だって、僕の村の人口を遥かに上回った人数がいるんだもん」

国で最北(国境の街は別として)の位置にあたるテルトー村の人口は約50人前後。他所の街や国に仕事や修行に出ている人を足しても、たぶん70人にも満たない小さな村だ。だけれど、みんな顔見知りで家族の様な温かさがある平穏で大好きな村。

『僕は凄い所に来ちゃったんだなぁ……』

イルツヴェーグに着いた時は夜だったし、翌日は直ぐにソイルヴェイユに来たのでまだきちんと王都内を見ていない。だから、実は僕は未だに自分が王都に居るのだという実感が薄かった。
だけれど、4つある寮の1つだけでもこの人の多さだ。明日から行く学舎内は一体どれだけ人がいるのだろう!?と思うのと同時に漸く自分の現状を自覚し始めたのだった。

「そんなに少数なのか?」

「うん」

50人いるかいないかかな?と話すと、今度はヤフクが目を見開く。

「は!?……50!?」

「……うん」

「俺の影より少ないな……」

「そこと比べるの?」

ヤフクの呟きに苦笑しつつ2人で先輩達の間をぶつからない様に進み、事前に言われていた新入生の集合場所 ―中2階へ続く中央階段の側― まで移動して行く。

「あぁ、やっと来たね♪」

「今日はヤフクの手を煩わせなかったんだ♪」

「ヤフク、お疲れ♪」

着くと、そこには既に僕達と同じ新入生全員が揃っていた。
呪いと誤解が解けた後に改めて親しくなれた同級生達が、次々に僕をからかいヤフクには労いの言葉を掛けながら笑顔で話し掛けてくる。
詳しくは教えてもらえなかったけれど、呪いは寮生全員に及ぼされていた訳では無く、主に同じ新入生や王都以外の街に実家がある者達で視点や感覚が僕に近い者に掛けられていた様だった。とナウンが話してくれた。(すなわち、僕と親しくなれる可能性が高い人って事だ)
呪われていた間のみんなの負の感情や記憶は、解かれたと同時に霧散する様に消え、全員がまるで僕の事を覚えていなかった。
解呪前の時の言葉も、その時に僕に向けたみんなの暗い目も忘れる事が出来ない僕は「初めまして!よろしくね♪」と笑顔で好意感たっぷりに話し掛けてくる彼等に戸惑い、暫く心を開けなかった。
最近になって漸く自然な表情で会話をする事が出来る様になったとは思うけど。

「……ヤフク様、私はあちらで控えております」

「あぁ」

僕等が同級生の輪に入って喋り出すと、ヤームさんはヤフクから離れ壁際へ移動して行った。
ミフサハラーナさんの話で、ソイルヴェイユには強固な結界が張り巡らされているので、空からや空間を裂いての侵入や攻撃の心配は無い。内部も、身元が確かな者しか入れないので危険は皆無と言って良い。だけれど、その内部にいる者が裏切らず絶対に害を成さないとは言えないのも事実。
今夜の食堂は 侍従や従者達も勢揃いするので、ヤームさんは一見穏やかな表情と雰囲気を纏っているが、一寸の隙も見せない立ち姿でいる。

「さあ、時間だ!!」

突如食堂内に響き渡る声がしたと思ったら、一斉に灯りが消え僕等が立っている所から数歩離れた場所がパッと明るくなった。
そこには舞台が作られていて(全然気付かなかったっ!)、ナウンを中心に右側にザイク、左側には名は知らないけれど食堂で僕等が座るテーブルとは直ぐ隣のテーブルに他の人達と座っていて、時々ナウン達との会話に入ってきて一緒に笑ったり話しをしていた先輩が立っていた。

「初めまして、新入生の諸君!そしてようこそテヤンサジャーワンヌイン寮へ。私は、寮長でインディフィスのナウンケウス・ヤウス・フェルンダリンス。右側にいる者は副寮長でインディフィスのザイクール・ワイム・ヤズニンドルク。左側は書記で同じくインディフィスのトユルス・ライ・レンヴェーヌ。我々3名が今期と来期の2年間、この寮を束ねる!よろしくな!!」

ナウンと共に名を紹介されたザイクとトユルスさんは、新入生等に向かって軽く会釈をして微笑みを浮かべる。3人共背が高い上引き締まった身体付きに揃ってかなりの美丈夫。姉さんが大好きなファッション雑誌のモデル達みたいだ。

「さて、明日から我々在校生には待ち遠しかった日々が始まり、君達新入生には新たな日々の始まりとなる訳だが、何も案ずる事は無い。国中の優秀な者達が集うこのソイルヴェイユには、“飽きる・つまらない”等と思う暇など一切無い程充実した毎日が待っている。将来が決まっている者もまだこれから考えて行きたい者も全て平等に学び交流し成長し合える場である事を約束しよう!」

言い終えたナウンがサッと右の拳を突き上げると、食堂内に灯りが戻り明るくなる。

「テヤンサジャーワンヌインの元に集いし我らは巨樹と共にあらん事を!」

ナウンが更に大きな声を出してそう言うと、僕達の後ろに立っている先輩達も右の拳を突き上げ《テヤンサジャーワンヌインの元に集いし我らは巨樹と共にあらん事を!》と大声で復唱した。

食堂内に響き渡る地の底から沸き立つ様な声に、僕の身体が震え出す。
恐怖からでは無く、先輩達の熱気に感化された武者震いであった。

「凄いね」

「あぁ、セユンが歓迎会は在校生にとって決起集会なんだって意味が判ったよ」

4寮は皆それぞれ寮への想いが強く、寮生の結束も強い。また、各寮長が互いを敬い理解し合う仲のおかげで、寮生同士が憎み合い争いに発展する事は無い。だけど、4寮対抗行事の時の盛り上がりと熱気は物凄いと言っていた。とヤフクは話す。

「そうなんだ。でも、なんか納得出来る」

「そうだな」

僕達がこそこそと会話をしていると、先輩達の姿に若干引き気味だった隣の同級生が僕を見て呟く。

「でもさ、1年後の僕達が周りの先輩達と同じ様になっているって想像出来る?」

全員聞こえていた様で、みんなそっと周りを見渡す。

《……出来ない》

そして、全員思わず声が揃う。

「……だよね~」

その同級生の一言にみんなで目を合わせて小さく頷き合い、先輩達の異様な盛り上がりに苦笑し合ってしまった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


5回も続いた先輩達の熱い一致団結後、ナウンは僕達新入生を舞台に呼び、前8人後7人で並ばせ整列させた。

「簡単で構わないから、右端から順に自己紹介をしてくれ」

そうザイクに言われて、みんな名を名乗り出身地(と言ってもイルツヴェーグにタウンハウスを持つ貴族の息子ばかりだった)と趣味等を言って行く。
やはり、僕の様に村出身者はいない様だ。
前の列と入れ替わり、僕達後ろの列が前に出た途端先輩達全員が一斉にヤフクを見る。
中には、何人かは跪き頭を垂れる者までいる。

「チッ」

途端にヤフクの機嫌が急降下し、僕に聞こえるレベルの舌打ちをした。

『本当に嫌なんだね……』

ソイルヴェイユを卒業すると同時に立太子する予定らしいけれど、それまでは自分は只の国民。みんなと平等に言葉を交わし学んで行きたいと強く願っていると言っていたヤフクをチラリと目だけで見て、僕は小さく苦笑する。
丁度真ん中に立っているヤフク。端から自己紹介が行われていき、次が彼の番だ。
なんと言って自己紹介をするのだろう?と思っていたら、番が回って来ると半歩前に出たヤフクは真っ直ぐ綺麗な姿勢になると深く頭を下げて一礼をした。

「ヤフクリッド・ダーグ・ルヴイルツヴェーグ・サーヴラーです。皆さんがご存知の通り、俺は現王・ワイスハウクの子です。ですが、俺はまだ立太子してもいませんし、学びの足りない未熟な子供です。跪き敬うべきは国を治める両親や官僚達、そして国を守る騎士達や各領主達であって、俺ではありません。ソイルヴェイユを卒業するまでは皆さんと同じ学生で一国民です。どうか、俺の事は只のヤフクリッドとして扱って下さい。よろしくお願い致します。………あっ、俺の趣味は武芸の鍛練と未知なる事への探究です♪鍛練に付き合ってくれる人を求めています。よろしくです!」

言い終えると、また勢い良く頭を下げて一礼し少し照れが混じった笑顔を浮かべ先輩達を見渡した。
ヤフクの言葉を聞いて跪いていた何人かはハッとした表情を浮かべ立ち上がり、軽く一礼をしてから顔を上げヤフクへ真っ直ぐ目を向けた。
どうやらヤフクの気持ちが届いた様だ。
だけれど、中にはそれでも跪いたままの先輩達もいる。

『……まぁ、こんなもんだろうな』

ヤフクは、自分がどんなにみんなと同じ生活を望んだからと言ってヤームを外して只の侍従を付ける事は出来ないし、王子として節度ある言動及び振る舞いをしなければならない事は重々承知している。
同様に、ヤフクを王子として接する者の言論も思想も彼等の自由なので強制する事は出来ない事も解っている。

堂々とした立ち姿、そしてはっきりとした意思表示。自分と同じ年とは思えないヤフクに僕はただただ驚き、感心してしまった。

『やっぱり、ヤフクって上に立つ者なんだ。……あ、僕の番か。あ~、何言おう……』

ヤフクの隣に立っているので、次は勿論僕の番。けれど、僕は自分のこの見た目の所為と寮でヤフクの最初の友人になったと言う事からかなり目立ってしまっている様で僕は知らなくても向こうは僕を知っている。と言う状況だ。

『簡単に手短でいいか……』

「初めまして、僕の名はグヴァイラヤー・タル・マーツルンドです。北のテルトー村から来ました。好きな事は読書です。よろしくお願い致します」

ヤフクの後だから余計に簡素に聞こえただろうが、特に言う事も無いのでそれだけ言うと僕は深く一礼をして顔を上げ、特に誰の顔も見ないで真っ直ぐ前を向く。
それに、正直まだナウン達以外の先輩に心を開く気にはなれなかった。
新入生が全員自己紹介が終わると、食堂のカウンターの明かりが点き、料理が並べられた。

「さあ、明日に向けて沢山飲んで食べて今夜を楽しもう♪」

今夜は特別メニューなのだとかで、ナウンの一声でみんな一斉にカウンターへ向かう。
勢いの凄さにヤフクと僕、それに何人かの新入生達は圧倒され、腰が引ける。

「もう少し待ってからでも良い?」

「……あぁ」

「こういう時、性格が出るよな」

くくくっと小さな笑い声と言葉に振り返ると、そこにはラウンがハーヴと並んで立っていた。

「ラウン、ハーヴ!」

「2人共、自己紹介お疲れっ」

「全然見あたらなかったけど、どこにいたの?」

「人多すぎたから壁際にいたんだ」

それよりも、とラウンは言いながら僕を見る

「グヴァイのネクタイ、俺が締めてあげてたいんだけど、良いかな?」

「え!?……うん、良いよ?」

「有難う!」

誰か先輩に締めてもらうとは聞いていたけれど、どんな流れでそうなるのか判らなかった。だけど、改まって聞かれると何故だか気恥ずかしい気持ちになり、僕は変な返事の仕方になってしまった。
それに、僕が「良いよ」と返事をした瞬間に見せたラウンの笑顔に魅せられて僕の顔が熱くなった。

『きっと、今僕の顔って赤いのだろうな』

「……いえ、僕こそ誰かにお願いして結んでもらったら良いのかどうかも判らなかったので助かります」

「……で、なんで顔が赤いんだ?」

案の定僕の表情に気が付いているヤフクから突っ込まれる。

「なんでって言われても……」

僕もなんでラウンにドキドキするのか解らなかった。

「……成る程ね」

首を傾げている僕を見ながらヤフクはそう言い、訳知り顔でニヤつく。

「成る程ねってなんだよっ!」

「ん、まあ、今度説明してやる」

「………」

ヤフクの言葉に、僕は少し納得がいかなかったけれど、僕から箱を受け取ったラウンが優しい笑顔を浮かべながらネクタイを結び始めたので意識を切り替えた。ラウンの手付きはとても丁寧で上手い。

「出来た♪……本当はファオフィスのネクタイってリンフィス7年生以上が結んであげるのが習わしっぽくなっているんだけど、グヴァイのはどうしても俺がやりたかったんだ♪」

「そうなんですか?」

「うん、そうなんだ」

別にそうしないとならないって決められている訳では無いのだけれど、リンフィス位からしたら、ファオフィスは弟みたいな感じがするから自然と構ってあげたくなるらしく“これからヨロシク♪”みたいな感じでネクタイを結んであげる者が多くてそうなったらしい。と話してくれた。

「……まあ、グヴァイならそう言うのは関係無くみんなネクタイを締めてあげて少しでもお近づきになりたいって考えている奴等ばかりみたいだけどな」

「え?」

少しからかいの混じった声音のヤフクの言葉に、僕は目を瞬かせた。

「そうだぞ、ラウン。お前は既にグヴァイの友人なのに、勝手な事をして……」

「全くですね……。波風が立たない様に僕かナウンで結んであげようと話し合っていたのに」

苦笑いを浮かべるナウンとザイク、それにトユルスさんが側に来る。
訳が解らなくてキョトンとしている僕に、周りを見てご覧なさい?とザイクにそっと言われてラウンと2人こっそりと見渡せば、明らかにラウンを睨む上級生らしき人達が沢山いた。

「うわっ…、やべっ…」と即座に状況を理解出来たラウンは焦りの声を小さくあげるけれど、やっぱり僕は首を傾げる。

「……なんで、僕とお近づきになりたいのですか?」

僕は只の庶民だし、しかも村出身。貴族や豪商の息子達には特に利点は無いと思うのだけど?

「純粋に友人になりたいんだよ」

僕の表情を見て思った事が判ったナウンに『困った奴だな』と言われている様な顔でそう説明され、益々僕は困惑する。

「グヴァイは可愛いから、構いたくなるんだ♪」

そうザイクに笑顔で言われ、思わず僕は眉間にシワが寄る。

「……可愛いって。僕は女の子じゃないんですけど?」

「ふふっ♪みんな恋愛対象としては『たぶん』見ていないよ」

『なんか、一瞬変な間があった様な……?』

ザイクの言葉と一瞬周りへ見せた(気がする)黒い影に僕の背中がゾワリと逆立つ。

「グヴァイも自覚があるみたいだけど、君はとても目立つ。勿論良い意味でだよ。……それに、性格も良いから知り合いになりたいって思われるのさ♪」

「そうなんですかね?」

「それに、ここでは身分なんて関係無い。と言われているだろう?」

ナウンの言葉に、僕はそうだった……。と思い直す。

「まあ、何はともあれやっとグヴァイにソイルヴェイユの事を話してあげられるから嬉しいよ♪」

「あぁ、そうだな」

「?」

ザイクとナウンの言葉にまたもや僕は首を傾げる。

「俺やヤフクみたいに、兄や従兄等身内が通っていた場合は仕方がないとされているけど、基本的に新入生は全員先輩達からソイルヴェイユについて先入観を持たせない為に詳しく学舎の事について教えて貰えない事になっているんだ」

ラウンからの説明に僕は思いあたり頷く。
みんなの話が面白くて特に気にしていなかったけれど、みんなは寮生活についてやイルツヴェーグについて色々教えてくれていた。だけど、確かにソイルヴェイユ内の事(授業内容やどんな先生方がいるかや果ては建物の構造とか)は全く話が出なかった。
“先ずは己の目で見て耳で聞いて体験して判断し、成長に繋がって欲しい”。と言う創始者の想いを受け継ぎ、内緒にしておく事が暗黙の決まりとなっているのだそうだ。

「あと、1年間ファオフィスにはソイルヴェイユ内で指導係としてサジェフィス3年生が付く。と言っても、授業の事や学舎の事で何か困った事が起きた際の相談役みたいな感じで常に一瞬にいる訳では無い。……何故サジェフィスかと言うとね、ツェグルフィス2年生はまだソイルヴェイユに来て1年だから、漸く色々慣れて来たって所でまだ下を見てあげられる余裕が無い。かと言って、フォヌンフィス4年生だと勉強内容に専門性が入ってくるから何かと忙しくなるんだ。そこを行くと、サジェフィスは丸2年ソイルヴェイユで過ごして寮の事も学舎の事もある程度慣れて詳しくなるし勉強もそれ程大変じゃ無いから余裕があって丁度良いんだ♪」

「そうなんですかぁ」

ザイクの話に頷いて、ふと横を見るとトユルスさんがヤフクのネクタイを結んであげていた。

「ヤフクも結んでもらえたんだね!」

「あぁ。まあ、トユルスなら良いかなと思ってな」

「知り合いだったの?」

「直接では無いが、レンヴェーヌ家は“西の鉄壁”でな。ずっと助けられ守って貰っているからむしろ結んで貰えて俺の方がとても有難い」

「親父と兄上達が頑張っているのであって、俺はまだ何も出来ていないけどね」

『あぁ、思い出した!レンヴェーヌって西の国境を守る辺境伯家だ!』

隣国と国交がある北と大海に開ける南の国境は、騎士団が駐屯して守っているけれど、東と西の一部の国とは戦争こそ今は無いが、キナ臭いままの為国境は辺境伯を置いて隣国の動きに目を光らせていると授業で習った事を思い出す。
騎士団を駐屯させてしまっては相手を刺激してしまうので辺境伯領に封じている。

『だけど、どちらの辺境伯も元は隊長職に就いていた方だし、レンヴェーヌ家の私兵の隊長は全員騎士団に一度は所属していた人達だから、実際には騎士団が駐屯しているのと同じなんだって父さんが言ってたな』

「卒業後はやはり騎士団に入るのか?」

「えぇ、その予定です」

「そうか。有難う」

ヤフクの声音は、心からトユルスさんに感謝しているのが解る。
現王もそうだけど、代々の王と王族が国民から支持されるのはきっとこういった素直で決して傲らない人柄だからなんだろう。
現に、僕はヤフクの事が凄く好きだし友人になれた事が嬉しくて誇らしく思っていた。
だいぶ列が減ってきたので、僕等はカウンターへ並び、トレーに特別メニューを並べる。
そして、いつもの中2階の席でご馳走に舌鼓を打ちながら歓談をした。
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